風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

敵は狸編
(第7話:真城華代捕縛指令)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.508



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。







「たっ大変よ!!!」

天界・運命管理局内に驚きを伴った叫び声が響き渡る。

「なによ、

 そんな大声を上げなくてもいいじゃない」

その声に備え付けのTVを食い入るように見ていた銀髪の女神が顔を上げて文句を言うと、

「めっメデューサの鏡が無くなっているのよっ!!!」

と息を切らせながら黒髪の女神が発令所に駆け込んでくるなり、

「あっあたしだけど、

 その後の追跡はどうなっているの?

 え?

 不明?

 何やっているのよっ

 目を皿にして探すのよっ」

「さっき言ったとおり、

 天界の出入り口は封鎖するのよっ」

「もしもし、警備部?

 魔族が侵入しているかもしれないから、

 第1級警戒態勢を引いて!!」

「あーもぅ、

 時間が無いわぁぁぁぁ」

何本もの受話器を抱えて黒髪の女神が叫び声を上げると、

「はいはい

 そんなにテンションを上げているの?」

銀髪の女神は落ち着いた口調で話しかける。

「なによっ

 何そんなにノンビリとしているのよっ

 メデューサの鏡が紛失したのよ、

 盗まれたのよっ

 これは一大事なのよっ

 知っているでしょう?

 メデューサの鏡の危険性は!!」

「そりゃぁまぁ…」

「だったら、

 手伝ってよっ

 こっちはネコの手も借りたいくらいなんだから、

 まったく、

 きっと、あの魔族よっ

 一体どこに…

 まっまさか、既に魔界に持ち込まれているなんて…

 そっそうよ、きっとそうよ

 これって…

 いけないわっ

 はっ早く手を打たないと…」

時間が経つごとに黒髪の女神が最悪の事態を妄想し始め、

そして顔色を青くしていく、

「えーと、

 で、そのすごーくヤバイと言うメデューサの鏡は、

 はいっ

 この座標とナンバーの人間界にあるわよ」

そんな黒髪の女神を軽蔑の視線で眺めながら、

銀髪の女神は一枚のメモ用紙を手渡した。

「へ?」

メモ用紙を見ながら黒髪の女神は呆気に取られると、

「いやぁ、

 さっき報告があて、

 何か手違いがあったらしくて、

 人間界に配送されてしまったみたいなのよ」

「配送って…」

「で、配送されたメデューサの鏡だけど、

 とりあえずあたし達の関係者が抑えているわ」

「はぁ?」

「なによっ、その顔は…」

「だって…」

「黒蛇堂って知っているでしょう?」

「え?

 えぇ…」

「まっ

 一応、あたしの配下の者なんだけど、

 その黒蛇堂のところに送られたそうよ、

 まったく、

 黒蛇堂からの報告を聞いたときは
 
 さすがのあたしも心臓が止まりそうになったわ、

 んで、いま、天使のアーリィに引き取りに向かわせたから、

 時機に戻ってくると思うけど…

 ん、どうしたの?」

一通り銀髪の女神は事情をすると、

プルプルと肩を震わせている黒髪の女神に気づき声をかける。

すると、

「………ひっひっどーぃ、

 あたしがどれだけ心配して手続きや、手配をしたと思っているのよっ

 片がついている。っていうなら最初に言ってよ!!」

銀髪の女神の説明に黒髪の女神は涙を浮かべ猛然と抗議を始めだした。

「え?

 あっ

 いやっ

 別に隠すつもりはなかったし、

 あんたがやたらとテンションを飛ばしているから…ねぇ」

黒髪の女神の抗議に銀髪の女神は押されながら弁明をするが、

しかし、黒髪の女神の抗議は収まることは無く、

「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

という怒鳴り声の後、

ちゅどぉぉぉん!!

爆発音が運命管理局内に響き渡った。



「ん?

