風祭文庫・黒蛇堂の館






黒蛇堂奇譚

〜第7話〜
「メデューサの腕輪」



作・ハカイダー03(加筆編集・風祭玲)


Vol.T-070





ここは病院の病室。

窓際に置かれたベッドには一人の少女が横たわり、

傍らにいるもう一人の少女と話している。

横になっているのは15歳の北条冴子。

彼女は3年前から重い病気にかかり、以来ずっと入院していた。

横で冴子に話しかけているのは同い年の南美奈。

冴子とは幼いころからの親友で、

彼女が入院してからも、よくこうしてお見舞いに来ていた。

この日、冴子は美奈が思いもしなかった話題を持ち出した。

「美奈…

 私ね、もうすぐ死ぬかもしんない」

「えっ…!?

 ちょっと、止めてよ冴子」

美奈は悪い冗談だと思った。

いや、そう思いたかった。

しかし冴子は残念そうに頭を振った。

「この間、聞いちゃったんだ。

 お医者の先生が話してるの」

「そんな…嘘でしょ!?」

「あと…もって1週間だって」

そう言った冴子の目はとても嘘を言っているようには見えなかった。

しかし、病人とはいっても冴子はそんなにやつれた様子も無く、

昔からの可愛らしい姿のままである。

きっと冴子の勘違いだ。

そう自分に言い聞かせて美奈は病院を後にした。

次の日。放課後の学校、美術室に美奈の姿があった。

美奈の他数人の女生徒が美術室にはおり、

石膏で出来たビーナスのレプリカを皆で囲んでデッサンしていた。

しかし、美奈は昨日の冴子の言葉が気になって集中できずにいた。

そうしているうち、下校のベルが鳴った。

部長を務めている美奈が言った。

「よしっ、

 それじゃあ皆、片付けは私がしておくから先に帰っていいよ」

「えっ、いいんですか部長?」

「いいのいいの。

 じゃあね、お疲れ様」

「お疲れ様」

そう返事をしながら他の部員たちが去っていくと、美術室には美奈一人になった。

今日は顧問の先生が出張で休みだったのだ。

誰もいなくなったことを確認すると、

美奈はそっとビーナス像に歩み寄っていった。

そうっと、ビーナスの頬に手をやる。

ひやり、とした冷たい感覚と硬質感。

「ああ…」

美奈は夢見るような声を出すと、

そのままビーナスにしがみついて頬擦りを始めた。

つつっ…と

ビーナスの美しい体のラインに指を滑らす。

「あふぅ…イイ気持ち…」

実はこうして石膏像とすごす時間が美奈の一番幸せな時間だった。

美術部に入ったのも、

部長になったのも、

美術室で一人だけになるチャンスを少しでも多くするため。

「…んはぁ…

 んん…」

一心不乱に石膏像を愛撫するうち、段々美奈の息遣いが荒くなっていく。

制服のスカートの下、美奈のパンツは愛液でぐっしょりと濡れていた。

がらんとした部屋の中に美奈の声が切れ切れに響いていた。

我を忘れているうちに、すっかり遅くなってしまった。

「お母さんに怒られちゃう」

と、すっかり人気の無くなった商店街の道を急いでいると、

美奈の携帯電話の着メロがメールの到着を知らせた。

母からだった。

ちなみに着メロは「REAL」の新曲で、

美奈も人魚アイドル、松崎理々香の大ファンだった。

それはさておき、

その文面を見た美奈は

ポトリ

と電話を取り落とした。

「そんな……

 そんな……!!!」

内容はさきほど美奈の母に冴子の母から電話があって、

医者から冴子があと数日の命だと宣告された、というものだった。

「うそでしょ…うそ…」

ぺたり、と美奈は歩道に座り込んだ。あまりのショックに涙も出ない。

「どうして?」

どうして冴子が死ななければならないのか。

冴子が永遠に死なない身体だったらいいのに…

永遠に失われない身体だったらいいのに…

そう、あの美しいビーナス像のように。

と思った。

そのとき、

前方にポツリと明かりがともった。

午後8時20分。

この界隈にこんな時間に営業を始める店があるのか。

そう思いながら向かっていくと、

そこだけレンガ造りの妙に浮いた洋風の店があった。

――黒蛇堂。

看板にはそう書いてあった。

「ここにこんな店あったかな…」

何気なく美奈が扉に手をかけると同時に、

キィ…

突然扉が開き美奈は店の中に転がり込んでしまった。

「キャッ!!

