風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

敵は狸編
(第6話:ヒミコ覚醒)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.507



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。







ポンッ

ポンッ

早朝の空に太鼓花火の音が響き渡る。

「う〜…」

その音に起こされるようにして俺はベッドの中で2転3転をしていると、

「祐介っ、起きなさい!!」

と階下からお袋の声が響き渡った。

「あと10分…」

お袋の声に俺はそう答えながら布団の中に潜り込もうとしたとき、

『時間…』

突然、ヒミコの声が俺の耳に響くと、

クイッ!!

俺の手が独りでに動き、

バッ!!

被っていた布団を一気に放り出してしまった。

「え?

 え?え?」

一瞬何が起きたのか判らず俺は呆気に執られていると、

そんな俺に構うことなく俺の身体は勝手に立ち上がり、

ススッ…

パジャマを脱ぎ着替えを始めた。

「おっおいっ

 まさか、

 ひっヒミコか?

 ヒミコが俺の身体を操作しているのか?」

ブラを着け、Tシャツを被る身体の動きに俺はうろたえるが、

しかし、身体はそのまま新体操部のジャージを身に着けていく、

そして、着替えが終わるのと同時に、

ガチャッ!!

「もぅ何をして…

 あら?

 着替えてたの?」

いつもと同じように俺を起こしに来たお袋が部屋に入ってくると、

ジャージに着替え終わっている俺の姿を見て驚きの声を上げた。

「あっ

 お袋…」

部屋に現れたお袋の姿に俺が声を上げるのと同時に

フッ!!

俺の意思に身体が反応するようになり、

「え?

 あっあれ?

 動く…」

自分の意志で動きがじめた腕を振り回し、踏み足をしながら俺は手ごたえを感じていた。

「もぅ、なに遊んでいるのっ

 ほらっ

 今日は大切な試合の日でしょう、

 さっさとするっ」

お袋はそんな俺を呆れた表情で見た後、

俺の尻を叩くと、

「あっそうだ、お袋…

 親父は?

 昨日遅くなるって言っていたけど、

 帰っている?」

俺はこのことを親父に報告しようと思い、お袋に尋ねた。

ところが、

「あぁ、お父さん?

 うん、

 なんかね、仕事が片付かなくって泊まるって夕べ電話があったわよ、

 相談事ならメールにして出したら?」

とあっけらかんとして答えると、

パタパタ

スリッパの音を響かせ階下へと降りていってしまった。

ヒミコがRBのBIOSとしての範疇を超え、俺の身体を操り始めている…

そのことをメールではなく直に親父へと伝えたかったが、

しかし、親父が居ないのでは話にならない。

黒い闇のような不安が俺の心を覆いはじめたことを感じると、

「なにかいやな予感がする…」

俺の背筋に冷たいものが走った。



ブロロロロロ…

その頃、朝の国道を一台の高級リムジンが疾走していた。

ポンポコ狸をあしらった家紋を朝日に輝かせ走るリムジンの後部座席には

清楚な衣装に身を包んだ狸小路千代彦の妹・澪が乗車し、

ジッと流れ行く車窓を眺めている。

「お嬢様、

 あと10分ほどで県立体育館に到着を致します」

彼女の横に座る澪直属の執事・多賀義光がそう声をかけると、

「そうですか、

 いよいよですわね」

ギュッ

澪は唇を真一文字に結び、

これから行われる兄の死闘に思いをはせていた。

とそのとき、

「!!!

 久万っ

 クルマを止めなさい」

車窓を眺めていた澪が何かを見つけると

ハンドルを握る運転手・久万に向かって声を上げた。

「はっ!」

その声にが返事をするのと同時に、

キッ!!

リムジンは路肩に寄り静かに停車すると、

「どうかなされましたか?

