風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

敵は狸編
(番外編:エピローグ)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.512



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。







『メデューサの鏡が封印された信号を受信しました!』

天界・運命管理局内に解き放たれてしまっていた”メデューサの鏡”が

無事封印されたコトを伝える声が響き渡ると、

「ふぅ〜っ」

一斉に安堵のため息が響き渡る。

「はぁ〜っ

 とにかく良かったぁ〜っ」

その報告に力が抜けた銀髪の女神は机の上に崩れるようにして突っ伏すと、

くたぁ〜っ

彼女の横でアレコレ指示を出していた黒髪の女神も同じように突っ伏している。

すると、

コツッ

「良かったですわねぇ、はいっ」

ねぎらいの声と共に二人の女神の横に湯気が立つ湯飲みが置かれた。

「うん?

 あれ?

 こっちに来ていたの?」

その声に銀髪の女神が顔を上げると、

彼女の直ぐしたの妹である金髪の女神が笑みを浮かべて立っていた。

「えぇ…ちょっと所用で、

 でも、大事にならなくて良かったですわね」

「まぁね…」

金髪の女神のそこ言葉に銀髪の女神は頭をかきながら湯飲みをすすると、

「とにかく今回は、あの者達に感謝をしなくっちゃね…」

と呟いた。

そして、地上では…

「かんぱいーぃ!!」

黒蛇堂の地下に広がる倉庫の中に華代の陽気な声が響き渡ると、

「かんぱーぃ」

その声につられるようにして、

天使パラレル、

パラレル配下のシリアルにディディアル、

そして、店主の黒蛇堂と玄武、朱雀、白虎たちが杯を掲げていた。



「はぁ…

 一時はどうなるかと思ったけど、

 でも、なんとか無事、メデューサの鏡を回収できて良かったわ」

口の周りに泡を付けながら華代は喜びに満ちた声を上げると、

「ちょちょっと、

 華代ちゃん、

 お酒、良いの?」

と困惑した表情の黒蛇堂が指摘する。

「ん?

 あぁ、これ?

 コーラよコーラ…」

黒蛇堂の指摘に華代は黒い液体が入ったコップを指差すと、

「ぷはぁ

 あぁ仕事のあとは格別に美味しいですわぁ」

と一気に中ジョッキを煽ったパラレルは感慨ぶかげに言い、

そして

「もしも、あのままだったらどうしましょうかと思いましたわ」

と上機嫌で大きく頷いた。

「もし、あのままだったら…って」

「どうせ、天界の女神を行かせる気だったんだろう?」

「本当に行かせるかな」

「いや、パラレルならやりかねないよ」

そんな話をしながらテーブルに置かれた惣菜の唐揚げをパクつきながら

シリアルとディディアルはヒソヒソ話をする。

すると、

「あのぅ…」

シリアルの横に居た朱雀が話しかけてきた。

「なに?」

朱雀の声にシリアルが振り返ると、

「あの天使の方って、

 ひょっとして、

 上司殺しのパラレルさんですか?」

と朱雀はパラレルを指差し尋ねた。

「うっ」

朱雀のその言葉にシリアル・ディディアル両名の額に幾本もの縦筋が走り、

「はぁ…

 ここまで、パラレルの名前が知れ渡っているよぉ」

とぼやいた。

「いっいやっ」

二人(二匹)のその反応を見た朱雀は慌てて前言を訂正しようとしたとき、

「でもさっ

 なんとか解決できて良かったですね」

と話をさえぎるようにして華代が黒蛇堂に別のコップを手渡しながら話を振ると、

「えっえぇ…」

黒蛇堂はコップに注がれている中身をじっと見ながらそう返した。

「もぅっ

 終わったんだから、

 もっと明るい顔をする!!」

そんな黒蛇堂にハッパをかける様にして華代はそう言うと、

バン!!

