風祭文庫・黒蛇堂の館






黒蛇堂奇譚

〜第14話〜
「勇者の心」



作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)


Vol.T-091





満月の夜、月明かりが照らす部屋。

ちょうど月明かりを映すように立てかけられている姿身の前に彼女は立っていた。

「………」

何らかの決意を込めた険しさと何やら妖しげな上気を込めた表情を抱いた彼女は

大きく息を吐くと静かに衣服を脱ぎ始める。

シュルッ、ススッ、ササッ…

上着、スカート、ソックス、ブラジャー…。

まるでサイレント映画の様に音を立てることなく彼女は服を脱ぎ、

ついにショーツ1枚だけになるが、

しかし、彼女の中に一瞬照れ交じりの迷いが浮かぶものの

それを振り払うかのように腰に手を置き一気にショーツを引き下ろした。

「ふう…」

逆光の月明かりに照らされる裸身はなかなか美しい。

グラマーでもないがそこそこの凹凸のある細身のプロポーションに

長めの髪を湛えた小さめの顔は少し暗めの印象さえ除けば

まずまずの美少女である。

しかし、彼女にとってはその全てが嫌悪すべきものだった。

鏡越しに映る自分の裸身に舌を打ちながら彼女は、

「…これでこんな姿ともさよならできる…」

とつぶやいていた。



遡る事数時間前。

何げに遠回りして下校中の彼女の前に一件の古びた屋敷が見えた。

黒蛇堂と書かれた古びた看板を掲げたその屋敷に

惹かれるものを感じた彼女は導かれるようにその重い扉をくぐった。

ギギ…。

「いらっしゃいませ。

 お探しのものは何でしょうか?」

「きゃっ!」

扉をくぐり中に入った所で

いきなり背後から声をかけられ彼女はおののく。

振り向いた先には異国風の漆黒のドレスと

派手でこそ無いが不思議な輝きを放つ宝石がちりばめられたアクセサリーを身にまとう少女が立っていた。

「あ、あなたは…」

「わたしはここの主で黒蛇堂と申します。

 ここはあなたの様に心に悩みを抱える人、

 そして自分を変えたいと思う人が集まる店。

 あなたも何か悩みを抱えていらっしゃるようですね。」

まるで心の内を見透かすような黒蛇堂の言葉に一瞬彼女の体がこわばる。

「…あなたは学校ではその気弱さゆえ、

 いじめの対象になり、片思いの相手は親友に奪われ、

 家庭に帰っても両親は仕事ばかりで自分にかまってはくれない。

 いっそ非行に走るかあるいは自ら命を断とうとしても

 その勇気―そんなものは蛮勇でしかありませんが―もない。

 ならいっそこんな自分なんて消えてしまえばいい。

 何か別のものに変わってしまえばいい。

 そう思っていませんか?」

図星を突かれ、おびえていた彼女だったが、

黒蛇堂の静かに、語りかけるような声に心をほぐされたのか静かにうなずく。

「…はい…もうこんな人生は、

 いや、

 こんなわたし自身無くなってしまえばいいんです。

 誰からも認められない、

 愛されない自分なんて消えてなくなってしまえばいい…。」

黒蛇堂は黙って嗚咽する彼女の姿を見ていた。

少なくとも今の彼女には「なら愛されるよう自ら動けばいい」と言う言葉は通用しない。

そして彼女の「自分を消し去りたい」と言う気持ちは硬い。

黒蛇堂はそう感じ取っていた。

ひとしきり泣いていた彼女がふと声を上げると、

黒蛇堂が小さな箱を差し出していた。

蓋を開けるとトンボ玉を通して作られた一対の腕輪と足輪、

そして首輪と腰飾りが入っている。

「…満月の夜、

 その箱の中身を身に付ける事であなたは生まれ変わり、

 その姿にふさわしい世界に導いてくれる。

 今のあなたにはふさわしい道具です。」

姿見の傍らにいた黒蛇堂が静かに言う。

彼女は目を見開きながらも、

「あの、こんなものいただいてもお金が…。」

と断ろうとしたが、

「お代はあなた自身が満足していただければそれで十分です。」

と静かに押し切られた。

折しも今夜は満月。

半信半疑ながらも彼女は鏡の前に一糸まとわぬ姿をさらけだし、

飾りを裸身に身に着けた。

その姿に思わず息を呑むがそれをあえて振り払う。

「…何になるのかな

 …こんな姿じゃない、

 こんなみっともない姿をメチャクチャにするような何かになりたい…

 汚し、壊し、跡形もなく消し去るような何かに…。」

そう思った時、彼女の脳裏に聞いた事も無い音楽が流れる。

野性的で、かつ力強いリズム。

「ああ…。」

その調べに高揚する彼女。

いつしかその両手は静かにその胸の膨らみに流れる。

スゥッ…。

「はんっ…。」

柔らかく胸をもまれる感触が彼女を包むが、

ふと我に返った彼女はその両手に力をいれ

胸を握りつぶさんばかりの勢いでつかむ。

「うふふ…

 くやしいでしょ?