 お嬢様っ」

義光が澪に理由を尋ねた。

すると、

スッ

澪は道路わきに立つ一軒の古風な建物を指差し、

「義光っ

 あそこに行きますわよ」

と言う声を残してリムジンから降りてしまった。

「あっお嬢様っ」

澪の行動に義光が慌てて降りていくと、

「お前達っ

 何ぐずぐずしておる、

 さっさと、澪お嬢様の警護をしないかっ!!」

と車内で待機していた忍装束の忍者軍団に命令をだした。



「黒蛇堂…」

黒レンガ造りの建物に掛かる看板を仰ぎ見た澪はそう呟くと、

キィ…

躊躇うことなく重厚そうなドアを押し店の中へと入っていく、

そして、

「ごめんください…」

見たことも無い品物が襲い掛かるかの如く迫る店内で声を上げると、

「はーぃ」

と言う男性の声と共に、

コツリコツリ

店の奥より足音が近づいてくると、

ヌッ!

商品の陰より一人の男性が姿を見せた。

「あっ」

普通の人間ならここで悲鳴の一つでもあげるものだが、

しかし、お嬢様としての躾を受けてきていた澪は悲鳴一つあげることなく、

ジッと男性を見つめ、

「ここは何のお店なのですか?」

と尋ねた。

「ほぉ…」

凛としている澪のその姿に男性は驚くと、

『ここは、黒蛇堂、

 悩み戸惑う者に手を差し伸べるところ…

 ここにはあなたの欲している商品がありますよ』

と男性は言い、

『といっても、この店の主はいまちょっと外出していて、

 私がはただの店番だけどね』

と付け加えた。

しかし、

「ふぅぅぅん、

 悩み戸惑う、ですか…」

澪にとってこれまで言われたことの無かったその言葉を新鮮に受け止めながら、

コツリコツリ

と店内を歩いていくと、

「!」

直径20cmほどの古風な装飾が施された蓋が被された丸鏡が

棚の隅に置かれているのが目に入った。

「これは?」

まるで吸い寄せられるように澪は鏡へと向かうと、

男性に向かって尋ねる。

『はて、

 その鏡はなんの鏡だっけか』

澪に鏡の素性を問われた男性は首を捻り、

鏡についての情報を思い出そうとするが、

しかし、幾ら考えても思い出すことは出来ず、

「まぁ、

 この店は商品が真の持ち主を待つところでもあるから、

 あなたがその鏡に興味を惹かれたのというのも

 縁があるのでしょう。

 いいですよ、

 持って行くのであるなら持って行っても…』

と告げた。

すると、

「え?

 いいんですか?」

鏡を抱きしめるようにして澪が聞き返すと、

「あぁ…

 この出会いが運命なら、

 持って行ってもいいですよ、

 お代はあなたの満たされた心ですから」

と男性は澪に言う。



「お嬢様!!」

執事の義光が澪と再会をしたのは、

澪が黒蛇堂から出てきたときのことであった。

「あら、義光

 どうしたのですか?」

鏡を大事そうに抱きかかえながら澪が尋ねると、

「どうしたも、こうしたも、

 ここのドアを幾ら押しても引いても開かなかったのですよ」

と義光は訴える。

「まぁ、

 簡単に開きましたけど、

 不思議ですわね」

義光の訴えに澪は首を捻ると、

「さっ

 リムジンへ行きましょう、

 お兄様の試合まで時間が無いですわ」

と言うなり待たせてあったリムジンへサッサと乗車してしまった。

「あっお嬢様っ」

澪の行動に義光が慌ててリムジンへ乗り込むと、

ブロロロロロロ…

ザザザザ…

リムジンはエンジン音を響かせながら走り去って行く。



そして、それから1時間後…

『玄武っ

 玄武っ!!!』

慌てたような女性の声が店の中に響き渡った。

『どうかなされましたか、黒蛇堂さま』

女性の声にあの男性・玄武は店頭へと向かうと、

『こっここにあった鏡はどうしたのですか』

と女性・黒蛇堂は長い髪を振り乱して玄武に尋ねた。

『鏡?

 あぁ、そこにあった鏡ですか、

 少し前に訪れた高貴そうな女性にお譲りいたしましたが』

と玄武は黒蛇堂に返事をする。

ところが、

『何ですってぇ!!』

玄武からその話を聞かされた黒蛇堂は顔を引きつらせると、

『なんてことを!!!

