風祭文庫・天使の館






神将ハンター・真織
最終話:早川神社の後継者

作・風祭玲
(原案:少年少女文庫・100万Hit記念作品製作委員会)

Vol.268



「天使のお仕事」の詳細については

http://www14.big.or.jp/~yays/library/novel/200104/20050818/100title.htm

を参照して下さい。





「”未神将”です、真織さん!!」

「判っているわよ!!」

夕方…

無人の廃工場にディディアルと真織の叫び声が上がると、

『めぇぇぇぇぇぇ!!』

真っ白い羊毛に身を包んだ未神将が建物の影から姿を現すなり一直線に向かってきた。

「くおのっ」

すかさず間合いを取った真織が戦闘服である巫女の衣装を翻しながら、

未神将を封印しようと竜鉄槌を振りかざした途端、

ボムッ!!

突如、未神将の羊毛が見る見る膨らんでいくと、

瞬く間にその大きさが2倍・3倍へと大きくなって行った。

「うわぁぁ

 なっなにこれぇ」

自分を見下ろす位の大きさになってしまった未神将に真織が呆気にとられると、

「何を見とれているんです。

 早く封印をしなさい!!」

ディディアルの叫び声が響いたが、

しかし、

「そんなこと言われても、

 コレ…どうすればいいのよ」

真織の困惑した声が響く。

『んめぇぇぇぇ!!』

ズシン!

ズシン!!

そうしている間にも未神将は真織に迫って来た。

「うっうわぁぁぁ…」

真織は顔色を真っ青にして引き下がっていくが、

けど、彼女に残された空間はあまり無く、

スグに背中が壁についてしまった。

『めぇぇぇぇっ』

未神将はそんな真織を見下ろすと、

グイッ!!

前足を上げるなり一気に降ろした。

「きゃぁぁぁぁ!!」

ズシン!!

ガタガタガタ!!

地響きが廃工場の屋根を大きく揺さぶる。

「ひゃぁぁ…間一髪っ」

踏み降ろされた未神将の前足の脇で真織が胸を押さていると、

『んめぇぇぇ』

未神将が雄叫びを再び大きく上がった。

「真織、”戌神将”を使えっ」

「戌神将?

 あっそうか!!」

ディディアルの声に真織があることに気がつくと、

ごそごそ…

巫女装束の胸元から一枚の札を取り出すと、

「お願い、戌神将、力を貸して」

と囁くと、

札を高く放り投げた。

そして、

「我に力を貸し与えよっ、

 戌神将!!」

っと叫ぶと。

カッ!!

投げた札がまぶしく光り、

『うわん!!』

犬の吠える声と共に、

白い犬の姿をした戌神将が真織の前に降り立つと、

『ぐるるるるる…』

目の前に迫る未神将を睨み付けた。

”封印した神将は真織の配下にすることが出来る。”

ディディアルからその話を聞いたときには半信半疑だった真織だったが、

しかし、こうして神将を使いこなすようになると

すっかりその便利さに慣れてしまっていていた。



『めぇぇぇ…』

目の前に姿を現した戌神将に未神将は威嚇しながら、

しかし、徐々に後ずさりしていくと、

『うわん!!』

戌神将が大きく吠えると飛び上がるなり未神将の喉元にかみついた。

『んめぇぇぇぇぇぇ!!』

戌神将の攻撃に未神将は首を振って振り払おうとしたが、

しかし、未神将の喉元にかみついている戌神将はなかなか離さない。

『ぐぅぅぅぅぅ』

『めぇぇぇぇぇ』

ドシンドシン!!

