風祭文庫・黒蛇堂の館






黒蛇堂奇譚

〜第25話〜
「白い粉」



作・controlv(加筆編集・風祭玲)


Vol.T-252





ここは人間界のとある繁華街。

その繁華街の中にひっそりと一軒の店が店を開けていた。

『だれか早く来ないかな』

表通りを眺めながらそう呟いてみせるこの店を経営者は

銀髪に青い目の色をしている点以外はごく普通の少女と変わらないようだった。

しかし、彼女にはある秘密がある。

彼女の正体は実は天界の人間であり名前は”白蛇堂”という。

黒蛇堂の色違いといえばそうであるが、

しかし性格は180度異なっていて、

無論、黒蛇堂との相性も良い方ではなかった。
 


『たまには黒蛇堂の真似でもと思ったけど、

 やっぱりあたしの性には合わないわね…

 ほんと、あの子って毎日毎日こんなことをしてて良く飽きないわ』

もっぱら行商を主としている白蛇堂にとって、

このように腰をすえて商いをすることは大の苦手なのである。

『はぁ…

 嵯狐津のワガママ姫の所に行って来れば良かったかなぁ…

 コンビーさんだっけ…

 あの人っていつもおいしいお茶を入れてくれるんだよね』

突っ伏しながら白蛇堂はそう呟いていると、

ヌッ

一人の客が店を訪れる。

『いらっしゃい…』

反射的に白蛇堂は顔を上げて声を上げると、

『こんなところで何の商売をしているんだ?』

と言う声が降ってきた。

客はスーツ姿をした大柄な男だった。

『誰かと思えば、兄貴じゃん』

特徴的な顎長の顔を見て白蛇堂はガッカリしてみせると、

『どういう風の吹き回しだ?

 こんなところで店を開いて獲物を待っているとは…』

と男は理由を尋ねる。

『何をしようがあたしの勝手でしょ!』

その言葉に白蛇堂はむくれながら返すと、

『まったく…お前のことを心配して忠告してやったというのに』

と男は言い、

『心配してくださってありがとうございます。

 もぅ兄貴がいると客が逃げちゃうでしょう』

そんな男に向かって白蛇堂は彼の訪問を迷惑がって見せた。

『判った判った、

 業ライナーの待ち合わせでちょっと立ち寄ったまでだ。

 そうだ白蛇堂、一つだけ忠告をしておく、

 性に合わないことを無理してするなっ』 

そう言い残すとスーツ姿の男は店を去って行く。

『大きなお世話よ!

 ったく…』

去っていく男に向かって彼女は怒鳴ると再び店に戻るが、

『ん…?』

店の中にあるものが落ちていることに気がついた。

『なんだろう、これ?』

そう呟きながら彼女が手に取ったのはひとつの包み紙であった。

『(新しい商売道具かな?

  でも、だったら兄貴は落としていかないんじゃ…)』

そんなことを呟きながら彼女が包み紙をあけると、

中にはやや大きめの白い粒子の山があった。

『…成分組成を見る限り、

 ただのグラニュー糖みたい。

 まあいいか、後でヨーグルトにでも掛けるか』

放射光をベースにした検査装置での検査結果を見ながら白蛇堂はそう呟くと、

『そういえば…

 玉屋さんからお土産を貰ったんだっけ、

 確か棚の上に…あったあったこれこれ』

その日、

彼女は棚から玉屋から貰った瓶を開けると、

青く甘酸っぱい香りがするジャム、

そして、例の白い粉をヨーグルトにかけて寝る前に食べたという。

だが、白蛇堂がジャムと思っていたものは実はジャムではなく、

さらに粉もまた只のグラニュー糖ではなかったのであった…


 
翌朝、目が覚めた白蛇堂は鏡の前に移動した途端、

自分の姿を見るなり大声を上げてしまった。

『(…な…なにこれ…)』

呆然として見せる彼女の姿は全身白タイツ姿の、

しかも明らかにがっしりとした男の体になっていたのであった。

実は白蛇堂の兄が持ってきたものは彼の商売道具ではあったものだが、

だが、既に用済みとなっていたものであった。

『(…なんで、あたしが男の姿に

 …しかもあきらかに変態じゃない…)』

天界の人間は簡単にもとの姿に戻れるのだが、

このような姿になった白蛇堂の頭からは、

元の姿に戻ろうという考えすら浮かんでこなかった。

『(…とにかくなんとかしなきゃ…

  でも、なんか店の前のものが…)』

そういうと、突然白タイツ男は店を飛び出していった。

店の前にあったのは、

何名かの男が捨てていった空き缶や吸殻、つまり道路のゴミだ。

その男は自分の意思とは無関係にそのゴミを拾い集めていった。

またあるときには不法投棄されたゴミを一瞬にして消したり、

また分別の出来ていないゴミをきちんと分別したり、

汚れた川を一瞬にして綺麗な川にしたり…

と白タイツ男はいつの間にか活躍していた。

『(…やりなれないことすると疲れるわ

  …建物の中にでも逃げるか)』

白タイツ男はそういうと、目の前のビルに侵入していた。

そこは使われていないスイミングプールだった…

『(…ふう…ん?)』

白タイツ男が休もうといすに腰掛けたとき、

ファスナーの存在に気がついた

『(あれ?

  これって脱げるんじゃ…?)』

白タイツ男がファスナーをあけると、

中から十分に鍛えられた銀髪碧眼の全裸の美少年が出てきた。

さすがに裸はまずいと思ったのか、

少年はロッカールームにあった青い競泳パンツを穿いていた。

少年は鏡を見るとこうつぶやいた。

『…男の姿も悪くないわね。

 これからどうしようか』

その後、白蛇堂の商売相手が増えたということである。 


おわり