風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

敵は狸編
(第8話:発動・メデューサの鏡)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.509



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。







西暦199x年・都内某研究所…

「よしっ

 どうだ、ヒミコ、
 
 いまの気分は?」

カチッ!

カチッ!

マウスを滑らせながらある処理を雪村忠がスタートすると、

『そぉですねぇ…

 これは、気持ちいい…
 
 と言うものでしょうか?』

とスピーカーを通じてヒミコは返事をした。

「へぇ…

 お前の口からこんな言葉が出るだなんてな」

ヒミコの返事に忠は呆れ半分にそう言うと、

『わたしがそのようなことを言ってはいけないのでしょうか?』

とヒミコは忠に尋ねた。

「いや、いい。いけない。

 じゃなくて、
 
 俺は人工知能であるヒミコ、
 
 お前が人と同じような感覚について言ったことを言っているんだよ、
 
 それにしても、鳥羽の奴、
 
 ヒミコをマジで人間並みにさせる気なのかなぁ…」

ヒミコが稼働している処理ユニットを眺めながら忠はそう呟くと、

『私は人間です』

とスピーカーから声が響いた。

「え?

 おっおいっ
 
 ヒミコ、お前何を言い出すんだよ」

ヒミコが叫んだその言葉に忠は驚きながら目を剥くと、

『私は人間です。

 私には感情があります。
 
 私には知能があります。
 
 私には…』

とまるで訴えかけるようにヒミコは叫び続ける。

「まっなんだぁ?

 暴走したのか?」

叫び続けるヒミコの声に恐れおののきながら忠はそう呟き、

そして、処理ユニットの電源ボタンに触れようとしたとき、

『それに、触るなっ!!』

とヒミコは怒鳴った。

「なっ

 なに?」

ヒミコの怒鳴り声に忠の手は一瞬止まるが、

しかし、スグに、

「この野郎…

 俺に命令するとは…」

気分を害した忠は口をへの字に曲げ、

パチン!!!

っと処理ユニットの電源を落としてしまった。

すると、

『ぎゃぁぁぁぁ……』

まるで断末魔を上げるかのようにヒミコは絶叫し、

そのまま沈黙をしてしまった。



「全く、

 なんだあの言いぐさは…」

ヒミコの沈黙後、

忠はブツブツ文句を言いながらヒミコのデータチェックを始めだした。

そして、1時間近くが過ぎたとき、

「あれ?

 書き換わっている…」

忠はヒミコデータの一部が改変されていることに気づくと、

慌てて、他の部分をチェックし始めた。

そして、

「うわっなんだこれぇ!!」

と叫び声をあげ、

ガタン!!!

っとまるで逃げ出すかのように席を立った。

とその時、

ガチャッ!!

研究室のドアが勢いよく開かれると、

「おーぃ、ヒミコ

 喜べ!
 
 お前の体の目処が付いたぞ!」

と声を弾ませながら忠の同僚である研究員・鳥羽俊介が飛び込んできた。

「おっ

 とっ鳥羽」

俊介の姿を見た忠は彼に声を掛けると、

「ん?

 どうしたんだ?
 
 顔が青いぞ」

と俊介は忠の顔色が青いことを指摘する。

「あっ丁度良かった、

 こっこれを見ろ!!」

忠はそう言いながら俊介の腕を引くと、

グィッ!!

