風祭文庫・黒蛇堂の館






黒蛇堂奇譚

〜第16話〜
「ネコミミ」



作・風祭玲


Vol.554





ふぅふぅ

ふぅふぅ
 
「あるはずだ…」
 
ふぅふぅ
 
ふぅふぅ
 
「この辺に絶対あるはずだ」

夏休みが終わり、新学期が始まったばかりの9月初旬、

大友雪乃丈はスナック菓子やファーストフードで肥え太った己の身体を鞭打ち

秋とは名ばかりのギラついた日差しの下を歩いていた。

ふぅふぅ

ふぅふぅ

膨らんだ顔からは滝のような汗が滴り落ち、

饐えた臭いを撒き散らしながらも雪乃丈は歩き続ける。

ここまでして彼が探すもの…

それはとあるネット会議室に書き込まれた情報であった。

…店の名は『黒蛇堂』

 その店の主は中学生くらいの髪の長い黒ずくめの美少女であり、

 なんでも望が叶えられるアイテムが貰える…

という神出鬼没の謎のショップがその会議室に紹介されてあった。

最初に雪乃丈がこの情報を見たときは、

偽情報を流して周囲の反応を見る”釣り”かと疑ったが、

しかし、日がたつにつれて妙にこの書き込みが気になりだし、

そして、ふと、検索を掛けてみると、

ヒットした別のブログに黒蛇堂のことがさらに詳しく書かれていたのであった。



「そうか…

 本当にあるんだな…
 
 黒蛇堂は…」

深夜、すべてが寝静まった丑三つ時、

確信を持った雪乃丈は一日中座り込んでいたパソコンの前から立ち上がると、

「ふっふっふっ

 女子中学生の店主か…
 
 久々に制作意欲が湧いてくるぞぉ」

と呟きながら、

壁にずらりとディスプレイされたフィギュア列を見据える。

「ふふふっ

 見たい…
 
 その黒蛇堂という女子中学生を見たい。
 
 そして、僕の手で彼女のフィギュアを…」

そう決意をするかのように

ギュッ

雪乃丈は手を握り締める。

そして、おもむろに横の壁を見ると、

「あっ!」

そこに貼られている特大のアニメポスターに目が行くのと同時に、

「ふふっ

 そうそう、フィギュアも大事だけど、
 
 黒蛇堂に行く最大の理由、
 
 それは
 
 只で貰えるという、僕の夢を叶えてくれるアイテム、

 そう、それさえあれば…
 
 ぐふふふ…
 
 日ごろ僕をバカにしているあいつらを僕好みにしてやる。
 
 ふふふふ…
 
 (キラッ)
 
 ネコミミ
 
 ネコミミ万歳!!」

脂ぎったメガネを掛けなおし雪乃丈はネコミミのアニメキャラに向かって、

幾度も声を張り上げていた。



はぁはぁ

はぁはぁ

「どこだぁ〜」

「どこにあるぅ…女子中学生の店は…」

闇雲に街中を彷徨ってきたために

雪乃丈はすっかり脱水症状になり意識は朦朧としていた。

「くっ

 なんのっ
 
 これしきの暑さ…
 
 ビッグサイトで経験済みさっ」

先日、掻い潜ってきたばかりの修羅場を思い起こしながら、

雪乃丈は身体に鞭打つが、

しかし、その足取りは重く、

一歩一歩がまさに僧侶の苦行と化していた。

はぁはぁ

はぁはぁ

「まだか…

 まだ、現れないのか…」

さっきから横に居る死神を横目で見ながら雪乃丈は歩き続けた、

そして、

「あぁ…

 北斗七星がみえるぅ…
 
 あぁ、なんだあの寄り添う赤い星は…」

と呟きながら力尽きて倒れたとき、

ダンッ!!

とある店の扉に思いっきり頭をぶつけてしまった。

「いたぁ…

 誰だよ、こんなところ店なんか建てやがって!!」

痛みを放つ額を押させながら雪乃丈が扉に蹴りを入れようとすると、

「ん?