 こんな風に胸を握られるのって。」

ワザといやらしげにつぶやく彼女をよそに

その手は彼女の股間

―まだ異性を知らない門へと伸びてゆく。

右手の指でそっとその感触を味わいながら彼女は、

「あはっ、まだ何も知らない可愛い所…

 今からたっぷり犯してあげる。跡形も無いくらいにね。」

そう言うと有無を言わさず指を突き刺そうとする。

「ウッ…

 さすがに抵抗がきついわ…なら…。」

彼女は左手の指で門の周りを半ば強引にさすり、つまみ上げる。

今や彼女の両手は彼女自身を犯そうとする強姦者のイチモツと化していた。

「ハァ、

 ハウッ、アンッ…

 まだなの…。」

左手の強引な愛撫と右手指の押し込みにより彼女の門からはジワジワと液体がにじみ始めている。

しかし、その固い扉はいっこうに開かない。

「そう、そうなの…なら…!」

意を決した彼女は右手の人差し指を放し、

そのまま門の上にあるささやかな頂きに爪を立ててつかみ上げる。

キュンッ!

「あんっ!」

全身を激しい痺れが包む。

そして彼女は改めて人差し指を門に押し込む。

ニュウッ。

「あっ…入った…。」

これまでの激しい愛撫とさっきの一撃により緩んだ門は彼女の指を一気にくわえ込む。

「ハァ…

 さあ、これからよ。

 たっぷり犯して、汚してあげる。

 そしてあなたはこの世から消えてなくなるのよ…。」

クチュッ、

クチュッ、

ニュルッ…。

「あんっ、

 はんっ、

 あんっ…。」

いつしか両手の指を股間に押し込み彼女の自姦は続く。

脳内に響くリズムと自分の手で犯され汚される自虐的な快感が加わり

彼女の絶頂は頂点に達する。

「はっ、

 あっ、

 あ、あ、あ、

 あぁ〜っ!!」

上気した肌を湛えつつ彼女はのけぞるとそのまま鏡に倒れこんでしまうが、

その顔は歪んだ快感に満ちていた。

「…うふふ

 …どう、気持ちよかったでしょ…

 でも、これがあなたがあなたとして感じる最後の快感よ…

 だってあなたはこれから…ひゃん!」

彼女の全身を激しい衝撃と快感が走る。

同時に彼女の脳裏に再び激しいリズムが流れ出す。

それに合わせるかのように彼女の手は再び股間に導かれる。

「はうっ、

 あうっ、

 あんっ…。」

ジュプッ!

「…!」

その瞬間、彼女の両手がすっぽりその胎内に潜り込んだ。

苦痛と快感に表情が歪む。

それにも関わらず彼女は、

「…いいわ

 …あなたはもうあなたじゃなくなるんだから…。」

とつぶやくと胎内を内側から引き裂かんばかりの勢いで両手を押し込むとあるものをつかむ。

「ウッ…。」

プニュ!

苦痛をこらえそれを一気に引っ張り出す。

粘液まみれの両手につかまれたピンク色の双球。

それは彼女の卵巣だった。

「はあっ、

 見てなさい。

 これからあなたの女の証をメチャクチャにしてあげる…。」

その様に驚く事もなく、彼女はそのまま引き出された卵巣を力任せに揉みしだく。

「くぅーっ!」

さすがに苦痛が走るらしく

彼女はそれをこらえながらなおも揉み続ける。

そうしていくうちに卵巣の粘膜は消え去りその表面も皮膚のようになってゆく。

「ハァ…

 ハァ…

 まだ…

 まだこれからよ…。」

苦痛から解放されたのか

少し放心した状態の彼女は双球から手を放し彼女の秘めたる丘をつまみあげる。

そして、搾り出すようにさすり、またつまみ上げる。

「あ、あん、あんっ…。」

プクッ、

ニュッ、

グググッ!

