風祭文庫・天使の館






鏡の世界の伊織
(第1話:嵐の朝)

作・風祭玲
(原案:少年少女文庫・100万Hit記念作品製作委員会)

Vol.229



「天使のお仕事」の詳細については

http://www14.big.or.jp/~yays/library/novel/200104/20050818/100title.htm

を参照して下さい。





――無限に広がる大宇宙……

生まれくる星もあれば、

死にゆく星もある…

天界より降臨してきた天使パラレル・リンクの手違いによって

都立天ヶ丘高校・2年C組に在籍する進藤伊織は、

パラレル・リンクの助手兼、

憧れの君である早川真織の従姉妹と言う立場にされた日から、

すでに幾重もの日々を重ねてきたが、

しかし、無限の営みを続ける大宇宙にとって、

それは、ほんの一瞬の出来事でしか過ぎない。

そしていま、伊織の身に新たな試練が忍び寄っていた。

時に西暦2001年……



ビー!!

「警告!!

 ディメンジョンナンバー UC457LD298 と RL338PMQ248 が異常接近しています!!

 警告!!

 ディメンジョンナンバー UC457LD298 と RL338PMQ248 が異常接近しています!!

 警告…」

天上界・3番札所にある時空間管理局の中枢”発令所”内に

突如警報音と共に機械的な警告が繰り返された。

『(ミアミアミア)…波動砲用意っ…発射!!』

『…面白い…踏みつぶせっ!!』

警報音の鳴る中、褐色の肌と銀色の髪を持つ女神が

一人、局長席の座席を陣取り、

人類の命運をかけて銀河宇宙へと船出していった1隻の宇宙戦艦の

壮大な物語を描いたアニメを食い入るように見入っていた。

「警告!!

 ディメンジョンナンバー UC457LD298 と RL338PMQ248 が異常接近しています!!」

尚も繰り返される警告に、

「なによぉ、これから良いとこなのにぃ」

と文句を言いながら髪を掻き上げながら顔を上げたとたん、

「げっ!!」

一気にその顔が引きつった。

カチャカチャカチャ!!

そんな彼女を軽蔑に近い視線を送りながら、

隣の席に座っている黒髪の女神が素早くコンソールを叩くと、

「 RL338PMQ248 が当初予想進路を外れたために UC457LD298 のエリアに接近、

 あと2時間ほど後に両エリアの一部が接触する模様っ」

と告げた。

「まずいわね」

爪を噛みながら銀髪の女神が呟くと、

「うん…もぅ少し前に発見できれば回避策が立てられたんだけど…」

ジロっ!!

銀髪の女神を再び軽蔑するような眼差しで見ながら黒髪の女神が答えた。

ジト…

額に冷や汗を浮かべながら銀髪の女神は、

「よっよしっ

 とにかく両世界の外周にクラスAの結界を張り、

 相互が干渉することを最大限に阻止っ

 それから、双方に駐在している天使に対し特別警戒任務に当たらせろ!!」

と矢継ぎ早に指示を出した。

そして、その声に合わせるようにして、

パ・パ…

っと正面のパネルスクリーンに、

駐在している天使の顔写真と名前が表示された。

「………えっと…」

銀髪の女神は目を通し始した途端、

「パラレル・リンク………」

能天気そうに写っているパラレルの顔写真を見た彼女の表情が凍り付いた。

「パラレル?…」

──はっ!

「まさか…あの”上司殺し”のパラレルか…」

呆然と立ちつくす女神の顔から見る見る血の気が引いていく、

「どうしたの?」

銀髪の女神の只なら無い様子に黒髪の女神が訊ねると、

「悪い…

 ここから先の指示はアンタがやって…」

──あたしは関わりたくない…

そう言い残すと銀髪の女神はソソクサと退席してしまった。

「ちっちょっとぉ…」

黒髪の女神にとって半ば頼りにしていた彼女の退席はどうしても避けたかったが、

しかし、銀髪の女神は退席すると一目散に発令所から姿を消していた。

「あぁんっもぅ!!

 こんな時にお姉さまが居てくれれば…」

黒髪の女神はそう呟くと、

彼女はもっとも信頼を寄せている金髪の女神が天界に不在なのを呪った。

そう、彼女の姉である金髪の女神は、

先日人間界からの呼び出しで降臨してしまったのであった。

その結果、この事態の解決はすべて黒髪の女神の肩に掛かっていた。



カッ!!

ゴロゴロゴロ!!