 爆発音?」

ズズズズ…

湯気が上がる湯飲みを啜るながら天使・アーリィが上を見上げると、

「どうかなされましたか」

社務所の机で書類整理をしていた早川神社の神職・早川守衛が話しかけてくる。

「いやっ

 たったいま、天界で何かあったらしい…」

「え?」

アーリィの返事に守衛の表情がこわばると、

「ふっ

 なぁに、

 いつものことだ、心配はない」

と守衛を安心させようとしているのか、

アーリィはあっけらかんとして返事をすると、

再び湯飲みを啜った。

「はぁ……」

「……我等を統括する女神姉妹の毎度のスキンシップという奴でなっ

 故に我等天使は見て見ぬ振りをする。

 ふふっ

 天界勤めも人間界と同様、色々と大変なのでな」

晴れない表情の守衛を思ってかアーリィは砕けた表現でそう言うと、

「はぁ、そう言うものですか

 ところで…

 お供の方だけでよろしいのですか?」

と守衛は話をさきほどアーリィより要件を言い渡され、

あるところへ向かっていった天使のことを尋ねた。

「ん?」

「聞けば、メデューサの鏡というのは極めて危険である鏡だとか」

「あぁ…

 大丈夫だ、

 あの者たちは天界より流出し、

 黒蛇堂で保管している魔鏡・メデューサの鏡を引き取りに行くだけ、

 別に特別な作業があるわけではない。

 いくら、おっちょこちょい者のパラレルでもそれくらいできるであろう」

とアーリィは返事をし、

湯飲みに口をつけようとしたそのとき、



ガラッ

「お父さん!!

 巫女神さんと久世さんが来たわよ」

と言う声と共に白襦袢に緋袴を身に纏った守衛の一人娘・早川真織が社務所に入ってきた。

「ん?

 こらっ
 
 いきなりドアを開ける奴があるかっ」

前触れもなく社務所に入ってきた真織に守衛は注意をすると、

「え?

 あっ

 お客さんがいたの?」

と真織は”しまった!”と言う顔をして、

社務所の中を見渡した。

しかし、

「あれ?

 誰も居ないじゃない。
 
 てっきり誰かいるかと…」

真織は不思議そうな顔をしながら来客用のテーブルの上に置かれている湯のみを見ると、

「?」

と不思議そうな顔をした。

「…アーリィ殿」

それを見た守衛はすかさずアーリィの方を見ると、

スッ

アーリィは自分の口に人差し指を一本たて、

静に首を横に振る。

「どうしたの?

 お父さん?
 
 巫女神さん達待っているけど、
 
 中に入れても良い?」

そんな守衛を見ながら真織は尋ねると、

「ん?