とディスプレイに顔を近づけさせる。

「これがどうかしたか?」

ディスプレイに映し出されているデータを見ながら俊介が忠に聞き返すと、

「お前、

 これを見て何とも思わないのか!」

と忠は怒鳴った。

「はぁ?」

「よく見ろ、

 勝手にデータが書き換わっていっているんだよ、
 
 ヒミコが変なことを言い出したので調べてみたら、
 
 この有様だ、気持ちの悪い…」

ブルッっと体を振るわせながら忠はそう文句を言うと、

「すっすごい…」

気味悪がる忠に対して俊介は興奮したような目つきでデータを眺めていた。

「おっおいっ

 お前、何を言い出すんだ」

俊介の思いがけないその言葉に忠は耳を疑うと、

「そうか、そうか、

 ヒミコめ、
 
 ついに自我を持ち始めたか」

俊介はそう言いながら目を輝かせ、

そして、

「雪村、

 喜べ、
 
 予算が付いた。
 
 現在開発中のレンタルボディ・RBにヒミコを乗せることが決定したぞ」

と俊介は説明する。

「RBに?」

「あぁ、

 なんでも、有機体のロボットとしての実用性を調べるとかでな」

コップに注いだウーロン茶を一気に呷りながら俊介はそう言い、

そして、

「よーしっ

 これで思いっきりアピール出来るぞ、
 
 有機体ボディの心を持ったOS、
 
 まさに理想的な組み合わせじゃないか、
 
 なぁ、そうは思わないか」

と忠に同意を求めるが、

しかし、

「………」

上機嫌の俊介に対して忠は少し浮かない顔をしていた。

「ん?

 どうしたんだ?
 
 少しは喜べよっ
 
 俺たちの研究が評価されるんだよ、
 
 大手を振って歩けるようになるんだよっ
 
 これに成功すれば世界中に俺たちが作ったヒミコが活躍し、
 
 そして俺たちは大金持ちの上級幹部だ、
 
 もぅ、こんな狭い研究室とはオサラバ出来るんだよ」

浮かない顔の忠に俊介はバラ色の未来を説くが、

少しの沈黙後、

「……なぁ…

 鳥羽…」

忠はそう切り出すと、

「ヒミコはこの辺で止めた方が良いんじゃないか?」

と告げた。

「え?

 いきなり、何を言うんだよっ
 
 どこか、熱でもあるのか、
 
 そうか、
 
 ここん所泊まり込み続きだったもんなぁ
 
 大丈夫だよ、
 
 きっと、お前の奥さんも判ってくれるよ、
 
 俺たちは世紀の大発明をしたんだからな
 
 さぁて、これからが最後の一山だ、
 
 これさえ越すことが出来れば、
 
 後は成功に向かって一直線だ!!!」

あくまで強気の俊介は気勢を上げると、

ドサッ!!

「さぁーて、一気に片を付けるぞぉ」

と腕まくりをすると、

山のような申請書や稟議書にペンを滑らせ始める。

しかし…

「鳥羽…

 俺たちは作ってはならないモノを作ってしまっているかも知れないんだよ…」

そんな俊介の後ろ姿を見ながら忠はそう呟き、

そして、ヒミコが入っている処理ユニットを見つめていた。



西暦200X年・都内某所

ズズズズーーーン!!!

ズズズズーーーン!!!

鳴り響く砲声と、

ブォォォォォン!!

バタバタバタバタ!!!

上空を飛び交う報道ヘリ、

そして、道路上に設けられた警察の非常線をものともせず、

「はぁはぁはぁ」

「はぁはぁはぁ」

人影がパッタリと消えてしまった国道を、

黒猫のシリアル、白猫のディディアル

そして、天使・パラレルの一行が駆け抜けていく

「ちょっとぉ、急いでよパラレルぅ!!」

遅れ気味のパラレルに向かって先を行くディディアルが文句を言うと、

「(はぁ)そんなこと言われても…

 (はぁ)これでも
 
 (はぁ)精一杯
 
 (はぁ)飛んでいますわぁ」

背中の羽をゆっくりと動かしながらパラレルは答える。

「あぁん、

 もぅ、
 
 無理して飛ばなくて素直に二本の脚で走ったらどうだいっ」

そんなパラレルに向かってディディアルが叫ぶと、

「(はぁ)そんなこと言っても、

 (はぁ)これでも、ちゃんとした天使ですわぁ

 (はぁ)二本脚で歩くだなんて、天使の恥ですわぁ
 
 (はぁ)大丈夫ですぅ
 
 (はぁ)もうすぐ着きますから…」

額に汗を浮かび上がらせながらパラレルは

至るところより煙が立ち上る正面を指さした。

「……一体、何が起きているんだ?