「ふわ?…雷?…」

ズズズズズズン!!

家中を振動させる唸るような音に伊織が目が微かに開いた。

「ふぇ?」

条件反射的に時計を見ると、針はセットしていた時間の直前を指す。

もそもそ…

しかし伊織はそのまま起きあがらずベッドの中を移動していくと、

そっと脚を延ばして指でカーテンを開けた。

その途端、

カッ!!

強烈な閃光が伊織の顔を照らし出した。

光り輝く木の枝を思わせる帯が2・3回瞬くのを見た伊織は、

「キャッ!!」

と反射的に悲鳴を上げると頭から毛布を被った。

と同時に、

ガラガラガラガラ!!

雷鳴が頭上から降ってくると、

ズズズン!!

衝撃波が早川家を直撃した。

ビリビリビリ…

伊織の部屋中が細かく振動する。

「うひゃぁぁぁ」

両手で耳を塞ぎなら毛布の中で丸くなっている伊織に、

今度は、

ジリジリジリ…!!

起床時間を告げる目覚まし時計が追い打ちを掛けた。

(カチッ)リン!!

毛布の中で固まっている身体を解かすように

鳴り響く目覚まし時計を手探りで止めた伊織は、

「うぅ、やだなぁ…」

そう文句を言いながら頭を出すとベッドから抜け出した。

「…この雷…只の雷じゃない」

ムクリ…

伊織より先に目を覚ましていたシリアルは、

起き上ると空を見上げるようにして呟いた。

──よしょ

「ん?、何が違うの?」

パジャマを脱ぎ、制服の上着に頭を突っ込みながら伊織はシリアルに訊ねると、

「…よく判らないけど…

 なにかこう…何かが迫ってくる感じがする…」

とまるで何かを察知しようとすかのごとく

シリアルは目を閉じ、鼻を高く上げるとそう呟いた。

「何かって?」

──ふぅ

頭を出した伊織は、今度はスカートに手を伸ばしながら聞き返すと、

「それが判れば誰も苦労はしないよっ」

顔を戻したシリアルが突き放したように言う。

「なんだ、結局は判らないのか…

 意外と役に立たないんだなぁ…」

髪の毛とセーラーのタイを整えながら伊織がため息をつくと、

──むっ

それを聞いたシリアルは不機嫌そうな表情をすると、

ピョンとベッドから飛び降り、

ドアを開けるとスタスタと部屋の外へと出ていった。

「何処行くの?」

伊織の問いかけに、

「パラレルの所ぉ…」

そう言ってシリアルは伊織の前から姿を消した。

「ふぅ〜ん…あっ、もぅこんな時間」

時計の針が指し示す時間を見るなり、

パタパタ!!

スリッパの音を響かせながら伊織は部屋を飛び出して行く。

ゴロゴロゴロ…

空からは相変わらず雷鳴が鳴り響く、



ビーっ!!

「UC457LD298 並びに RL338PMQ248 第1次接触まであと5分」

ブザーと共に感情のない機械的な声が発令所内に響くと、

ゴクリ!!

中にいるスタッフ全員に緊張が走った。

「双方、軌道の狂いはない?」

黒髪の女神が訊ねると、

「双方共に軌道は安定、

 このままの進路を維持する模様!!」

モニターで監視をしているスタッフの声が響く、

「ようし…

 1次や2次程度の接触では結界が完璧に防御してくれるけど、

 問題は3次4次接触と来たときにどうなるかね…

 とこで、パラレル・リンクへの連絡はどうなっているの?」

と女神は未だ連絡が付いたと言う知らせが来ない天使の事を訊ねると、

「それが、先ほどから呼び出しているとのことですが、

 未だにコンタクト出来ないそうです」

と言う返事が返ってきた。

「まったく、緊急事態だというのに何をやっているのかしら…」

パネルスクリーンを眺めながら女神は呟く、

ピッピッピッ!!

既にスクリーンの上では、

この2つの世界はニアミス(異常接近)ではなく衝突を起こしていた。



ガラガラガラ!!

一際大きな雷鳴が轟くと、

「うひゃぁ!!」

伊織は思わず声を上げ両耳を塞ぐと、その場にうずくまった。

「あら…伊織ちゃん、雷は苦手?」

「え?」

恐る恐る伊織が掛けられた声の方を向くと、

──クス…

真織が軽く笑いながら彼女の後ろに立っていた。

「真織さん…」

──はっ

「あっいえ…」

あわてて伊織が立ち上がると、

「いいのよ、いいのよ、

 誰だって苦手なモノはあるんだから…」

真織がそう言った途端、

ゴロゴロゴロ!!

