風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

敵は狸編
(最終話:ひとときのさよなら(後編))

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.511



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。







ゴワァァァァァァ…

体育館の表で巨大な力による鬩ぎ合いが繰り広げられている頃、



フォォォォォン…

「くっ

 何が…

 一体どうなっているんだ?」

俺はそんな文句を言いながら

灰色の靄のようなものが立ちこめている試合会場を這うようにして進んでいた。

どうやらヒミコはあの閃光を浴びた途端活動を停止したらしく

いまは俺の自由に身体が動くものの、

しかし、立ち込めるこの靄の中では思うように進むことは出来なく、

「おいっ

 琴美っ

 どこに居る?

 ったくっ

 狸小路のヤツもとんでもないことをしてくれたもんだ」

と文句を言いながら琴美の姿を探しているものの、

しかし、誰一人の気配を感じることが出来なかった。

「どうなっているんだ?

 一体…」

這いずり回り始めて既に20分以上が経過しているはずだが、

まるで人の居ない荒野を進んでいるようなそんな錯覚にとらわれたとき、

「そんなに力を使って大丈夫なの?

 華代ちゃん?」

という女性の声が響くと、

「黒蛇堂こそ、

 しっかりとあとについてきてよ」

と追ってその女性とは別の少女の声が響いた。

「あっ

 誰か居るんだ?」

その声を聞いた俺はゆっくりと立ち上がると、

「おいっ

 誰か居るのか?」

と声を上げた。

すると、

「ねっねぇ…

 いま人との声がしたよ」

と俺が上げた声に怯えるような声が響き、

「まさか、

 黒蛇堂の空耳よ、

 メデューサの鏡が発動している中で

 生身の人間が居るわけないでしょう」

と窘めるような声が追って響く。

「生身の人間って…

 え?

 一体何が…」

彼女達の言葉に俺は背筋を寒くしながら、

「こっちか…」

声が響いた方向を確認すると、

タタッ!!!

「ねぇ

 君達、

 いまの話って一体何?」

と俺は尋ねながら走り寄って行った。

すると、

ブワッ!!!

俺の視界を遮っていた靄がいきなり晴れるのと同時に、

「ひっ」

「きゃぁぁぁ!!」

俺の姿を見て悲鳴をあげる二人の少女の姿が目に飛び込んできた。

「え?

 あっあのぅ…」

少女達のオーバーすぎるアクションに

俺はその意味も判らず間抜けな返事をすると、

「きゃぁぁぁぁ!!」

二人は互いに抱き合いさらに悲鳴を上げた。

「ちょちょっと…

 おっ俺、

 君達に何かした?」

悲鳴をあげる二人に俺は戸惑いながら声をかけると、

「あっ

 あなた、なんで動けるの?」

と黒服を着た少女が俺に向かって言う。

「何でって…

 言われても…」

黒服の少女の言葉に俺は言葉に詰まらせると、

ジッ

黒服の少女に抱きついていた白いワンピース姿の少女が俺を見つめ、

そして、

「!」

何かに気づいたのか、

黒服の少女から離れると、

トコトコ

と俺に近寄ってきた。

「なっなに?」

正面に立つ少女に俺は声をかけると、

「あなたのその身体…

 レンタルボディですね」

と少女は俺に質問をする。

「そっそうだけど」

少女なのに威圧感のある眼力に俺は押されるようにしてそう返事をすると、

「しかも、ただのレンタルボディではないですね。

 強い力を感じますし、

 その力がメデューサの鏡の威力を押し返しています。

 だがら、この状況でも石にならず動けるのですね」

と少女は指摘をする。

「いっ石に?」

少女のその言葉に俺は驚くと、

スッ

少女は俺から少しはなれ、

そして、大きく両手を挙げると、

「それぇぇぇぇぇ!!!」

と掛け声を上げた。

すると、

ブワッ!!!

少女を中心にして突風が噴出すなり、

たちまち周囲に立ち込めていた靄を吹き飛ばしていくと、

これまで靄で見えていなかった試合会場内の様子が姿を見せてきた。



「なっ

 なに!?」

立ち込めていた靄が消え姿を見せた試合会場の惨状に俺は目を剥く、

「判った?

