風祭文庫・天使の館






ミス・天ヶ丘コンテスト
(最終話:目覚めれば)

作・風祭玲
(原案:少年少女文庫・100万Hit記念作品製作委員会)

Vol.237



「天使のお仕事」の詳細については

http://www14.big.or.jp/~yays/library/novel/200104/20050818/100title.htm

を参照して下さい。





『第1チェックポイントでーす!!』

実行委員会の腕章をつけた女子生徒が声を上げると、

『コレをお願いします!!』

と言いながら、

ドン!!

と伊織達の前に問題集を積み上げ、

『まずは知力試験からです。

 過去30年間に出された定期試験の問題集ので

 しっかりと解いてくださいね』

と説明をした。

「……あのぅ…コレを全部解くの?」

伊織が問題集を指さして訊ねると、

コクリ

実行委員は頷いた。

――ひぇぇぇぇ!!

それを見た伊織が思わずムンク(叫び)と化すと、

「春日野さん達はすでに解き終わって、

 第2チェックポイントに向かっていますよ」

とさらにダメ押しをした。

「どうする?」

「やるっきゃないだろう」

瑞樹と真織がシャーペンを片手に問題集を開こうとしたとき、

「(ポショ)答えは適当に書いて下さい。

 採点は生徒会の方で行いますから…」

と別の実行委員がそばに近寄ると他には聞こえないような小声で告げた。

「え?、ってことは…?」

真織が訊ねると、

「そういうことです…(はい)」

と彼女は笑みを浮かべて返事をした。



「助かったね…」

「良いのかなぁ…」

「まっ細かいことは気にしない気にしない」

などと言いつつ、

第1チェックポイントを無事通過した伊織達は、

麗華を追って第2チェックポイントへと急いだ、

『…麗華様に報告っ

 マーク中の3人組は第1ポイントを通過、

 第2ポイントへと向かい始めました』

伊織達の動向を監視していた麗華派と思われる女子生徒が携帯電話でそう報告をすると、

『こちら麗華っ、判りました。

 スグにプロジェクトPを発動せよ』

と麗華が命じたとたん、

『はっ、畏まりました』

女子生徒は直立不動でそう返事をすると、

グッ

と手前のに下がっている紐を引いた。

すると、

ガシャッ!!

校舎の奥に置いてあった箱の鉄格子が開き、

ギン!!

妖しく目が光る生き物の大群が一斉に箱から飛び出していった。

そして、程なくして、

ズドドドドドド…

廊下を地響きがこだまする。

「なっなに?」

それを聞いた伊織が立ち止まると、

廊下の彼方から黒い津波のような物体が徐々に迫ってきた。

「なんだアレは?」

真織が凝視すると、

フゴッ!ブィブィブィ!!

それらは夥しいブタの大群であった。

「暴れブタだぁ!!」

伊織が叫ぶと、

「俺に任せろ!!」

そう言って真織がブタの大群の前に立ちはだかると、

「はぁーーーーーーー」

肺の空気を抜いて筋肉を引き締め始めた。

ドドドドドド!!

ブィブィブィ!!

その間にもブタの大群は見る見る真織に迫ってくる。

「真央っ、早く逃げろ!!」

伊織がそう叫んだ瞬間、

カッ!!

真織は大きく目を見開くと、

スゥー――

っと両手を大きく広げた。

――え?

その途端、伊織には真織が千手観音の様に見えた。

ドドドドドドドドドドド!!!

ブィブィブィ!!

まさに、ブタの大群が真織を飲み込もうとしたとき、

「アータタタタタタタタタタタタタ!!!」

と叫びながら、

真織は目にも留まらない猛スピードで押し寄せるブタの急所を、

ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!!

と打ち抜き始めた。

『こっこちら…』

ブタが伊織達を蹂躙していく様子を麗華に報告しようと

女子生徒がそう言いかけたところで、

彼女の顔から徐々に血の気が引いて行く。

『…どうしたの?、

 状況を説明しなさいっ』

しびれを切らせた麗華が怒鳴ると、

『あっ悪魔です……いや、地獄の天使だ……』

そう報告をする彼女の目の前では、

まさに地獄の使者と化した真織によってブタは素早く処理され、

そして、たちまちのうちに廊下には白目をむいたブタで溢れかえっていった。

――すっすげぇーぜ。

その様子を見ていた伊織は真織の破壊力に唖然とする。

「アータタタタタタタタタタ、オワァタァ!」

ついに真織は最後のボスブタを仕留めたが、

ブゴッ!!