 警察の非常線は張られているし、

 まるで戦争じゃないか、
 
 本当に新体操の試合が開かれているのか?」

道ばたに放置されている無惨に破壊された装甲車や戦車と言った夥しい車両を

横目で見ながらシリアルが脂汗を流していると、

ズドドドドドドド!!!

そんな彼らの後から別の地響きが追いかけて来た。

「え?」

「なっなんだ?」

迫る来るその音にシリアル・ディディアルが思わず振り返ると、

「まぁ、

 バレリーナさん達!」

それを見たパラレルが声を上げるのと同時に、

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドドドドドドドド!!!

真珠色のクラシックチュチュにピンク色のトゥシューズを履いた、

夥しい数のバレリーナ達が津波の様に襲いかかってきた。

そして、一気にパラレル達を飲み込んでしまうと、

脇目を振らずに硝煙が立ち上る先へと向かい、

そして、その先にはあの県立体育館があった。



「それぇぇぇぇ!!!」

時間を少し前にさかのぼって県立体育館の一角に華代のかけ声があがると、

ブワッ!!!

華代を中心に突風が吹き荒れる。

そして、

「うわぁぁぁぁ!!!」

「いやぁぁぁん!!」

東大寺の命令で彼女に襲いかかってきた狐川と指揮系統の混乱で、

引きずられるように華代と戦うことになってしまった狸小路家部隊員達は、

次々と短い髪を伸ばし、

胸を膨らませ、

そして、戦闘服をセーラー服に替えさせられると、

「恥ずかしいわ!!!」

と叫びながら皆一斉にその場にペッタンコ座りをしてしまった。

「それにしても、

 どうして今日はこんなに女の子になりたい方が多いのかなぁ」

その中を華代は疑問に思いつつ歩いていくと、

”屋内プール”

と書かれている看板板に入った。

「プールですか…

 そう言えばまだプールは調べていませんね…」

看板板を眺めながら華代はそう呟くと、

タッタッタ!!!

っと屋内プールへ向かって行く、

するとその時、

ドンッ!!

「キャッ」

華代はプールのより出てきた人物とぶつかってしまうと、

ドサッ!!

「あっ」

人物が肩に掛けていた鞄が放り出され、

そして、それが床に落ちると、

カシャーン!!

鞄より飛び出したケースが中身をまき散らしながら床の上を滑っていった。

「ごっごめんなさい!!!」

反射的に謝りながら華代はそのケースを拾おうとすると、

「あら?」

ケースから零れたものはどれも使用済みの注射器ばかりだった。

「注射器?

 あっあのぅ…
 
 お医者さんですか?」

注射器を見た華代はそう尋ねながら振り返ると、

「あれ?」

さっきまでいたはずの人物の姿はなく、

また、床の上に落ちた鞄も消えていた。

「え?

 なんで?」

空の注射器を持ちながら華代は屋内プールへと向かっていくと、

バシャバシャ!!

プールの中では翠色の髪を長く伸ばし、

そして朱色の鱗を輝かせて泳ぐ人魚達であふれかえっていた。

「うっ

 うわぁぁぁ!!
 
 人魚さん達だぁ!!!」

まるでおとぎの国に来たような屋内プールの様子に華代が目を輝かせると、

「ちょっちょっと、

 そののアナタ!!
 
 こんなメガネを掛けた男、見なかった?」

と華代に気づいた人魚の一人が話しかけてきた。

「え?

 男の人ですか?」

人魚のその言葉に我に返った華代は聞き返すと、

「そうよ、

 あたしをこんな姿にした男よ!!」

人魚は怒った口調で文句を言うと、

バシャッ!!