 これがメデューサの鏡の威力よ」

と黒服の少女が驚く俺に告げた。

「そんな…

 そんな…」

同じ言葉を繰り返す俺の視界には

逃げる途中で石化してしまった人間たちが無言のまま佇ずみ、

そして、さっき俺を攻撃しようとしていた巨大なロボットの前では

少女の石像と光を放つ鏡を持つ老紳士の石像が立っていた。

「そんな…

 そんな…

 ばかなぁ!!!」

まるで、忘れ去られた神殿の中に居るような中を俺は叫びながら走り始めたとたん、

ユラッ…

ロボットが揺らめくように動くと、

ストン!!

ズシン!!!

っと試合会場に落下し、体育館の一部を破壊してしまった。

「うわっ!!」

その衝撃により飛び散ってきた細かい破片に俺は体を庇うとしたとき、

ゴンッ!!!

ドタン!!!

俺はある石像に脚を引っ掛けるとその場にひっくり返ってしまった。

「いたたたた!!!」

痛む足を庇いながら起き上がると、

「こっ琴美…」

すると、そこには他の者達と同じ石化してしまった琴美の姿があった。

「そんな…

 なんで…」

変わり果てた琴美の姿に俺は震える手で彼女の顔を撫でていると、

「パラレルっ

 早く!!」

「そんなこと言われましても…」

と言う声と共に、

2匹のネコと背中から羽を生やして空を飛ぶ女性・天使が視界会場に飛び込んできた。

すると、

「あっ、

 パラレル!!!」

その天使の姿を見たさっきのワンピース姿の少女が声を上げると、

「あらぁ

 華代ちゃん!!

 それに黒蛇堂も…」

と天使は嬉しそうに叫びながら羽をパタパタさせ飛んできた。

本来なら俺はここで驚くはず構図なのだが、

しかし、そのときの俺は琴美が石にされてしまったことのショックでそれどころではなかった。



「もっ申し訳ありません」

パラレルと呼ばれた天使が傍に降り立った途端、

黒蛇堂と呼ばれた黒装束姿の少女は頭を下げる。

「う〜〜ん、

 どうしましょう」

頭を下げる黒蛇堂にパラレルは困った顔をすると、

「この責任は私にあります。

 私がメデューサの鏡を封印いたします」

と黒蛇堂はパラレルに言う。

すると、

「ちょちょっと、黒蛇堂、

 メデューサの鏡を封印するって、

 それって…」

それを聞いた華代が声を上げると、

「仕方がないわ、

 全ては私の不注意からおきたこと、

 責任は全て私にあります」

と黒蛇堂が言いきる。

ところが、

「あら、

 でもそれを言うのなら、

 天界の管理ミスで黒蛇堂さんのところに
 
 メデューサの鏡を送ってしまったのが一番の原因ですからぁ

 天界の人が封印しに来なければいけませんわ〜」

黒蛇堂の話を聞いていたパラレルはそもそもの発端は天界にあることを指摘する。

「おっおいっ

 責任者に出て来いって言ったら…」

「あの女神にここに来いっていうのかよ」

パラレルの指摘にシリアルとディディアルの2匹は冷や汗を流しながらそう呟くが、

しかし俺にはそんなやりとりにはどうでも良く、

ゆっくりと立ち上がると、

「なぁ…

 どうすれば琴美を元に戻せるんだ?」

と彼女達の方を振り返らずに尋ねた。

すると、

「それは簡単ですわぁ

 あそこで輝いてる鏡を封印すればいいのですわぁ」

とパラレルと呼ばれた天使は落ちたロボットの前で未だに輝き続ける鏡を指さした。

「あれを、

 封印?」

鏡を睨み付け、俺は聞き返すと、

「えぇ…

 あのメデューサの鏡を封印してしまえば、
 
 皆さんを石にしている魔力は消え、
 
 なにもかも元通りですわぁ」

とパラレルは返事をする。

「判った、

 俺が封印してくる」

パラレルの言葉に俺はレオタードの袖をめくりながら一歩前に進もうとしたとき、

「ちょっと待った!!!」

と言う声と共に2匹のネコが俺の前に立ちはだかった。

そして、

「君っ

 メデューサの鏡の封印ってどうするのか知っているのか?」

と黒ネコの方が俺に尋ねた。

「え?」

黒ネコのその言葉に俺は呆気にとられると、

「まったく…

 そんなことも知らないで封印しようと言うのか、
 
 バカというか、
 
 無謀というか」

俺の反応を見た白ネコが小バカにしたようなセリフを呟くと、

「バカで悪かったな!」

白ネコの言葉に俺はふくれっ面をしながら文句を言い、

プイッ!