 ……あたた…」

尻餅をついた美奈があたりを見渡すと

そこは美術室倉庫のようになっていて、

天井まである棚には所狭しとよく分からないガラクタが置かれている。

「なに?ここ……」

周囲を眺めながらそう思っていると

いきなり

『いらっしゃいませ』

背後から声が響いた。

「きゃああっ!!!」

その声に慌てて美奈が飛びのくと、

そこには彼女より若干年下、14,5歳ぐらいの少女がいた。

黒い髪を後ろに垂らし、

ほとんど魔女のような真っ黒な服を着ている。

『驚くことは御座いません。

 私はここの店の主です。
 
 人は私のことを黒蛇堂、と屋号で呼びますが』

見た目とは違って大人びた口調。

神秘的というか、

不気味というか、

不思議な雰囲気を持っていた。

「あ…そうですか。

 でも私、別に買い物に来たんじゃないんです。
 
 …ごめんなさい。」

そう返事をして踵を返した美奈を黒蛇堂が呼び止めた。

『あなたのお友達を死なせない方法が御座います、南美奈さん』

美奈は、まるで背中に氷水をぶっかけられたようにゾッとした。

「どうしてそれを…!!」

『私には貴方が何を必要としているのか見えるのです…これをどうぞ』

と、黒蛇堂は近くの棚から一つの腕輪を取り出して美奈に手渡した。

黒っぽい金属製の腕輪にはヘビの文様のようなものが刻まれている。

「これは…?」

『これはメデューサの呪いのかかった腕輪で御座います』

「メデューサ…?」

メデューサと言えば神話に出てくる、

人を石に変える力のあるヘビの化け物だったはずだ。

『この腕輪をつけた者にはメデューサの力が宿り、

 生き物を石像に変える力が身につきます…』

「ええっ!?」

『石になった人間は動くことは出来ませんが、

 意識ははっきりしています。
 
 肌と肌を触れ合わせれば、会話することも可能で御座います。
 
 この腕輪は非売品なのですが、
 
 もし、貴方が、石になった北条冴子さんを寂しがらせたりしないと約束するなら…
 
 特別にお貸ししてもよろしいですよ』

「本当に…冴子ちゃんを石像に?」

『ええ…』

「それ、いくらですか!?」

『御代は頂きません。

 使い終わった後、すぐに私の所に返しに来ていただければ。』

黒蛇堂のその言葉に

ごくり

と美奈は唾を飲み込んだ。

「私、絶対冴子ちゃんを寂しがらせたりしません。

 だから…」

最後まで言い終わらないうちに、黒蛇堂は言った。

『分かりました。

 貴方を信用しましょう。
 
 念のため言っておきますが、力をほかの事に使わないでください。
 
 力を使いすぎると、貴方にも悪い影響が出てしまいます』

黒蛇堂のその言葉が終わらないうちに美奈は一礼すると、

腕輪を持って夜の街へと出て行った。

黒蛇堂一人になった店内に、何処からか声が響く。

『よいのですか、黒蛇堂さま。

 あの腕輪はもう世には出さないと…』

『いいの。友情にあふれる心を持ったあの子なら…

 きっと正しく使ってくれる』

『果たしてそう上手くいきますかね?』

『いくわ、今度こそ。

 そう…今度こそは…』

そう言った黒蛇堂の顔は、どこか晴れなかった。



冴子の病室は二階だった。

ただ、病室の窓の前に丁度大きな木の枝が伸びていて、

窓さえあいていればそこから中に入ることが可能だった。

10時になって人気がなくなるのを待って

美奈はすぐさま慣れた様子でスルスルと木に登りだした。

暗くて手元が見えずらかったので若干時間はかかったものの、

美奈は難なく冴子の病室の窓の前にやってきた。

コンコン、

とスリガラスの窓をノックする。

すると少し間をおいてガラリと窓が開き、冴子が顔を出した。

「美奈…」

「ごめん、遅くに。…入ってもいい?」

「…うん」

ひょい、

と美奈は枝から窓へと飛び移る。