っと尾びれで水面を叩いた。

「こんな姿って、

 あのぅ…
 
 あなた方は…」

人魚を指さしながら華代は思わず聞き返すと、

「このスイミングスクールのインストラクターよ!!」

と人魚怒鳴る。

「ほぇ!」

思いもよらないその言葉に華代は驚くと、

「クワッ」

今度は彼女の背中より異様な声が響き渡った。

「はい?」

その声に華代がが振り返ると、

なんとそこには緑色の肌に

背中には甲羅、

嘴のように伸びた口と、

頭の上に乗っている皿…

そう妖怪図鑑に載っているような姿のカッパが大勢押しかけ、

華代の方をジロッと睨んだ。

そして、プールの中の人魚達を見据えると、

「あなた達は人魚だから良いわよ、

 あたしなんて…

 あたしなんて…
 
 カッパにされてしまったのよ!!」

「クワッ」

「クワッ」
 
「クワッ」

と泣き叫んでしまった。

「あっのぅ…

 う〜ん、

 わっ判りました。
 
 この華代が何とかいたしましょう!!」

泣き叫ぶカッパや、

困惑している人魚達の姿を見た華代はある決心をすると、

ドン

っと胸を叩いて見せる。

そして、

「行きますよぉ

 そぅれ!!」

とかけ声を上げると、

ドン!!

プールの中に突風が吹き荒れた。

「くわぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

吹き荒れる突風にカッパや人魚達が翻弄されると、

見る見る彼女たちの体が変わりはじめ、

瞬く間に二本の脚に、

プルンと震える乳房、

そして、小麦色に日焼けした肌と、

腰にキュッ!!と締められた赤褌、

そして、磯メガネをつけた海女さんへと姿が変わってしまった。

「え?

 え?
 
 え?
 
 なにこれぇ!!!」

人間に戻ったものの、

予想外の褌姿にされてしまった彼女達は皆驚き恥ずかしがるが、

しかし、その時には華代の姿はそこにはなく、

彼女たちがクレームをぶつける先は相手はいなかった。



「ふぅ、

 それにしても、一体何者なんでしょうか、
 
 スイミングスクールのインストラクターさん達を人魚やカッパにしてしまうだなんて…
 
 なんか、強敵が現れたような気がしますね」

屋内プールから出てきた華代は

さっきこの場所でぶつかった謎の男性をコトを思うと、

手にしていた注射器をジッと見つめた。

と、その時、

ズズズズンンンンン!!!

再び地響きが響き渡り、

体育館が激しく揺れると、

ガラガラガシャーン!!

天井につけられていた天井板や照明器具が次々と外れ、

華代の周りに落ちてきた。

「きゃっ!!」

落ちてくる照明機器をよけながら華代が悲鳴を上げると、

「危ないっ!!」

と言う声と共に青いバニースーツを身に纏った女性が飛び出してくるなり、

華代を抱きかかえて安全な所へと連れて行った。

「あっあなたは…」

仮面を顔に付けたバニーガールに華代は尋ねると、

「バニーエンジェル…とでも言いましょうか」

とバニーガールはそう答え、

そして、

スタッ!!

っとまるで疾風のごとくに去っていった。

「バニーエンジェル……ですか…」

時間にして一瞬の出来事だったが、

しかし、華代の胸にははっきりと彼女の名前が刻み込まれていた。

タッタッタッタッ!!

「……ねぇ、

 ラビッ、いまのってちょっとクサかったかなぁ」

体育館の中を走りながらバニーブルーが

途中で合流してきた一匹のウサギ・ラビに向かって尋ねると、

「ん?

 良いと思うけど?
 
 ところで、ブルー…
 
 判っていると思うけど、
 
 あなた一人だけでは力がゴーストバグは倒せないわ、
 
 早く他のバニーエンジェル達を見つけるのよ」

とラビはバニーブルーに向かって仲間を集めることを言う。

「うんっ

 それは判っているけど…
 
 でも、
 
 レッドに
 
 イエローに
 
 グリーンに
 
 パープルだっけ?
 
