風祭文庫・レンタルボディの館






… もぅひとつのヒミコ …
「ただいま授業中」
(後編)


作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.278



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。





「えぇいっ、鏡をいつまでも眺めていても仕方がない。」

俺は、覚悟を決めるとセーラー服に袖を通した。

スカーフを結び、プリーツのスカートを履いて再び鏡の前に立つと、

「ぶわぁ〜〜っ」

っと、恥ずかしさが顔から吹き出してきた。

…こっ、この格好で学校に行くのかよ〜っ

そう思った途端、鏡の中の少女の顔が真っ赤になる。

俺は必死の思いで恥ずかしさを飲み込むと、

パチン!!

両頬を手で引っ叩くと

「行くぞ、裕介」

と気合を入れて部屋を出た。

しかし、一歩部屋から出ると、

何時の間にかソロリソロリとまるで泥棒のような歩き方になり、

そして階段の所まで来たとき、

「おはよ、裕介」

お袋が背後から声をかけた

ドッキン!!!

胸の中で心臓が飛び跳ねる。

「おっお袋かぁ」

俺は振り返り、お袋の姿を見ると胸をなでおろした。

「何をそんなにびっくりしているの?」

「いっいや」

「どぉ、制服はちゃんと着られた?」

お袋は俺の周りを一回りして制服の具合を確かめると、

「ちゃんと着られたじゃない、可愛いわよ」

そう言うと俺のセーラー服姿を評価した。

お袋のその台詞をきっかけにして、

再び沸き上がってきた恥ずかしさから何とか逃れようと、

「めっ、飯の支度はできているの?」

と尋ねると、

「ん?あぁ、出来ているわよ」

とあっさりと言うなりサッサと下に降りていった。

…まだドキドキしてる、こんな状態で学校にいけるのかなぁ

不安な気持ちが徐々に心を覆う。

下に降りた後、

いつ親父が飛び掛ってくるのかと身構えながら

キッチンを覗くとなぜか親父の姿が見えなかった。

「親父は?」

お袋に姿が見えない親父のことを聞くと、

「さっき会社から電話があって、

 会社のコンピュータがウィルスに感染したとか言うことで、
 
 すっ飛んで出て行ったわよ」
 
と答えた。

…こりゃ今日は泊まりだな、っと俺は直感的に感じると、

「それでね」

「?」

「あなたの制服姿をこのカメラに撮ってメールで送るように…ってね」

と告げるお袋の手にはしっかりデジカメが握られていた。

…くっ、転んでもただでは起きない奴。

俺は親父のバイタリティーにただ関心していた。


朝食後…

「んじゃぁ行って来まぁす。」

と告げながら玄関のドアを開けようとしたとき、

「あっ、祐介、杉山先生から連絡があって、

 学校に着いたら教室には行かないで職員室へ来るようにって…」

とお袋が言ってきた。

「職員室?」

「えぇ」

「ふ〜ん…判った。」

と言ってドアを開けると、

パァッっと朝の街の風景が目に飛び込んできた。

俺は大きく深呼吸すると

「おっしゃぁ」

っと街の中へと踏み出していった。


いつもと同じ街…、いつもと同じ人…、いつもと同じ電車…

そう、いつもと変わらない世界が俺の横を通り過ぎているはずなのだが、

電車の窓ガラスに映る女の子の姿をしている自分の姿を見ると

なんだか自分一人だけが異世界に飛び込んだようなそんな錯覚がする。

電車を降りて駅前の商店街を歩いてたとき、

ふと駆け出したくなるような衝動に駆られた。

それを必死で押さえながら歩いていくと、

やがて目的地の学校が徐々に見えてきた。


学校に近づくにつれ、

学生服の男子学生やセーラー服の女子学生が増え、

俺の姿は生徒たちの中に埋もれたが、

しかし、どうも皆から見られているような感覚がしてきた。

「どうか、クラスの連中に見つかりませんように」

こんなことを考えて登校するのは今回がはじめてだ、


教室に向かう生徒たちの流れから外れて、

職員室の前に立ったとき、

安堵感からか思わず俺は座り込んでしまった。


「鳥羽、そんなところで座り込んでいると邪魔だぞ」

「え?」

頭の上から降ってきた声に驚いて上を向くと、

担任の杉山が俺を見下ろしていた。


「あっ、杉山……先生、お早うございます」

そう言う訳か俺は杉山に挨拶をしてしまうと、

「早く中に入れ」

杉山はそういうと職員室のドアを開け、

俺に中に入るように促した。


職員室の中は始業前の慌しさと喧騒の中だった。

俺は杉山の机まで来ると、

「ほら、これがお前の生徒手帳だ、

 あとで顔写真を貼って俺のところに持ってくるように」

そう言いながら、

俺に手帳を渡した。また女子生徒としてのいろいろな諸注意も受けた。

ただ、その注意の中で

「着替えやトイレは女子のところ使うように。」

と言った後で、ひとこと

「だからといって、調子に乗るなよ」

と付け加えた。

…誰が調子の乗るか!!