そしてすぐに冴子が言った。

「聞いたんでしょ、私のこと」

「うん…さっき」

「それで、会いに来てくれたんだ?…

 ありがとう。
 
 もう会えないかも…って思ってたのに」

冴子の目が潤んでいる。

今までも泣いていたのだろう、瞳は真っ赤に腫れていた。

「…冴子。

 …実は、さぁ…」

美奈は先ほどの黒蛇堂でのことを全て冴子に話した。

冴子はじっと聞いていて、最後にポツリと呟いた。

「私を…石に…」

「冴子が嫌だって言うなら、私はすぐにこの腕輪を返しに行く。

 でも、このままじゃ私たち…
 
 二度と会えなくなっちゃうんだよ?
 
 冴子が石像になってくれれば…
 
 永遠に、死なない身体になれば…
 
 私たち、ずっと一緒にいられるんだよ?」

美奈は必死に冴子を説得しようとした。

冴子はうつむいて戸惑いを隠せない様子だったが、

美奈の方に向き直ると、こう尋ねた。

「本当に…

 本当に、寂しくないのかな…」

「約束するよ!

 ちょっと離れた山にね、今は誰も持ち手の無い別荘があるんだ。
 
 そこに冴子の部屋を作るわ。
 
 私、部活やめて毎日会いに行く。
 
 テレビも持っていくし、CDもかけてあげるよ!
 
 休みの日は一日中二人でおしゃべりしようね。
 
 だから…
 
 だから…

 死なないで。
 
 冴子…」

「美奈…」

美奈も話しながら泣きじゃくっていた。

「……わかったわ」

「え?」

「あなたを信じる。

 ……私を石にして!」

「冴子…

 ありがとう…!
 
 よしっ!」

美奈は袖で涙を拭うと、

鞄からメデューサの腕輪を取り出し、

ちょっとためらった後、腕にはめた。

カシン!

腕輪は美奈の右腕にぴったりとフィットした。

その瞬間、美奈の身体にぞくぞくとした悪寒とも快感ともつかない衝撃が走る。

「うっ…?」

「美奈、大丈夫?」

「だいじょぶ…それより、冴子。

 ……いくよ」

「うん。…お願い」

美奈が腕輪をした右手を冴子に向かってかざす。

すると、美奈の手の平から紫色のオーラのようなものが立ち上り、

冴子の身体に染み込むようにして入っていく。

「うっく…」

冴子が苦悶の声を上げると同時に、

足元からパキパキパキ!という乾いた音が上がる。

見ると、冴子のはだしの足は灰色の石へと変質しはじめていた。

「み…

 美奈ぁ…
 
 くぅっ…」

「冴子…

 頑張って…!!」

美奈がオーラを送り続けると、

石化は足首から膝の方へと上がっていき、それに伴って、

パジャマのズボンが砂のようになって分解されていく。

「あ…あ…服が…」

太ももが硬化し、すらりとした美しい足が露わになる。

そのまま石化は進行し、冴子の股間を石に変えていく。

じきにズボンとパンツは完全に消滅して、冴子の秘所が丸出しになる。

「い、いやぁ!」

冴子の顔が見る見る真っ赤になった。

それでも変化は容赦なく続く。

腰からへそ、

そして胸へ、

パジャマの上着を分解しながらじわじわと迫っていく。

両手も先のほうから石化していき、

服を完全に分解し終えて裸の胸が見えたところで、胴体の硬化と合流。

そのまま首を侵食し始めた。


「く、ううううぅぅっ!

 あぅあ、いやぁあ…ッ!!」

絶叫したくなるような苦しさと、嬌声を上げたくなるような性的快感。

この二つが大波のように冴子の心に襲い掛かり、気も狂わんばかりであった。

ほとんど自由の利かなくなった身体で必死に大声を出すまいと耐える冴子。

ここで看護婦や隣の病室の人間に気づかれるわけにはいかない。

そんな冴子にオーラを送り続ける美奈もまた、極限状態になっていた。

全身から噴出す汗は病室の床に水溜りを作り、

髪の毛も制服も身体にべっとりと張り付いていた。

言葉を発する余裕も無い。

「くうっ!!