戌神将と未神将の戦いに廃工場の床は大きく揺れ、

ガラガラ

あちらこちらから部材が落ち始めた。

「まずいっ

 早く終わらせないと、この建物が崩れ落ちますよ!!」

「わっ判っているわよ、

 でっでもどうすればいいのよ」

柱の隅に隠れた真織とディディアルが怒鳴り合っていると、

『んめぇぇぇぇぇ』

一際大きく未神将の鳴き声が上がった途端、

フシュルルルルル

膨れあがっていた未神将の体が見る見る萎みはじめた。

そして、あっけなく元の大きさになったとき、

「ちゃーんすっ」

バッ

竜鉄槌を片手に真織が飛び出すと、

「我の手元より、散りし一二神将よ、

 いま再び我の手元に集うべしっ

 未神将っ」

と叫ぶと未神将めがけて竜鉄槌を振り下ろした。

ごぉぉぉぉぉん

『んめぇぇぇぇぇぇ!!!』

未神将の絶叫と共に竜鉄槌の音が廃工場内に響き渡った。

「ふぅぅぅぅ」

ファサッ

足下に2枚の札が寄り添うように参り降りるのを見ながら

真織が大きく息を吐くと、

「よしっ、

 今回にミッションも無事に終了ですね」

満足そうにディディアルは真織に告げた。

「はぁ…

 子・丑・寅…

 ねぇ一二神将も結構集めたけど、残りはあと何匹いるの?」

竜鉄槌を肩に担いで真織がディディアルに訊ねると、

「そーですねぇ…

 子・丑・寅・卯…巳・午・未・申・酉・戌・亥…

 あっ、残るは最後の一つ”辰”ですよ」

「そっか、ついに最後の一匹になったのね…」

ディディアルのその言葉に真織は笑みを浮かべると、

ディディアルはいつに無く真剣な表情になり、

「言って置きますけど、

 ”辰”は手強いですよぉ」

と真織に告げた。

「え?、そうなの?」

「えぇ、一二神将中もっとも強い神将です。

 でも、辰神将を封印することができれば、

 真織さんは早川神社の後継者として認められたと言うことになりますね」

「え?、

 いま終わりの方なんて言ったの?」

ディディアルの最後のセリフが聞き取れなかった真織がスグに聞き返したが、

「いや、別に…」

ディディアルはそう言葉をはぐらかすと廃工場から立ち去っていった。



「ただいまぁ…」

「お帰りなさい…」

鞄を肩に担ぐようにして真織が玄関のドアを開けると、

母親の真須美が笑顔で出迎えた。

「あら、

 ここのところずっと疲れた様子で帰ってくるとけど、

 何かクラブでも始めたの?」

真須美のその言葉に、

「まぁ…これがクラブならその何十倍も嬉しいんだけどね…」

真織はそう言い残すとそのまま自分の部屋へと入っていった。

そして、

ドォッとベッドの上に倒れ込むと、

「あぁ…疲れたぁ…」

と言うなり静かに目を瞑ると、

「……あたしが、神社の宝物庫で一二神将を解き放ってしまって…

 それから…ディディアルがやってきて…

 そして、一匹一匹捕まえて来たんだよね…」

とコレまでの捕り物を回想し始めた。

「やたら駆けるのが得意だった”午”に…

 触るさえイヤだった”巳”…

 でも、それもあと一匹…

 はぁ、なんだかあっという間だったような感じだったなぁ」

回想しながら呟いていると真織はいつの間にか寝息を立てていた。



翌朝…

ディディアルは早川神社の社務所にあるパソコンに

自分の電子手帳を接続させると作戦を立てていた。

「う゛〜ん、

 いよいよ最後の”辰”ですか…

 まぁ彼だけはずっと先送りしてきたお陰で、

 こちらには手駒は十分ありますが、

 しかし、真織さんは無事に封印できますでしょうか…」

様々な情報が表示させるディスプレイを眺めながら

しきりにディディアルが唸っていると、

「そんなに煮詰まらなくても、

 まぁ…お茶でも如何かな?」

と言う声と共に湯気が立つ湯飲みがディディアルの横に差し出された。

「あぁ、お気遣いありがとうございます」

ズズズズ…

そう言いながらディディアルがお茶を一口飲むと、

「良い香りですなぁ…(あれ?)」

ふと横をみると、

そこにはお盆を持った守衛が立っていた。

「うわっわわわわわ」

突然の守衛の登場にディディアルが慌てると、

「はははははっ

 そう慌てなくても…

 貴殿とは一度会っているではないですか」

上機嫌そうに守衛がディディアルに告げた。

「あぁそうでしたね…お久しぶりです。守衛殿」

改めてディディアルが守衛に挨拶をすると、

「どうですか?

 娘は…立派に勤めを果たせますかな?」

という守衛の質問に、

「えぇ…もぅ12匹の神将うち11匹を見事捕まえましたよ」

とディディアルは答えた。

「けど、最後に残っているのは一番の猛者”辰”ですか?」

ディスプレイを覗き込みながら守衛が訊ねると、

「大丈夫ですよ、真織さんは必ず”辰”封印して見せますよ」

ディディアルは胸を張って告げた。

「よろしく頼みますよ、ディディアル…」

「はいっ…」

社務所の中に二人の声が響きあう。



パクパクパク…

毎朝のお努めが終わったあと、

真織はすごい勢いで朝食を食べていた。

そして、

「………」

その様子を見ながら伊織がポカンとしている。

「もぅ、真織ったらはしたない」

真須美が怪訝そうな目で真織に注意すると、

「そんな事言ったって、お腹が空いてるんだもん」

そう真織が反論するが、

「夕べご飯も食べないで寝ちゃうからよ」

呆れながら真須美がそう言うと席を立ってキッチンへと消えていった。

「あれ?