 このドアは…」

と重厚で古風なドアに気づき、

バッ

その顔を上げた。

すると、

黒くくすんだレンガ造りの外壁に

『黒蛇堂』

と書かれた看板が彼の目に留まった。

「くろ・へび・どう…」

雪乃丈は看板の文字を一つ一つ読み上げていくと、

死相が出ていた顔に見る見る生気が戻り、

「みっみっ見つけた!!

 くっ黒蛇堂だ!!!」

と大声を上げて立ち上がった。



キィ…

滅多に開く事が無いドアが軋む音を上げながらゆっくりと開き、

客の来店を告げる音が店の中に響き渡る。

『いらっしゃいませ、

 黒蛇堂へようこそ』

その音にいつもと同じように黒蛇堂はカウンター前に出て、

ドアを開けた客を迎え入れる。

果たして、今度の客は何を望んでいるのか、

その望みを叶えてあげられるのはどのようなモノなのか

そんなことを考える事が黒蛇堂にとって楽しみでもあった。

しかし、

ブワッ!!!

ドアが開くのと同時に入ってきたのは、

強烈な臭いとオーラであった。

『うっ

 なっなに?
 
 この強烈なものは…』

天界からの女神降臨に等しいそのパワーに黒蛇堂は威圧され、

たちまち一歩も前に進み出る事が出来なくなってしまった。

すると、

ドォォォン!!

黒蛇堂を威圧するオーラはさらに強まり、

そのオーラを吹き荒らしながら、

コトリ

コトリ

何者かがゆっくりと店の中へと入ってくる。

『うぅっ

 天界から誰かが降りてくる。
 
 なんて話、聞いてなかったけど』

吹き荒れるオーラに黒蛇堂は身をかばいながら戸惑っていると、

「あなたが、黒蛇堂さんなのですね」

と男の声が響いた。

「え?」

その声に黒蛇堂はハッとすると、

彼女の目の前には長く伸びた髪に脂ぎったメガネ、

そして、アニメキャラを思わせる少女の姿がプリントされたシャツを着た

相撲取りを思わせる巨体の男が立っていた。

『はぁ…?』

黒蛇堂にとってこれまでに接した事が無い人物の登場に唖然としていると、

パシャパシャパシャ!!!

いきなりシャッター音とストロボの光が集中豪雨のように降り注ぐ、

『え?

 あっあのっ
 
 その、
 
 店内での撮影は…』

突然始まった撮影に黒蛇堂は困惑しながら注意をするが、

「あっ、

 手はこう
 
 そして、脚はこうして」

そんな黒蛇堂に男は巨体にもかかわらずきわめて俊敏に動きながら、

アレコレと注文をしながら撮影を続行する。

『いやっ

 ですから…』

「あっその顔っ

 いただき(パシャッ)」

『ちょちょっと』

「うーん…

 困った顔もなかなか(パシャ)」

『ですから』

「あっその場合、

 手を少し腰に当ててください(パシャ)」

『あたしの…』

「手はグーで握ってください。

 それと、その姿勢のまま止まって(パシャパシャ)

『話しを…』

「髪をもぅ少し靡かせて…(パシャ)」

『聞いてくださいっ

 って聞いてます?』

「(パシャパシャ)」

『もぅ!!

 あたしの話を聞いてぇぇぇぇぇ!!!』

「(パシャパシャパシャ!!)」



はぁはぁ

はぁはぁ

シャッター音とストロボの嵐が過ぎ去り、

ようやく店内に静かさが戻ると、、

そこには顔中汗ビッショリになった黒蛇堂が肩を上下に動かしていた。

すると、

スンスン

いきなり男は黒蛇堂に近寄り、

彼女から立ち上る汗の匂いを嗅ぐと、

「うんっ

 確かに、女子中学生の臭いだ」

と満足そうに頷く。

『ひっ!!!』

その言葉に黒蛇堂は慌ててカウンターの中に駆け込もうとすると、

「あっちょっと待って!!」

男は黒蛇堂の腕を掴み、

シャッ!!