と横を向いてしまった。

「いいか、

 メデューサの鏡は人の魂が持っているエネルギーと言うか時間を好むんだ。

 だから、あぁして手当たり次第
 
 人々の時間を奪って石にしてしまったんだよ、
 
 もし、メデューサの鏡を封印するとなると、
 
 誰かがメデューサの鏡の中に飛び込み、
 
 自分の魂でもって鏡の蓋となららなければならないんだよ
 
 それの意味判るだろう…」

そんな俺に向かって黒ネコは俺に説明をする。

「自分の魂でもって…

 じゃぁそれじゃぁ…」

黒ネコの説明に俺は衝撃を受けると

「そう、誰かが犠牲にならなければならないんだよ」

「メデューサの鏡の封印とはそう言うものだ」

と白と黒のネコは結論を言う。

「さて、どうしましょうか…」

ネコたちの言葉を受けて華代は思案顔になると、

「さきほどこの体育館の周囲に水縛結界が張られましたから、

 取りあえず一安心ですわぁ…」

と外の方を見たパラレルは言う、

「水縛結界って?」

「そうか、天界の女神が竜宮の乙姫に頼み込んだな…

 まったく無茶を…」

「さて、どれだけ持ちこたえられるかな…」

「さぁ、でもそう長くは持たないと思うぞ」

パラレルのその言葉を受けて2匹のネコはそう言い合うと、

「竜宮?

 乙姫?」

呆気に執られている俺を他所にパラレルたちは話を進め、

やがて、

「私がいきますっ」

と黒服の少女・黒蛇堂が声を張り上げた。

「え?」

黒蛇堂の声に皆が一斉に彼女を見ると、

「さっきも言いましたとおり、

 そもそもは私の不始末が始まったこと、

 責任は私にあります」

と黒蛇堂は言い切ると一歩前に出る。

「あっ、お待ちになって、

 それを言うなら、

 一番の原因は天界にありますから、天界で何とかして貰いましょうよ」

前に出た黒蛇堂に向かってパラレルが今回の事件の大本を指摘すると、

「おいっ

 パラレル…
 
 君は自分が天界の天使と言うことを知っていてそれを言うのか?」

と白ネコは呟いた。

「だぁって、

 その為に責任者が居るんでしょう?

 責任者はこういうときにこそ責任を全うすべきだとあたしは思うんですがぁ…」

「そっそれはそうだけど、

 でも、それを言ったらアーリィか、

 あの女神達に犠牲になれって進言するつもりなのか?」

「う〜ん、

 そうですわねぇ…
 
 でも、この場合はそう言うのもアリじゃないんですかぁ?」

「……(コイツ…マジで上司を殺す気だ…)」

パラレルその言葉に白ネコ・ディディアルは冷や汗を流していると、

ズズズン!!!

体育館を揺るがす振動が響き渡った。

「マズイ!!

 水縛結界がそろそろ限界のようだ、

 早く何とかしないと」

それを聞いた黒ネコ・シリアルが声を上げる。

すると、

ダッ!!

光り輝くメデューサの鏡に向かって黒蛇堂が走り始めた。

「黒蛇堂!!」

それを見た華代が後を追おうとしたとき、

「俺がいく!!」

俺はそう声を張り上げると、

先を走る黒蛇堂に向かって飛び出し、

そして、

「はっ離してください!!」

そう叫ぶ彼女を捕まえると、

「コイツを離すな華代っ!!」

と叫びながら俺は黒蛇堂を華代の方へと突き放すと、

光り輝くメデューサの鏡に向かって走り出した。

もぅ迷いは何もない。

そして、石化した老人が持つメデューサの鏡の前に立った俺は、

「ヒミコ!!

