風祭文庫・レンタルボディの館






… もぅひとつのヒミコ …
「ただいま授業中」
(前編)


作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.277



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。





はじめに…

このお話は20世紀末の1999年9月から10月にかけて
2回にわたって少年少女文庫に投稿したお話でして、
ヒミコシリーズの原点となったお話です。

ヒミコシリーズとその違いを読み比べてみるのも良いかと思います。

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「なんで俺がセーラー服を…」

ハンガーに掛けられた一着のセーラー服を少女が恥ずかしげに見ていた。

「はぁ〜っ、あんなところで事故らなければなぁ〜」

そうため息を吐きながら少女はある事件を思い出していた。



話は2日前に遡る…

「…………ん、んん」

意識が戻った俺はうめき声を上げると、

「あっ、意識が回復したようですね」

男の人の声が響いた。

Pi・Pi・Pi・Pi・Pi…

規則的な機械の音が聞こえてくる…

…何処だココは…

「神経系・循環器系…シンクロ率どれも異常ないようですね。

 間もなく目覚めると思いますので、それでは私はコレで…

 あっ、契約面に関しては後ほど担当のモノが伺いますので、

 よろしくお願いします。」

声の主は妙に事務的な台詞を吐くと部屋から出ていった。

「お世話になりました。」

その後を追うようにお袋の声が響く。

…どうやら俺は生きているらしい…

 それにしても、契約って…何だろう?

 そんなことより、俺はなんでココにいるんだ?

 確か…確か…そうだ俺は事故ったんだっけ…

俺は記憶を必死になって辿った。

…バイト代を貯めてやっと買ったバイクに跨り俺は快調にとばしていた。

 新品のバイクの調子はきわめて良く、
 
 慣らし運転だと言うことを忘れて、さらにアクセルを入れたとき、

 そうだ、アイツが飛び出してきたんだ。

 目にハッキリと焼き付いている。あの白黒ブチの憎たらしい顔をしたネコ!!

 俺はそいつを避けようとして…

 バランスを崩して…

 その後は…

…う〜ん、思い出せない。

 ただ、あの状態の事故となればそれなりの怪我だと思うのだが、

 なぜか身体の何処からも痛みを感じない…

とその時、ふっと目が俺の目が開いた。

「あぁ、気づかれましたか」

見るからに医者と言う風貌の白衣姿の男が俺の顔をのぞき込む。

「祐介!!」

叫び声と共にお袋の顔が視界に入ってきた。

「鳥羽祐介君、だね」

と白衣の男が俺に尋ねてきた。

「はい、そうですが…」

と声を出したところで、

ハッと俺は口を閉じた。

まるで、少女の様な声が俺の口から出たからだ。

「なっ、なんだこれは…」

驚きと共に不安感が俺の心の中を覆っていく…

すると、

「キミは昨日交通事故を起こして、この病院に搬送されてきたのだよ」

と医師は俺の怪我の状況を次々と話し始めてきた。

彼の話からすると俺は相当な重傷のようだが、なぜかそんな感じがしない。

それどころかさっきの声のことが気になる。

「…ということで、

 キミの本当の身体は現在、メディカルマシンの中で集中治療を受けているのだが…」

と医師が説明したところで、

「メディカルマシン?」

俺は医師に聞き返した。

「そういえば以前テレビで見たことがある。

 大きく傷ついた人間の身体を人工溶液の中に浸すことによって、

 重傷でも比較的短期間で集中的に治してしまう…と言う話を…

 けどそれって、確か治療を受けるヒトは人工冬眠的な状態に…」

と思ったとき、この状況の辻褄合わせが出来る答えが浮かんだ。

すると、

「どうかね、気分は…」

と言う言葉と共に俺の担任の杉山先生が顔を出すと、

「普通ならこのまま一ヶ月ほど入院と言うことなんだが…

 それだと色々と問題があってね…」

と言うと、

妙に言いにくそうな顔をしながら、

「まぁ、なんて言うかその…鳥羽君、キミの出席日数がねぇ…」

と担任が言ったところで、

俺は自分の出席日数に余裕がないことに気づいた。

「まぁ、このコトで留年させるわけにもいかず、

 そこでご両親と相談したところ、

 体が完治するまでの間、

 取りあえず替わりの身体を借りてもらうことになってね。」

と説明をした。

「替わりの身体?…やっぱり…!!」

そう思った途端、俺は一気に飛び起きた…

ところが、起きあがると同時に、

バサァ〜っ

黒い何かが俺の顔を覆い瞬く間に視界が遮られてしまった。

「うわっ」

藻掻きながら俺は顔に掛かったそれを引っ張ると、

イタッ!!

それが自分の髪であることはスグに判った。

…髪の毛?

やっとの思いで髪を分けて顔を出すと、

自分の身体の様子が見えてくる。

白く細い腕、

左右に膨らみが盛り上がっている胸…

どう見ても女の子の身体だ。

…女?