するとみるみる丘は伸び上がり、

大きく、長く、太くなってゆく。

その姿はまさしく男性のそれである。

そしてそのまま彼女はそれを激しくさすり始める。

さながら自分の中の「女」を犯そうとばかりに。

「うっ、

 あっ、

 うあっ、

 あっ、

 あっ!」

絶頂の瞬間、彼女のそれから激しい勢いで

男のものとも女の者ともつかない体液が吹き出した。

その様を見た彼女はまだだるさの残る体を起こして立ち上がり鏡に姿を映す。

すると、女の体に不似合いな巨大な男性器とその下の双球。

余りにもいびつな姿である。

しかし、彼女はそれを見て喜びの声を上げる。

「フフフ…

 あはは…

 ざまないわね。

 あなたはもう女じゃない。

 でっかいものをぶら下げた男なのよ。」

そして忌々しげにもう一つの女の証でもある胸のふくらみを

にらみ付けると体液にまみれた手でそれをつかみ上げる。

「こいつもつぶしてあげるわ…。」

そして彼女は片手で胸を、

そしてもう一方の手で再び股間のものをさすり始める。

ムニュ、シュッ、

ムニュ、シュッ…。

「あんっ、

 あうっ、

 ああっ…

 あうっ!」

再び絶頂に達した瞬間、

彼女の膨らみはまるで押し込まれるかの様に胸の中に消え、

入れ替わりにたくましい胸板が生まれる。

股間の肉棒も一回りたくましくなったように見える。

「ああ…

 いいぜ…

 あなたは…

 もう…

 男…なの…

 だぜ…。」

まどろむ意識の中彼女は両手を肉棒に添え再び行為を始める。

そして脳内のリズムもさらに激しさを増して行く。

ジュクッ、

ジュクッ、

ジュクッ…。

「あんっ!」

ピキピキピキッ!

「あうっ!」

ムリムリムリッ!

「うおっ!」

ムキムキムキッ!

行為が進むにつれ彼女の柔らかかった肌は少しずつ張り出し、筋肉の鎧へと姿を変える。

同時に手足や全身が大きく、伸びだし、その肌の色も黒く覆われてゆく。

「おおっ!」

ピキメキッ!

ズザッ…。

何度目かの絶頂の時、彼女の頭が大きく変形する。

後頭部がせり出し目もとがくぼみ、唇も分厚くなる。

同時に彼女の黒髪も抜け落ち、入れ替わりに赤茶色の縮れ髪が頭を覆う。

その姿はまさしくモランの名で呼ばれるマサイ族の男性のものであった。

「オオ…

 オレハ…

 モラン…モラン…。」

完全に変化した肉体に興奮した彼女は最後の行為に走る。

両手にべったりついた体液を全身に塗りつけ印を組むかのように肉棒をつかむと、

シュプッ、

シュプッ、

シュプッ…。

「オオッ、

 オオッ、

 オオオ…

 ウオォォォォォォォォーッ!」

絶頂の瞬間、彼女の転生を祝うかのような花火がその股間から打ち上がった。

力強く立ち上がる彼女。

しかし、その姿はもちろん脳裏にもかつて自分が日本人の女性だったと言う名残は既に無い。

「サバンナ…

 オレノ…

 セカイ…。」

鏡に映る漆黒の肉体を見ながらそうつぶやくとマサイはゆっくりと歩き出す。

いつの間にか鏡の中に大きな渦が浮かび、その向こうには遥かなるサバンナの光景が映る。

そしてマサイはその中に手を伸ばす。

「アア…。」

その顔に恍惚の顔が浮かぶ。

その時。

バシッ!

「ウォッ!」

マサイの全身に衝撃が走り

その姿は黒い塊と白い塊に分かれて弾き飛ばされる。

黒い塊は渦の中に消え、白い塊は部屋の壁に叩きつけられる。

「…ううっ…。」

しばしのあと白い塊は重々しげに起き上がり鏡に目を向け、

そして自分自身の姿を見る。

長めの髪を湛えた小柄の顔立ち。

白く柔らかい素肌。

細めの手足。

ささやかな胸の膨らみにそれ以上にささやかな女の証を湛えた股間。

まぎれも無い裸身の少女の姿が映し出されていた。

「そんな…。」

それを見た白い塊―彼女の顔に驚き、特に絶望の色が走る。

慌てて鏡に駆け寄り、

うっすらとだが鏡の向こうにサバンナで仁王立ちして

歓喜の雄叫びを上げるマサイの姿が浮かんだかに見えたが、

次の瞬間苦痛の涙を浮かべる彼女自身の顔が映るだけであった。

「そんな…

 せっかくマサイになれたのに!