しかし、ラスボスだけあってブタは倒れまいと踏ん張った。

それを見た真織はブタを指さし、

「(ふっ)、おまえはもぅ死んでいる!!」

そう告げた途端、

――(グラッ)ズシーーーン

ボスブタは崩れるように倒れた。

「早川くんって、向こうの世界では

 無差別格闘・早川流の後継者なんだよ」

と呆気にとられている伊織に瑞樹が説明すると、

「ふぅ〜っ、

 おーぃ、伊織ぃ

 この程度動いただけで息が切れてきたけど、

 ココの真織って何もやっていないのか?」

と汗を拭きながら真織が尋ねて来た。

「いっいや、

(これだけのことをしただけでもすごいと思うけど)

 こっちの真織さんは何もやってないよ…

 やっているとしたら…

 そうだ瑞樹っ、お前が合気道をやっているくらいだな」

と伊織が瑞樹を指さして答えた。

「へぇ…こっちの瑞樹は合気道をやっているのか…

意外そうな顔で真織が答えると、

「さっ急ごう…」

話の流れが自分に向き始めたことを感じ取った瑞樹が促すと、

伊織達は再び進み始めた。

『……無念であります。

 ぷっプロジェクトP、敗北しました』

ブタの下敷きになって息も絶え絶えの監視員が報告をすると、

「なんですってぇ!!

 …あのプロジェクトPが失敗するなんて…」

報告を聞いた麗華は爪を噛みながら、

「…いいわ、第2チェックポイントで潰しましょう」

と言うと先を急いだ。




『第2チェックポイントはこちらで〜す』

順路に従い武道場に到着した伊織達を実行委員が呼ぶ、

「あそこみたいだな…」

「うん」

伊織達が実行委員の所へ行くと、

「ここでは体力測定をしてくださいね」

実行委員はそう言って微笑むと、

「では、先生っどうぞ!!」

と言う声と共に

ズシン!!

ズシン!!

ユラリ…

伊織達の目の前に身の丈3mはあるかと思われる巨大なパンダが姿を現した。

「ジャイアント・パンダだ…」

目を丸くして伊織が叫ぶと、

「言わなくても判るよ…」

身構えながら真織が叫ぶ、

「でもなんで…こんな所に」

真織の陰に隠れるようにして瑞樹が呟く、

「おーほほほほほ…

 悪いがお前達にはコレより先には通させないぞ!!」

突然実行委員が声を上げると、

「あぁっ、お前は麗華の一味だな!!」

真織が指さした途端、

「やっておしまいっ!!」

その声が響くと、

ドガッ!!

パンダの一撃が真織の足下を襲った。

ハッ

すかさず真織の身体が空中を舞うと、

「であっ!!」

ゲシッ!!

パンダの顎を下から蹴り上げた。

「ヤッタ!!」

伊織の言葉に力が入る。

しかし、

タン!!

舞い降りた真織は、

「ダメだ、このパンダはブタと違って図体がでかいから、

 軽い女の身体では大きなダメージを与えることができない!!」

と叫ぶと、

「くっ」

口元を拭きながらパンダが身構えた、

刹那

ドカ!ドカ!!ドカ!!!

巨体のモノとは思えぬ俊敏さでパンダは伊織達を突いてきた。

「わっわっわぁぁぁ」

パンダの突きを必死でかわす伊織…

「まっ真央何とかしろっ!!」

思わず声を上げると、

「そんなこと言ったって、

 コレじゃぁよけるのが精一杯だ」

ビシッ!ビシッ!

真織も繰り出してくるパンダの突きを腕で防戦するので手一杯だった。

「はははは…どうだ、我が麗華様に逆らうとこうなるのだ!!」

実行委員が笑い声を上げていると、

パンダの攻撃目標が瑞樹へと移った。

「え?、ひゃぁぁぁぁ!!」

ガシッ!!

パンダからの一発目の突きを瑞樹は悲鳴を上げながら捕らえると、

「えいっ!!」

と言うかけ声と共にパンダの巨体は宙を舞った。

「はははは…はぁ?……」

見る見る実行委員にパンダの影が迫ると、

ズシィィィィィィン!!

