風祭文庫・天使の館






ミス・天ヶ丘コンテスト
(第2話:乙女の戦い)

作・風祭玲
(原案:少年少女文庫・100万Hit記念作品製作委員会)

Vol.236



「天使のお仕事」の詳細については

http://www14.big.or.jp/~yays/library/novel/200104/20050818/100title.htm

を参照して下さい。





翌朝…

「え?、

 真央…じゃなかった真織さん、

 もぅ学校へ行ってしまったんですか?」

真須美から真織が既に学校に行ったことを聞かされた伊織は声を上げた。

「もぅ、パラレルとは相変わらず連絡はつかないし…

 シリアルは行方不明だし…

 これ以上俺の頭を悩ませないでくれ!!」

そう文句を言いながら大急ぎで伊織が学校へ向かうと、

「はーぃ、登校中のみなさーんっ

 ミス・天ヶ丘にエントリーしたわたしこと早川真織と、

 笹島瑞樹の両名が朝のご挨拶をしていまーす」

っと頭に2本の耳を立て、

金色のバニースーツと黒の網タイツに身を包んだ真織と、

赤のバニースーツに同じく黒の網タイツに身を包んだ瑞樹が、

校門の前でビラ配りをしていた。

「なっなっ何をやっているんですかぁ!!」

ドアップになって伊織が二人に迫ると、

「だっだってぇ、真央がこうしろって言うから…」

瑞樹が校門の陰に隠れるようにして言うと、

「ナニ怒っているんだよっ

 こうしてPRをしなくっちゃダメだろうが、

 ほれっ、ここに伊織の分も用意したぞ」

と真織は伊織に言うと黒のバニースーツを手渡した。

「真央さん…やって良いことと悪いことがありますっ」

真織に向かって伊織が怒鳴ると、

「まぁまぁ、知名度向上のためなんだからさっ」

と真織が言ったとたん。

「おほほほほほほほ!!」

朝の校門に高らかな笑い声が響き渡るのと同時に、

ブワッ!!

あたり一面にユリの花吹雪が舞い始めると、

花吹雪の中から一人の女子生徒が姿を表した。

「春日野麗華…」

伊織がそう呟いた相手は春日野財閥の一人娘で、

容姿端麗にして頭脳明晰、

さらにはクラシックバレエ部・華道部・テニス部・手芸部のキャプテン並びに、

生徒会副会長を務める才女であるが、

少々性格に問題がある御仁でもある。

ササっ…

たちまち取り巻き達が彼女を警護すると、

麗華は真っ直ぐ伊織達の方へと向かってきた。

「邪魔だ、どけっ!!」

取り巻き達は伊織を一括すると、

今度は真織の前へと向かって行く。

「なるほど…どんなアヒルがあたしに歯向かうのかと思えば、

 大したことないですわねぇ」

優雅に扇をはたきながら、麗華が真織に告げると、

「なんだと?」

真織の顔が一瞬引きつった。

「いい事を教えてあげましょう。

 アヒルはどんなに頑張ってもあたしみたいな白鳥にはなれませんことよ、

 ほんと、身の程知らずは困りますわぁ〜」

と言う声を残して麗華は真織の前から立ち去っていった。

「まっ真央…」

隣の瑞樹が心配しながら声をかけると、

「けっ、上等じゃねぇーか」

真織は麗華を睨み付けながらそう呟いていた。



昼休み…

「あーっ、朝の女、むっかつくなぁ…」

そう文句を言い続けている真織と伊織・瑞樹の3人が

机を寄せ合って昼食を取っていると、

シャッ!!

カツン!!

一本の矢が瑞樹の机の上に突き刺さった。

「矢文?」

額に冷や汗を浮かべながら瑞樹が引き抜くと、

”早川真織殿、並びに早川伊織殿・笹島瑞樹殿、

 お三方に大事なお話があります。

 放課後「生徒会室」にまでお越し下さい”

と言う内容の手紙が巻き付けられていた。

「なんだろうこれ?」

訝しげに手紙を見る瑞樹に、

「春日野の陰謀じゃぁなさそうだな」

内容を読んだ真織は答える。

「どうするの?」

「行くに決まってんだろう」

手紙をクシャクシャに丸めてごみ箱に放り込んだ真織はそう言うが、

――なんか、いやな予感がする…

伊織は文面の裏に潜んでいる策略の匂いを嗅ぎ分けていた。



そして、放課後…

コンコン

「早川ですがぁ…」

そう言いながら真織が、

”生徒会室”