 俺に力を貸せ!!!
 
 こういうときこそお前の力が必要なんだよ」

と俺の中に居るヒミコに向かって叫び声を上げた。

すると、

トクン…

俺の胸が高鳴り、

『よかろう…』

ヒミコからの声が返ってきた。

「ヒミコ…お前…」

『あの鏡の力を浴びた途端、

 わたしの力は消えてしまったが、

 ふっ

 どうやら、
 
 本当に私の出番が来たみたいだな…』
 
「あぁ、そうだよっ

 俺に力を貸せ、
 
 俺の魂をあの鏡に押し込んでくれ!!」

とメデューサの鏡の前に来た俺はヒミコに言う。

ところが、

『いやっ

 行くのは私だ…』
 
「え?」

ヒミコから返ってきた言葉は意外なものだった。

「ヒミコ、お前…」

『どうやら、私が覚醒するにはまだ早すぎたようだ、

 あの時、この鏡の力がなければ私は自分の力で潰されていただろう、
 
 そして、私の父をまた悲しませることになる…
 
 ふふっ
 
 私にはまだゆっくりと成長しなければならないことが判った。
 
 祐介…
 
 お前には色々迷惑を掛けたな…
 
 今度逢うときはもっと抑制の利いた姿で逢おう』

ヒミコは俺に向かってそう言うと、

ブンッ!!!

俺の体から一斉に金色のオーラが吹き上がりはじめるが、

シュル

シュルシュルシュル…

俺の身体から吹き上がるオーラをメデューサの鏡はまるでブラックホールの様に飲み込み、

そして、さらにもっとよこせと要求をする。

「おっおいっ

 ヒミコ!!
 
 父って一体誰だよっ」

そんな貪欲なメデューサの鏡を見下ろしながら俺はヒミコに向かって俺は声を上げると、

『私を作り、育んでくれた、

 鳥羽俊介…

 以前、父は私に身体を与えてくれたが、

 しかし、私はそれを使いこなすことは出来なかった。

 そして、今回も…』

ヒミコはそう告げると、、

ズムッ!!!

俺の体の中から金色をしたボール状の物体が飛び出す。

「ヒミコ…」

『さぁ、我に付き従う僕達よ!!

 今こそわれの前に集え!!』

俺から飛び出したヒミコは叫び声を上げると、

ゾワッ!!!

いきなり無数の気配が体育館内に沸き起こり、

そして、

ゴッ!!!

細かかな光の粒子が一斉にヒミコに向かって集まり始めた。

「こっこれは…」

その様子に俺は驚くと、

『ふふふふ…

 この体育館に集うRB達…の心…』

ヒミコはそう返事をした。

「RBたちの心って…」

『そう、RBには1体1体、心がある

 人間達はそれに気がつかないだけだ、
 
 鳥羽祐介、
 
 お前にこのRBたちの心の姿が見えるのは、
 
 お前の魂がRBと素直に向き合っているからだ』

「おっ俺がRBを素直に…向き合う?」

『ふふ…

 期待しておるぞ、
 
 お前は私なのだからな
 
 さらばだ、鳥羽祐介

 また逢おう』

ヒミコはそう言い残すと、

体育館の中を漂う無数の光の粒を一気に集め、

そして光り輝くメデューサの鏡の中へと飛び込んでいった。

すると、

ヒュンッ!!!

あれほど光り輝いていたメデューサの鏡が放つ輝きが一気に消え失せ、

「いっいまですっ

 祐介さん。

 その下に落ちている蓋で封印してください!!」

とパラレルの叫び声があがった。

「わっ判った!!!」

心の中の喪失感を感じながらも俺はそう返事をすると、

石像の下に落ちている素早く蓋を拾い上げ、

パコン!!

っと光の消えたメデューサの鏡に覆い被せた。



「…………」

長い無言の時間が過ぎていく、

まるで自分が石化してしまったかのような感覚の中、

パチパチパチ

パチパチパチ

拍手が響き渡ると、

「お見事!!!」

と俺を讃える声が追って響いた。

「え?」

ギュッ!!