っと黒蛇堂の背中を強く叩いた。

しかし、

「えっえぇ

 でも…」

黒蛇堂は口をにごらし、

「結局あたしは何も出来ませんでした…

 あのRBの少女が一人で全てをしてしまいました…」

とメデューサの鏡が発動している体育館の中で出会った少女のこと思い出すと、

口を真一文字に結んだ。

「そうねぇ…

 確かにあの女の子のお陰かもねぇ…

 でもさ、

 だからといって、

 それで黒蛇堂が責められる。なんてことは無いよ」

そんな黒蛇堂の肩に手を置き華代はそう指摘すると、

「でも…」

未だに責任を感じているのか黒蛇堂は言葉を続けようとする。

すると、

ピタッ

華代は黒蛇堂の口に自分の人差し指を当て、

静に首を横に振りながら、

「あの女の子がメデューサの鏡を封印できたのは、

 彼女にその使命があったからよ、

 そして、その使命はあの女の子だけにしか出来ないこと、

 それは、あたしだって何らかの役には立ちたかったし、

 ここに居るみんながそう思っていたことだけど、

 でも、それを成し遂げたのはあの女の子…

 それでいいじゃない。

 黒蛇堂には黒蛇堂の役目があるんだから」

と言う。

「あたしの役目ですか?」

「そう、

 黒蛇堂にはあのメデューサの鏡を天界に送り届ける。

 と言う役目があるよ」

「………」

「あんまり、背負わないほうがいいよ、

 人にはその人にしか出来ないことがあるんだからさ」

考え込む黒蛇堂に華代はそう言うと、

「黒蛇堂さぁぁぁぁん、

 飲んでいますかぁ〜っ」

とすっかり出来上がってしまったパラレルが黒蛇堂に抱きつくと、

その顔をキスをしようとした。

「ぱっパラレル!!」

「おっおいっ、

 もぅ出来上がっているのか?」

「いま、黒蛇堂さんは華代さんと大事な話をしているんだから、

 邪魔をしないの!!!」

赤い顔のパラレルを見たシリアルとディディアルが驚きながら引き離しに掛かると

「あらぁ〜

 いいじゃないですかぁ、

 一仕事終えたことですしぃ

 無礼講ですよ、

 無礼講!!」

コップを持ったままの黒蛇堂に腕を掻け、

空いている手のひらヒラヒラさせながらパラレルはそう言うと、

「だぁからって、ハメ外しすぎだぞ!」

シリアルとディディアルは声をそろえて怒鳴る。

すると、

「ハイハイ、

 堅苦しいことは

 あと

 あと」

パラレルとシリアルたちのやり取りを見ていた華代が

そう言いながら満タンのジョッキをシリアルたちに突き出した。

「………(あのぅ…これを…飲め、ですか?)」

目の前に突き出されたジョッキを見据えながらニ匹は額から汗を流すと、

「なによっ

 華代ちゃんのお酒が飲めないとでも言うの?」

と華代がすごんだ。

「え?

 いやっ

 そう言うわけじゃないけど…」

「一応、

 勤務時間内だし、

 上の許可を取らないとなぁ」

と言いながらシリアルとディディアルは顔を見合わせる。

すると、

「あらぁ、

 上司なら、

 このあたしが許可しましたわぁ、

 さーさ、

 シリアルも、

 ディディアルもぱぁーと飲みましょう」

とパラレルはジョッキを持つなり、

グイッ!!

シリアルの口を無理ありこじ開けると、

その中にジョッキの中身を流し込み始めた。

「うごわぁぁぁ

 ゴボゴボゴボ!!」

シリアルの絶叫が店内に響き渡るが、

しかし、パラレルは一向に止めることは無かった。

そしてついに、

プラン…

シリアルの身体から力が抜け落ちてしまうと

「あらぁ?

 もぅ、終わりですの?」

パラレルは白目を剥くシリアルの頬を2・3回叩くが、

しかし、それでも反応がないと、

「もぅ!」

少し膨れっ面をしながら、

チラッ!

っと無傷のディディアルの方を見た。

「え?」

パラレルの視線にディディアルは1歩・2歩下がり、

「おっ俺は、

 酒はダメなんだぁ」

と叫びながら脱兎の如く飛び出していった。

「おまちっ!!」

バサッ!!