 あぁそしてくれ」

真織の問いかけに守衛はそう返事をする。

「はーぃ」

守衛のその返事に真織は巫女装束を翻して去っていくと、

「娘へは、まだその御姿を見せてはくれませんか」

と守衛はアーリィに尋ねた。

「悪いな、守衛殿

 時期が来れば必ず…」

守衛の言葉にアーリィはそう返事をすると、静に目を瞑り

「さて、

 巫女神殿と久世殿が参ったとなれば、
 
 そろそろ始めますか…」

と呟いた。

「ですなっ」

アーリィのその言葉にあわせるようにして守衛が腰を上げると、

ガラり…

社務所の引き戸が開き、

「こちらです」

真織に導かれて、

真織と同じ巫女装束姿の巫女神夜莉子・沙夜子

そして彼女達とは違い、大人の色気を醸し出ている久世桜子と一人の幼女が入ってきた。

「おぉ、

 来られましたか」

社務所に入ってきた4人に守衛は挨拶をすると、

「細かい挨拶は後ほどと言うことで、

 で、例のものは?」

と社務所に入ってきた桜子は守衛に尋ねる。

「あぁ、

 こちらです」

桜子の質問に守衛はそう返事をすると、

社務所の奥にある蔵へと歩いていく。

「あっ姉貴…」

「なぁに、大丈夫っ

 恭平っ
 
 恐らくお前の力を借りることになるから、
 
 真弓ちゃんと共に心の準備をしておいて、
 
 さて、巫女神さんたちも行きましょうか」

歳が近いためかずっと真織と喋っている夜莉子に桜子は声をかけると、

「ほらっ

 夜莉子っ
 
 行くぞ…」

と言い残して沙夜子が歩き始め、

「あっ

 じゃまたあとでね」

去っていく沙夜子の姿を見た夜莉子は真織に手を振ると、

4人は社務所の奥にある蔵へ向かって歩いて行った。

そして、

「さて、じゃぁ私も行くとするか」

座って様子を見ていたアーリィも腰を上げると、

「真織殿…

 そなたがこの神社を受け継いだとき、
 
 わたしはそなたの前に姿を見せよう、
 
 そのときまで、しっかりと勤められよ」

と告げると、強大な魔が待ち受けている蔵へと向かっていった。



そのころ、アーリィと別れた天使・パラレルはと言うと、

「ごめんくださーぃ!!」

黒蛇堂に能天気そうな女性の声が響き渡る。

しかし、

「………」

なかなか返事が返ってこないと、

「あのぅ…

 天界からやってきましたパラレルですが、

 黒蛇堂さんはいらっしゃいますかぁ?」

と再び声をあげた。

「ちょちょっと、パラレルっ

 そんな大声で…」

パラレルの声にお供の黒猫・シリアルが冷や汗を流しながら注意をすると、

「え?

 大丈夫ですわ、
 
 だって、黒蛇堂さんはあたし達とお仲間なんですから、
 
 遠慮をする必要はないですわ」

とパラレルは天使の笑みを浮かべて返事をした。

「だからって」

パラレルの言葉にシリアルが声を上げると、

「ほっとけ、

 ほっとけ、

 それよりもさっさと仕事を片付けようぜ、
 
 超過勤務手当でないんだろう」

とシリアルと同じお供の白猫・ディディアルが醒めた口調でたしなめる。

「ディディアル!!

 そんな言い方ないだろう?」

「なんだよっ

 サービス残業をしろとでもいうのか?

 俺はそう言うのは好きではないのでな」

「好きとか嫌いとかそう言う次元ではないだろう

 とにかく一刻も早く魔境・メデューサの鏡を回収して
 
 厳重に封印をしないと」

「ほらっ

 シリアルっ
 
 お前だってこの仕事を早く片付けたいじゃないか」

「あのなぁ!!」

揚げ足をとるディディアルにシリアルは怒鳴り声を上げると、

「あっ

 あのぅ、
 
 ケンカはよくありませんわぁ」

と見かねたパラレルが仲裁に入った。

「ちっ!」

「けっ!」

いがみ合う二人(二匹?)が互いにそっぽを向くと、

「あっあぁ…

 天界からの使いの方ですか?」

と言う声と共に店の奥より一人の男性が出てくると、

「あれぇ?

 黒蛇堂さんではないのですかぁ?」

パラレルは予想外の登場人物の登場に首を傾けた。



「えぇ!!

