風祭文庫・黒蛇堂の館






黒蛇堂奇譚

〜第19話〜
「ノート」



作・風祭玲


Vol.690





『黒蛇堂さま…』

夕暮れの日差しが差し込む店内に男性の声が響くと、

『なんでしょう?』

シャラン…

黒染めの衣装に掛かるアクセサリーを微かに鳴らして

1人の少女・黒蛇堂が返事をする。

『いえ、

 最近、黒蛇堂さまのお兄様とお姉様が

 随分と動かれているようで、このままでは…』

と声はここ最近、黒蛇堂の兄と姉の動きについて懸念を告げた。

すると、

『良いではありませんか、

 兄は兄、
 
 姉は姉です。
 
 それにわたしはこの店を守るという使命があります』

キッパリと黒蛇堂は言い切ると、

『申し訳ございませんでした』

と声は謝罪を口をした。

『いえ』

それを聞いた黒蛇堂は小さく笑うと、

『さぁ、

 そろそろ、お客様がお見えになる頃ですね』

と言いながら

スッ

店の方へと歩いていく、



ギィ…

重く響く音を立てながら、

重厚なドアがゆっくりと開いたのは

それから程なくの事だった。

コト…

靴の音を立てながら、

怖々と制服姿の少女が入って来た。

この地域で有名なお嬢様学校の制服に身を包む彼女だが、

しかし、その表情はとても暗いものであった。

そんな少女を

ズラッ

長い年月を重ねてきた商品棚と、

それに乗せ並べられた数々の商品らしきものが出迎える。

「おっお店屋さん…

 なの?」

そう呟きながら少女は、

不安そうにキョロキョロと周囲を見ながら立ちすくんでしまうと、

『何かお探しのようですね』

と黒蛇堂の声が響いた。

「きゃっ」

その声に少女は小さく悲鳴を上げると、

スッ

『いらっしゃいませ』

と言う声と共に長い髪を流し、

黒い服に身を包んだ一見少女と思わしき黒蛇堂が姿を見せると、

『ええ。私がこの黒蛇堂の主です…

 人は私のことを黒蛇堂、と屋号で呼びますが』

と神秘的なアクセサリーを輝かせながら話しかける。

「はっはぁ…

(あたしより年下?

 中学生?)」

制服姿の少女は奥から出てきた黒蛇堂と名乗る女性が

自分よりも年下に見えたために、

少し混乱をしていると、

キラッ

黒蛇堂の目が微かに光り、

『あなたは智香さんと言う女性を懲らしめたいのですね』

と告げた。

「え?」

黒蛇堂のその言葉に少女はドキッとすると、

『ふふっ、

 判ります…

 あなたはなにかと自分に意地悪をする智香さん一矢報いたい、

 と願っていますね。
 
 でも、彼女を傷つけることはしたくない。

 出来れば、恥ずかしい目に遭わせてあげたいと…』

まるで少女の心の中を見透かすかのように黒蛇堂はそう指摘すると、

「うっ…」

制服の少女は言葉に詰まり、

そして、

キッ!

