最近、この町にリニューアルオープンしたばかりの温水プールがあった。 その温水プールはイケメンの監視員がいること、 料金も手ごろで使いやすいことなどでたくさんの客でにぎわっていた。 そして、温水プールのボイラー室。 そこは温度管理を主に行い、まさに縁の下の力持ちといった職場で、 多くのボイラー技師達が働いている。 しかし、ボイラー室の近くにある部屋に技師の格好をした若い男が一人いた。 「まさかこんなところで注文の品を渡すことになるとは… あの人は何を考えているのだろう? わざわざ店とかじゃなく…」 若い男は部屋の中に隠してあった荷物を取りながらそう呟いてみせる。 ガチャッ! しばらくすると部屋の中に一人の人物が入ってきた。 「…誰だ?」 若い男は不審そうに入ってきた人物を見る。 入ってきたやや小柄で色白ではあるが、 胸板は十分に張り出し、 腹筋も6つに割れ、 四肢の筋肉も十分に発達した逆三角形の体で、 さらに股間に張り付いている黒い競泳パンツを大きく盛り上げていた。 けど逞しい肉体とは裏腹にやや長めの黒髪に赤い瞳、 まるで美少女を思わせる顔をした少年スイマーであった。 「…なるほど」 若い男はスイマーを見るなり安心したかのように口を開き、 「…黒蛇堂さんですね、 ご注文の品をお届けにあがりました」 若い男の問いかけに少年はにっこりと微笑み、 「よくあたしがわかりましたね…鍵屋さん。 こんないかつい男の姿になっているというのに…」 と少年、いや黒蛇堂はボーイソプラノを思わせる声で答える。 「わかります。 変身してもどこか不思議なオーラが出ているように感じました。 しかし、黒蛇堂さん… いつも店番していると思ったら、 わざわざ変身してまでこんなところで活動しているなんて、 どういう事ですか?」 若い男こと鍵屋は不思議そうに聞き返すと、 「最近、自分自身が変身してみるのも悪くないと思いましたわ。 それに、人間界での悩みとか、 人間界にはどう事が起こっているのか… この目でじかに確かめるのもよいかと思いまして…」 と黒蛇堂が答え、 「なるほど…」 鍵屋は自分が提供しているDVDや薬が関係しているように感じた。 「しかし、黒蛇堂さんもいろいろとやっているんですね。 たぶんお疲れではないかと思います。 今回用意したものは結構使えるDVDだと思うので、 是非お役に立てていただけると幸いです」 商品の説明を鍵屋がすると、 黒蛇堂は顔を少し赤らめながら、 「どうもありがとうございます」 と言う。 すると、 「それと黒蛇堂さん、 あなたにお伝えしたいことがひとつあります」 鍵屋は少しだけ真剣な顔になり、 「え?」 それを見た黒蛇堂は驚いた表情をして見せる。 「実は…立ち聞きしたのですが、 あなたのお兄様がなにやら怪しげな薬剤を取り扱うようです… なんでもこの薬剤を使えばさらに効率よく人々の欲望をかなえることが出来るとか…」 と鍵屋が説明をする。 「そんな怪しげな薬…まさか…」 「ええ、なんでもその薬剤を使用した人間は変身してしまうだけでなく、 その周りの人間をも変身させてしまう能力が身につくとかで… 詳しいことはよくわかりませんが…」 驚く黒蛇堂に向かって鍵屋は詳細を話す。 「わかりましたわ… 兄のやることは快く思っていませんでしたが、 そのようなことに手を出すとは… 鍵屋さんも教えてくださってどうもありがとうございます」 鍵屋の向かって黒蛇堂は感謝の気持ちを表すと、 「では私はこれで」 と言い残し鍵屋は颯爽とその場を立ち去って行った。 鍵屋と別れた後、黒蛇堂がプールの監視台に戻ると、 「(ふう…お兄様が取り扱おうとしている変な薬…悪いことにならなければいいけど…)」 監視台の近くに白アシ姿の2人の少女が居り、 「なんでこんなになっちゃうなんて… 俺の自慢のあれが全部…」 「しかも女キャプテンと来たら、 明日から水泳部員にするって…」 「なんであいつに…しかもなんであいつも女に…」 と小声で話し合っていた。 どうやら2人の少女は白アシの似合う少女に変身してしまったらしく、 今後について相談しているようだった。 「(あの白アシは…まさか…)」 黒蛇堂には思い当たる節があった。 数日後、自分の店で黒蛇堂はいつもとはさらに違う格好をし、 どこかの高校の制服に身を包み、 瞳の色を隠すためにカラコンを入れて学校に登校していた。 そして、彼女はある場所へと来た。 「失礼します」 黒蛇堂がノックをすると、白衣姿の一人の美少女が顔を出す。 「あら、女子がここに用なんて…久しぶりね…」 その美少女の前で、黒蛇堂はおもいっきり頭を下げた。 「水上キャプテンですよね…噂は聞いています。 あたし、黒田リョウっていいます。 いままで男の子にも女の子にもバカにされてきて… 自分でもそれは惨めに感じています。 だから、あたし男になりたいんです」 いきなりのことで新水泳部キャプテンである水上香織は驚いたが、 「あら、男の子になりたいのね。 そっか… そこまで思い詰めているのなら良いものがあるわ。 この薬を飲めば黒田さん、 あなたの望みが叶うはずよ」 と言いながら黒蛇堂にひとつの錠剤を渡し、 「うふふふふ… あたしも実はこんな変なかっこうしてるけどね…」 と香織は白衣の下で男子用の黒い競泳パンツ1枚になっているのを見せる。 「(この薬は従来の性転換薬に似ているわね… 性転換以外に変な効果はないと思うけど…)」 それを横目で見ながら黒蛇堂と考えているものの、 「ありがとうございます。 あたし、水上キャプテンについていきます…」 と言うと、 黒蛇堂はそそくさとその場から去って行ったのであった。 おわり この作品はにcontrolvさんより寄せられた変身譚を元に 私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。