 あれはメデューサの鏡といって、

 決して人間界に出してはいけないもの、

 それ故、返品しようと思っておいておいたのに…』

と顔色を真っ青にして黒蛇堂は玄武に迫った。

『えっえぇ!!!』

黒蛇堂からそれを聞かされた玄武も飛び上がって驚くと、

『とっとにかく、

 そのメデューサの鏡を持っていったという

 その高貴そうな女性をスグに追いかけるのです

 一刻も早く!!』

と黒蛇堂は怒鳴り声を上げたとき

キィ…

「おはよー、

 迎えに来たよぉ」

黒蛇堂のドアが開くと同時に元気良く少女・真城華代が黒蛇堂へと入ってきた。

『あっ華代ちゃん!!』

華代の姿を見た黒蛇堂は思わず声を上げると、

「ん?

 どうしたのですか?

 そんなに取り乱しちゃって」

と華代はいつものスマイルを絶やさずに黒蛇堂に尋ねた。



「こっこれは…」

ズラリ…

県立体育館を左右でに展開し睨みあいをする狐川・狸小路両軍の戦車や装甲車、

そして移動式ミサイル発射装置などに驚きながら

俺はまるでモーゼの如く体育館へと伸びる道を歩いていた。

「おっおいっ

 マジで核戦争でもおっぱじめるきかよ」

横に聳えるミサイルにつけられた原子力の注意表示を横目で見ながら俺はそんな事を呟くと、

カシャッ!!

道の脇で警戒をしていた歩兵が手にしていた小銃を微かに鳴らした。

ビクッ!

「ヒッ!!」

その音に俺はびくつくと、

カシャガシャガシャ!!

今度は道の反対側に展開していた歩兵たちがそれを合図に一斉に銃口を向けた。

「ごっごっごっ

 ごめんなさい!!」

その光景に俺はそう言い残して脱兎の如く体育館へとダッシュで走っていく。

そして、

ガラガラ

バシャッ!!

「ゼハァ

 ゼハァ」

体育館の女子更衣室に飛び込んだ俺は、

両目から涙を流し、鼻水を流しながらその場にへこたれてしまった。

「ちょちょっと、

 何があったの?

 祐介っ」

飛び込んできた俺の姿を見て

先に更衣室に来ていた琴美が驚きながら声をかけると、

「あっあぁぁぁ…」

俺は声にならない声を上げながら表を指差す。

すると、

「あはは、

 なに、アレに驚いたというの?」

と琴美は俺を小馬鹿にしたようなセリフを言った。

「あれにって…

 お前、

 軍隊だぞ、

 軍隊!!

 それが俺を狙っているんだぞ」

取り乱しながら俺は琴美に訴えると、

「もぅ、

 ただのパフォーマンスだってば、

 あの人たちがあたし達を撃つ事なんてないでしょう」

と琴美は自信たっぷりに答える。

「どっどこから、そんな自信が」

琴美のその言葉を聞いた俺は心の中でそう突っ込みを入れていると、

「こほん」

更衣室に咳払いの声が響き渡った。

「え?」

その声に振り向くと、

そこにはウチの学校の制服に白衣を羽織った少女が俺を見ていた。

「えっと、

 確か君は…」

「はじめまして、

 科学部・部長代理の雪村です」

俺の問いに少女はそう返事をすると、

ニヤリ

と笑みを浮かべた。

「え?(ビクッ)