メジャーを取り出し、

「身体のサイズ計らせて…」

と言いながら手際よく黒蛇堂のサイズを測り始めた。

『あわわわわ…』

瞬く間に採寸されていく様子に黒蛇堂は顔を青くし、

そして、

「ふむふむ…

 これだけデータがそろえば、大丈夫か

 で、僕にはどのようなアイテムをいただけるのですか?」

パタンっ

男は採寸した黒蛇堂の各種データを

いつの間にか出していたノートパソコンへと入力し、

即座にふたを閉じながら訊ねる。

男のその言葉にぐったりとしていた黒蛇堂は我に返ると、

「頂けるんでしょう…

 僕に必要なものを…」

と男は厚顔無恥に要求してきた。

『(くっ

  殴ってやろうか)』

そんな男の要求に黒蛇堂は内心そう思いながらも、

いつもの表情に戻ると、

「そうですね…」

そう呟きながら店の奥へと向った後、

程なくして1台の古びたカメラをもって現れた。

「カメラ…

 しかも、目茶古そうだな」

黒蛇堂が持ってきたカメラを男は興味深そうに眺めると、

「はいっ

 このカメラはあなたのその乾いた心を満たしてくれます」

と事務的に黒蛇堂は説明をする。

「僕の心を満たす?」

「はい…」

「ということは…

 はっ、
 
 そうか、

 何かを念じながらこれで写すと、
 
 それが現実になるってことなんだねっ
 
 ねっ
 
 ねっ」

「(ムカッ)まっまぁそうですが」

あまりにも無礼な男の口調に黒蛇堂は不快そうに返事をすると、

「どれ…」

男は早速カメラを手に取り、

「フィルムは…

 あぁ、普通の銀塩でいいのか、

 あっフィルムはあるんでしょう?

 で、シャッターはこれで、

 ここはこうして…」

とブツブツと言いながらカメラを操作する。

そして、

チャッ!!

カメラにフィルムを装填した男は

いきなり黒蛇堂に向けてカメラを向けるなり、

パシャッ!!

シャッターを切ってしまった。

『きゃっ!!』

その瞬間、黒蛇堂は何か衝撃を受けたような気がしたが、

「(大丈夫、

  あたしには効果はない)」

自分が提供したアイテムの力が

自分に降りかかることの無い事を確認するようにして呟くと、

『ご確認していただけましたでしょか』

と男に訊ねる。

すると、

「うんっ

 そうだなぁ…」

男は満足そうに頷くと、

「本当は君も連れ去りたかったけど、

 今日はそれも無理そうだから、
 
 まぁいいかっ
 
 また来るね…」

と言い残してそのまま立ち去ってしまった。

『あぁ

 ちょっと…』

去っていく男に黒蛇堂は呼び止めようとするが、

しかし、そのときには男は店の外へと歩き出していて、

黒蛇堂の声は届いては居なかった。

『はぁ…

 1枚撮るごとに自分にも何らかの”業”が降りかかる。
 
 って言おうとしたのに…

 まぁいいでしょう。

 あの性格なら、

 近い時期に災難が降りかかるでしょうから…

 それにしても

 なっなんか、疲れる相手だった…』

男が立ち去った後、

黒蛇堂はカウンターでガックリと突っ伏していると、

『散々でしたね』

と店の奥から声が響く。

『えぇ、まぁ…

 これもわたくしの運命ですから…』

その声に黒蛇堂は返事をすると。

『ふふっ

 黒蛇堂さまっ
 
 そのお姿もなかなか味わいがありますね』

と声は黒蛇堂の姿を指摘する。

『え?

 姿って?』

『おや、まだお気づきにならないのですか?

 ふふっ、

 そこの鏡で見てお姿を御覧なさい。

 頭から出ているネコの耳が可愛いですよ』

と声が指摘すると、

『え?』

その指摘に黒蛇堂は慌てて鏡に自分の顔を映し出した。

すると、

ピンッ!!