 あぁ!!……!!」

とうとう、冴子の口が叫びそうに開かれたまま石と化した。

鼻から目、そして頭の上まで完全に石化し、美奈ががっくりと膝をついたとき、

そこには美しい少女の石像がたたずんでいた。

「冴子…」

荒い息のまま美奈は歩み寄り、そっと冴子のほおに手をやる。

すると、まるでテレパシーのように冴子の思いが伝わってきた。

(美奈…)

「冴子、大丈夫?」

(私は大丈夫…美奈こそいいの?

 凄い汗だよ?)

「平気平気。

 それより、急がないと…」

美奈はひょい、と石の塊と化した冴子の身体を難なく持ち上げてみせた。

(美奈…す、凄い力…)

「この腕輪のおかげかな、力がみなぎってくるの」

正直、冴子を石化した後のことを考えていなかった美奈にとってこれは好都合だった。

「ほっ!」

美奈はそのまま人間離れした跳躍力で窓から飛び出し、芝生の上に音も無く着地した。

「いくよ…冴子」

(うん…)

美奈はまるで風のように走った。

冴子は身体に風を感じていたが、奇妙なことにそれが性的な快感に感じられた。

風だけではない。

自分の身体に添えられている手の感触、

首筋の辺りに感じる美奈の呼気、

その全てが性感に感じるのだ。

冴子の石の秘所が、しっとりと湿っていた。

驚くべきことに、ものの10分程度で美奈達は数キロはなれた山にきていた。

美奈は冴子を抱えたまま山道をずんずん登っていく。

そして、うっそうとした森の中、目当ての場所へとたどり着いた。

すっかり荒れ果てて、幽霊屋敷の様相を呈してはいたが、

元は立派な洋館のようだった。

「さあ、着いた」

(今日から私、ここで暮らすのね…)

「今はまだ汚いけど、すぐきれいにするわ。

 だから今はちょっと我慢してね。」

美奈は中に入り、比較的荒れ具合の少ない部屋に冴子を置いた。

手を離したとたん、冴子からの声が聞こえなくなった。

そこにはただ、破れた天井から漏れる月明かりの下、

裸にされた親友の石像が立ち尽くしているだけであった。

これでよかったんだろうか。

美奈は突然不安になった。

もう冴子は笑うことも出来ない。

彼女に残されたわずかな「人間」の時間を、自分は奪ってしまったのではないか。

そう思うとやりきれなくなって、突発的に美奈は冴子を抱きしめていた。

「…冴子ッ!

 ごめん、ごめんね…私、
 
 私ぃ…
 
 冴子をこんな身体にしちゃって…」

ところが、その美奈の頭には、冴子の思いもよらない声が響いてきた。

(くうッ!!

 …あふぅ…
 
 き、気持ちイイ…ッ!!)

「えっ…?」

(なんだか、身体が敏感になっちゃって…!!

 くぅぅんっ!)

美奈は恐る恐る冴子の二の腕を指でつつ…と撫でた。

(くぁぁあんっ!!)

そのとたん、冴子の嬌声が脳内に響く。

と、美奈の心にムラムラと性欲が沸き起こってきた。

「冴子…

 それじゃあ、もっと気持ちよくしてあげるね…」

美奈は美術室でビーナスにしていたのと同じように、冴子の身体を弄りはじめた。

全身が性感帯のようになってしまった冴子はあらゆる箇所への愛撫に感じ、

美奈はすべすべした質感と硬質感、美しいからだのラインに酔いしれた。

美奈の下着は再度ぐしょぐしょに濡れ、

石になった冴子の股間からも大量の愛液が滴り落ちていた。

それから毎日、美奈は学校が終わるとすぐに冴子のところへ向かい、

夜になるまで冴子を愛し続けた。

腕輪の力で山道を登るのもスイスイできるので、美奈は未だ腕輪を返せずにいた。

1週間ほどたったある日、いつものように美奈は冴子との時を過ごしていた。

「ごめんね…

 いつもいつも待たせて…」

(もっと早く帰って来れないの?