 メデューサの鏡が人間の手に渡ったぁ!?(ですわぁ)」

それから数分後…

黒蛇堂の中にシリアル・ディディアルそしてパラレルの叫び声が上がると

「はっはぁ…」

男性こと玄武は額に流れる汗を盛んにふき取りながら身を縮こまらせた。

「なんで?」

ハモリながらシリアルとディディアルが理由を尋ねると、

「じっ実は…」

と玄武はメデューサの鏡が人間の手に渡った一部始終を説明した。

そして、

「はぁぁぁぁ…

 そう言うわけですか…」

玄武より話を聞いたシリアルがジトっと軽蔑の視線を投げかけながら玄武を見ると、

「もっ申し訳ありません」

と玄武は恐縮した。

「まぁまぁ、

 浮かぶ瀬もあれば沈む瀬もありますわ、
 
 今日のことは狂犬にでもかまれたと思って、
 
 水に流すのが一番ですわ」

そんな玄武を励まそうとしてパラレルはそう声をかけるものの、

「おぃおぃ…パラレル…

 全然フォローになってないよ、

 それにもぅ少し言葉を選んだら…」

とシリアルは冷や汗を流しながらそう呟く、

「で、

 黒蛇堂が回収に向かったとおっしゃりましたが、

 随分と時間が経っているみたいですね」

話の筋を元に戻すようにしてディディアルが指摘すると、

「えぇ

 それなんです。
 
 黒蛇堂さまと真城華代さまがここを出られてから
 
 時間が経ち過ぎているのです。
 
 わたしはそれが心配で心配で」

ディディアルの指摘に玄武は冷や汗を流しながらそう訴える。

「なるほど…

 そう言うわけですかぁ
 
 判りましたわ、
 
 ではあたしたちが様子を見てきますわ」

玄武の訴えにパラレルは胸を叩いてそう言うと、

「おっお願いします〜

 黒蛇堂さまに何かあったらあたしは〜っ!」

目に涙を一杯溜めながら玄武はパラレルにしがみつくと、

オイオイと泣きはじめてしまった。

そして、

「おっおいっ」

そんな玄武の姿をシリアルとディディアルはそろって呆然と眺めていた。



さて、時間軸を少し戻して…

黒蛇堂と華代が県立体育館に到着すると、

「探すのよ、華代ちゃん、

 なんとしても、蓋が開く前にメデューサの鏡を…」

と、黒蛇堂は魔鏡・メデューサの鏡がこの体育館内に有ることを確信を持って告げ、

「うっうん」

それを聞いた華代も大きく頷いた。

そして、

「二手になって探しましょう」

と言う黒蛇堂の提案に、

「判った、

 じゃぁあたしはこっちに行くから、

 黒蛇堂は向こうを探して!」

向かって右側を指差した華代がそう言うと、

「うん!」

華代の言葉に黒蛇堂は頷き、

二人は県立体育館の中へと入っていく。

しかし、そのとき県立体育館では華代の登場を待ち構えている一団があった。

「よいかっ!

 なんとしても真城華代を生け捕りにするのだ!!!」

華代に対して敵意を持つ代表執事・東大寺の指揮下ある狐川親衛隊が

華代の登場を今か今かと待ち受けていたのであった。

そして、

「こちら観測班!!
 
 現れました!!

 真城華代です。

 真城華代が体育館内にたったいま突入いたしました」

興奮した口調で体育館内に設けられている統合指揮本部へ華代発見の第一報を伝えられると、

「よしっ、

 真城華代捕縛作戦・発動!!」

と目を瞑りジッと腰を据えていた狐川家・代表執事を務める東大寺は

カッと目を見開き、大声を張り上げた。

そして、その瞬間より、

体育館内に配備されていた狐川親衛隊の隊員たちが一斉に動き始めると、

ジワリジワリ

と華代を追い詰め始めた。



スタタタタタタタ…

「どこにあるのかしら」

メデューサの鏡を探し華代が体育館の中を走っていくと、

一人

また一人と華代の回りに黒のサングラスに黒の背広で統一した屈強の男性たちが追いかけ始める。

「?」

次第に増えてくる男性達に姿に華代は疑問を感じて立ち止まると、

ピタッ!!

男性達もまた、まるでビデオの一時停止の如くその姿のまま立ち止まった。

「なにかな…」

そんな彼らの姿に華代はニコッと微笑むと再び走り始める。

すると、

また一人

また一人と華代を追いかけてくる男性の数が増え、

そしてついに、

華代の回りは全て男性達で埋め尽くされてしまった。

「首尾は上々です。東大寺様」

そんな様子をモニターで眺めていた親衛隊長は上機嫌で東大寺に報告をすると、

「そうか…」

東大寺はそう返事をするだけでその表情は厳しさを保ったままだった。

タタタタタタタ…

ピタッ!!