逃走したディディアルを捕まえようと、

パラレルは羽を広げ飛んでいく、

「うわぁぁぁぁぁl!!!」

「ふふふ…

 逃がさないですわぁ…」

「ひぇぇぇぇぇ!!」

必死で逃げるディディアルをパラレルの姿はまさに魔族を思わせる姿で追いかける。

「いやだぁぁぁぁ

 死にたくなーぃ」

ディディアルは泣き叫びながら逃げ惑い、

そして、あるものの影へと逃げ込んだ。

すると、

ヒョイ…

いきなりディディアルの身体が持ち上げられると、

「なんだ、もぅ祝杯かパラレル…」

とアーリィの声が響き渡った。

「え?」

思いがけないアーリィの声にディディアルが上を向くと、

「まったく…」

呆れ顔のアーリィの目がディディアルを見下ろした。

「あっアーリィ様!!!」

まさに地獄で女神にあったかのような表情でディディアルは叫ぶが、

しかし、

「ほらっ」

「え?」

アーリィは手にしたディディアルをパラレルに手渡し、

そして、

「私の方もいま終わったところだ、

 一杯貰おうか」

と言いながら席に付き、

「おいっ

 お前達も遠慮するな」

と声を上げた。

すると、

「あっどうも…」

「お邪魔します…」

という声と共に、

巫女装束姿の巫女神沙夜子と夜莉子、

そして、久瀬桜子と一人の少女が招かれた。

「あっテーブル出しますね…」

「惣菜あったっけかな…」

新しい参加者の姿にばたばたと朱雀や玄武たちが動き、

そして、瞬く間にセットを終えた。

「んじゃっ

 改めましてかんぱーい」

アルコール入りや

ノンアルコールの飲み物が入ったジョッキが中を舞い、

そして、皆の口元にへと向かっていく。



「へぇぇぇ、

 そうなんですか」

「そうよ、もぅ、夜莉ちゃんたら

 あたしの足を引っ張ったんですよ」

「仕方が無いでしょう、

 あの時はそうしないとならなかったんだから」

「しかし、

 あのお店の地下にこんなところがあっただなんて…」

「はぁ…

 とにかく幼稚園児から一歩前進か…」

「なぁに、スグに大人にしてあげるわよ、

 このお姉さんが…」

「ちょっと、

 その唐揚げ、あたしのよっ」

「きゃはは…、

 そぉれっ!!」

「こらぁ、宴席で力を使うな!!」

「……………」

「ふぅ…」

賑やかな宴から逃れるかのように席を立った黒蛇堂は、

トントントン

っと階段を上がっていくと、

キィ…

黒蛇堂の表へと出て行った。

ヒュォォォ…

表に出た途端、夜風が黒蛇堂に拭きつけ、

上気した彼女の肌から体温を奪っていく。

「はぁ…

 人にはそれぞれの役目か…」

月を背景に浮かぶ浮城を眺めながら

華代に言われたその言葉を黒蛇堂はそう呟いていると、

「どうも、こんばんわ…」

という男性の声が響いた。

「え?」

その声のした方向を黒蛇堂がみると、

スッ

月の光にメガネを輝かせ、白衣姿の男性が壁にもたれ掛りながら手を上げた。

「あっどうも…」

手を上げた男性に黒蛇堂は軽く会釈をすると、

「月は良いですよねぇ…

 こうして、眺めていると

 いろんな悩みがばかばかしく感じる…

 はぁ…

 なんか、こう、

 心が洗われる様な…

 そんな気がしますよね…」

と月を眺めながら男は言う。

「えぇ…

 そうですね…」

男の言葉に黒蛇堂はそう返事をすると、

静に目を閉じ、夜風と月明かりに身体を任せた。

昼間のあの体育館で見た光景が懐かしく思い出される。

そして、

「そうだ、今度…

 彼女に逢ったとき、

 お礼を言わなくては…」

メデューサの鏡を封印終えた少女の姿を思い浮かべたとき、

黒蛇堂はそう決心すると、

「黒蛇堂さま…」

と玄武の声が彼女の耳元で響いた。

「どうしました?」

玄武の声に黒蛇堂は返事をすると、

「はいっ

 さきほどラサランドス城・サーラ姫様の使いが見え、

 明朝、謁見の間にてお会いになるそうです」

と玄武は黒蛇堂に伝えた。

「そうですか」

「黒蛇堂さま…

 いよいよですか…」

「そうですわね、

 やっと、あの浮城に入れますね」

黒蛇堂はそう言うと再び浮城を見つめた。



「ふっ…

 残念…

 実験台にはもってこいの素材だったのに…」

黒蛇堂が店内に去ったあと、

彼女の隣に居た男はそう言うと手にしていた注射器より、

ピュッ!!

とひと吹き液体を吹き上げさせる。

そして、

「はぁ、

 この世界の月も綺麗だ…」

と呟くと、

中空に浮かぶ月をじっと見つめた。

彼の名はDrナイト…

なぜ彼がこの地に居るのか、

そして、謎の多い彼の正体とは…(そのうち明かされるでしょう)



その頃…

ナーォ!!!

野良猫の鳴き声が響きわたる崩壊した県立体育館では、

「よいしょっ!!」

「あっ居た居た」

パキパキ!!

バシャバシャバシャ!!!

気絶をしたままの人魚を見つけた真奈美は

持ってきたペットボトルの蓋を開けると、

一気に人魚の顔に振りかけた。

「うわっ

 ぷぷぷ!!」

突然降り注いできた水に人魚・カナが飛び起きると、

「おーぃ、

 生きているかぁ?」

ツンツン

と真奈美は棒でカナの身体を突付く。

「なっ

 なにをするっ!!」

真奈美の行為にカナが怒鳴り声を上げると、

「終わったから水精の鏡を回収に来たのよ、

 ほらっ

 カナもいつまでも人魚で居ると、

 あの猫達の餌になっちゃうわよ」

アッケラカンとした口調で

ギラリと目を輝かせる猫の群れを指差す。

「え?

 ねっネコぉ!!!」

すっかり猫の群れに取り囲まれていることにカナが驚くと、

「ほーらっ」

と言いながら真奈美はカナの腕を引っ張り、

ついでに水精の鏡を拾い上げると、

「行こう!!」

とカナに向かって告げた。

「うっうん…」

真奈美のその言葉にカナは頷くと、

ヨイショ

腰を落とした真奈美はカナを抱き上げる。

「え?

 まっ真奈美…」

真奈美の思いがけない行動にカナは驚くと、

「たまには良いじゃないの?

 こういうのって…」

真奈美は驚くカナにそう言い、

「うっうん」

恥ずかしいのか顔を赤くするカナをよそに

真奈美はゆっくりと体育館から立ち去っていった。



「あっ!!

 ところで、華代ちゃん」

「どうしたの、黒蛇堂?」

「あの、RBの女の子、

 あたし達のこと知っている知ってしまったけど大丈夫なの?」

「あぁそれでしたら、大丈夫ですわぁ、

 明日になればあたし達のことはすっかり忘れていますからぁ」

「えっ、パラレルっ

 まさか、記憶操作をするのか?」

「いえっ、

 操作をするのは天界の女神様達ですわぁ〜…」

「そっそれって…(ディディアルどう思う?)」

「不安だ…」



おわり