俺はその言葉に心の中で反論していた。

それから、本鈴のチャイムが鳴るまで職員室で待機した後、担任と共に教室へ向かった。



…まるで転校生の気分。



勝手知ったる校舎も、いつもとは違う姿で歩くと妙に新鮮な感じがした。

杉山のあとに続いて教室に入ると、俺の姿に一瞬クラス中にどよめきが起きるが、

しかし杉山が事情を説明したとたん、それはため息に変わった。

でも、驚く奴、冷やかす奴、からかう奴、その他諸々

おかげで教室内は騒然となってしまった。

やがて委員長の一言でようやく騒ぎが収まると、

俺は、自分の席にようやく落ち着くことが出来た。

…まだ授業前だというのに疲れた。



2時間目が終わり、長目の休み時間になると

悪友達がワラワラと寄って来てくるなり、

「よぉ、鳥羽、なかなかの美少女ぶりじゃないか」

「…よせよ」

「お前にそう言う趣味があったとは知らなかったなぁ」

「…なにが趣味じゃ」

「で、もぅやってみたのかよ」

「…はぁ?」

「とぼけるなよ、女になってやることと言ったら、なぁ…」

と言ったところでスパンと俺はそいつの頭を叩くと、

「ふっふっふっ」

と笑みを浮かべ

「委員長!!、東の奴があたしにセクハラをしてまぁす。」

と大声で叫んだ。

「ばっ、ばか野郎、誰がセクハラだ」

「言っおくけど、今の俺は野郎じゃないぞ」

「やれやれ、とんだ災難だったなぁ」

「おぅ、北条か」

「で、いつまで借りているんだ、その身体は?」

「え〜っと、約一ヶ月」

と俺は北条の問いに答えると。

「一ヶ月かぁ……うんまぁその程度なら大丈夫かな?」

「大丈夫ってなにが?」

北条の言葉に俺が聞き返すと、

「いやねぇ…あんまり長くRBを使っていると

 RBに記憶が焼き付くと言う話を聞いたことがあってね」

頭を掻きながら北条は俺に説明を始めた。

「記憶が焼き付く?」

「そう、ほらRBって自分の記憶や人格を乗せて使っているだろう、

 でだ、借りている期間があんまり長かったり、

 また精神的に強いショックがあったりすると、

 RBのBIOSに記憶や人格が焼き付きを起こす。

 という話らしんだ」

「へぇぇ〜っ」

俺は北条の話に頷きながら、

「で、焼き付くとどうなるの?」

と尋ねると、

「そうだなぁ…

 お前がその身体を返して、元の身体に戻ったとする。

 しかし、もし焼き付きが起きてたとすると、

 その身体のBIOSが焼き付いた人格・記憶データを用いて再起動してしまう。

 ってことだ。

 そうなると、

 基本的にはあり得ないお前と同じ記憶・人格を持ったRBが

 社会の中で活動をすることになる」

「うわぁぁぁ〜っ、怖いなぁそれ」

「現に米国ではそういう報告もあったそうだから、まぁ気をつけるんだな」

「用心には越したことはない、ってことかな?」

と俺と北条が話をしていると

それをジッと聞いていた西が席を立った。

「ん、どこ行くの」

何気なく俺が尋ねると、

「ションベン」

西はそう一言言うと教室から出ていった。

「あっ俺もつきあう」

と俺もそう言うと

席を立って西と一緒にトイレに向かった。

で、いつものように便器の前に立つと…西が一言、

「お前…いいのか?」

と尋ねた。

「へ?」

彼の言葉に思わず下を見るとそこには紺色のスカート。

「お〜〜っ

 ……………あはははははは

 ここじゃぁ、出来ないわよねぇ…」

我ってごまかしながら俺は反対側の”個室”向かおうとすると、

いきなりむんずと腕を捕まれ

「お・ま・えは隣だろうがっ」

と男子トイレから追い出されてしまった。

「もぅ、冗談だつうーのに」

と言いながら女子トイレの前に立ったが一瞬、

「入って、いいのかな……」

と思うと、

左右を見て誰もいないのを確認して、

ドアを開けようとしたそのとき、

「なに、痴漢みたいなことをしているの?鳥羽君」