黒蛇堂をキツイ視線で見つめると、

「そうです…」

と静かに告げた。



「・・・・・・」

時が凍り付いたかのような時間が過ぎてゆく、

そして、止まった時計を動かすように、

『畏まりました』

と黒蛇堂は返事をすると、

スーッ

立ち並ぶ商品棚から何かを探すかのように

差し出した人差し指を動かし、

やがて、1冊のノートを取り出すと、

『これを…』

と言いながら少女に差し出した。

「これは?」

祖父や祖母達が使っていた頃を思い起こさせる、

古風な大学ノートを手に少女は尋ねると、

『そこに書かれた事は全て事実になるノートです』

と黒蛇堂は告げた。

「じっ事実に…ですか?」

黒蛇堂の説明に少女は驚きの声を上げると、

『はい、

 捜し物の発見から、

 人の生死にまで、

 そのノートに書けば全て事実になります。

 でも、それぞれに事象を実現したときには、

 必ず書いた者に跳ね返ってきます。

 そこをよく考えて使ってください、

 いじめっ子に復讐をするのならそれも良いでしょう、

 そのいじめっ子とあなたの間では

 不均衡が生まれているのですから、

 でも、不均衡の補正以上のことを望んだとき、

 オーバー分はあなたに降りかかってきます』

黒蛇堂はそう忠告をすると、

店の奥へと向かっていってしまった。

「あっあの…

 お金は?」

ノートを抱えながら少女は尋ねると、

『お代は頂きません。

 貴方の願いが満たされれば、それで結構で御座います』

と黒蛇堂は返事をし、

店の奥を覆う闇の中へと消えていってしまった。



翌日…

「で、あるからして…このXを…」

「うーん…」

数学の授業中、

幾美は黒蛇堂で貰ったノートを開きつつ、

思い悩んでいた。

「これに書いたことが全て事実になる…

 でも…

 死んじゃえなんてことは書けないしな…」

チラリと前の席に座る少女を見ながら

幾美はそう呟いていると、

「佐藤、

 何も書いていないノートを開いたまま固まってなにをやっているんだ?」

と教師の声が響いた。

「え?」

その声を聞いて幾美は慌てて立ち上が途端、

コツンッ

その頭が軽く叩かれ、

「練習問題は解けたのか?」

と教師の声。

「あっ…」

その声に幾美は改めて周囲を見回すと、

クスクス

クスクス

と小さな笑い声が響き渡る。

「いっいえ…」

顔を真っ赤にして幾美が席に座ると、

コツンッ

っと消しゴムのカケラが幾美の額にに当たり、

「(バーカッ)」

と前に座る智香の口が小さく動いた。

「くっ」

彼女のその行為に幾美は歯を食いしばりながら座ると、

「!!っ」

何かを思いついたのか、

幾美の表情が一瞬明るくなると、

さらさらと素早くノートに書き込み、

パタン!

と閉じ、

普段、数学の授業で使っているノートを取り出した。

チッチッチッ

静かに時間が流れていく、

そして、教卓の上に掛かる時計の針がある数字を指したとき、

ガタン!!!

前に座る智香が慌てて立ち上がった。

「ん?

 長沼っどうした?

 なにか、質問か?」

立ち上がった智香に教師は驚きながら尋ねると、

「え?

 あっ
 
 いっいえっ」

そう返事をしながら智香は座りなおす。

「(くくっくくっ)」

そんな智香の姿に幾美は笑うのをこらえながら前を見ると、

ムクリッ!