黒蛇堂の頭の両側に黒毛に覆われたネコの耳が立ち、

ぴくぴくと動いている様子が鏡に映る。

『なっなっ

 なによ、これぇぇぇぇ!!!!』

それを見た直後、店内に黒蛇堂の叫び声が響き渡り、

『ふむ、

 黒蛇堂にまで術をかけるとは…

 あの男…相当な使い手だな…』

感心したように声は呟く。



「くふふふふふっ

 ネコミミ
 
 ネコミミ
 
 ナースに
 
 巫女さん
 
 婦人警官、さてなんにしよう」

そのとき、雪乃丈はスキップをしながら街中を歩いていた。

そして、

「ふふっ

 このカメラさえあれば…
 
 ふふふふふっ
 
 ネコミミ娘を大量に作り出す事が可能だし、
 
 くふふ…
 
 ネコミミハーレムだって夢じゃない。
 
 いいぞぉ
 
 いいぞぉ

 いよいよ僕の野望を実現するときが来た。
 
 立てよ国民っ
 
 ジーク・ネコミミ!!」

駅前に設置してある彫刻の上によじ登ると、

雪乃丈は夕日に向かって高らかに声をあげる。

すでにその時の彼の頭の中からは

フィギィアの事などすっかり忘れ去っていたのであった。



で、翌日

「おーすっ、

 今日は学校に出てきたのよ、

 キモヲタ!!」

黒蛇堂より譲り受けたカメラをかばんに入れ

雪乃丈が学校に登校するのと

早速、彼を苛めてきた女子生徒・高橋瑞枝がからかってきた。

しかし、

「ふっふっふっ!!

 おいっ
 
 高橋っ

 俺様にそんな口を利いていいのか?」

雪乃丈はいつもと違って挑発的な行動に出る。

「なっなによっ

 気味が悪いわねっ
 
 この暑さで脳みそ煮えちゃったかな?」

そんな雪乃丈に向かって瑞枝が突っかかると、

「ネコミミになれ!!!」

サッ!!

カシャッ!!

そう叫びながら雪乃丈は黒蛇堂のカメラを構えると、

瑞枝に向かってシャッターを切った。

その途端、

ムズムズムズ!!

瑞枝の耳がムズ痒くなると

モリッ!!

ビンッ!!

瑞枝の頭の両側にネコの耳が突き出した。

「え?

 なっなに?」

耳の感覚が変わったことに瑞枝は驚きながら手を頭に這わせると、

「いっいやぁぁぁぁ!!!」

その直後、瑞枝の悲鳴が響き渡る。

「あーはっはっはっ

 あの高橋がネコミミになったぞ、
 
 愉快愉快!!」

ネコミミを振りかざして泣き叫ぶ瑞枝を指差して雪乃丈は笑うと、

「もどしよっ

 元に戻してよっ!!」

目に涙を溜めながら瑞枝は抗議する。

しかし、

「えぇい、うるさい奴だな
 
 それっシッポォ!!!」

カシャッ!!

「続いて、肉球ぅぅぅ!!!」

カシャッ!!

雪乃丈は立て続けにシャッターを切ると、

モコッ!!

ポンッ

ググググ…

ポンッ

と言う按配に瑞枝のお尻からはネコの尻尾が生え、

また、両手はプニプニとした肉球が覆うネコの手と化してしまった。

「いやぁぁぁぁ!!!」

ネコ手になってしまった両手を見ながら瑞枝がさらに悲鳴を上げると、

「えぇいっ

 その声、うるさい。
 
 ニャンと鳴け!」

と言いながらシャッターを切った途端。

「ニャンッ!!

 ニャンッ!!」

瑞枝は喋れなくなりネコの鳴き声をあげながら蹲ると、

その場で泣き出してしまった。

「くふふっ

 これまで僕を苛めてきたバツだ。
 
 お前はネコ娘として生きるのだ」

勝者のごとく振舞いながら雪乃丈は瑞枝にそう告げると、

「そうだ

 僕は神だ
 
 神になったんだ」

と人知を超えた力を手に入れたことを実感し、

そして、

「よーしっ

 では、ネコミミ作戦、開始!!」

そう叫ぶや否や、体育館へと駆け出していった。



「きゃぁぁぁ!!

 令菜センパーィ!!」

雪乃丈が向かった体育館では新体操部の田端令菜の練習の真っ最中であった。

「ふふふっ

 3年A組、田端令菜…
 
 お前はもぅネコミミだ…」

いつもは即効でつまみ出される体育館に向かって、

ノッシノッシ

雪乃丈は歩いていくと、

出入り口で鈴なりになっているギャラリーの女子生徒たちに向かって、

「ドケッ!!」

と一括する。

「なによっ」

「あっまたキモユキが来た」

「追い出せ!!」

雪乃丈の声に女子生徒たちは集団になって追い払おうとすると、

「ふんっ」

雪乃丈は鼻で笑い、

「お前ら、全員っ

 ネコミミ!!」

と怒鳴ると同時に

カシャカシャカシャ!!