っと蓋を押し当てたままだった俺はその言葉に振り返ると、

「やれやれ、

 なんとか無事丸く収まりましたわね」

と天使・パラレルが俺の労をねぎらい、

その一方で、黒蛇堂が深々と頭を下げ。

「ありがとうございました」

と俺に向かって礼を言う。

「いっいやぁ…

 そっそれほどでも…」

黒蛇堂のその言葉に俺は気恥ずかしいものを感じながら返事をするが、

しかし、

「なぁっ

 メデューサの鏡を封印したのに

 まだ琴美が戻らないぞ…」

っとメデューサの鏡の封印したにもかかわらず、

石化したまま琴美を俺はジッと見据えながらそう声を上げる。

すると、

「そうですわねぇ…」

封印されたメデューサの鏡を抱きしめながらパラレルは思案顔になり、

そして、何かを思いつくと、

「そうですわ、

 眠り姫を起こすには王子様のキスが必要ですわ」

と声を上げた。

「え?」

パラレルのその声に俺は驚くと、

「あっでも、女の子同士ですからどうでしょうか?」

とレオタード姿の俺を見ながらそう呟く、

けど、

ゴクリ…

パラレルの言葉を真に受けた俺は生唾を飲み込むと、

「琴美…」

俺は光を失ったままの琴美の目を見つめる。

すると、

「さーさ、

 王子様、早く眠りの姫を起こしてあげなさいよ」

と華代が俺の背中を突っついた。

「あっあのなぁ」

華代のこの言葉に俺は声を上げると、

「とにかくだ、

 この状況の解決にはキスが必要なのだよ」

「そーそ、

 ちゃっちゃっとする」

と白ネコのディディアル、黒ネコのシリアルが嗾けてくる。

「琴美」

煩い外野を無視した俺は再度琴美を見て、

そして意を決すると、

ゆっくりと跪き、

そして、彼女の唇に自分の唇を重ね合わせた。

「おぉ!!!」

俺の行為に後から驚きの声が響き渡る。

一瞬の時間が長く感じられる。

すると、

ピクッ!!

琴美の肌に動きが感じられた途端。

バッ!!

いきなり唇が引きはがされると、

バシン!!!

強烈な平手打ちが俺の頬を直撃した。

「痛い!!!」

いきなり熱湯を浴びせられたようなその痛みに俺は叫び声を上げると、

「こらぁ!!!

 何をしているのよアンタはぁ!!!」

と琴美の怒鳴り声が響き渡った。

「え?」

琴美のその声に俺は驚くと、

「やだぁ」

「キスよキス」

「良くこんなところで…」

「あっあれ?」

俺の周囲にはさっきまで石にされていたはずの新体操部員達や大会関係者、

そして狐川・狸小路両軍の兵士などがが集まり

興味津々と言った表情で俺を見ていた。

「なっ

 なに?

 これ」

一変した周囲の状況に俺は戸惑いながらも、

さっきまで傍に居たはずの天使・パラレルや黒蛇堂、そして華代の姿を探すが、

しかし、まるで蒸発してしまったかのように幾ら探して見ても彼女たちの姿はなく、

「こらぁ!

 一体、どういうつもりなの〜っ?」

その変わりにものすごい剣幕の琴美が俺に迫ってきた。

「え?

 あっいやっ
 
 それは…」

必死で弁明しながらも俺は全てが元通りに戻った世界の様子に安堵をすると、

ジワリ…

目頭に熱いものを感じた。

「なによっ

 何も泣く事はないでしょう」

目を潤ませる俺を見た琴美は呆れた表情をしながらそう言うと、

「うっうるせー、

 色々あったんだよ、

 こっちは!!!」

そんな琴美に俺は虚勢を張りながら言い返した。

しかし…

ドドドドドドドドドドド!!!!

そんな雰囲気をぶち壊すかのように、

何かが崩壊するような音が響き始めると、

ビリビリビリ!!

体育館全体を大きく揺らし始めた。

「なっなに?」

その音に皆が驚いていると、

ドワッ!!!