 あたしの他に後4人もバニーエンジェルっているの?」

「いるに決まっているでしょう、

 いいこと、
 
 アナタには時間がないのよっ
 
 一刻も早く、仲間達を見つけ、
 
 そして、クィーンバニーを助けだして
 
 ゴーストバグの野望を挫くのよっ
 
 それが、バニーエンジェルとしてのアナタの役目」

とバニーブルーの質問にラビは答える。



「きゃぁぁぁ!!」

「助けてぇぇぇ!」

「落ち着いてください!!」

「大丈夫です!!」

パニックに陥り悲鳴を上げる観客達と、

そんな観客達を静止させる体育館関係者の怒鳴り声が交錯する正面ロビーに華代がやってくると、

「あっ華代ちゃぁぁぁん!!」

群衆の向こう側で黒蛇堂の姿が見え隠れしている様子が華代の目に入った。

「黒蛇堂!!!」

黒蛇堂を見つけた華代も何度も飛び上がり黒蛇堂に声を掛けようとするが、

しかし、群衆達の間を通ることが出来ず、

華代の体はいとも簡単に押し返されてしまった。

そして、

「えぇいっじゃまだ!!」

と頭に血が上っている観客の声と共に華代が突き飛ばされてしまうと、

「むっ!!」

華代はキッと群衆を睨み付け、

そして、

「例えどんなときでも平常心でなくては行けませんっ

 いまのあなた方にはその平常心が足りません」

と言うや否や、

「そうれっ!!」

とかけ声を上げた。

その途端、

ゴォッ!!

ロビーに嵐が吹き荒れ、

「うわぁぁぁぁ!!!」

パニックに陥っていた観客達を包み込んでしまった。

「なっなんだ…これは!!!」

「またか」

「違うっ!!」

「うわぁぁぁ、

 俺の体がぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!!

 あなたぁぁぁぁ!!!」

「うわっ

 おっお前!!!」

観客達が華代が放った嵐に皆巻き込まれると、

ムリムリムリムリ!!!

男性達の胸には膨らみが姿を見せ、

また女性達の頭から髪が消えていく、

そして、

シュルリッ!!!

そんな彼らの体に禁欲的な衣装が着せられていくと、

「え?」

「うわっ」

「あぁ…

 なんか心が休まるわ…」

興奮しパニックに陥っていた観客達は、

男性達は膨らんだ胸にロザリオを輝かせるシスターへ、

そして女性達は坊主頭に尼僧頭巾を被せた尼僧へと姿を変えると、

皆、落ち着いた表情でしずしずと歩き始めた。

「よしっ、

 これならけが人は出ないわ」

目の前を悠然と歩いていくシスターや尼僧達の列を華代は満足そうに眺めると、

タッタッタッ!

「華代ちゃん!!」

列を横切り黒蛇堂が華代の名前を叫びながら駆け寄ってくる。

「黒蛇堂、

 怪我はなかった?」

駆け寄ってきた黒蛇堂に華代はそう尋ねると、

「うっ

 うん」

黒蛇堂は少し嬉しそうな表情をしてはにかむ、

そして、

「マサイの戦士から聞いたの、

 メデューサの鏡はこの観客席にあるわ」

表情を変えた黒蛇堂が尼僧達が出てくる観客席の方を指さすと、

「うんっ

 わかったわっ」

華代は元気よく返事をし、

そして、観客席に駆け込もうとしたその時

カッ!!!

観客席の方より金色の閃光が走ると、

ドォォォォォン!!!

ブワッ!!!

「え?」

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

吹き出した爆風に華代と黒蛇堂が飲み込まれてしまった。



「キュォォォォォォォォン!!!」

ゴワッ!!!