 科学部の雪村といえば…」

彼女の自己紹介に俺は科学部にまつわる様々な噂話を思い出すと、

ササ

一歩あとに引く。

「なぁにビクついているのよ、

 鳥羽君だったっけ、

 君のお父さんから頼まれて、

 これを作ってきたわ」

怯える俺の姿に雪村はそう言うと、

「はいっ」

っと言って1着のレオタードを取り出し、俺に手渡した。

「レオタード?」

新体操部のトレードマークである赤地にラメ加工されたストライプ模様が入った

長袖のレオタードを広げながら俺は驚くと、

「ふふっ

 科学部として言わせて貰いますと、

 それはただのレオタードでは無いわ、

 それは身に着けたものに7つの威力を与えてくれる特注品よ」

と雪村はこのレオタードが特別製であることを説明する。

「7つの威力?」

雪村のその言葉の意味を俺は尋ねると、

「えぇ

 1つは身に着けたものに10万馬力のパワーを与えること、

 1つはネットワーク世界に意識を飛ばせるようになること、

 1つは熱光学制御機能により……」

とレオタードに込められた能力を説明し、

そして最後に、

「これは、君のRBをコントロールしているヒミコと連動したときに

 最大の威力を発揮するようになっているわ」

と付け加えた。

「ヒミコと連動して…」

雪村のその言葉を俺は反芻すると、

「えぇ、そうよ、

 君の中に入っているヒミコさんにそう伝えてね」

と雪村は俺に言い、

そして、

ポン、

と背中を叩くと去っていった、

「すごいじゃない、

 これなら鬼に金棒、

 狸の連中が何を出してきても無敵と同じことよ」

じっと話を聞いていた琴美が駆け寄ってくるなり、興奮した口調でそう言うものの

しかし、俺は素直には喜べず、

「なんで…

 雪村がそこまで知っているんだ…」

と、雪村が俺のことを詳しく知っているのかが疑問に思っていた。




「渡したか…」

「はいっ」

レオタードを手渡した雪村春子が客席に戻ると、

席に座っていた鳥羽俊介は振り向かずに返事をした。

「はいっ首尾は上場です。

 これで、RBとヒミコのデータはさらに深い深度で把握することが出来ます」

春子はそう返事をしながら席に着くと、

カチャッ!!

ノート型PCを広げた。

そして、PCを操作しながら、

「あのレオタードは身に着けた者に

 10万馬力のパワーを含めた7つの威力を与える。

 というのはあくまで表向き…

 その真の目的は、

 覚醒を始め出したヒミコを10万馬力のパワーで押さえ込む拘束具…

 でしたよね」

と念押しをすると、

「ふふっ

 悪く言えばそう言うことになるかな…

 ただし、それでは100点満点を与えることが出来ない。

 あのレオタードの真の目的は、ヒミコの正常なる覚醒を導くものである。

 ということだ」

と俊介は返事をした。

「正常なる…ですか」

「まぁそう言うことだ、

 さて、そろそろ時間だ、

 祐介、

 上手くヒミコを導いてやってくれよ」

俊介は顎下で腕を組むとじっとこれから始まる戦いを見つめていた。



「時間でーすっ

 鳥羽さんっ

 会場に入ってください」

更衣室に俺の名前を呼ぶ声が響き渡った。

「うっ

 いっ行って来る…」

その言葉に押されるようにレオタードを身に着けていた俺は腰を上げると、

「頑張ってねぇ」

手具を片手に戦いへと向かう俺を琴美は後ろから声援を送った。

「………」

ひっつめ頭を整えながら俺が会場へと出ると、

わぁぁぁぁぁぁ!!!

割れんばかりの歓声と拍手が俺を向かえ、

そして、それに包まれながら俺は体育館の中央部に作られた演舞台へと向かっていった。

演舞台では既に女体化しレオタード姿になっている狸小路千代彦…

いや、新体操の女王・狸小路綾乃が俺を待ていて、

「良く来ましたわね」…」

と姿を見せた俺に声をかけてきた。

「ふんっ

 だれが、お前ごときの女になるものですかっ」

綾乃をキッと見据えながら俺はそう言うと、

「ふふっ

 その小生意気さ、

 いつまで持つかしら…」

ピシッ!

ピシッ!

手にしているリボンをまるで鞭の様に唸らせ叩いた。

「くっ!」

まるで自分の腕を見せ付けるかのようなその仕草に俺は唇をかみ締めると、

「さっさとやろうぜ」

と言い残し綾乃に背を向けた。

「よろしいですわ…

 では戦いを始めましょうか!!」

ビシッ!!

俺の言葉に対して綾乃はそう言うと、対戦モードへと切り替わった。



「ファイトォ!!」

白手袋が填められたレフリーの手が高々と上がり、

試合開始の掛け声が上がると、

ウォォォォォッ!!!

体育館の中は割れんばかりの歓声が上がる。

「ちっ、

 こうなったらやれるだけのことをしよう」

その歓声を背に俺は覚悟を決めると、

グッ!!