そう思ったのと同時に、

バッ!!

急いで股間に手を持っていく…が、

しかし、そこには男のシンボルはなかった。

「おっ、女の子…??

 なっなんで…」

そこでようやく親父が口を開いた。

「実は…だな…祐介っ

 父さんも母さんも、ホントは女の子が欲しかったんだよ、

 なぁ、母さん」

と言うとお袋に話を振った。

「ちょっちょっとお父さんたらっ…

 うん、まぁそぉねぇ…

 女の子なら一緒に買い物は行けるし、

 家事や料理も手伝ってくれるし…ねぇ…」

話を振られたお袋は困惑しながらも

娘の居る生活を俺に説明すると、

「だから、

 まぁお前の為に替わりの身体を借りると決まったとき、

 女の子の体にしようと決めたわけだ」

と親父は俺にコトの経緯を説明した。

「ぬわにぃ〜っ」

俺のイヤそうな表情を見た親父は

「まぁ、そうイヤな顔をするな。

 女の子はいいぞぉ、

 ブルマは履けるし、

 レオタードは着られる、

 それに際どい水着を着て男どもの視線を集めるコトだって出来る。」

指折りながら親父は俺に説得をすると、

「おっ親父ぃ、正気か?」

俺は呆れかえりながら親父を見ていた。

「おっお父さんたら、先生のいる前ではしたない。

 …でも、祐介。

 女の子の生活もそんなに悪くないから、

 ひと月くらいの経験もいいものよ」

「それにしても、

 祐介の保険にレンタルボディの特約をつけておいて良かったじゃないか、

 母さん。」

「そうねぇ…いざ借りるとなると結構掛かるからねぇ…」

等と親父とお袋のとりとめのない会話が続いたのち、

話の切れ目で担任が、

「それでは鳥羽さん、制服を用意して置きますので、

 あとで学校の方まで取りに来てください」

と口を挟んだ。

「ほんと、先生にはご迷惑をかけてばかりで…」

とお袋が礼を言う。

「いえいえ、

 じゃ鳥羽君、一応学校の方は体が治るまでのあいだ、

 女子生徒として通える様なっているから、

 ちゃんと登校するんだよ」

担任は俺にそう告げると部屋から出ていった。

「え?制服って…」

担任の言葉に俺は親父に尋ねると、

「決まっているだろう、

 まさかその身体で学生服を着て学校には行けないだろう」

と親父に言われた瞬間、

俺の脳裏に女子のセーラー服が俺が浮かんだ。

その途端、

「いやだ!!、セーラー服は絶対に着ないぞ!!」

思わず俺は声を上げると、

「祐介っ、

 何を言っているんだ。

 校則では女子の制服はセーラー服に決まっているんだろう?