と言う表札が掛かっているドアをノックしながら開けると、

「ようこそ…お待ちしておりました」

夕日を背に一人の男子生徒が声を上げた。

「?」

真織たちに続いて部屋に入った伊織が眩しそうにしながらも

シルエットなっている男子生徒の素性を探ろうとすると、

「まぁ、遠慮しないで掛けてくれたまえ…」

彼はそう言って真織達に用意した席に着くように促した。

「はぁ…」

早速席についた真織と瑞樹に対して伊織は席にはつかずに、

「あのぅ、お話というのは…」

と探りを入れるように男子生徒に訊ねると、

グィ

彼はメガネを上に上げ、

そして、三人に背を向けると夕日を眺めながら、

「さて、早川真織さん・伊織さん、そして笹島瑞樹さんに

 ご足労願ったのは他でもない。

 この週末に開催されるミス・天ヶ丘コンテストに

 あなた方が参加してくれたこと、

 非常ぉーに感謝しています」

と告げた。

――あっ…お前は生徒会書記の高田敏次…

伊織は彼の声と仕草で正体を見抜くと、

「しかし、コンテストは生徒会とは関係の無いはずでは…」

と訊ねると、

「ふむっ、良いところに気づいたね…

 そうっ、コンテストと生徒会とは関係はない…

 このコンテストはあくまで校長の発案が元で開かれ、

 実行委員会が運営をする。

 しかし、

 伊織さんが既に察している通りこのコンテストにはウラがある」

と告げた。

「ウラ?」

「そうだ、我が天ヶ丘高校を牛耳っている春日野麗華一味に対して

 正義の鉄槌を振り下ろすための仕掛けとして利用させて貰うのだ」

と彼は力強く説明した。

――まぁ…あのお嬢様には確かに困ったところがあるけど

伊織はそう思いながら、

「それで?」

と高田に訊ねると。

「わからんのかっ!!

 春日野麗華の増長ぶりはおとなしくなる所か日に日にエスカレート、

 その為に生徒会は機能麻痺に陥りつつある!!

 もしも、この状態が続けば私の輝かしい経歴に傷が付く!!」

と力説するが、

「はぁ?

 そっそんなこと言われても…ねぇ」

「うん…」

真織と瑞樹が顔を見合わせながら答えると、

ツカツカ

と高田は伊織達に近づくなり、

「しかし、天は私を見放さなかった!!

 早川真織くんに伊織くん、

 そして、笹島瑞樹くん。

 天は君達を私の元に遣わしてくれたのだから!!」

ビシッ!!

そう言いながら高田は三人を指さした。

「天?…」

伊織が怪訝そうな表情をすると、

「そうだ、キミ達は天から私の元に使わされた天使なのであろう?

 黙っていても、僕にはわかる」

と高田は自信たっぷりに告げた。

「げっ」

ドキン!!

その指摘を受けた直後、伊織の心臓は一瞬大きく鼓動した後、

ザァ…!!

っと頭のてっぺんから血がもの凄い勢いで下がっていった。

「なっ何のことですか…」

伊織はカラカラに乾き始めた口からやっとの思いでそのセリフを絞り出すと、

高田は笑みをこぼしながら、

「ふっふっふっ…

 星は何でも知っている…

 私はこれまで毎晩に様に”打倒・春日野”をお星様にお祈りをしてきた。

 ところが、そんなある晩のこといつものようにお祈りをしていると、

 空から声が聞こえたのだ。

 ”お前のその願い聞き入れた。

  お前が行動を起こすとき、私の使いをやろう”

 っとな」

そう高田がジェスチャーを交えながらそう言うと、

「なるほど…」

じっ話を聞いていた真織の口が開き、

「伊織…いつまでも黙っていても仕方が無いわ、

 そうです。

 確かにあなたが言うように私達は天から使わされた天使です」

と真織は高田に告げた。

「おぉ…やっぱりそうなのか!!」

高田はぐっと身を乗り出すと、

「はいっ…黙っていて申し訳ありませんでした」

真織は笑みを浮かべてそう返事をする。

「おっおいっ、真央っ、

 お前何を…」

その真織の言葉に伊織が驚くと、

「伊織は黙って…」

すかさず真織は伊織を制し、

「それで、ミス・コンテストでどうやって麗華達を陥れるのですか?」

と尋ねた。

「ふっ」

それを聞いた高田はメガネを外して汚れを拭くと、

「決まっているだろう、

 今朝の君の行動で春日野達は否応にも、

 ミス・コンテストを無視できなくなった。

 恐らく、今スグにでも参加を打診してくると思う。

 そこでだ、このコンテストを思いっきり盛り上げ、

 そして、ミス・天ヶ丘の栄冠をキミ達が勝ち取るのだ!!」

と高田はオーラを吹き上げながら叫んだ。

「…しかし…

 そんなこと、簡単に行くのかな?