っと全身に力を込め、

そして、精神を集中させる。

しかし、いつもならすぐに出てくるヒミコからのアクションはまだ…無い…



「はぁはぁはぁ」

「ねぇ、本当にここなの?」

試合が始まって程なくして、

華代と黒蛇堂が息を切らせながら体育館に駆け込んでくると、

華代は黒蛇堂に尋ねた。

「えぇ、

 遠見の鏡でここにメデューサの鏡があるって出ていたわ、

 きっとこの中にメデューサの鏡を持っている人がいるわ、

 探すのよ、華代ちゃん、

 なんとしても、メデューサの鏡の蓋が開く前に…」

「うっうん」

華代の質問に黒蛇堂はメデューサの鏡がこの体育館内に有ることを告げると、

「二手になって探しましょう」

と提案をすると、

「判った、

 じゃぁあたしはこっちに行くから、

 黒蛇堂は向こうを探して!」

「うん!」

と華代は返事をし、

黒蛇堂と華代は二手に別れメデューサの鏡探し始めた。

しかし、

「Piっ

 こちら観測班!!
 
 現れました!!

 真城華代です。

 真城華代が体育館内にたったいま突入いたしました」

と興奮した口調で体育館内に設けられている統合指揮本部へ華代発見の第一報を伝えた。

「なにっ

 それは本当かっ」

その報告に狐川家の代表執事・東大寺は腰を浮かせながら声を上げると、

「よしっ、

 真城華代捕縛作戦・発動!!」

と声を張り上げた。

そして、その瞬間より、

体育館内に配備されていた狐川シークレットサービスの隊員たちが一斉に動き始め、

黒蛇堂と共にメデューサの鏡を探しに入ってきた華代の逮捕むけ行動を開始する。

しかし、そんな事が水面下で行われていることを知らない俺は目の前の敵、

狸小路千代彦こと綾乃との戦いに苦戦を強いられていた。



「ほーほほほほほほほ!!!

 そーらそーらそーら」

ビシッ

バシッ!!

長いリボンを意のままの様に操り俺を攻撃してくるのに対して、

俺は防戦一方だった。

「くそっ

 全然歯が立たないじゃないか」

相手の猛攻にジリジリと追い詰められていく中、

俺は焦り始めていた。

「ほほほほほほ

 無様ねっ

 一つも反撃が出来ないだなんて、

 判ったでしょう、

 お前と私とでは役者が違うということを!!」

綾乃は勝ち誇ったかのようにそう告げると、

「始まったばかりだけど、

 止めを刺してあげますわ」

そう言いながら

ヒュンッ!!

俺に向かってリボンを突き刺してきた。

「くそっ!!」

まるで槍の如く迫ってくるリボンを見据えながら俺は歯を食いしばったとき、

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

突然女性の悲鳴が響き渡ると、

「モー

 モー!

 モー!」

ズドドドドドド!!!

「え?」

引き裂けたレオタードを身に纏ったウシが試合会場に乱入してくるなり、

ドカッ!!

俺に攻撃を仕掛けてきていた綾乃をものの見事に蹴り飛ばしてしまった。

「なっなんでウシが」

暴れまわるウシの姿に俺は呆然としていると、

「いやぁぁ…ブヒィィィィ!!!」

今度はブタの泣き叫ぶ声が上がり、

ドドドドドド!!!

セーラー服を引きずりながら10頭近いブタが乱入してくると、

ウシに蹴り飛ばされ倒れている綾乃を次々と踏みつけて行った。

「ウシに…ブタですか…」

突然の事態に試合は急遽中止になり、

暴れまわるウシやブタを取り押さえようと飛び出してきた係員たちが悪戦苦闘する様子を眺めていると、

「!」

俺の足元に白目を剥いた綾乃の姿があった。

「おっおいっ

 大丈夫か?」

ピクリともしない綾乃の様子に俺が心配をして声をかけると、

ガシッ!!

「まっまだまだですわ」

これの声で気がついた綾乃は震える身体を起こし、

「とんだ邪魔が入ったものですわ、

 次の棍棒で勝負をつけてあげます」

と言い残して俺の前から去っていった。

しかし、

「暴れウマだぁ!!!」

ブヒヒヒヒン!!!

次の種目・棍棒の最中、

突然数頭のウマが試合会場に乱入してくると、

棍棒を繰り出していた綾乃を蹴り上げ、

また、次のフープの試合中には、

ニャォォォォン!!!