建物を揺るがす地響きとともにパンダは実行委員の真上に降ってきた。

「ほぉ…魂は知らなくても身体は覚えていたみたいだな」

すかさず真織が瑞樹に声をかけると、

「すっ凄い…」

瑞樹は自分があのパンダを投げ飛ばしたことが信じられなかった。

「……あれ?、こんな所にバーコードが…」

仰向けになって白目をむいているパンダの太股を眺めていた伊織が声を上げると、

「これは…あっレンタルボディーか!!

 道理でねぇ…」

バーコードを一目見た真織が声を上げた。

「レンタルボディーってあの身体貸しますって奴の?」

伊織が聞き返すと、

「こっちの世界にもあったんだ」

瑞樹も感心しながら言う。

「お嬢様の考えることはよくわからん、

 さっ先を急ごう!!」

真織はそう言うと、伊織達の手を引いていった。

『こっこちら…第2ポイント…むっ無念であります』

パンダの下敷きになった実行委員はそう告げると事切れた。

「くっ、やるわねっ

 でも、次の第3チェックポイントがアヒルちゃん達の墓場になるわ、

 おーほほほほほ!!!」

未だ勝ち気の麗華は高らかに笑う。

しかし、この第3チェックポイントのお料理試験は、

「(はい)一丁上がり!!(ズシーン)」

伊織の機転を生かした”鮪の味噌煮”でくぐり抜け、

続く第4チェックポイントの裁縫試験も、

「…デアッ(カッカッカッ!!)」

「うっ、動けない!!」

「(ふっ)無差別格闘・早川流、奥義!!、”影縫い”!!」

と真織の”影縫い”で見事完勝。

こうして麗華の仕掛けた妨害工作は全て失敗に終わった。

またその時点での出場者も麗華・伊織・真織・瑞樹の4人にまで絞られていた。




そのころ、野外ステージでは正面に据えられた特大スクリーンに

校内に設けられた各チェックポイントからの映像が刻々と映し出されていた。

『…いやぁ、校長っ、予想以上の熱戦が繰り広げられていますね』

『はいっ、容姿も大事ですが

 知力・体力・時の運、さらにお料理にお裁縫と

 これらが全て秀でていなければいけません』

と司会から話しかけられた校長は眼鏡を輝かせて熱っぽく語る。

『それって、校長の趣味ですか?』

大汗をかきながら司会が訊ねると、

『はいっ』

彼は胸を張って答えた。



「待ちやがれ!!」

すべてのチェックポイントを通過し、

野外ステージへと戻っていく伊織達は、

ついに先を行く麗華の後ろ姿を捕らえた。

「ふんっ、アヒルの分際でこの私の追いつくなんて

 100万年早いですわ」

伊織達接近の気配を察した麗華はそう呟くと、

ピィィィィ!!

と笛を吹いた。

すると、

ドドドドドドドドドド!!

地響きが上がると同時に、

百人近い麗華が押し寄せてくると、

ズザザザザザ…

巨大な人間ピラミッド作ると

文字通り巨大な壁となって伊織達に立ちはだかった。

「なんだぁ?」

伊織達が呆気にとられると、

『おーほほほほほ…

 この私の壁を突き崩せます?』

「てめぇ…」

真織は睨み付けると、

「これも、レンタルボディ?」

伊織は瑞樹に尋ねた。

「うん、おそらく…

 これだけの物を一度に、

 しかもオーダーで借りるとなると

 結構するよぉ…」

瑞樹は一人一人数えながらそう言うと、



『校長!!、こういうのは有りですか?』

中継を見たいた司会が訊ねると、

『一応、あの中に本人が居ると言う前提ですが…』

と前置きしてこれを有効と認めた。



「ここはおれに任せろ」

伊織はそう言うと一歩前に出た。

そして、右手を大きく前に出し、

「右っ!!」

と言って右側を指す。

すると、

ザッ!!

麗華達は一斉に顔を右側に向けた。

「左っ!!」

ザッ!!

と言うと麗華達は左を向いた。

そして、

「上っ!!」

ザッ!!

と言うと、上を見上げ、

最後に

「下っ!!」

と言った途端、

ズドドドドドド!!

人間ピラミッドは呆気なく崩れ去った。

「むなしい戦いであった…」

伊織は感慨深げに無惨に崩れたピラミッドを乗り越えると、

ついにゴールへとたどり着いた。

「やったな…」

「おうっ」

ガシッと手を握り合って伊織がゴールを踏もうとしたとき、

「おまじなざい…」

這い蹲るようにして麗華が鬼気迫る表情で伊織の脚を握った。

「うっわぁぁぁ!!」

麗華を引きずるようにして、伊織達がゴールを踏んだ途端、

パーーーーン!!