向かってきた女子生徒を次々と撮影をした。

すると、

ポンッ

ポンッ

ポンッ

女子生徒たちの頭にネコの耳が生え、

「ニャッ
 
 ニャンッ!!」

「ニャン!」

「ニャン!」

皆一斉にネコの鳴き声をあげると、

たちまちパニックに陥ってしまった。

「なっなんですかっ」

ギャラリーたちの混乱に気がついた令菜が

レオタード姿のまま雪乃丈に注意をしようとすると、

「新体操部、田端令菜っ

 お前をネコミミにしに来た!!」

雪乃丈は高らかに宣言をすると、

カシャッ

カシャッ

カシャッ

令菜にむけてシャッターを切る。

その直後、

「にゃーーーん!!」

ネコミミにレオタードを突き破って生えた尻尾、

そして肉球の手を庇いながら、

令菜が体育館から飛び出すと、

「あーはははっ

 まてー」

雪乃丈は笑顔で令菜の後を追いかけていった。

こうして、

コーラス部の水上洋子、

弓道部の養沢慶子、
 
生徒会の西島久美子
 
と言った校内の美少女達が雪乃丈の毒牙にかかり、

みなネコミミ娘にされてしまった。



「うわっはっはっはっ!!

 ハーレムだ…
 
 ふふふっ
 
 究極の…
 
 ネコミミハーレムだぁぁ!!」

ネコミミ化した女子生徒たちを美術室に集め、

雪乃丈は一人悦に浸っていた。

ところが、

モコッ

その雪乃丈のお尻が盛り上がると、

ベリッ!!

シュルン!!

ズボンを破き、

一本の尻尾が突き出した。

「わはははは、

 ははははは…
 
 ははは…

 チュゥ!!!

 え?」

一瞬、雪乃丈の口から出てきた鳴き声に雪乃丈は慌てて口をふさぐが、

「ん?

 あっあれ?
 
 チュゥ…

 え?

 チュゥ…

 チュゥ
 
 チュゥ」
 
雪乃丈の口からはネズミの鳴き声が絶え間なく漏れ始めた。

すると、

「にゃぁん?」

その声を聞きつけたネコ娘たちが一斉に雪乃丈を見ると、

スッ!!

足音を立てずに次々と近づく。

「なっおいっ

 なんだよっ
 
 チュゥ
 
 お前達、
 
 僕をどうしようというんだ
 
 チュゥ
 
 チュゥ」

幾度もネズミの鳴き声を上げながら雪乃丈は迫る女子生徒達に向かって言うが、

しかし、そのとき、雪乃丈の身体からは赤茶けた獣毛が生え、

また、身体全体がネズミに近づいていた。

「チュゥ

 チュゥ
 
 お前達、
 
 チュゥ
 
 チュゥ
 
 来るな、
 
 チュゥ
 
 チュゥ」

ネズミの鳴き声に言葉を埋めながら雪乃丈は抵抗をするが、

フギャァァ!!

一人が高らかに鳴き声をあげると、

ニャォォォン!!!

ネコミミ・ネコ女子生徒たちは一斉に雪乃丈へと襲い掛かり。

「うわぁぁぁ!!

 チュゥチュゥ!!」

雪乃丈は悲鳴を上げながら女子生徒の中へと沈んでいった。



『また一人…

 自分におぼれましたか…』

遠見の鏡を見ながら黒蛇堂はため息をつくと、

『祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり…』

その背後で声は平家物語の一節を呟いた、

『はぁ…

 危惧した通りとはいえ……』

その一節を横で聞きながら黒蛇堂はため息をつくと、

ピクッ

自分の頭で動くネコの耳を軽く引っ張り

『とにかくカメラを回収してきてください。

 あっそれと、
 
 彼が変身させた女子生徒も元に戻してあげて』

と指示を出す。

『畏まりました

 あっ黒蛇堂様』

『なに?』

『その耳、可愛いですよ』



おわり