ミケにヨツジロ、シャムにペルシャと言った様々なネコが乱入してくると、

一斉に綾乃に飛び掛った。

「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「一体、なにが起きているんだ…」

綾乃の悲鳴を聞きながら試合ごとに現れる動物の姿に俺は呆然としていた。

そして、試合会場の片隅では、

「そーそ、

 動かないでぇ」

「うぐぐぐぐ…」

メガネを怪しく輝かせながら

プスッ

涙を浮かべるメガネっ娘の首筋に注射器を立てると、

その中の液体を彼女の中に流し込んでいく、

そして、

「きみは…

 そうだ、
 
 イヌだ、
 
 君はイヌだよ」

と話しかけると、

「いやぁぁぁぁ!!」

メガネっ娘の体中から黒と白の毛が生え始めると、

メキメキメキ!!!

見る見る彼女の姿は変わり、

やがて、伸びてきた尻尾を振り始めると

「う…ワン!!」

メガネっ娘は一匹のボーダコリーへと姿を変え、

男性に向かって吼えまくりはじめる。

「ふむっ

 ちゃんとイヌになったか

 どうやら私の理論は問題ないようだな…
 
 それにしても…
 
 見かけによらず、この体育館は女性が多いなぁ…」

男性はそう呟きながら振り返ると、

「いやぁぁぁぁ!!!

 女の子になっちゃったぁ!!!」

と泣き叫びながら逃げ惑う少女の姿が目に入る。

「女の子に?」

彼女達の声に首をかしげるこの男性こそが後のDr.ナイトである。

そして、その向こうでは、

「そぉれっ!!!」

と取り囲む屈強の男性達・狐川親衛隊に向かって術を放つ真城華代の姿があった。




「おっお兄様…

 なんて無残な…」

その頃、観客席では試合ごとにボロボロになっていく兄の姿に

澪は涙を流しながら哀れむと、

「そっそうだわ、

 この鏡でお兄様を綺麗にしてあげますわ」

澪は黒蛇堂より持ってきた鏡のことを思い出し、

「義光っ

 もぅ我慢が出来ません

 美しくないお兄様など見たくありません

 わたくしが綺麗にして差し上げます」

と声を張り上げ席を立った。

一方、千代彦こと綾乃はと言うと、

「おいっ

 大丈夫か?」

飛び込んできた様々な動物に踏みつけられれ

完全に沈黙をしている綾乃を突付きながら俺は声をかけると、

「ふっふふふふふふ」

綾乃の口から笑い声が漏れ始め、

シャッ!

レオタードに包まれた腕が俺の胸元に伸び、

そのまま胸倉を掴み上げると、

「ふふっ

 勝ったなどと思わないで、

 我が狸小路の真の力を見せてあげるわ」

と言うなり、

クイッ!!

持っていたスティック(棍棒)の先を指で開くと、

その中に仕込んであったボタンを押した。

「なっなにをした?」

綾乃の行動の意味を尋ねると、

「ふふふっ

 今度こそ、どんなお邪魔虫が乱入してもあなたに勝ち目はないわ」

綾乃のその言葉が終わるのと同時に、

シャッ!!

体育館の外に閃光が走ると、

ちゅどぉぉぉん!!

爆発音が響き渡った。

「え?」

その音に俺は振り返ると、

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

言いようもない響きが体育館に迫り、

そして、巨大な影が体育館の窓を覆ったとき、

バゴッ!!

体育館の天井が一気に崩れ落ち始めた。

「うわぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

ぶもぉぉぉぉぉぉ!!!

ワンワン!!

崩れ落ち始めた天井に

たちまち体育館の中は逃げ惑う人や動物達でパニックに陥ると、

「うわぁぁぁぁ!!」

それに巻き込まれた俺も右往左往していた。

「はーははははは!!!!

 見て、

 人がゴミのようだわ!!」

逃げ惑う観客を見ながら綾乃の笑い声を上がる。

「この野郎!!」

そんな奴の姿に俺は怒りを込み上げると、

奴に殴りかかろうとしたが、

しかし、その直前、

シュピッ!!

俺の前に一直線の光線が走ると、

シバッ!!

目の前の床を一気に切り裂いていった。

「なっ!」

そのことに俺は驚くと、

ゴゴゴゴゴ!!