と言う声がした。

「え?」

後ろを振り向くとそこにはショートヘアの元気そうな女の子が立っていた。

「こっ琴美」

俺がそいつの名前を呼ぶと

「ホラ、女子トイレの前でキョロキョロしない」

と言いながらドアをポーンと開けた。

「いっ」

中にいた数人の女子生徒たちが一斉に俺を見る。

「トイレ…使うんでしょう?」

と琴美に言われると俺は空いている個室に駆け込むと、

あまりにもの恥ずかしさにしばらくの間しゃがみこんでいた。

「なっ、なんでこんなに恥ずかしいんだ、ちくしょう」


昼休み後の5時間目は体育。

と言うことで体育が得意な俺は、北野たちとともに更衣室へ来ると、

女子更衣室の前で立っていた琴美が慌てて俺の方へ駆け寄ってきた。

そして、

「ちょっと待って、祐介、あんたはこっち」

と言って俺の手を引っ張ったが、

しかし既に更衣室のドアのノブに手を掛けていた俺は

ガラッ

と男子更衣室のドアを開けてしまった。

「きゃぁ〜痴漢」

と野郎どもの野太い声

…あっ、しまった。

「まったく、あんたって人は、どうしてそうお約束のことばかりするの」

俺は琴美に引きずられると女子更衣室へ放り込まれた。


着替え中のクラスの女子が俺を見る。

「あれ?鳥羽君、なにそんなに赤くなっているの?」

着替え終わった奴が硬直している俺を見てからかい始めた。

「へぇ、意外と鳥羽君ってスケベなんだ」

「ちっ違う」

「ふ〜ん」

「ほら、祐介っ、そんなところでいつまでもじっとしていないで早く着替えなさい」

と琴美にせかされるようにして、

俺は空いている棚のところに行くとセーラー服のスカーフを外した。

「下着、盗んじゃぁだめよ」

と他の女子がふざけ半分に言う

「誰が盗むか!!」

と俺が反論すると、

「まぁ日頃の行ないのせいだね」

と琴美がいう。

「琴美、言っとくがな

 俺は過去これまでの間、女子の着替えを覗いたり、

 下着ドロボーをしたことはないぞ」

と宣言すると、

「でも、覗きは今しているじゃない」

と突っ込んだ。

「こっこれは特別の事情があってのコトだから、仕方がないの」

と俺はそう言うと

「じゃぁ、さっきの男子更衣室の一件は?」

「あっ、あれは事故だ」

「へぇぇぇ…それより裕介、あんた手が止まっているよ」

と言われると、

俺は急いでセーラー服を脱ぎ、そして、袋から体操着を出すと

ジャージなどと一緒に1着のブルマが出てきた。

「こっこれは」

俺は後ろで着替えている琴美の姿を一瞬見ると、

彼女は平然とブルマを履き、Tシャツの上にジャージの上着を羽織った。

「やっぱり、これを履くんだよな…」

観念した俺は、

ブルマに足を通すと一気に引き上げるとスッと股間が包まれるような感触が走った。

「う〜mmm」

俺は、股間をすっぽり覆ったブルマをしばし眺めた。


「…ヘンタイ」

「え?」

振り向くと琴美が腕を組んで軽蔑のまなざしで俺を見ていた。

「もぅ、みんな着替え終わって、行っちゃったわよ」

そのとき、更衣室には俺と琴美の二人だけになっていた。

ヤバ…

大急ぎでTシャツとジャージを着ると、俺は更衣室を出た。


ヒューッ

更衣室からでるとヒンヤリとした風が太股をなでる。

……寒っ

男の短パンの時はそんなには感じなかったが、

ブルマをこうして履いて出てみると、

下半身がほとんど無防備に近い状態になると言うことをしみじみと実感した。

体育館に入ると数人の男子がバレーボールを蹴ってサッカーの真似事をしていた。

それに気づいた体育委員が、

「コラッ、『バレーボールでサッカーをやってはいけない』って言われているでしょう」

と注意したとき、

「あっ」

ボールを蹴ろうとしていた奴の足下が狂った。

「鳥羽さん、危ないっ」

「え?」

俺が声のした方を振り向いたとき、目の前にボールが迫っていた。

バチン!!