試合会場の全ての出入り口から水と共にバレリーナの大群が押し流されてきた。

「なっなんだぁ!!!」

「水だぁ!!」

「きゃぁぁぁ!!!」

押し寄せてきた水を見た俺は琴美を抱きかかえ逃げ惑いはじめると、

「うわっ

 なんだこれは!!」

タヌキオングのコクピットを開けて驚くレオタード姿の千代彦が目に入った。

「狸小路!!!」

それを見た俺は一気に闘志が沸くと、

「琴美っしっかり捕まっていろ!!」

と言うや否や、

シュルリ

新体操の手具・リボンを操り、

試合会場の真ん中で鎮座したままの狸小路のロボット

モビルスーツ・タヌキオングの角に引っ掛けると、

反動をつけ一気にジャンプした。

ヒュンッ!!!

俺と琴美は宙高く飛び上がり、

そして、舞い上がる。

シュルシュルシュル…

風の音を聞きながら、

俺は千代彦を見据えると、

「これで終わりだ!!!!」

と叫びながら、

タヌキオングのコクピットへと飛び込んでいった。

ゲシッ!!!

その直後、鈍い音が響き渡ると、

シュルルルルルルル…

白目を剥いた千代彦がバレリーナが渦巻く水の中へと落ちていく。

『勝負あり!!

 勝者っ

 鳥羽!!』

いつの間にか天井から下がる照明器具に捕まっていた審判が俺の勝利を告げると、

「ふぅ…

 手ごわい敵だった!!」

俺は汗を拭い去ると、この戦いの終わりを実感していた。

こうして、俺の県立体育館を舞台にして戦いは終わったが、

しかし、その食後体育館は使用不能状態に陥り、

狐川と狸小路との意地のぶつかり合いの場だった新体操大会は

1勝0敗で狐川の勝利で終わることになった。



「ただいまぁ〜」

その日の夕暮れ、

疲れ果てた体を引きづるようにして俺が自宅の玄関のドアを開けると、

「あら、お帰り…

 試合大変だったわねぇ…」

とお袋は俺の労をねぎらう。

「なぁ色々とな…

 親父は?」

お袋の言葉に俺はそう返すと、

「あっあぁ、

 祐介よりも先に帰って来たけど、

 でも、なんか元気が無いのよ」

とお袋は俺に尋ねてきた。

「ん?

 そう?」

お袋の質問を俺は適当にかわすと、

トタトタ

軽い足音をたてながら親父の部屋へと向かい、

そして、

「親父、居るのか?」

俺はドア越しに親父に声を掛けた。

「なんだ…」

部屋の中より親父の返事が返ってくると、

「入るぞ」

と俺は言いながら親父の部屋へと入った。

しかし、

親父は振り返りもせずに、

カチャカチャ

っと目の前のパソコン向かい何か作業をしていた。

「あのさっ

 ヒミコから伝言、

 ”また逢いましょう”ってさ
 
 確かに伝えたぞ…」

パソコンに向かい作業を続ける親父に向かって俺はそう言うと、

ピクッ

親父の背中がかすかに動き、

「そうか…」

と一言返事をした。

「………」

無言の時間が過ぎていく、

そして、それを破るようにして、

「あのな

 今度実験をするときは、

 俺を踏み台にするなよっ

 ヒミコは親父と直接話をしたかったんだからな」

と俺は言い残すと、

トタタタタタタ…

軽い足取りで階段を駆け上がっていくと自分の部屋へと入る。

そして、

セーラー服を脱ぎながら、

「さて、

 俺の体が治るあと少しか……」

窓から見える夕暮れの景色を見つめながらそう呟くと、

「それまで、よろしくな

 ヒミコ…」

ペチンッ!!

俺は眼下に見える白くて柔らかいRBを軽く叩いた。



おわり



次回予告
一つの物語は無事終わりを告げることができた。

しかし、それはあくまで俺・鳥羽祐介の物語であって、

今回の物語で俺を助け、

そして動いてくれていた人々の話はまだ続きが残っている。

次回「敵は狸編・番外編:エピローグ」お楽しみに…


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