 校則は守らなきゃぁなぁ」

と妙に浮き浮きした表情で俺にいった。

「ぐっ…………くっそぉ〜、親父てめぇ」

俺は親父をにらんだが、

しかし、親父の顔は相変わらず笑っている。

結局、その日は

借りた身体とのシンクロ率にまだばらつきがあると言う理由で、

一日様子を見ることになった。

そして、翌日、

俺は自分の本体は入院したままの状態で退院した。

が、退院に当たってお袋が持ってきた着替えの服を俺は見て仰天した。

それは…薄いピンク色の生地にリボンやらレースをあしらった、

そぅ俗に「ピンクハウス」と呼ばれるフリフリの衣装だった。

「ぬわんじゃぁ〜コレは…」

衣装を片手に俺は声を上げると、

「祐介ったら、そんな大声を出すんじゃぁありません

 お医者様からも感情を高ぶらせてはいけない。

 って言われているでしょう」

「わかっているけど、こんなもん着られるかよぉ…」

お袋に窘められた俺はそう反論するが、

「しょうがないでしょう、

 お父さんがアチコチ探し回ってやっと買ってきた服なんだから、

 おとなしく着なさい。」

とお袋は俺に言う。

「ちっ、また、親父か〜」

恨めしそうに衣装を見る俺に、

「第一、こうなったのは、

 あたし達の反対を押し切って、

 バイクを買って、

 それで事故を起こした祐介が悪いんだからね。」

そうお袋が俺に言うと

痛いところを突かれた俺は

仕方が無く、手にしたピンクハウスに袖を通そうとすると、、

「ちょっと待った、祐介、その前にコレを着る。」

と言いながらお袋が俺に手渡したのは

なんとブラジャーとパンティだった。

「いくら借り物と言っても、

 女の子なんだから、ちゃんとしなくっちゃダメよ」

お袋の言葉に、

「………」

俺は仕方なくパンティを履くと、

教えられながらブラを身につけた。

なんだか胸の周りがギュと締め付けられて緊張感が走る。

それから、フリフリのピンクハウスを着ると、

「へぇ…なかなか可愛いじゃない。」

とお袋が感心しながら、

「ちょっとそこに座りなさい。」

と言って傍のイスに俺を座らせると

櫛で髪をとかし始めた、

俺は困惑しながら、

「ちょっちょとお袋…」

と声を上げると、

お袋は俺の髪を三つ編みに編みにしながら

「事故でお父さんに迷惑を掛けたんだから、

 少しぐらいお父さんを喜ばせて上げなさい」

と諭すように俺に告げた。

…確かにそう言われると、俺は何も言えなかった。

「よし、出来た。」

そう言われて鏡に映し出された俺に姿は

フリフリの衣装に、

三つ編みのお下げ髪に赤いリボンが可愛らしく飾っている少女の姿だった。

「うわぁぁぁ」

俺の脳裏に親父の舞い踊る姿が目に浮かぶ…

「こっこれは…」

俺は呆然と自分の姿を眺めていた。

「さて、行きましょうか」

そのお袋の一言で俺は退院した。

病院から自宅まではタクシーだったので、

他人には見られずにすんでほっとしたけど。

いざ、家に帰って玄関のドアを開けようとしたとき。

「お帰りぃ、ゆうちゃん」

と言う叫び声と共に親父が勢いよくドアを開けた。

…ゆっ、ゆうちゃん?

「おぉ、すっかり可愛くなって…パパは嬉しいぞぉ」

…パパだぁ?

「さっ、ママ、何をボっとしているんだい、

 スグに記念写真を撮とらなくっちゃ。」

親父はそう言いながら自慢の一眼レフタイプの高級デジタルカメラをセットし始めた。

…おいおい…

俺は涙を流しながらその光景から目をそらした。

そして、

「はいっチーズ」

と言うかけ声と共に俺の姿を写真に収めると、

親父はすぐさま書斎へと引き上げて行くと

パソコンを立ち上げ、画像処理を始めた。

「なっ、なにをしているんですか?」

背中を向ける親父に俺はそう尋ねると、

「ん、決まっているじゃないか、ゆうちゃんの可愛い姿を壁紙にするんだよ」

とあっさりと答えた。

…うわぁぁ〜、親父それだけはやめてくれぇ……


それから親父にさんざん引きずり回された後、

ようやく開放され、

やっとの思いで俺は自分の部屋のドア開けると絶句した。

ドアを開けた俺に目に飛び込んだのは、

まさに少女趣味最大出力全力投入をした部屋だった…

「あははは…」

俺はベッドの上に置かれている大きなクマのヌイグルミに寄りかかるように

へたり込んだ…

しばらくして親父が部屋に来ると

「ゆうちゃん、どうだい?、

 パパが丹誠込めてドレスアップした部屋は、

 気に入ってくれたかな?」

と笑みを浮かべながら尋ねてくると、

「おっ、親父ぃ…

 いいから、今すぐ…

 今すぐ俺のこの部屋を…元にもどせっ」

と怒鳴った。

すると。

「だめだよ、ゆうちゃん。

 女の子が”俺”だなんてはしたないコトを言っては…

 それに…事故を起こしたのは、何処の誰かなぁ…」

と付け加えた。

「ぐっ」

その問いに俺が反論できなくなると、

「そうそう、学校の制服はクロゼットの中だからね」

と言い残して親父はルンルン気分で部屋から出ていった。


「どっ、何処で…こうなったんだ…」

その時、あの憎たらしい顔をしたブチネコの顔が俺の脳裏をよぎった…

「あんのぉ、ネコめぇ…今度見つけたら半殺しにしてやるぅ」

クマのヌイグルミを抱きしめながら俺は叫んだ。


緊張の夕食のあと、俺は疲れた身体を湯船の中に沈めていた。

「へぇ……女の子の身体って…柔らかいモノなんだなぁ…」

短期間に様々なことが一度に起こったので、

俺はまだ自分の新しい身体をじっくりと観察する暇がなかったが、

今にも折れてしまいそうな華奢な身体をしげしげと眺めると、

「大切に使わなきゃな…」

っと思った。


翌日、クロゼットを開けた俺の目の前に一着のセーラー服が揺れていた。

「はぁ…」

再びため息をついて、俺はセーラー服を見る。

今日から女子生徒だなんて…

学校の連中の反応を考えるだけで気が重くなる。

「でも、ひと月もすれば俺は男に戻れるんだ、

 それまでのガマン…」

俺はそう自分に言い聞かせると覚悟を決めてセーラー服に袖を通した…

しかし、なんだか2度と元の世界に戻れないようなそんな予感がした。


そのとき階下の居間では、父親とテーブルを挟んで一人の少女が話し込んでいた。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代…』

そう書かれた名刺を前に、

「ところで、お嬢さん。

 どんな悩みでも解決していただけると聞きましたが、

 どんな悩みも…ですか?」

「はいっ」

父親の前に座っている少女が微笑む。

「実は……」

そう切り出した父親の相談を少女はじっと聞いていた。



つづく
(1999.09.14)