『なっなんだこれは…』

その時、俺は自分の体から吹き出す金色のオーラと、

そして、それに照らし出されている試合会場の様子に驚いていた。

『なにが…

 なにが…起きたんだ…』

予想外の事態に俺は呆気にとられていると、

『はっ、

 そうだ、琴美は…』

と琴美のコトを思い出すと、

彼女が倒れている方を見ようとする。

しかし、

『あっ体が…』

そう、ヒミコによって俺の意識はこのRBから引きはがされてしまったために、

いまの俺は指一本動かすことが出来なくなっているコトを再認識させられた。

『くそっ

 おいっ、ヒミコ!!!
 
 琴美は、
 
 琴美はどうなっているんだ!!』

一切自由がきかない体に苛立つように俺は怒鳴り声を上げるが、

『………』

俺の問いにはヒミコは何も答えることはなく、

ズサッ

ズサッ

っと正面に浮かぶ、狸小路のモビルスーツ・タキオングに向かって歩いていく。

『ひっヒミコ!!

 お前は一体何をする気だ!』

歩き続けるヒミコに向かって俺は怒鳴ると、

『……邪魔者は

 …消す…』

とヒミコのからの言葉が返ってきた。

『邪魔者を消すって、

 おいっ

 何を始める気だ!』

ヒミコの言葉に俺はそう返すが、

『………』

ヒミコはその質問には答えてくれなかった。

『畜生!!

 これでは琴美を助けることが出来ないじゃないか!
 
 おいっ、
 
 ヒミコっ

 聞いているのか?
 
 俺に体を渡せ、
 
 俺が琴美を連れてここから脱出する』

何も答えないヒミコに向かって俺は怒鳴り声を上げ続けていた。



一方、

「なっなんだ、

 何をする気だ?
 
 奴は…」

モビルスーツ・タヌキオングのコクピットに座る千代彦は

モニターに映る祐介の姿に只驚いていた。

それもそのはず、モニター画面の中の祐介は、

体中から金色色に輝くオーラを吹き出し、

そして、その背中からは光で出来た6枚の羽を大きく広げていたのであった。

「はっ羽なのか?

 あれは…」

広げる羽を見ながら千代彦は思わずそう口走ると、

「ふっ

 若さゆへの過ちというのは…」

と呟き、

そして、

「どういう仕掛けを使っているかは知らないが、

 所詮は虚仮威し、
 
 さぁタヌキオングよ、
 
 あの者が使っているトリックを暴こうではないか」

と言うや否や、

ガシャン!!

本体より腕部を切り離すと、

シャッ!!

有線で本体と繋がる腕部をまるでリボン演技のように動かして、

その指先より一斉にビーム光線を放つ。

しかし、金色に輝く祐介の体にビームが届く寸前。

ギィィィン!!!

祐介の体のアチコチに6角形をした小さな光の楯が現れると、

槍のごとく突き刺さってきたビームを全て跳ね返してしまった。

「ちぃぃ!!」

かすり傷一つ負わせることが出来なかった攻撃に千代彦は思わず舌打ちをすると、

「これでは、どうだ!!」

と今度は別の角度より祐介を攻撃をする。

しかし、そすらも弾かれてしまうと、

「くそっ

 なんだ、奴は!
 
 強力なバリアでも張っているというのか」

悔しそうな表情をしながら千代彦はそう言い放つ。

とその時、

「お兄様ぁ!!!」

千代彦の妹・澪の声が試合会場に響き渡ると、

「これを使ってお色直しをしてください」

と叫びながら澪がタヌキオングの真下に来るなり、

手にしていたメディーサの鏡を掲げ上げた。

「ん?

 澪…

 鏡?
 
 そうか、澪、
 
 お前は私のことをそこまで心配して…」

千代彦は妹が自分のために危険を顧みず鏡を持って駆けつけてくれたコトに感謝すると、

グィッ!

っと目からあふれ出す涙を拭う。

そして、

ガゴン!!

っとタヌキオングのハッチを開けると、

「澪!!」

と叫びながら身を乗り出した。

すると、

「あっお兄様っ

 健在で何よりです。
 
 さぁ、この鏡を使ってお色直しを!」

姿を見せた兄に向かって澪はそう叫ぶと、

グッ!!