ゴールを知らせるピストルが高らかに鳴った。

『では、戦い抜いてきた彼女たちに大いなる拍手で迎えましょう』

白地らしく響く司会のその言葉に、

パチパチパチ!!

伊織達は観衆からの拍手に送られながら舞台の上へと導かれた。

「えへへへ…どうも、どうも…」

「ふんっ!!」

対照的な態度を見せる伊織達と麗華が舞台上に並ぶと、

『では、見事勝ち残った、

 早川真織、早川伊織、笹島瑞樹そして春日野麗華の

 4人の中で誰がミス・天ヶ丘にふさわしいか

 投票の方をお願いします!!』

司会のその声と共に一斉に投票と集計が始まった。

――うふふふふ…裏切りは許しませんですわ

ボロボロになりながらも麗華は舞台の上から睨みを利かす一方で、

――くくく…春日野の天下もこれまでだ。

高田も舞台の角から睨みを利かせていた。

やがて集計が終わり、

一通の封筒が司会の手渡された。

『では、平成13年度、ミス・天ヶ丘を発表します…』

と司会者がそう叫ぶと、

ダラララララララ!!

ドラムロールが回る。

その間に司会者は封書を開け、紙を取り出す。

ジャン!!

とシンバルンが鳴り終わると、

「芹沢修一さんに決定しました!!」

っと高らかに読み上げた。

と同時に、

レオタ姿の芹沢がスポットライトに浮かび上がった。

「んなにぃっ!!」

「どーゆーこと!!!!」

麗華と高田が声をあげた。

同じく唖然とする観衆達、

「あいつ…まだ、あんな格好をしていたのか…」

芹沢のレオタ姿を見ながら伊織がつぶやいていると、

「うおっほん!!」

一つ大きな咳払いをして壇上に校長が上がると、

『えーっ、

 実行委員長として一言申し上げておきます』

と話し始めた。

『えーっ、近年まれにみる大接戦だったらしく、

 投票に相当悩まれたようです。

 そのためか投票総数100票のうち99票は残念ながら白票でしたので、

 無効と判定し除外しました。

 そして残った1票が有効票となりこのように決定いたしました』

と説明をした。

「そんな、生徒会長はエントリーしていないはずです」

なおも麗華が食い下がると、

『春日野さんのお気持ちは察しますが、

 芹沢君は私の推薦でエントリーしていましたよ」

と校長が言うと、

『というわけで、今回のミス・天ヶ丘は厳正なる審査の結果、

 芹沢修一クンに決定しました。

 いやぁ、キミの新体操に対する情熱と指導、

 この校長、深ぁーく感動したよ。

 おかげでウチの新体操部もみなやる気が出てきたみたいだよ』

そう言いながらにこやかに芹沢に握手を求めると、

「そんな…あたし…あたりまえの事をしていただけです」

と言いながら芹沢ははにかんだ。

「まったく、とんだ茶番でしたわ」

そう言って麗華が舞台から降りようしたとき、

『あぁ…待ちたまえ…

 麗華くん、確かキミは何か約束をしていたんじゃなかったっけ?』

校長が声をかけた。

「はぁ?」

麗華が振り向くと、

「そうだ、負けたからには褌を締めて相撲を取るという約束のはずだ」

高田が壇上に飛び出すと声を張り上げた。

「ほほほほほ…いきなり何を言い出すのかと思えば…」

パチン!!

麗華が指を鳴らしたとたん

ブワッ!!

一斉に紙が会場に舞い始めた。

「なんだこれは…」

「げっ生徒会費の不正流用!?」

「こらぁ高田どういうことだぁ!!」

「しまった!!」

たちまち壇上の高田に向けて一斉に非難が上がった。

「ほぅら、御覧なさい、

 わたくしに楯突くとこうなりますことよ」

そう言って麗華が優雅に立ち去ろうとすると、

「あっ春日野が逃げるぞ!!

 約束を守れぇ!!」

と今度は観衆が一斉に麗華に向かって襲いかった。

「なっこのわたくしに向かって無礼ですわよ!!

 やっておしまいっ!!」

「はっ!!」

「えぇい日頃の恨みだ!!」

ウオォォォォォォ!!(ゲシ、ゲシ、ゲシ)

たちまち会場は麗華を警護する取り巻きと観衆との間で騒乱状態に陥った。



「おっおいおい、どうなってんだ〜っ」

混乱の中で伊織は状況の変化に戸惑っていた。

グィッ!!