 だって、全校生徒の投票なんでしょう?」

そう伊織が指摘すると、

「ふっふっふっ、

 生徒会は何のためにあるのかね?」

高田は顔を伏せて言うと、

「あのぅ…まさか票を操作するのですか?」

それを見た瑞樹が恐る恐る尋ねた。

「さぁ…それはどうかな?」

そう言いながら顔を上げた高田のメガネが怪しく光る。

――げっこいつマジだ。

伊織は高田の並々ならぬ執念を感じ取ると、

思わず身の毛がよだった。

「その辺のカラクリはまぁ横に置いといて、

 真織君に伊織君、そして瑞樹君っ

 キミ達は思う存分戦いたまえっ!!

 バックには全校生徒を束ねる我々生徒会がついているのだから!!」

とまるで天下を取ったような態度で宣言すると、

「…けど、春日野さんも生徒会の副会長ですし…

 それに会長はこの事を知っているのですか?」

伊織はそれとなく訊ねると、

「春日野は副会長と言っても、

 まさか身内から造反が起きているとは思ってもいないはずだし、

 それに、会長はね…

 まぁ、彼にはいざという時に責任を取ってもらうつもりだから、

 この件については伏せてある」

と他人事のように話す。

「そんなぁ…」

伊織が声を上げると

「いいかいっ、

 責任者というのは責任をとるために居るのだよ、

 その下で働く者の責任は責任者にすべて集約されるのだ」

と高々に宣言した。

――おいおい、ってことはお前の責任はどこにあるんだ?