 どうしたの?伊織ちゃん?

 食欲ないの?」

真織はさっきから自分を見ている伊織に気づくとそう尋ねた。

「え?、あっいっいや…

 真織さんすごい食欲がありますねぇ…」

呆気に取られながら伊織が返事をすると、

「そうねぇ…

 このところ良く運動をするから、

 お腹が空いちゃうのよねぇ」

と真織は笑顔で答えた。

「そうですね…

 美味しく食べれるって事は元気な証拠ですね」

伊織はそう言うとご飯を口に運ぶ。

その一方で、

「う〜ん…

 間違いなくボクとパラレル以外の天上界の者がこのいま早川神社来ている。

 でも、一体誰だ?」

誰も居ない社務所のパソコンを前にしてシリアルが一人呟いていていた。



「はぁ…いい天気…ヤッパリ日曜日はこうじゃなくっちゃ」

「天気予報では今日一日この天気みたいですね」

早川神社の本殿前でと真織とディディアルが話をしていると

「行って来まーす」

いそいそと伊織と黒猫のシリアルが出て行くのが見えた。

「今日も伊織ちゃんはお出かけか…」

伊織の後ろ姿を見送ると、

ピシッ!!!

境内の雰囲気が一気に変わった。

「来ましたよ、真織さんっ」

「うん」

途端に真織の表情に緊張がみなぎった。

その途端、

バサバサバサ!!

ギャァギャァ!!

早川神社の後ろの森から一斉にカラスや小鳥たちが飛び立っていくと。

「はっ」

ディディアルがすばやく早川神社の周囲に結界を張った。

そして、それと同時に

ズゴォォォォォン

『ごわぁぁぁぁぁ』

声を上げながら森の中から大空に昇るようにして竜が姿を現した。

「うっそぉ!!

 これが”辰神将”なのぉ?」

唖然としながら真織が叫ぶと、

「えぇ、一二神将の中で最強の神将です」

とディディアルは説明をする。

『ぐるるるるる…』

辰神将はじっと地上の真織を見つめると、

グワッ!!

突如大きく口を開くなり、

カッ

ボッ!!

青白い炎の塊を吐いた。

「きゃぁぁぁ!!」

見る見る迫ってくる炎に真織が悲鳴を上げていると、

「何をしているです、逃げるんです!!」

ディディアルが声を上げると、

間一髪、

「午神将!!」

『ブヒヒン!!』

真織の声と同時に現れた白馬の姿をした”午神将”に

銜えられるようにして真織は脱出していた。

『ぐぉぉぉぉ〜』

ボッ!!

ボッ!!

辰神将は真織の向かっていく方向を先読みするかのように次々と炎を吐くが、

午神将は炎の雨を巧みに掻い潜って行く。

「いつまでも逃げているばかりじゃラチが開きません」

辰神将の攻撃に押されっぱなしの真織にディディアルはそう叫ぶと、

「わかっているわよ

 今度はこっちから行くわ」

真織はそう返事をするなり、

「天空の八百万の神よ、

 我に彼の者を鎮める力を分け与えよ。

 降臨!!」

と詠唱すると、

ゴワッ

巻き起こった風が真織の身体を包み込んだ、

そして、その風が四散すると、

竜鉄槌を肩に掛けて午神将に跨る一人の巫女・真織が

キッと上空の辰神将を睨み付けていた。

「散々やってくれたわねぇ…

 見てらっしゃいっ」

真織はそう言うと懐から別の札を取り出すと、

「我に力を…

 酉神将!!」

と叫ぶとそれを放り投げた。

すると、

ボン!!

『こけこっこー』

1羽の鶏…もとい”酉神将”が姿を現した。

「まっ真織さん…本当に彼で行くのですか?」

額に縦線を幾本も描きながらディディアルが迫ると、

「せめて…カラス位ならよかった…んだけどね、

 でも、一応、酉と言うからには

 飛べるんじゃないかなぁ〜っ

 ホラッ捕まえるときもそれなりに飛んでいたでしょう?」

大汗をかきながら真織はそう弁明すると、

「あのぅ…酉神将さん、

 辰神将の上まで行きたいんですけどお願いできます?」

と酉神将に懇願した。

すると、

『こけっ!!』

酉神将はそう返事をするなりヒョイと真織を自分の背中に乗せると、

『こけえぇぇぇぇ』

長鳴きを一つした後

バサバサバサ

激しく羽を羽ばたきながら、

トットットッ

っと走り始めた。

「大丈夫かな…」

そんな酉神将の様子を眺めながらディディアルが呟くが、

「わっわっわっ」

当の真織も激しく揺れる背中にしがみつくだけで精一杯だった。

『ごわぁぁぁ』

ボッ

ボッボッボッ!!