突然伊織の腕がつかまれると、

「おいっ、伊織…この隙にずらかろうぜ」

と何時の間か制服に着替えた真織が声をかけた。

「あっあぁ…瑞樹は?」

瑞樹の姿が見えないので訊ねると、

「ここに居るよ」

と言う声と共に、

ひょい

瑞樹が顔を出す。

「あっ早川と笹島が逃げたぞ!!」

観衆の中からその声があがると

「うぉぉぉぉぉぉ」

暴徒と化した観衆が伊織達の後を追いかけ始めた。

ズドドドドドド!!

「うわぁぁぁ!!」

それを見て慌てて走り出す伊織たち…

「なんでこうなるんだ!!」

と伊織が叫ぶと、

ブワッ!!

「やっと見つけましたですわぁ〜っ」

と言う声と共に天使姿のパラレルが姿を表すと、

伊織たちと平行に飛ぶ。

「ぱっパラレルっ!!」

伊織が声をあげると、

「うわっ!!、本当に天使だ!!」

「ぼくっ、始めて見た…」

真織と瑞樹は目を丸くする。

「パラレルっ、

 お前、天使なのに何処で油を売っていた!!

 この状況をなんとかしろ!!」

伊織が叫ぶと、

「色即是空、空即是色…

 この世はすべて夢幻ですわぁ

 目を覚ませば全て解決!!

 イオちゃん落ち着いて…ねっ」

と言うと伊織の前に降り立った。

「おっおいっ、パラレルっ

 スグに逃げないとやばいぞ」

あせりながら伊織が叫ぶと、

「はいっこちらパラレルですぅ

 残っていた遭難者3名、無事発見保護しましたぁ」

取り出した携帯電話に向かって話すと、

『了解っ、ただいまより該当エリアを初期化します』

という返事がした途端、

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

大地が大きく揺れ始めた。

「じっ地震だ!!」

瑞樹が叫び声をあげる。

すると、

シュバ!

シュバ!

シュバ!!

次々と街を構成する建物が姿を消し始めた。

「なっなんだ?」

伊織たちが呆気に取られていると、

目の前に迫った暴徒たちも一瞬のうちに消失する。

それを見届けるとパラレルは、

バサッ!!

っと大きく羽を広げ、

「さぁ、では参りましょう!!」

バサッ!! 翼を羽ばたきながら伊織達の手を引くと、

フワリ…

伊織の体が宙に浮かんだ、

「こっこれは」

「すげぇ…」

「飛んでいる…」

伊織に引かれて浮き上がった真織や瑞樹も信じられない顔をする。

ゴゴゴゴゴゴ…

消失していく街を見ながら、

「パラレル、コレは一体…」

伊織が訊ねると、

「実はですねぇ…

 イオちゃんが帰るために使ったN2超時空振動弾の影響でぇ

 空間に歪みが出来てしまったのですわぁ

 その為に時空震が頻発しましてぇ…

 でその影響で運命管理局と言うところの

 コンピュータが異常を起こしましてぇ

 そのためにイオちゃんとイオちゃんが関係した数人の方々が

 運命として未承認の世界に入ってしまったのですわ」

と説明をした。

「運命として未確定?」

伊織が聞き返すと、

「ええっと

 この世というのは一本の大きな川のような物で、

 人は生まれ落ちたときから死を迎えるまでの間、

 その川の流れ(運命)に身をゆだねることになりますわぁ

 ですから、流れ(運命)に沿って努力をすれば、

 それなりの人生を送ることが出来ますが、

 しかし、自分に与えられた流れ(運命)が気に入らない場合は、

 よその流れ(別の運命)へと泳ぐ分苦労がありますですわぁ…

 で、天界の運命管理局はそれら全てを把握して、

 それぞれの方の運命と努力、さらには周囲への影響を考慮して、

 最適な世界を構築していくのがお仕事なんです。

 ところが、時空震によってその管理をしているシステムが異常を起こしてしまって、

 そのためにイオちゃん達は運命としての認定が終わっていない

 未承認の世界に来てしまったのですわぁ」

とパラレルが答えた。

「?」

意味が分からず伊織が首をかしげると、

「ははん…判った!!、要するに俺達は夢の世界に来ていたのか」

と何時の間にか男の姿に戻った真央がパラレルに言った。

「え?あれ?」

それを見た瑞樹が声をあげると、

「瑞樹っ、自分は男だと念じてみろ…」

それを見た真央は瑞樹にアドバイスをしたとたん、

見る見る瑞樹は女から男へと変化していった。

「これってどういうこと?」

驚きながら瑞樹が訊ねると、

「運命としては認められない、もしもの世界…

 それがあるとしたらどこだ?