それを聞いた伊織は心の中で突っ込む。

「…コレまでの話をまとめますと、

 私達には生徒会の全面的なバックアップが得られる。

 と理解してよろしいのですね」

真織が念を押すように訊ねると、

「あぁ、大船に乗ったつもりでいたまえっ

 資金や要員などで困ったことがあれば、

 気軽に声をかけてくれたまえっ

 なにしろ、私には天使が見方に付いているのだかな」

と高田は豪語する。



「失礼しましたぁ」

そう挨拶をして伊織たちは生徒会室を後にすると

「くくくく…」

廊下を歩きながら真織は笑いをかみ殺しはじめた。

「なにが、おかしいんだ」

怪訝そうな顔で伊織が訊ねると、

「いやぁ…

 あの真面目が制服を着たような高田が俺達のことを天使だって言うからさぁ」

必死で笑いをかみ殺しながら真織がそう返事をすると、

「ホント、驚いたね…

 この世界でも高田君があのまんまだったなんて」

瑞樹も意外そうな顔をして言う。

「なぁ伊織、これもお前の言っていたパラレルとか言う天使の仕業なのか?」

と真織が伊織を見ながら訊ねると、

「う〜ん、パラレルからはそういった事は聞いていないけど…」

そう言いながら伊織はヘアクリップを髪に止めると、

――どうかなぁ…

と思いつつ、

『…パラレル…』

と呼びかけてみたが、

しかし、相変わらず、

『サー……』

というノイズしか聞こえてこなかった。

――おかしいなぁ…

  もぅ次元の絡まりはとっくに解消しているはずなのに…

伊織はそう思いながら首を傾げると、

「何しているの?」

瑞樹が伊織の行動を尋ねた。

「あぁ…これねぇ

 そのパラレルとの通話装置なんだけど、

 ダメだな…

 繋がらないや」

伊織はクリップを外してそう返事をすると、

スカートのポケットにクリップをしまいこんだ。



「何ですってぇ、生徒会があのアヒルのバックに…」

「はいっ」

その夜、麗華の元に忍び装束姿の男が現れると、

真織と高田との内通の件を麗華に知らせた。

「あの高田がねぇ…」

「いかがいたしましょうか?」

「決まっているでしょうっ

 スグに追放…いや待って、

 ここは2度とああいう輩が出てこないように

 徹底的にお仕置きをする必要があるわ、

 しばらくの間、泳がせておあげなさい。

 それと、

 生徒会の資金の流れをしっかりと調査しておいて…

 こういう事をしている以上、

 何がしかの不正を行っているはずでしょうから…」

「ははっ」

そう言って麗華の元を辞した忍びは深夜の天ヶ丘高校へと向かう。

「さてと…誰か居る?」

麗華が呼びかけると、

「お呼びでございますか、麗華お嬢様…」

待機していた取り巻きが姿をあらわした。

「まずはほんのご挨拶代わりに、

 相手の鼻っ柱をへし折ってあげなさい」

麗華がそう告げると、取り巻き達は一礼をして去っていった。

――うふふ

  この私に楯突くとどうなるか目に物を見せてくれるわ

「ほーほほほほほほほ!!」

闇夜に麗華の高笑いが響き渡った。

トッカン!、トッカン!

深夜の天ヶ丘高校に金槌の音が響き渡る。



そして迎えた翌水曜日の早朝、

まだ朝靄が立ちこめる中を、

タッタッタッ!!

3人の女子学生が街中を走り抜けていった。

「ふわぁぁ〜っ

 俺もつき合うのかよぉ

眠そうな目で伊織が文句を言うと、

「また今日もやるの〜っ?」

続いて眠そうな目をこする瑞樹が声を上げた。

「なに言ってんだ、伊織に瑞樹っ

 俺達のバックには生徒会がついてくれたから、

 大船に乗ったつもりで今日は巫女装束で勝負だ!!

 あんな女狐ごときに負けられるかっ」

と真織は巫女装束を掲げながら校門に来たとたん、

「んなにぃ!!」

っと3人は思わず声をあげた。

ずらり!!