再び雷鳴が轟いた。

「うわっっっ!!」

「きゃっ!!」

雷鳴に驚いた伊織は反射的に真織の身体に抱きついていた。

──フワッ…

柔らかい感触と甘い香りが伊織を包み込む。

「………あの…」

「え?」

どれくらい時間が経ったかは判らないが、

真織から掛けられた声で伊織はハッと我に返ると、

「わわわわわ!!、ごっごめんなさい!!」

と叫びながら伊織は慌てて真織から離れる。

──うふ

「…ほんと伊織ちゃんって面白いわね」

真織は微笑みながら戸を開けると、

──フッ

とみそ汁の香りが彼女たちを包み込んだ。

テーブルの上には茶碗などが伏せられ、

既に起きていた守衛が朝刊に目を通していた。

「おはよう」

二人の姿を見た守衛が広げた新聞を折り畳みながら先に挨拶をすると、

「おはようございます」

「おっおはようございます、おじさん」

真織と伊織は朝の挨拶をしながら入っていく、

「はははは…雷は苦手か…」

守衛が伊織に訊ねると、

「えっ聞いていたんですか?」

ばつの悪そうな顔をして伊織が席に座ると

「まぁ人間、一つや二つ、苦手なモノがあるものだよ、

 なぁ、おまえ…」

と奥の台所で支度をしている真須美に声を掛けた。

「おはよっ、真織ちゃんに伊織ちゃんっ」

そう言いながら盆を持って真須美が台所から出てきた。

「あっ手伝います」

それを見た伊織が腰を上げると、

「あら、悪いわねぇ…」

「今朝は和食なんですね」

「えぇ、たまにはこういうのも良いでしょう」

などと会話をしながら真須美は伊織と一緒になって朝食の配膳をした。

そして、4人が席につくと、

「いただきまぁす」

と言う声と共に朝食に箸を付けた。

「…伊織ちゃん、お醤油とってぇ」

「…はぁいっ」

「…おまえ、納豆にネギが入っていないぞ」

「…あら…」

「…真織さん、タクアンの皿、こっちにお願い」

といつもと変わらない早川家の朝食シーンが繰り広げられているのだが、

しかし、

ゴロゴロゴロ!!

ズズズズン!!

その間にも絶え間なく雷鳴が響いていた。

「やぁねぇ…こんな朝から雷だなんて」

シャケの切り身をかじりながら真須美が呟くと、

「うむ…」

既に納豆を口に運んでいた守衛が頷く。

「雨…降るのかな?」

真織がそう呟きながらリモコンでTVを付けると、

丁度天気コーナーで気象予報士が概況を説明しているところだった。

『…雷があちらこちらで鳴っているようですが…』

と言うキャスターの問いかけに、

『…えぇそれなんですが…』

気象予報士は困った表情をすると、

この雷は日本のみならず世界的規模で発生していることを告げた。

「へぇぇぇ…」

感心したように伊織が声を上げると、

「あらまぁ…」

真須美も同じように関心をする。

「あっ、伊織ちゃん、時間、時間」

その一報で画面表示されている時刻を見て真織が声を上げると、

「いっけなぁい」

伊織と真織はササっと食事を済ませると、

「ごちそうさまでした」

と使った食器を真織と共に台所まで運んで行く。

「それじゃぁ、私は社務所の方に行ってくるか」

二人の行動を見守っていた守衛が腰を上げると、

「雨が降るかも知れないから、大きめの傘を持って行きなさい」

真須美は玄関へと向かう伊織と真織に声を掛ける。

「はぁぁい」

「行って来まーす」

そう言い残して二人は元気よく早川家を後にした。



ゴロゴロゴロ…

相変わらず空はどんよりと曇り、雷鳴が鳴り響く、

「…こんなに雷が鳴っているのに雨が降らないなんて変ね…」

空を見上げながら真織が言うと、

「最近異常気象が多いからそのせいでは…」

などと喋りながら石段を下りたところで、

「あっいっけなーぃ」

何かを思いだしたように真織が声を上げた。

「どうしたの?」

伊織が訊ねると、

「急いで来ちゃったから…忘れ物しちゃった」

ペロッと舌を小さく出して真織が答えた。

「あらら、真織さんが忘れ物をするなんて珍しいですね」

「悪いけど、伊織ちゃん先に行っててくれない?」

真織は申し訳なさそうに伊織に言うと、

「うん、じゃぁ先に行っていますね」

そう言って二人は別れた。

「真織さんのあんな表情、初めて見たな…」

などと思いつつ伊織は参道を歩いていくと、

『瑞樹の…力に…』

「え?」

伊織は突然何か囁きかけられた様な感じがすると立ち止まった。

キョロキョロ

周囲を見渡すと、

「誰もいませんよね…」

と言いながら首を捻った。



「第3次接触確認!!」

天界の時空間管理局・発令所内に現況を告げる声が響く。

すると

ビィィィイ!!!