 そう、あるとしたらそれは夢の中…

 おそらく俺達はその伊織の夢の中にいたんだ。

 違うか?パラレルさん」

真央がそうパラレルの訊ねると、

「ピンポーン!!」

とパラレルは答え、

「さらに一つ付け加えると、

 あなた方のも反映されていますですわぁ」

と付け加えた。

「じゃぁここで起きたことと言うのは…」

伊織が訊ねると、

「運命管理局の承認を得ていない運命は認められませんですわぁ

 ですので、

 ココで起きた出来事は全て”夢”と言う形で処理されますですわぁ

とパラレルはこの世界を説明をした。



「やっと来たか…もぅ会うことは無いと思ってたのだがな」

と言う声が響くと伊織たちの前に、

上空で待機していたアーリィが姿を現した。

「どうもご迷惑をおかけしましたぁ」

パラレルがアーリィに頭を下げると、

「この方は?」

瑞樹が伊織に訊ねると、

「真央と瑞樹さんたちの世界の天使だよ」

と伊織は説明をする。

「私の方で救出をした者達はすでに送っておいたぞ」

アーリィが説明をすると、

「え?、アーリィさんの方で救出って誰を?」

伊織が訊ねると、

「それはですねぇ…

 イオちゃんの世界の真織さんや瑞樹さん達ですわぁ」

とパラレルが答えた。

「では、この3人で任務完了ですわねぇ」

そう言いながらパラレルは真央と瑞樹をアーリィに引き渡した。

そして別れ際、

「おーぃ、伊織ぃ、

 楽しかったぜ!!

 また機会があったら夢の中でもいいから会おうなぁ!!」

と真央は大きくてを振った。

「あぁ、真央も瑞樹も達者でなぁ!!」

伊織はそう返事をしながら手を振ると、

「では行きましょうか?」

パラレルは伊織の手を引いた。



ジリジリジリ!!!

セットした目覚し時計の音が大きく響くと、

「ふわっ」

伊織は目を覚ました。

チュンチュン

窓辺からスズメたちが奏でる声が聞こえる。

「…夢…だったのか?」

周囲を見渡しながら伊織が呟くと、

「お帰りっ、伊織っ

 色々と大変だったな」

あくびをしながらシリアルが伊織にそう言うと、

「うっうん…」

伊織はそう返事をしながらカーテンを開けた。

サァァァァ!!

朝日が伊織の部屋を照らし出す。

「なぁシリアル…

 俺の運命というのはどうなっているのかな?」

と外の景色を眺めながら伊織はシリアルに尋ねた。

「さぁな…

 選択のし方一つで、

 このまま女の子として一生を送る事だってあるかもしれないし、

 一方でめでたく真織さんとゴールインすることもあれば、

 案外、瑞樹さんとゴールインする可能性だってある」

「うっそれはイヤだなぁ…」

思わず伊織が口を挟むと、

「可能性としては0ではないぞ、

 伊織は一人で生きていくわけではない、

 必ず誰かと接触してそして選択をする。

 それに運命管理局もその人の未来を定めているわけではない、

 運命管理局が管理しているのはこの現在のみ…

 伊織の未来を決めるのは伊織しかいないんだよ、

 そして、ついさっき伊織はある選択をした」

「え?」

シリアルの言葉に伊織が驚くと、

「朝、目が覚めたってことさ」

とシリアルはそう言うと片目をつむった。



「おはようございます、おじさんおばさん」

挨拶をしながら伊織が席につくと、

ドタドタドタ!!

ガラッ!!

っと戸が空くと慌てふためいた真織が姿を現した。

「まっまさか…」

一瞬、伊織がたじろぐと、

「ごめん、伊織ちゃん、おとうさん…あたし寝坊しちゃった!!」

真織はそう謝りながら席につく、

「もぅ、真織ったらはしたない…」

怪訝な顔をして真須美が注意すると、

「だってぇ…」

真織はプッと膨れた。

「あははは…真織さん、何かいい夢でも見ましたか…」

伊織はそう言いながら朝食に箸をつけた。



おわり



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