走っていた華代が立ち止まると、

ザザザザザザザ…

ピタッ

彼女を取り囲み走る男性達も同じように立ち止まる。

「ふむっ」

まるで特撮映画の一画面を思い起こさせるそんな様子に華代は小さく頷くと、

「判った!!!」

と声を上げ、

「おじさんたちも新体操をしたいんでしょう」

周りを取り囲む男性達に尋ねた。

「!」

華代からのその言葉に男性たちは一斉にざわめくと、

「いっいかん!!」

モニターでその様子を見ていた東大寺が叫び声を上げた。

しかし、現場には東大寺の声は伝わることなく、

「もぅ、見掛けのよらずシャイなんだから、

 そう言うことはハッキリ言わなければダメよ」

と華代が男性達に言うと、

ゆっくりと両手を掲げ、

そして、

「そぉれっ!!!」

っと掛け声をかけた。

すると、

ビュッオッ!!!

たちまち華代を中心にして突風が吹き荒れ、

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

それに巻き込まれた男性たちから一斉に悲鳴が上がった。

「しまった!!!」

見る見る屈強の身体がしなやかな女性の身体付きへと変わり、

また、黒尽くめの服が妖美な輝きを放つレオタードへと変化して行く様子に東大寺は頭を抱える。

「うわっ」

「うわっ」

「なにこれぇ!!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

瞬く間に華代の回りにはひっ詰め頭のレオタード姿の美女で埋まり、

そして各々変わり果てた自分の姿に悲鳴をあげると

まるでクモの子を散らすかのように逃げ出してしまった。

「はいっ

 新体操、頑張ってくださいね」

逃げ出していく少女達に向かって華代は声援を送ると、

「さて、

 メデューサの鏡を探さなくっちゃ」

と走り始める。



ダァン!!

「なんだ、この様は!!」

レオタード姿の新体操選手に変えられていく親衛隊員達の様子を見た東大寺が怒鳴り声を上げると、

「もっ申し訳ありません、

 真城華代を甘く見ていました。

 すっスグに2番隊を送り込みます」

と隊長はひれ伏しながら詫び、

そして、

「2番隊出撃!!!」

とマイクに向かって指示を出した。

しかし…

「選手が頑張れるのは応援が居てのことですよね、

 さぁみなさんも、

 頑張っている選手に応援いたしましょう!!」

華代はそう言いながら

「そうれっ!」

と掛け声を上げると、

「いやぁぁぁぁ!!!」

華代を取り囲んでいた狐川親衛隊2番隊の隊員たちは

次々とセーラー服やブレザー姿の女子高校生へと変身し、

悲鳴をあげながら散ってしまった。

「えへっ

 人助けをした後って気持ちの良いものですね」

静かになったあたりを見回しながら華代はそう感想を言うが、

しかし、あるものは新体操選手に

またあるものは応援の女子高生へと姿を変えられた隊員達の中に

あの月夜野の毒牙に掛かり、

獣へと姿を変えられたものが多々あったということを華代は知るよしもなかった。



「おのれぇ!!!

 真城華代めぇ…」

次々と散っていく隊員達の姿を見せ付けられ、

怒り心頭の東大寺はすっかり冷静さを失い、

ついに、

「構わん!!

 外で展開をしている機甲部隊を投入しろ!!!

 また、本家で待機している正規軍にも出動を命じろ!!

 よいか、これは総力戦であるっ
 
 なんとしても真城華代を始末するのだ!!」

と叫んでしまった。

「え?」

東大寺のその言葉に親衛隊長は驚きの声を上げると、

「私に同じことを言わせるなっ」

バキバキバキ!!!

頭に血が上っていた東大寺は眼下の机を真っ二つに引き裂き怒鳴り声を上げる。

「はっはいっ!!

 たっ直ちに!!!」

東大寺の逆鱗に親衛隊長は縮みあがって返事をすると、

「きっ機甲部隊、

 直ちに体育館に突入せよ、

 武力を持って真城華代を捕縛せよ」

と指令を出した。



「え?

 まっマジっすか?」

その指令に何よりも驚いたのは他ならない狐川機甲部隊の方だった。

…あくまで狸の牽制である。

出発前そう伝えられていた彼らに下された命令に隊長は考え込み始めた。

そう、目の前には狸小路の部隊が隙あらばと虎視眈々と狙っている。

そんな状況でもし体育館へ部隊を投入したらどうなるのか、

それは火を見るよりも明らかだった。

「行くか

 行かざるべきか」

隊長が苦悩しているとき、

「なっ何だアレは!!」

と隊員の一人が叫び声を上げた。

「なに?」

その言葉に隊長が空を見ると、

キラッ!!!