 こんな自分とさよならできると思ったのに!」

割れんばかりの勢いで鏡に拳を叩き付ける彼女。

しかしその顔がハッとなる。

「そうだ、もう一度、

 もう一度やれば…。」

再び儀式を始めようとするが彼女の体に身に着けられていた飾りは欠片さえも無くなっていた。

もちろんあのリズムも聞こえては来ない。

惨めさと悔しさ、悲しさが彼女の心を締め上げる。

そして彼女は、

「…うっ、うっ…

 うわぁぁぁぁぁーんっ!」

と押さえていたものを吹き出すように泣き叫ぶと

その感情をぶつけるようにその裸身を絶頂の連続の末事切れるまで犯し続けるのであった。



「黒蛇堂様、今回は失敗…でよろしいのでしょうか?」

玄武が複雑そうな顔で尋ねる。

「…そうですね。

 そもそもモランとは「勇者」を差す言葉。

 今の自分から逃げ出し別のものになりたいと言う人が

 いかにモランの魂の宿る飾りを身に付けようとモランになれるわけもありません。

 むしろ失敗した方が彼女の為かも知れません。」

「はぁ…。」

黒蛇堂は静かにつぶやき、

そして、この言葉にため息をつく玄武。

しかし、彼に黒蛇堂の心の声を聞く事はできなかった。

“もっとも、あの姿にならなければ「モラン」とは言えない訳でもないのでしょうけど…。”

次の満月の夜。彼女は再び自室にいた。

憤りをぶつけるように自分を犯しまくった翌朝、

彼女は文句を言う為にあの店に足を運んだがそこには店があった痕跡さえ消えていた。

そして惰性で足を運んだ学校でいつものようにいじめを受けた時、

彼女は毅然と振り払い、

咆哮を上げてイジメグループに突っ込んでいった。

もはや逃げられないと思っての捨て身の行動だったが、

それが通じたのかイジメグループは彼女から手を引いた。

親友にも声をかけた。「例え友達でも彼は譲れない」と言って。

もっともそれは片思いの彼氏が親友に彼女の事を相談しようとしていただけだったのを

自分で誤解していただけだったらしい。

そのあと思いきり言いあった末二人は仲直りする事ができた。

家に帰るとちょうど両親がいた。

ようやく仕事に余裕ができ、なんとか家族でいる時間ができると二人は語り、

今までかまってやりきれなかった事を心からわびた。

彼女は嬉しい反面今まで溜め込んでいた思いを盛大にぶつけあった。

そのあと自室に戻りドアに背中をもたれさせた彼女は大きく息をつく。

その途端その目から涙が流れ始める。

「あれ…どうして…泣いてるのかな…。」

複雑な思いで涙をぬぐう。

嬉しいのに。

今までのいやな事を乗り越えるきっかけができたのに、

なぜか涙が止まらない。

昨日までの自分と変わらない、小さくてか弱い自分。

でもそんな自分がなけなしの勇気をふるい立ち上がる事ができた。

もしあのままモランになりサバンナに行ったとしてこれほどの喜びを味わえただろうか。

いや、そうじゃない。

自分は姿や心は元に戻ったけど自分はモランに生まれ変わったのだ。

たくましく、勇敢に行動できる心を持った“モラン=勇者”に。

そう思うと涙がとめどなくあふれ出す。

その時、久しぶりに彼女は自分自身に「好き」と言う気持ちを持つ事ができた。

あいにく今夜は両親は二人とも出張で家にはいない。

しかし、今の彼女に不安や孤独感はない。

両親が自分を思っている事は心の底から感じられるのだから。

クスっ

と微笑んで彼女はそのまま服を脱ぎ去り、いつかの様に一糸まとわぬ姿を鏡に映す。

グラマーでもないがそこそこの凹凸のある細身のプロポーションに

長めの髪を湛えた小さめの顔。

只昨日までと違うのはその顔には今までにない自信がみなぎり、

その裸身に対し彼女はそのまま抱きしめたい気持ちで一杯になっている。

そんな彼女の首には別の首飾りが輝いている。

もちろんその首飾りは普通のアクセサリー屋で買ったものであり何の呪いもない。

しかし、彼女にとってそれはまぎれもない「モランの証」なのである。

そして月が見守る中、彼女は自分の中に生まれた“モラン”を讃える為“証”を立てる。

鏡にその姿を映しながらブリッジの姿勢を取り、

小振りだが形のいいふくらみを優しく揉みしだき、

門の中にひっそりとたたずむ“証”を激しく立てる。

「あっ…

 好き…

 わたし…

 とても…。」

彼女の肉体がマサイになる事はもうない。

しかし、細身の女体をしならせ体に、

そして心に“勇者の証”を立てるその姿は確かにモランのそれであった。

「あああぁーんっ!」

そして、今夜も“モラン”の心を持つ少女の雄叫びがこだまする。



おわり