そう校門を手始めに校舎玄関先まで

春日野麗華のポスターがまるで回廊のように貼り巡らされていた。

「はぁぁぁぁぁ…」

呆れ返りながら3人が眺めていると、

「おーほほほほほほっ

 まぁ誰かしら…

 こんな余計なことをして…

 犯人を見つけ出してきつくお仕置きをしなくてはね、

 まぁあなたみたいなアヒルには無理でしょうけど」

と言いながら現れた麗華は見下げる眼で真織を見る。

「てってめぇ!!、いい根性じゃねーか」

真織は麗華に向かってそういうと、

「あら…なぁに…あたしと勝負しようって言うの?」

振り返りながら麗華は真織に言う。

「その態度、前々から気に入らなかったんだが、

 もぅ堪忍袋の緒が切れたぜ」

「まっ真央っやめなよっ」

瑞樹が止めに入ったが、

ザっ…

たちまち取り巻き達が麗華を取り囲むと臨戦態勢を整える。

「あらぁ、ケンカですかぁ

 野蛮ですわねぇ…」

麗華はあくまで冷静さを保っていた。

「ちっ」

真織は拳を下ろすと、

「もしも、あたしに負けたらどうなさるおつもりで?」

と麗華に訊ねると、

「おーほほほほほほほ…

 面白いことを言いますのね、

 この私に敗北と言う2文字はありませんのよ」

「あーら、そうかしら…

 あたしが負けたらそうですわねぇ…

 今度の週末にウチの神社で奉納相撲がありますの、

 そこにこの3人が褌を締めて相撲を取って差し上げますわ…

 まぁ、お嬢様のあなたにそんな度胸は無いと思いますが…」

と真織は麗華にそう言い放つと、

「おっおいっ、そんな話…聞いてないぞ!!」

伊織が小声で怒鳴った。

「むっ」

しかし、真織の言葉に負けず嫌いの麗華に火がついた。

「あーら、面白い提案ですわねぇ…

 あたしだって、負けたら

 この全員が相撲をとってあげますですわ」

 おーほほほほほ」

メラメラ

と闘気を上げながら麗華が言うと、

「…そんなこと言って大丈夫かなぁ」

「…シッ声が大きいわよ」

取り巻き達がひそひそ話をする。

「おっ、おいっ

 こりゃぁスクープだ!!」

ところが、この申し出に

取材をしていた新聞部とふぉーかす部が色めきたった。

そしてその日のうちに二人の一騎打ちは全校中の話題となってしまった。

「おいっどっちが勝つと思う?」

「俺はやっぱ春日野だろうと思うよ」

「いやぁ、早川も中々かわいいし…」

「僕は女らしくなった瑞樹さんがいいと思うよ…」

という具合に発展し、しまいには賭け事の対象にまでなっていった。

一方、引くに引けなくなった両陣営はますますエスカレート、

麗華陣営が学食定食の”プラス1品券”を配りまわれば、

真織陣営は早川神社の縁結びのお守りの無料配布を行ったり、

麗華陣営が彼女なしの男子生徒に彼女の斡旋を始めれば、

真織陣営は彼氏なしの女子生徒に彼氏の斡旋を始める。

と言う按配で、

もはや、ミス・コンテストはこの二人のためだけにあるという状況を呈していた。

そして、あまりもの加熱ぶりを憂慮した校長裁定により、

投票権は全校生徒から無作為に抽出した100人のみとすることが決定された。

「くくくくくく…

 いいぞいいぞ…

 すべては私のシナリオどおりだ」

生徒会書記・高田は笑いが止まらなかった。

「あの、春日野がミス・コンテストで敗北の後に、

 褌姿で相撲を取る

 完璧だ…

 これで春日野麗華は終わりだ

 ついに天はわれに味方した!!!

 はーははははは!!」

生徒会室に高田の笑い声が響き渡った。



そしてついに、決戦の朝がやってきた。

「真織は居ないのか?」

台所に顔を出した守衛が真須美に訊ねると、

「えぇ、なんでも今日は決戦だとか言って、

 朝早く伊織ちゃんと一緒に学校へ行きましたけど…」

振り返りながら真須美がそう返事をすると、

「やれやれ、学校では仕方がないな、

 今日は奉納相撲があるから、

 いろいろと手伝ってほしい事があったのだが」

と守衛が言うと、

「そういえば、真織が小学生の頃、

 それに出たがって手を焼いていたことがありましたね」

しみじみと真須美が言うと、

「まぁ、女の子が土俵に上がるわけには行かないからな…」

守衛は頷きながら湯気が上がる湯飲みに口をつけた。



その頃…

ミス・天ヶ丘コンテストの会場脇に設置された控え室は、

エントリーしている女子生徒でにぎわっていた。

「大丈夫です、すでに票は固まっています」

衣装に着替える真織に向かって壁越しに高田はそう告げると、

「本当?…」

真織と共に着替えをしている伊織は高田に聞き返した。

「ははは…戦う前から春日野の敗北はすでに決定していますよ」

伊織の不安をうち消すようにしてそう告げる、高田の口元が笑った。

一方、麗華の陣営では、

「切り崩しはどうですの?」

同じように衣装に着替え終わった麗華が訊ねると、

「はいっ、ご安心ください

 投票権を持つ者はすべて麗華さまに投票をする。

 という血判書を書かせましてでございます」

と告げると、

ドサッ!!

っと麗華の目の前に置いた。

それを満足そうに眺めた麗華は

「ほほほほほ…これであたしの優勝は決定ね」

と高らかに笑う、

「なお、謀反人の高田ですが、

 すでに生徒会からの追放を決しましてございます」

と付け加えた。

「ふふ…それでよいっ

 さて、アヒルをからかって来ましょうか」

麗華はそういうと立ち上がった。



ポーン!!

10時の時報と共に、

パンパカパーン!!

校庭に設けられた野外特設ステージにファンファーレが響き渡る。

そして司会役の男子生徒が元気良く駆け上がると、開口一番、

『みんなーっ、アメリカに行きたいか!!』

と声を張り上げた。

するとすかさず、

『おーっ!』

と返事が返ってくる。

『ニューヨークに行くぞ!!』

『おーっ!』

――うっウルトラクイズですかいっ!!…

司会と観衆の異様なノリに舞台裏から覗いていた伊織がコケていると、

『お待たせしました!!

 平成13年度・ミス天ヶ丘コンテストをこれより開催します!!

 ではエントリーしている方々、どうぞ!!』

司会者にそう告げられ、

待機していた少女達が番号順に舞台上に並んでいく、

そして伊織達が登場したとき、

「おぉ…」

会場内から一斉にどよめきが上がった。

「…スクール水着とは、逆転の発想だな」

「う〜む…このポイントは高いぞ!!」

そう、他の出場者たちはみなセパレートや色使いの派手な水着なのに対して、

伊織達はスクール水着を着て出てきたのであった。

パシャパシャパシャ!!