ゴォォォォォォォォォォォ!!!

空の彼方より飛来してくる物体の姿が見えた。

「鳥だ」

「飛行機だ」

「いやっ

 ろっロボットだぁぁぁぁ!!!」

急速に接近しその輪郭を露にした姿に

待ち構えていた狐川・狸小路両部隊とも混乱に陥ってしまった。

そして、

「撃てぇぇぇぇ!!!」

ゴォォォォン!!

ゴォォォン!!

混乱の中、対空砲火が一斉に火を噴くと、

飛行するロボットの飲み込むように煙の華が一斉に開く、

「やった!!」

幾重にも華開いた煙にロボットが包まれたとき誰もがそう思ったが、

しかし…

キュォォォォォォン!!!

立ちこめる煙の中より一点の光点が輝くと、

シュバッ!!!

ロボットの口に備え付けられた大出力のビーム砲が地上の両軍目掛けて襲い掛かった。

シャシャシャ!!!

カッ!!

チュドォォォォォン!!!

「うわぁぁぁぁ!!」

両軍が対峙する道路上を光のリボンが舞い踊り、

そして、その直後に大爆発が起きると、

「撃てぇ!!」

「逃げろぉ!!」

飛行するロボットへ反撃を試みる者、

隙を見て逃亡をする者とで、

地上はまさに大混乱に陥ってしまった。



一方、県立体育館の中では、

ズズーーーーン!!

爆発の振動と共に建物が大きく揺さぶられ、

「きゃっ!!」

その揺れで足を取られてしまった黒蛇堂が

ドンッ!!

と丁度通りかかった人物の肩に当たってしまうと、

ゴトッ!!

その人物の足下に一体の木彫りの人形が落ちた。

「あっすっすみませんっ」

咄嗟にわびた黒蛇堂がその人形を拾い上げようとして手を伸ばすと、

フォォォォン…

その木彫りの人形からは異様なオーラが発せられている様子が見え、

「あっ」

それが見えた黒蛇堂は慌てて手を引っ込めた。

すると、

「貴様…

 ワシの術が見えるのか…」

そんな黒蛇堂の頭の上からまるで悪魔を思わせるような声が響くと、

「(ゾクっ)え?」

その瞬間、黒蛇堂の背筋に冷たいモノが走り思わず見上げると、

体をすっぽり被さるように朱染めの布を被った人物が

ジッと黒蛇堂を見つめる様にして立ていた。

「あっあのぅ」

朱染めの布のせいで漆黒色の闇に見える顔を見ながら黒蛇堂が声を掛けると、

「ニヤッ!」

その闇の中より浮き出るようにして笑みを浮かべる白い歯が見える。

ズサッ!!!

「誰なんです、あなたは?」

それを見た黒蛇堂は思わず間合いを取るが、

「ふふ…」

人物は答えず、ただ小さく笑うとそそくさと姿を消して行った。

「なっなんなの?

 あの人…
 
 それに、あの人形からは異様な邪気が感じられたわ」
 
黒蛇堂は消えた人物と彼が持っていた人形のことを思っていると、

ドドドドドドドドド!!!

さっきの地震に驚いてか、

体育館の彼方よりシマウマの群れが黒蛇堂目掛けて走ってきた。

「え?

 しっシマウマ?!」

自分に向かってくるシマウマの大群に黒蛇堂が呆気にとられていると、

「ナニヲシテイル!!!」

呆然としている黒蛇堂の体にその声と共に黒い腕が伸びると、

グンッ!!

と彼女の体を引っ張った。

「キャッ!!」

突然のコトに黒蛇堂が驚くと、

ダンッ!!

と言う物音と共に彼女の体が宙に舞い上がり、

それと同時に、

ドドドドドドドドドド!!!!