 私、美奈に構ってもらえない昼間の間、気が狂いそうになるんだよ…?)

「なるべく、早く来るようにするから…

 我慢してて、ね?」

そのとき、美奈の聞きなれた声がした。

「せ…先輩!?」

見ると、美術部の後輩の麻耶と雪菜が信じられないと言う表情でこちらを見ていた。

「あ、あなたたち…どうして!?」

「先輩が、このごろ部活にも来ないしどうしたんだろうって思って…

 ま、麻耶が後を付けてみようって…」

雪菜がしどろもどろになりながら弁解する。

まさか尊敬する先輩が、山中のボロ屋敷で石像とこんなことをしているとは、

夢にも思わなかったのだろう。

「わ、私たち、誰にも言いませんから!

 ね、雪菜?」

「う、うんうん!」

そういいながらジリジリと後退する二人。

その時、美奈がキッと獲物を狙うヘビのような目をした。

「逃がさない!」

バッ!と右手を突き出すと、そこから紫色のオーラが放射される。

それは一瞬逃げ送れた雪菜に浴びせられた。

「きゃああああッ!?

 何よこれぇ!?」

みるみる雪菜の靴が崩れ去り、足首から下が石になる。

たまらず尻餅をつく雪菜。

そしてパキパキ、

と乾いた音を立て、

硬化が足首からひざ、

ももへと広がっていく。

「ゆ、雪菜!?

 あんたの足…!!」

「い…いやァッ!!

 私の体が、石にぃぃぃぃ!!?」

制服のスカートは崩れ去り、性器が丸出しになる。

雪菜は顔を真っ赤にして叫んだ。

「や、やだやだ!!

 恥ずかしい!!」

一方麻耶は、

逃げなければ、

と思いつつも恐怖で体が言うことを聞かない。

そうこうしている間に腕も固まり、

石になった胸をさらけ出す格好にされた雪菜は、

必死に哀願していた。

「せ…先輩、

 許して…くださ…い…お願い…」

「ダメよ。あなたたちにはせっかくだから、

 冴子のお友達になってもらうわ」

「ああ、あ…」

首を動かせなくなり、

口が固まり、

目鼻やポニーテールの先までが石化すると、

雪菜はピクリとも動くことが出来なくなった。

(う、動けないッ…!!)

そんな雪菜を尻目に、

美奈は立ちすくんでいる麻耶に向けて右手をかざした。

その様子を、黒蛇堂は遠見の鏡でずっと観察していた。

『ほら、私の言ったとおりになりましたね…』

『…やはり、あの子もダメだったのね…

 もうあの子は…』

黒蛇堂は大きなため息をついた。

麻耶を石に変えようとした瞬間、美奈は右手に違和感を感じた。

「な、なに!?

 …なにこれぇ!」

見ると、腕輪が美奈の皮膚に同化するようにして消えていくところだった。

「ウソッ、そんな…!」

そして腕輪が完全に消えてしまうと、そこから緑色をした鱗が湧き出してきた。

それに伴って変化したところからは「毒気」のようなものが立ち上り、

美奈の服を溶かしていく。

「ひっ…!?」

鱗は瞬く間に美奈の右腕を覆いつくすと、胸のほうへと広がっていった。

ブラジャーや制服がドロドロと溶け去り、

ヌメヌメとした鱗に覆われた乳房が姿を現す。

「こ…これが…黒蛇堂の、言っていた…ッ!?」

悪い影響、なのだろうか。

最早左腕も鱗に覆われており、変化は下半身に向けて広がっていた。

「くううううう」

服が溶け去り、

股間の辺りまで鱗が広がったところで、更なる異変が美奈を襲う。

両足が股のところから癒着し始めたのだ。

見る見るうちに、美奈の下半身がヘビのような尻尾になっていく。


その長さは優に3メートルはあるだろうか。

「ああ…先輩…」

変身の苦痛にのた打ち回る美奈から遠ざかろうと、麻耶は這って後退していた。

と、先ほど石像にされてしまった雪菜に背中が触れた。

その瞬間、麻耶の頭の中に雪菜の言葉が響いた。

(なにやってるのよ!!早く逃げてっ!!)