それを見ていた辰神将が再び炎の雨を降らせ始める。

しかし、それを掻い潜って、

バッ!!

酉神将が飛び上がると、

見る見る辰神将の方へと向かって行った。

「すごい!!

 やっぱ鶏でも空飛べたんだ!!」

見る見る小さくなっていく神社の様子に真織が驚くと、

『こらっ、誰が鶏だ!!』

酉神将が真織の方に視線を送りながらそう言うと、

「しゃっしゃべれるの?」

キョトンとした表情で真織が尋ねた。

『ふん、私を誰だと思っている。

 一二神将の一人酉神将だ、

 ほらっ、辰のヤツの上に出るぞ』

酉神将は真織にそう告げると、

ぐぉぉぉぉぉっ

大きく体を傾け辰神将の脇をすり抜けるとその上に躍り出た。

『どうする?』

「あたしを…」

『ん?』

「あたしをあの上に乗せて!!」

真織は辰神将の背中を指さすと酉神将にそう告げた。

『無茶をするなっ、

 落ちたらどうする?』

それを見た酉神将が怒鳴ると、

「大丈夫よ

 だってあたしにはあなたを含めて11人の援軍が居るんですもの」

と真織が囁くと、

『まったく、無茶は父親譲りだな』

酉神将は真織にそう告げると、

グググ…

っと降下し始めた。

「え?、父さんのこと知っているんですか?」

酉神将の言葉に真織が聞き返すと、

『まぁな…だが、その話はあとにしよう、

 ほら、辰のヤツの背中だ!!』

酉神将はそういうなり真織を辰神将の背中に降ろした。

「よしっ」

グッ!!

辰神将の背中に降ろされた真織は

背中に生えている鬣にしがみつきながら

徐々に辰神将の頭へと向かっていく、

『ごわぁぁぁぁ』

真織が自分の背中に取り付いたことを察した辰神将は

声を上げて身体を揺すると空中を大きくうねった。

「だっ大丈夫かなぁ…真織…」

地上からディディアルがハラハラしながら見ていると、

「ほぅ、大分派手にやってるなぁ」

そう言いながら守衛が上空で行われている捕り物を眺めていた。



「くっ、離されてたまるもんですか」

真織は辰神将の鬣に必死にしがみつくと堪えた。

そして、

フッ

っと動きが緩んだとき、

「いまだ!!」

 ”我に力を…

  巳神将!!”」

と叫ぶと札を放り投げた。

すると、

パァァァァァ!!

札が光るなり、

シュルルルル

一体の蛇が現れると、

ギュゥゥゥゥゥ!!

っと辰神将の身体に絡みついた。

『ぐぉぉぉぉぉ』

辰神将は雄叫びを上げながら身体を動かそうとしたものの、

しかし、

ギュゥゥゥゥ!!

巳神将によって自由を奪われているために思うように動かせない、

「よしっ」

それを見た真織は素早く辰神将の上を移動し、

そして、その頭上に立つと、

「これまでよ、辰神将っ

 ”我の手元より、散りし一二神将よ、

  いま再び我の手元に集うべしっ

  辰神将っ”」

と叫ぶと、

ブンッ

真織は竜鉄槌を一気に振り下ろした。

ごぉぉぉぉん

その音と共に竜鉄槌に叩かれた辰神将が見る見る形を失っていくと、

全く間に巳神将と共に札と化してしまった。

しかし…

「へ?、

 キャァァァァァァ!!」

足場にしていた辰神将の体が消えてしまったために

真織の身体は真逆さまに地上へと落下を始めた。

「いかんっ」

「真織!!」

地上で成り行きを見守っていた守衛とディディアルも血相を変えて、

真織の落下地点へと走り出した。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!

 そんなっ

 こんなオチなんっていやぁぁぁ!!」

そう叫びながら真織が落下していくと、

『ご苦労様でした』

と言う声と共に、

フワッ!!

落ちていくスピードが見る見る遅くなっていく、

そしてゆっくりとしたスピードになると真織はクルリと体の向きを変えた。

「え?