前に座る智香の背中が少し大きくなったように見えるが、

その一方で智香はサワサワと自分の身体をひとしきり触った後、

そのまま机に伏せてしまった。

「どうしたの?」

そんな智香に幾美は平然と声をかけるが

「べっ別に…」

と彼女からの返答が帰ってくるが、

返ってきたその声は普段の智香のものとは違い

嗄れたものになっていた。

それを聞いた途端、

幾美は”ブフッ”と噴出しそうになるが、

でも、ココで噴いてしまってはまた笑いものになる。

グッと堪えながら前を見ると、

いつの間にか智香はスカートの上に手を載せ、

そして、何かを確かめるように手を動かしていた。

ショートの髪から覗く耳が真っ赤になっている。

いま彼女の思考が授業どころではないことは明白だった。

そんな智香の姿に幾美は

「(ざまぁみろ)」

と思いながら見ていると、

スカートを押さえつけるような格好で座っていた智香の体が

しぼむように元の姿へと戻っていった。

どうやら時間が来たようだ。

だけど、智香はしばらくの間、自分の体をまさぐり続け、

そして、戻ったことを確認するとホッとしたように席に座り直し、

小さく咳払いをするとまた鉛筆を走らせ始めた。


しかし、その平穏も長続きはしなかった。

再び時計の針がある数字を指したとき、

智香の体が浮いたように見えた。

バッ

バッ

さっきと同じように智香はまた体をまさぐっている。

その瞬間、智香は男の声で

『なんで?』

というのを幾美は聞き逃さなかった。

「ふふっ

 混乱している、

 混乱している」

ほくそ笑みながら幾美は智香を見つめるが、

当の智香はスカートを抑えつつ

自分の股間にあってはならないものがあるのを感じると、

「なんで…

 どうして?」

と困惑する思考の中で智香は必死になって押さえるが、

でも、押さえれば押さえるほど”それ”は持ち上がってしまい、

押さえる事でこすれるのでまた立ち上がってしまうのであった。

その一方で、空いている手を胸に潜り込ませてみると、

ミス学園にも選ばれた自慢の胸の膨らみは無くなり、

代わりに横に広がる胸板が盛り上がっている感触が指先に走った。

「いやだぁ…

 なんでぇ」

ジョリッ!

胸から出した手で顎髭まで生え始めた喉回りを盛んにさすりながら、

智香が突っ伏してしまうと、

頬に涙が伝わり落ちて行く。



「あらあら?」

そんな智香の姿に幾美は少し罪悪感を感じてしまったが、

でも、これまで彼女から受けてきた仕打ちのことを思い出すと、

パタン…

再びあのノートを開くと、

スラスラと何かを付け加えた。

その途端、

「!!っ」

智香は身体を震わせ始めると、

クイクイ

クイクイ

っと右腕が規則的に動き始めだした。

それを見た幾美は聞き耳を立ててみると、

「ハァハァ

 ハァハァ」

と彼女から乱れた息づかいが聞こえてくる。

「(くくっ

  くくくっ)」

それを聞いた幾美は必死に笑いを堪えていた。

智香の荒い息づかいは長く続き、

そして、

ビクッ

ビクビクビクッ!!

腰を小刻みに震わせさせながら果てたとき、

ポタッ

ポタポタッ

彼女の足下に向かって

糸を引きながら白く濁ったものが静に垂れて行く。

その途端、

「やだぁ、

 なにこの臭い」

傍に座っていたクラスメイトが鼻をつまみながら悲鳴を上げると、

ビクッ!

その途端、智香の身体が飛び上がった。

「ホントだぁ…」

「生臭い臭い…

その声と共に次々とクラスメイト達から声が上がり、

「おいっ、

 なんだ、落ち着け!」

と教師が声を上げた。

そして、

ガララ…

ガララ…

と教室の窓が開け放たれた時、

キンコーン!

授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。

そして、それを合図にして、

シュルルルル…

智香の身体は女性へと戻っていくが、

だが、

ポタポタ…

智香はすっかり腰砕けになってしまったうえに

股間からは盛んに精液が滴り落ち続けていた。



「ねぇ、何の臭いかしら」

「長沼さんから臭ってくるみたいなのよ」

授業を終えた教師が出て行った後、

皆が集まって座ったままの智香をチラチラみながら

ひそひそ話をはじめ出すと、

ガタン…

突然、智香が立ち上がり、

ふらふらしながら教室から出て行ってしまった。

そんな彼女の後ろ姿を見ながら幾美はあのノートを広げると、

『智香の体が5分おきに男になる』

『智香、ひとりエッチをして、

 オチンチンからザーメンをたっぷり放出、

 腰が立たないほどの快感を感じる』

と書かれた文字を消しゴムで消して行った。



『黒蛇堂さま?』

その様子を遠見の鏡で見ていた黒蛇堂に男の声が響くと、

『なんでしょう?』

と彼女は返事をする。

『今回は如何でしたか?』

そんな黒蛇堂に男は尋ねると、

『そうねぇ…

 ふふっ
 
 彼女はちゃんとバランスを考えて行動をしてくれましたわ』

と明るい顔で返事をした。



おわり