音と衝撃と共に目の前が真っ暗になった。

そして、事務的な女性の声で、

「頭部に強い衝撃が加わりました。

 安全確認のため、当システムは一時サービスを停止します。」

と言う声が聞こえると俺の意識は消えた。


……………あれ?ココはどこだ?

えーと俺は何をしているんだっけ?

はっ気が付くと、

俺はバレエの衣装を着てどこかの研究所のようなところで

妙な連中に取り囲まれていた。

「コラ祐介っ、何をぼぉっとしている、次のドールが来るぞ」

「え?」

見ると、目の前に黒スーツに黒メガネをかけた男が迫っている。

「うわっ、なんだコイツ」

…俺はとっさに逃げ出した。

「こっ、コラ、戻ってどうするっ、琴美君はそっちじゃないんだろう?」

…琴美?

「琴美って…???」

「ホラっしっかりしろ、お前は琴美君を助けるためにここに来たんだろうが」

…へ?助けに…?

 俺が琴美を?

 なんで?


そう思った瞬間、

Piiiiii

「お待たせしました。安全が確認されたのでサービスを再開します。」

と言う声がするのと同時に俺は目を覚ました。

周囲の景色を見るとどうやら俺は保健室に担ぎ込まれた様だった。

「あっ、鳥羽君…じゃなかった、いまは鳥羽さんね、どう体の具合は?」

俺に気づいた養護の先生が体の具合を尋ねる。

「ちょっと、顔が痛いですけど、大丈夫です」

と答えると、

「鼻血も止まったみたいだし、大丈夫そうね、今日はもぅ帰りさない」

と告げた。

時計を見るとすでに下校時刻にさしかかっていた。

ありゃりゃ、そんなに寝てたのかぁ〜っ

制服に着替えて教室に戻るとすでにホームルームは終わっていて

掃除の時間になっていた。

琴美が俺の所に駆け寄ってくると、

「祐介、大丈夫?」

と体の具合を尋ねた。

「あぁ、大したことはないよ」

と俺はそう答えるが、

でも琴美の顔を見たとき、ふと夢の話を思い出した。


俺がコイツを助けるために変な連中と闘っている……

ふ〜mm、こりゃぁマンガの見過ぎかなぁ…


などと考えていると、

「おっ、鳥羽、顔面直撃だってぇ、いやぁ災難続きだなぁ」

と長谷川がそう言いながら寄ってきた。

「るせぇ〜っなぁ、じゃぁお前も顔面直撃やってみるか?」

「あははは、冗談だよ冗談」

こうして、初登校1日目はなんとか終わった。

男に戻れる日まであと30日、まだまだ道は始まったばかり。



一方、ココは祐介の親父・俊介が勤めている、某企業の某研究所。

トイレから出てきた俊介に一人の研究員が駆け寄る。

「鳥羽課長」

「ん?、どうした?」

「実は、モニター中の”ヒミコ”からこのようなデータが得られたのですが。」

と言って研究員は俊介に記録紙を見せる。

「これは?」

「えぇ、昼過ぎ頃なんですが、

 ”ヒミコ”をインストールしてある

 RB・BDH−022が何か強い衝撃を受けたらしく

 保護モードに移行することが起こりまして…」

「…ったく、祐介のやつめ何をやらかしたんだ?」

その説明を聞いた俊介は呟くと、

「で、それが?」

と尋ねると、

「はい、それでRBが再起動するまでの間に、

 ”ヒミコ”がどこかと回線を繋いで
 
 データの受け渡しをしていたみたいなんですが」

と説明した。

「どこか…って相手は判らないのか?」

「はぁ、奇妙なコトに相手のアドレス等はこちらからでは追跡できず、

 ただ”ヒミコ”となっているだけで…」

その話を聞いた俊介は丹念に記録紙を眺めた。

そして

「面白いなぁ…人格・記憶データの78%もやりとりしているではないか」

「はい」

「それにしても、相手が”ヒミコ”と言うのはどういうことだ?」



おわり
(1999.10.11)