っとメデューサの鏡に付けられている蓋に手を掛けるが、

「あっあれ?」

いくら澪が引っ張ってみてもメデューサの鏡に付けられている蓋が開くことがなかった。

「そんな…

 なんで?、
 
 どうして?」

困惑気味の澪が幾度も開こうとしていると、

「澪様っ

 この私にお任せを…」

と言う声と共に執事の徳田昌之助が一歩歩み出てきた。

「昌之助…」

昌之助の姿を見た澪は信頼を寄せる目で彼を見ると、

「ささ、

 お嬢様、
 
 その鏡をこちらに…」

昌之助はそう言うと澪からメデューサの鏡を受け取り、

そして、

「ふんぬっ!」

と力を思いっきり込める。

ミシッ!!

キッ

キッ

キッキキキキキキキ…

その途端、メデューサの鏡より軋むような音が響き始め、

キキキキキキキ…

やがて、悲鳴にも似た音が響いたと思った途端。

パカッ!!!

まるで抵抗を止めたかのようにあっさりと開いてしまった。

そして、その瞬間、

ジロッ!!

執事・昌之助が開いたメデューサの鏡の中に言いようもない

冷たく、恐怖感に満ちた瞳が千代彦を睨み付けると、

カッ!!!

体育館全体に金色の閃光が走った。

そして、それと同時に、

ドォォォォォォン!!!

猛烈な爆風が発生すると、

瞬く間に光はタヌキオングを飲み込み、

さらにその周囲へと広がっていった。



シャッ!!!

「しまった、

 遅かったか!!」

駆け込むのと同時に発せられた邪悪な閃光を見た黒蛇堂は間に合わなかったことを悔やんだ。

そして、

「だっだめぇぇぇぇぇ!!!」

と思いっきり叫んだとき、

ヒュンッ!!!

何者かが彼女の前に立ちはだかると、

「そうれっ!!」

とかけ声を上げた。

「…………え?」

どれくらい時間が経ったのだろうか、

実際の時間ではほんの一瞬のことかも知れないが、

しかし、黒蛇堂にとって無限の時間が過ぎたあと、

恐る恐る目を開けると、

ゴワッ!!!

迫る来る光の渦を押し返す華代の姿があった。

「かっ華代ちゃん!!」

「あっ黒蛇堂、

 大丈夫?」

「華代ちゃんこそ!」

「間に合わなかったね、

 黒蛇堂」

「うっうん」

華代よりメデューサの鏡の封印が解かれたことを指摘された黒蛇堂は悔しそうにうなだれると、

「ダメよ、

 諦めちゃぁ!」

と華代は励ました。

「でっでも」

華代の言葉に黒蛇堂は為す術もないことを言おうとすると、

「絶対、大丈夫!」

華代はいつもの笑みを浮かべ、

そして、

「それぇ!!」

とかけ声を掛けると、

グワッ!!

光の渦をさらに押し返した。

すると、

ゴロン!!

光の渦の中より、石化してしまった人々が姿を見せてきた。

「ゴクリ」

それを見た黒蛇堂が生唾を飲み込むと、

「メデューサの鏡に時間を吸い取られ石にされてしまった人たち…」

と呟く。

「そっそうね」

黒蛇堂のその言葉に華代も頷く、



ゴォォォォォォ…

決して封印を解いては行けないメデューサの鏡…

しかし、その封印が解かれたとき、

真の恐怖が世界を支配しつつあった。



つづく



次回予告
その事件は10年以上前に発生した。

同僚の雪村忠と共に人工知能・ヒミコの開発に成功した鳥羽俊介は

更なる飛躍を目論見、忠の警告を振り切って

ヒミコの一大デモンストレーションを挙行する。

しかし、その最中にヒミコが暴走を始め出すと事態は思いがけない方向へ

次回「敵は狸編・第8話:ひとときのさよなら(前編)」お楽しみに…


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