ついさっきまで彼女がいた場所をシマウマの大群が次々と通り過ぎていった。

「え?

 え?
 
 え?」

フワッ!!

何者かに抱きかかえられた黒蛇堂が

シマウマの大群を乗り越えたところに着地すると、

ドサッ!!

力が抜けてしまったのかその場にへたり込んでしまった。

「ダイジョウブカ?」

へたり込む黒蛇堂に再び声が掛けられると、

「あっありがとうございます」

黒蛇堂はお礼を言いながら見上げる。

すると、彼女の傍に立つのは、

逞しく鍛えた漆黒の肉体に朱染めの衣を纏い、

銀色に輝く槍を片手に持った、そうマサイの戦士だった。

「え?

 あっ
 
 まっマサイ?」

マサイの戦士の姿に黒蛇堂が驚くと、

「サバンナデハ、ジブンノミハジブンデマモル、

 ソレガオキテダ、
 
 サテ、
 
 ヒトツタズネタイコトガアル、
 
 オマエ、シンヲミナカッタカ?」

とマサイは黒蛇堂に尋ねた。

「え?

 シンさんですか?」

マサイの質問に黒蛇堂が聞き返すと、

「シン、デ、ジュウブンダ、

 ワタシハヤツヲ
 
 オッテイルノダ」

とマサイは返事をする。

「追って?」

「ソウ…

 アイツハ
 
 アイツハ」

マサイはそう言うと、

グッ

っと何かをこらえるような顔をし、

そして、

「あいつ…

 あたしの体の奪った上に、
 
 あたしの魂をこのマサイの戦士の体の中に押し込めたのよ!!!」

と女言葉で黒蛇堂に向かって怒鳴った。

「はっ

 はぁ?」

「こう見えてもあたしは本当はちゃんとした女の子なのよっ、

 まったく…

 ねぇ、シンって奴はマサイの呪術師なんだけど、
 
 見なかった?
 
 こんな木彫りの人形を持っていたハズなんだけど」

とマサイの戦士は両手を少し広げて黒蛇堂に尋ねると、

「あっ

 そう言えば…」

黒蛇堂はさっきであった不気味な人物のことを思い出し、

「あっ

 あたしとぶつかった後、
 
 あっちの方に行きましたよ」

とあのフードを被った人物が消えていった方を指差した。

「そっか、

 あっちねっ
 
 あっありがとう」

黒蛇堂が指した方向を睨み付けたマサイの戦士はそう返事をすると、

「あっあのぅ…

 メデューサの鏡を持った女性を見ませんでしたか?」

と今度は黒蛇堂がマサイに尋ねた。

「メデューサの鏡?」

黒蛇堂の質問にマサイの戦士が振り返ると、

「これくらいの大きさで、

 ちょっと古風な丸鏡なんです。
 
 あっいまはまだ蓋が被されているのですが…」

マサイに向かって黒蛇堂はそう言うと、

「ふーん…」

マサイは少し考える表情になり、

そして、

「あぁ…そう言えば

 観客席でそんなモノを抱きかかえている女性を見たわ」

と黒蛇堂に伝えた。

「え?

 観客席ですか」

「うん、そう、

 どこかのお嬢さまって感じの女性だったわ、
 
 いまでも観客席にいるんじゃないかな?」

マサイの戦士はそう答えると、

「じゃぁ、あたしはこれで」

と言い残しいずこへと消えていった。

「そっか、

 観客席か…」

マサイの戦士の言葉に黒蛇堂は「観客席」と書かれた案内板を見ると、

タッタッタ!!

っとその方向へと走って行く。



つづく



次回予告
ついに覚醒したヒミコは目の前に迫る狸小路のモビルスーツに反撃を始めると、

一食触発状態だった狐・狸両軍が交戦を始めだす。

焦土と化していく県立体育館。

そして、澪の手から離れたメデューサの鏡の蓋が開いたとき、

黒蛇堂が最も恐れていた惨劇が幕を開ける。

次回「敵は狸編・第8話:発動・メデューサの鏡」お楽しみに…


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