一斉にフラッシュが焚かれる。

「真央…目立つのは良いんだけど…

 …コレってちょっと意味が違うんじゃないの?」

水着を指さして伊織がそう呟くと、

「何を言ってんだ、

 お前も男なら男心の一つくらいは判るだろう…

 男と言うのはあぁ言う派手な水着よりも、

 こういう一見地味に見えるスクール水着に萌えを求めるモノなんだよ」

と力説したが、

しかし、真織の視線は頻りにある人物の姿を追い求めていた。

そうその人物の姿はまだ舞台には居なかった。

「…春日野がいない…」

真織がそう呟いたとたん、

カチャッ!!

一斉にスポットライトが舞台の一点を照らし出すと、

「おーほほほほほほほ」

高らかな笑い声と共に

グィィィィン…

と舞台がせりあがりはじめた。

「なっ、なんだぁ?」

全員が呆気にとられる中、

煌びやかな電飾と仕掛けが施された巨大な衣装に身を包んだ麗華が姿をあらわした。

――今度は紅白ですかぃ

呆然としながら伊織が麗華を眺めていると、

――ふふふ、勝った!!

麗華はシンと静まり返る観衆をみてそう確信した。

『えっと…これで全員揃いましたね…

 では、今大会の提案者であり、

 大会実行委員長でもあられる校長先生からお一言どうぞ!!』

大汗をかきながら司会がそう告げると、

壇上にトレードマークとなっている禿頭が姿を現し、

『えーっ、みなさま、本日ご多忙の所をおくりあわせ下され、

 この様ににぎにぎしくご来賓下さいまして、

 まことにありがとうございます。

 思い起こせば、去る……』

と言う調子で話し始めた。

――おいおい…校長のスピーチは結婚式と来たか…

伊織は呆れ半分に延々と続く校長の話を聞いていた。

『…と言うわけでありまして、

 美人の誉れの高い我が天ヶ丘高校のナンバーワンは誰か、

 実に素朴かつ緊急を要するこの問題を明確にしようと思い立ちまして、

 ミス・天ヶ丘コンテストを開こうと決意したわけであります。

 以上を持ちまして、コンテスト開会の宣言といたします』

そう校長は言い終わると、ピストルを高々と掲げ、

『あなた方の知力体力時の運をフルに活用して闘ってきてください。

 では、このゴールに多くの方が戻ってこられることを祈りつつ、

 よーぃ!!』

パーーーン!!

っとピストルが鳴った。

ウワァァァァァ…

出場者が一斉に駆け出す中、

「え?、おいっ、なんだこれ?、

 コンテストじゃなくてマラソンでもやるのか?」

と顔を左右に振りながら状況を飲み込めていない伊織が声を上げると、

ドン!!

「おほほほほ…

 そんなところで突っ立っていると皆さんの邪魔ですわよ」

高笑いしながら衣装から分離した麗華が、

伊織と突き飛ばすと駆け抜けていった。

「……てめぇ」

起きあがった伊織が食ってかかろうとすると、

「まて…」

真織が手で遮り、

「大方、おれ達に配られるはずだったルール説明の冊子を

 あいつが握りつぶしたと思うけど、

なぁに、少しはハンデをあげたと思えばいいじゃないか」

そう言って片目を瞑って見せた。

「真央…お前…」

伊織は真央の懐の広さに感激したが、

「(ニッ)この借りは十倍返しにして返してやる」

真央は一瞬笑うと走り出した。

「………一瞬だけ感動した自分が情けない」

伊織はそう呟いたが、

ポン!!

そんな伊織の肩を瑞樹が叩くと、

「ドンマイ、ドンマイ…さぁ行こう」

と言うと伊織の手を引いて走り出した。

そして、会場から出た途端、

「んなぁ…」

伊織は我が目を疑った。

校庭の至る所に穴が口を開き、

そして数多くのコンテスト参加者が落ちていた。

「おーほほほほほ…

 まぁ誰かしら、

 落とし穴を掘るなんて…」

麗華は優雅に笑うとまるで落とし穴を避けるようにして、

第1チェックポイントへと向かって行った。

「ヤツの仕業だな…」

それを見た真織は伊織達に言うと、

「目的のためには手段を選ばず…か…」

伊織は麗華の強引さを肌で感じていた。



つづく



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