「ゆ、雪菜!?

 で、でも雪菜が…」

(早く!

 私のことはいいから!!
 
 今のうちに助けを呼ぶのよ!!)

「わ、分かった!

 待ってて雪菜!」

そういい残して麻耶は脱兎のように駆け出した。

美奈は追おうとするが、変身の苦痛に耐えるので精一杯だった。

美奈の髪の毛は何十本もの束に分かれ、その一束一束がヘビの形へと変わっていった。

美奈の頭の上で何十匹と言うヘビがザワザワと動き回る。

「うぐぐ…うう…っ!!」

黄金の目には縦の瞳。そして長く伸びた舌の先は二股に分かれ、美奈は醜い蛇女…

そう、メデューサの姿に変わってしまったのだ。

『い、いやあああぁぁぁぁ!!!!』

自分の変わり果てた姿に驚き、泣き叫ぶ声が洋館に響く。

『そ、そんな…

 こんな体じゃ、もう人前に出られないよぉ…』

と、美奈ははっと気づく。

『麻耶…逃がさないわよ…!!!』

麻耶は必死で走り、ようやくふもとが見える位置までおりてきていた。

「ハァハァ…こ…ここまでくれば…」

一安心、と麻耶が言おうとしたその時、足を後ろからつかまれて麻耶は転倒した。

「ッ…!?」
麻耶が振り返るとそこには、変わり果てた先輩の姿があった。

「せ…!!!」

『逃がさない…

 誰にも私の邪魔はさせないわ』

ランランと光る目に見据えられた瞬間、

麻耶はヘビに睨まれたカエルのように動けなくなってしまった。

そして、ブワァァァ…と、美奈の体から紫色の毒気が立ち上る。

「き…きゃあぁぁあぁぁ!!!」

毒気に包まれた麻耶の衣服は一瞬にして崩れ落ち、

ものの数秒で麻耶は恐怖の表情のまま一体の石像と化してしまった。

(う、動けない…

 誰か…誰かぁぁ…助けてぇぇ――!!)

声にならない叫びを上げる麻耶を、

メデューサ・美奈は軽々と抱え上げると、悠々と屋敷へと戻っていった…

それから数ヶ月。

以来この街では、美少女が突然行方をくらませると言う事件が多発するようになった。

そして山頂の屋敷では…

室内にずらりと並べられた裸の美少女たちの石像。

その中には冴子や雪名、麻耶の姿もある。

変わり果てた彼女たちの秘所からは絶えず愛液があふれ続け、

床は常に水が張ったようになっている。

石にされ性感を感じることしか許されなくなった少女達。

そして、彼女たちを愛撫し続ける美奈…

今の姿になった彼女には、体を触れなくても石の少女たちの言葉を聞くことが出来た。

(動けないよ…苦しいよ…ッ!

 なのに、なんでこんなに濡れちゃうのよぉ…)

(先輩…!

 早く、私の体も舐めてぇ…!!)

(うう…おうちに帰りたい…)

(…もう、我慢できないっ!

 …先…輩…早く…うッ!!)

(ずっと裸なんて恥ずかしいですぅ…

 せめて、せめて服をくださいよぉ…)

(美奈!イイ…イイよぉぉ!

 もっと…もっとやってぇ〜!!)

『うふふ、冴子ったら…

 いいわ、あなたは特別だもん。

 他のみんなはもうちょっと我慢ね』


美奈は二股の舌でぺろりと舌なめずりした。

黒蛇堂は此処まで見終えると、遠見の鏡の映像を切った。

『やはりあれを世に出したのは失敗だったのね…』

『あの腕輪…どうするのです?

 黒蛇堂様』

『ほおっておくわ…

 いつか、彼女を止める者が現れるかも知れないし』

『そんな神話のペルセウスのような人間がいますかね?』

『分からない…いずれにせよ、私は少し疲れたわ』

と、カチャリ…と戸の開く音がした。

『お客様のようです』

『今度こそ、此処のものを正しく使ってくれる人であることを願うわ…』

黒蛇堂はゆっくりと立ち上がると、客に呼びかけた。

『いらっしゃいませ…』



おわり