天井を崩し、

ゆっくりと巨大な黒い影が体育館内に侵入してきた。

「なっ

 ロボット?」

クイッ

クイッ

モノアイを左右に動かし侵入してくる巨大なロボットの姿に俺は唖然とすると、

「ふふふふ、

 ロボットでは有りませんよ、

 我が狸小路ではモビルスーツと呼んでいます、

 さぁ、モビルスーツ・タヌキオング!

 お前の力を見せてあげましょう!!」

すっかり千代彦モードに入った綾乃はそう叫びながら、

綾乃を迎えに本体より分離した腕に乗り、タヌキオングの操縦席へと入っていく。

「なっななんだよ…

 これは」

スティックを握り締めながら俺は言いようもない脱力感を味わっていると、

「祐介っ

 もぅなにをしているの、

 逃げるのよ!!」

と言う声と共に琴美が俺の方へと走ってきた。

「あっ!

 琴美!!
 
 こっちに来るな!!」

走ってくる琴美の姿に俺は声を上げるが、

その途端

ガラガラガラ!!

真上より天井の破片が落ちてくると、

「きゃぁぁぁぁ!!」

琴美の悲鳴が上がった。

「琴美!!」

その瞬間、俺の耳から音が消え、

全てがスローモーションとなった世界を俺は走ると

身を庇う琴美の下へ駆け寄るが、

しかし、天井の破片は琴美の体を襲い始めていた。

「ちくしょう!!!」

音のない世界で俺は思いっきり叫びながら、

琴美を襲う破片を力の限り引っ張る。

けど、俺の一人の力では破片の軌道を変えることが出来ず。

琴美の体を潰し始める。

「くぅぅぅ!!!

 なんだよ、
 
 10万馬力のパワーが出るんじゃないのかよっ」

泣き叫びながら俺はそう訴えるが、

しかし、力を振り絞っても破片はびくともしなかった。

「そっそうだ、バレリーナ戦隊…ってダメだ、間に合わない!!

 くっそう!!
 
 動け、動け、動け!!!」

破片を押し涙を流しながら俺がそう叫んだとき、

『力が欲しいか、

 力が欲しければ

 私にその身体委ねなさい』

とこれまで沈黙を続けていたヒミコが俺に告げた。

「え?」

『どうした、

 力が欲しいのでしょう。

 ならば私に任せるのです』

「うっ」

ヒミコからの言葉に俺は一抹の不安を感じつつ、

「わかったよ

 判ったから

 琴美を助けろ!!」

と半ば破れかぶれで叫ぶのと同時に、

『その願い、聞き届けた』

ヒミコの声が俺の耳に響く、

そして、

バシッ!!

『あっ!』

一瞬のうちに俺の意識が体より引き剥がされてしまうと、

朝同様、全ての自由を失ってしまった。



「鳥羽さん、ヒミコが…

 たったいまヒミコの第2次覚醒を確認しました」

崩壊した体育館から離れたところでPCを開いていた春子が声を上げると、

「そうか!!」

それを聞きつけた俊介が駆け寄ってくる。

「先ほど、ゆっ祐介君の意識がRBから切り離され

 ヒミコがRBの制御を直接開始しました」

駆け寄ってきた俊介に春子がそう報告をすると、

「よし!!!」

目を爛々と輝かせながら俊介は声を上げる。

それと同時に

ドォォォォン!!!

大音響と共に体育館の中より光り輝く6枚の羽が広がりはじめると、

「そうだ、ヒミコ!

 そのレオタードはお前にとって10万馬力の歩行器だ。

 さぁ存分にそのパワーを発揮するがよいっ

 世界の連中にお前の真の力を見せるのだ!!」

広がる羽を見つめながら俊介はそう叫び続けていた。



つづく



次回予告
ついに本来の能力を覚醒したヒミコ、

しかし、その陰では全く違う目的の作戦が決行されつつあった。

大混乱の県立体育館を舞台に繰り広げられる、

華代vs狐川の戦いは無関係の人間を巻き込み拡大していった。

追われる立場の華代の運命は、

そして、黒蛇堂が探すメデューサの鏡の行方は、

次回「敵は狸編・第7話:真城華代捕縛指令」お楽しみに…


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