「緊急事態発生!!」

「緊急事態発生!!」

鳴り響く警報音と共に、

「RL338PMQ248 に異変発生!!

 RL338PMQ248 の結界が破られた模様!!」

と言う報告が入てきた。

「なっ何が起きたの?」

それを聞いた黒髪の女神が叫ぶと、

「RL338PMQ248 より発生した”腕”が結界を突き破りました!!」

スタッフが声を上げる。

「そんな…

 クラスAの結界を突き破ったの?!

 スグに消滅させて!!」

驚きながら黒髪の女神が叫んだが、

間髪入れず

「間に合いません!!」

と言う声が響いた。



「空耳?」

そう呟いて再び伊織が参道を歩きだしたとき、

パァァァァァァ!!

突然、伊織は強烈な光に照らし出された。

「え?」

思わず見上げると、

上空より巨大な腕のような光の塊が降ってくる。

「落…雷…?」

伊織は落ちてくる光の塊を見上げながら固まっていた。

それはまるでスローモーションの様にゆっくりと接近してくると、

まるで、伊織を捕まえに来たかのように先端が大きく開いた。

『…瑞樹の力に…なって…』

そう言う女性の声が再び伊織の耳に届くと、

伊織はその光の中に飲み込まれていった。

ドォォォォォォォン!!

同時に耳を劈くような衝撃波が街の中を広がっていく。



「RL338PMQ248 より発生した腕が UC457LD298 の結界を突き破り結合!!」

「小規模の空間転移現象を確認しました。」

矢継ぎ早に入る報告に、

「なんで…

 もぅ…

 スグに追跡して!!」

発令所内の黒髪の女神は即座に指示を出した。



それより少し前…

「これは、パラレル殿…」

社務所に入った守衛はパラレルの姿を見つけると声を上げた。

「おはようございますでわぁ」

パラレルが相変わらずのんびりとした挨拶をすると、

「伊織たちなら先ほど出かけましたが」

と守衛は彼女たちが不在なのをパラレルに告げた。

「あら…まぁ…」

パラレルがちょっと困った顔をしていると、

「あっ、居た居た。パラレル、散々さがしたぞ」

社務所を覗き込んだシリアルはパラレルの姿を見つけると声を掛けた。

「あらぁ、シリアルお久しぶりですわぁ」

するとパラレルはシリアルにも頭を下げた。

「お久しぶりって…

 昨日会っているじゃないか」

と突っ込みを入れながらシリアルが呟いていると、

「じゃぁ、学校に行った方がイオちゃんに会えますわねぇ」

そう言ってパラレルが社務所から出ていこうとしたとき、

ポトッ!!

パラレルの身体から小型の機械が落ちた。

「パラレル?…何かが落ちたぞ」

──ヒョイ

シリアルが傍に行ってそれを拾い上げると、

それは一見すると黒電話の受話器の様な姿をしていた。

「あっ、電話の電源を切っててはダメだって言っているだろう!!

 いつ天界から呼び出しが在るか判らないんだからさぁ」

と文句を言いながらパラレルがそれのスイッチを入れると、

──ジィィィィ…

それは機械的な軽い動作音を立てながら背の部分が観音開きに開いた。

そして、

──スルスルスル!!

っと中から棒状のモノが伸びると、

──パシャッ!!

っと傘の様に開き、それは小いさなパラボラアンテナへと変化する。

──クルクルクル…

受話器の上部でしっかりと固定されたアンテナが2・3回、回転した途端、

”ちゃんちゃかちゃかすっちゃんちゃん(パフっ)!!”

っと日曜日の夕方におなじみの曲が流れた。

「……ホラ、言わんこっちゃない、

 パラレルっ、電話だぞ」

っとシリアルは呼び出し音が鳴り響く受話器をパラレルに手渡した。

「はぁ、あの曲を聴くと何故かブルーなる…」

壁に手をつきながらシリアルが呟いていると、

「はーぃ、もしもしぃ、パラレルですぅ」

とパラレルは受話器に向かって話しかけた。

すると、

──ビィムッ…

受話器から一筋の光が発せられると、

──フォン!!