 どういうこと?」

予想外の事に思わず真織が左右を見ると、

ポッ

ポッ

ポッ

甲冑に身を包んだ

”子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥”

の顔を持つ12人武将達が真織を取り囲むように姿を現した。

「あなた達は…」

『はいっ

 我々はあなたに集めてもらった一二神将です。

 早川真織さん、

 我々全員を集められたあなたを我々の主人として認めます。』

神将達はそう告げると深々と跪いた。

「え?、あのぅ

 それってどういう…」

その言葉に真織は混乱すると、

「我々は太古…天よりこの地に使わされたときは、

 人々は我々を災神として忌み嫌い、

 また我々も人々に恩恵をもたらしませんでした。

 しかし、あなた様の先祖が人々と我々を共に戒めて以降、

 我々と人々は共に手を携え暮らすようになりました。

 ただ、我々の力は強大故、

 天上界との相談で、

 我々を戒めた早川の一族に次の盟主に

 天界からの審判の元

 我々から試練を与えることになたのです。』

「試練?

 じゃぁなに?

 コレは事故なんかじゃなくて試験だったの?」

そう真織が聞き返すと、

『はいっ』

一二神将は一斉に頭を下げた。

そうしながら真織が無事地上に降り立つと、

「真織っ!!」

声を上げながらディディアルと守衛が彼女の元に駆け寄った。

そして、

「よく頑張ったな」

「任務遂行おめでとう!!」

っと代わる代わる守衛とディディアルは真織を湛えたが、

しかし、

ギンッ

真織はディディアルを睨み付けると、

「ちょぉっと…

 あなた、審判なんですってねぇ…」

と言いながらディディアルに迫った。

「しっ審判ってなんのことですか?」

冷や汗を垂らしながらディディアルが言い返すと、

「しらばっくれても無駄よ、

 全部一二神将から聞いたわよ

 良くもこのあたしを騙してくれたわね、

 このツケはコレで払ってもらおうかしら…」

ディディアルに言い聞かせるようにして真織が言うと、

スゥゥゥ

っと竜鉄槌を振りかぶった。

「ちょっと待てください、

 はっ話し合いましょう、

 お互い腹を割って話し合えばきっと解り合えますって」

後ずさりしながらディディアルがそう訴えたが、

「問答無用!!」

真織の叫び声と共に

ズシン!!

竜鉄槌の地響きが早川神社を揺らせた。



「はぁ、なんか散々だったわ…」

夕方

食卓に着いた真織がそうぼやくと、

「でも、試練をちゃんと乗り越えたな」

守衛は満足そうに言う、

「お父さんも、試練なら試練って言ってくれればいいのに」

そう言いながら真織がむくれると、

「いやぁ、私も何度も喉元に出かかったのだが、

 コレばっかりは言ってしまうと元も子もないのでな」

守衛はそう言いながらグイッとコップに注がれたビールを飲み干した。

そんな守衛を横目で見ながら真織は

「はぁ…でも、これでやっと普通の女の子に戻れるわ…」

と呟くと、

ふと、食卓にいつもいるもう一人の姿がないことに気づいた。

「あれ?、伊織ちゃんは?」

真織のその言葉に、

「そう言えば…」

守衛と真須美は見合わせる。

その頃、伊織はと言うと、

「イオちゃん、そっちに行きましたわぁ」

夜の街にパラレルの声が響き渡ると、

「うわぁぁぁぁ!!

 こっちに来るなっ!!」

伊織の悲鳴が上がる。

すると、

シュカ

シュカ

シュカ

そして闇を切り裂くようにして放たれた矢が

伊織の後を追うように次々と突き刺さっていく、

『ははははは!!!』

「射手座か…」

上空で高笑いをする人物を見据えながら瑞樹が呟いていると、

「パラレルっ、

 どうするんだよあんなヤツ!!」

涙を流しながら伊織がパラレルに迫ると、

「そうですわねぇ…どうしましょうか…」

っと他人事のような返事をした。

「とっとにかく、射手座は弓矢の名手だから、

 何か対策を考えないと封印できないよ」

そうシリアルが叫ぶと、

「で、対策って何か考えがあるのか?」

警戒しながら瑞樹が尋ねた。

「そんなのあったら誰も苦労はしないよ、

 あぁん、もぅ

 こうなったのも、

 全部パラレルが天上界の天球儀を壊したからなんだからな」

「あらぁ…そんなこと言われても、

 形ある物はいつかは壊れるですわぁ…」

そう、

真織が一二神将すべてを封印したこの日…

今度は伊織が天使パラレルが解き放ってしまった、

黄道12星座の回収作業が始まっていたのだった。

「あーぁ、見てられないですね、

 でも、ぼくの仕事は無事終わりましたので

 天上界に帰還するとしますか、

 さぁて出張手当と(いてて…)

 出来れば労災の認定がされればいいのですが…」

パラレル達のドタバタ騒ぎを横目で見ながら、

傷だらけの天使ディディアル・リンクは天上界へと向かっていった。



おわり