瞬く間に空中にスクリーンが現れ、

その中にパラレルと同じ服装だが気品のある天使が姿を現した。

「まぁまぁ…これはミカエルさま、

 お久しぶりでございますですわぁ」

彼女の姿を見たパラレルは深くお辞儀をすると、

「……(はぁ)やっと繋がりましたか」

と相手の天使は大きくため息を付いた。

「はぁ?」

パラレルが首を傾げると、

「パラレルが電話に出たですてぇ〜っ」

──ズドドドドド!!

と何かが接近してくる音共に、

──ドカッ!!

映像は優しさと気品のある天使から

まるで仁王のようなそして正義感あふれる天使の姿へと取って代わられた。

そして、

──ジっ、

と彼女がパラレルを見据えながら大きく深呼吸すると、

「パラレルっ!!、

 あんた、いまのいままで何処で、何をやってたのっ!!

 この緊急事態にずっと留守電だなんて良いご身分じゃないのっ!!」

とまるで雷のような怒鳴り声を上げた。

──ハァハァ…

肺の空気をすべて使い果たして肩で息をしている彼女の姿を見たパラレルは、

「まぁまぁ…

 アーリィさまも、

 これはこれはお久しぶりでござますですわぁ…」

パラレルは深々と丁寧に頭を下げた。

──ピクッ!!

しかし、アーリィと呼ばれた天使は、

パラレルのその行動を見た途端、

表情が一瞬引きつった。

そして、その一言が彼女に怒りの火に油を注いでしまった。

「一大事だから…

 こっちは一刻を争っていると言うのにぃ…

 …そんな悠長な…」

肩をワナワナと震わせてそう呟くと、

──フッ!!

突然彼女の姿がスクリーンから消えた。

刹那

ガラガラガッシャーン!!

と何かが倒れる音がするのと同時に、

「…わっ!!、アーリィを止めさせろぉ!!」

「…離せ!!、今日こそはパラレルに引導を渡す!!」

「…いいから落ち着きなさい!!」

「…コレが落ち着いていられるか!!」

「…誰か鎮静剤を持ってきてっ」

「…うっきぃぃぃ!!」

人物の姿は映らないもののドッタンバッタンの大騒動の模様が、

スクリーンを通じてパラレル達に伝わってくる。

「一体…何が起きているんじゃ?」

守衛が怪訝そうな顔をしてスクリーンを眺めていると、

「あのぅ、ケンカは良くありませんですわぁ…」

その様子を見ていたパラレルがハラハラしながら話しかけた。

すると、

「…あぁパラレルか(ふぅ)」

衣服を大きく乱したミカエルが再びスクリーンに映し出された。

「…ミカエルさま…

 いつもいつも、アーリィさまがご迷惑をおかけしていますわぁ」

と言うとパラレルは再び頭を下げた。

「いやぁ…彼女も彼女なりに頑張ってくれているのだがね…

 しかし、その様子ではまだ異変は起きていないようだな…」

とミカエルはパラレルを一目見てそう言うと、

「さて、実はだ、

 そっちの時間で今朝方、

 天界の時空間管理局から警報が出てな、

 パラレル…

 お前がいま居るその世界と別の世界とが接触を起こすそうだ」

と告げた。

「まぁまぁ…」

それを聞いたパラレルが他人事のような困った顔をすると、

ミカエルは額に手を置き、

「でだ、時空間管理局では両世界の外周にクラスAの結界を張り巡らし、

 お互いが相手に干渉しないように万全の体勢を整えた。

 そして、双方に駐在している天使に警戒に当たるようにと、

 言う指示が出たのだが…」

とミカエルがそこまで状況説明をしたところで、

──パァッ!!

ガラガラガラガラ!!

ズズズズン!!

ガタガタガタ!!

閃光と轟音、そして振動が社務所を直撃した。

「じっ地震だ!!」

シリアルが叫び声を上げる。

「何かが爆発したのかもしれん!!」

慌てて外へと飛び出していく守衛に対して、

ブツッ…プー・プー・プー

「あら?…ミカエル様?…

 まぁどうしましょう…」

困った顔をしながらパラレルは

会話の途中で回線が切れた電話を眺めていた。



つづく


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