風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

敵は狸編
(第3話:出撃!!バレリーナ戦隊)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.120



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。







一夜が明けた月曜日の朝…

いつも通りにセーラー服に着替えた俺は、

机の上に置いてある携帯電話をじっと眺めていた。

『もしも、キミの身に危険を感じたら、

 その電話を使いなさい。
 
 この星の上ならどこからでも、

 我が、狐川の救援隊が駆けつけますよ』

帰り際、東大寺はそう言いながら、

俺の右手に1台の携帯電話を握らせると出ていった。



「それにしても随分と大げさだな…」

などと思いながらスカートのポケットにそれを押し込むと、

「行って来まーす……」

と玄関のドアを開けたとたん、

信じられない光景を目撃した。

「なっにっ!!」

そう、そこにはいつもと変わらない自宅前の風景があった。

「あれ?どうなってんだ?、

 TV局や新聞記者達が居ないぞ…」

なぜか家の前には昨夜あれだけ騒いでいた新聞記者等の姿はなく、

代わりに道路上に”こん棒”や”フープ”っと言った

新体操の手具が散乱していた。

「何が起きたんだ…ココで?」

道ばたに落ちている”こん棒”の一つを拾うと、

それを見ながらしばし考え込んだ。

すると…

ポンっ

「!!」

突然背中を叩かかれると、

「オッスっ、祐介っ」

っと声がかけられた。

「キャッ…

 あっ…

 あぁ…琴美か…」

背中を叩いたのが琴美だったことに安心すると、

琴美は呆れながら、

「なにが”キャッ”よ…

 アンタ、最近女の子っぽくなってきているわよ。

 気をつけないと、

 元の体に戻ったらオカマになっていたなんて言うハナシ、

 冗談じゃないからね」

彼女はそう言いながら俺を指差した。

「そんな事言っても…」

「ほらっ

 そう言う態度!!」

「わっ、わかった」

「で、何を考えてたの?」

「いや…一体、夕べココで何があったのかなってね」

そう言いながら、俺は手にした手具を指すと、

「ふ〜〜ん…

 きっと新体操の大会でもあったんじゃないの?」

とアッケラカンと答えた。

「はぁ?…」

「まっ、あんまり深く考えないコトよ…ウン」

琴美はそう頷きながら言うと、

「細かいことを気にしていると、

 体が持たないわよ

 ほらっ、早くしないと朝練始まっちゃうよ」

と言うと、

いつもと同じように俺の手を引くなり猛ダッシュで走り出した。

「ちょっちょと待ってよ…」

そう、それはいつもと同じ朝の風景なのだが……

……でも、どこか違う。


そう思いながら走る祐介の背後の空で、

キラリ

微かな光が光った。

それは赤道上空3万6千キロの衛星軌道上で彼らの様子を監視している

”狐川・スペシャル5号”が太陽光を反射した光だった。

そして、その衛星に搭載された高性能望遠鏡より補足された画像は、

リアルタイムで狐川・情報処理センターへ電送・処理され、

統合参謀本部へ送信、本部内の特別監視室で監視されていた。


オォォォォォォン

大型コンピューターのファンの音が微かに漏れる監視室内で、

じっと、

祐介達の様子をモニターしていた監視員に上長が近付くと、

「”T”に異常はないか…」

と声をかけた。

「ハッ、

 現在のところ、コードネーム”T”の周囲には異常はありません」

そう監視員が答えると、

「よしっ、いつどこからタヌキが襲うかも知れない、

 気を抜かずしっかりと見張るんだ、よいな」

「ハッ」

ビシッ

監視員は上長に敬礼をして応えた。

「…さて…どこから攻めてくる気だ、タヌキの連中は…」

上長はそう呟きながらモニターを眺める。



まだ人気の少ない学校に着くと同時に、

大急ぎでレオタードに着替えた俺と琴美は、

上着のジャージを羽織ることなく、

そのまんまの姿で体育館に駆け込んだ。


ハァハァハァ…

「何とか間に合った…」

「そうね」

息を整えていると、

バシン!!!

「そこの2人っ、

 なんですかっ、いま頃来て…

 もぅ、練習は始まっているんですよっ」

竹刀の音と怒鳴り声が体育館に響きわたると、

一人のジャージ姿の中年女性が歩いてきた。

「キャッ」

思わず、琴美と抱き合っていると、

俺の方をジロリとみるなり、

「あなたが、鳥羽さんですね」

「はっ…ハイ…」

彼女のパワーに圧倒されながら、そう答えていると。

コーチが俺達に駆け寄ってきて、

「紹介するわ、

 この方は今日から我が新体操部のコーチになられた

 星一徹子さんです」

と中年女性の紹介をした。

「ほし、いってつこ?」

俺が思わず聞き返したとたん、

ビシッ

目の前に竹刀が振り下ろされると、

「私の名前は”ほしいち”ここで一回切って”てつこ”と言います。

 今度間違えたら折檻ですからねっ」

とキツイ声で言った。

「ねぇねぇ、祐介っ…」

後ろにいた琴美が俺のわき腹をつつきながら声をかけた。

「なに?」

「ほらっ、昨日東大寺さんが言っていたコーチってこの方じゃないの」

「はぁ…?

 まさか、このおばさんが

 ”どんな不良でも一夜のうちに新体操選手にしてしまう”

 と言う”恐怖の大王”か…?」

俺と琴美がヒソヒソ話をしていると、

「なんですかっ、小声で話をするなんて

 言いたいことがあったらハッキリ言いなさいっ

 私はこういうのが大嫌いですからね」

徹子が声をあげた。

「すっすみません」

俺と琴美は小さくなって返事をすると、

「よろしい。

 既にあなた方にも話が言っていると思いますが

 私は東大寺さまより、

 鳥羽さん、

 あなたをオリンピックに出られる新体操選手にすることを

 仰せつかりました。

 ですから、今週1週間であなたを身も心も一流の新体操選手に

 作り変えますから心してください」

と言い、俺の身体をジロジロと見た後、

「どうやら、姿形は問題ない様なので、

 あとは技術と心の問題ですね。

 よろしい、

 では、これより特訓を始めます…

 ついてきなさいっ」

と言うなり、クルリと背を向けた。

「はぁ…とんでもないことになったぞ…」

俺は一瞬天井を眺めるとそう呟いた。



夕刻…

「たっ…ただいまぁ…」

授業を挟んで夕方遅くまでの猛特訓で

すっかりボロボロになって帰ってきた俺を、

「よう、どうだった、学校は…

 凄いコーチが来たと言うじゃないか」

親父がニコニコ顔で出迎えてくれた。

「なんだ、親父…帰ってたのか…」

「なんだとはなんだ、

 おまえの体を心配してやっているんだぞ」

「あははは…

 それは悪かったわね」

その言葉を残すと

俺はフラフラと自分の部屋へと上がっていった。

ぼふっ

「ふぅぅぅぅぅ」

部屋に入るなり、

制服姿のまま俺はベッドの上に倒れこんだ。

「あぁしんど…

 くっそう…狸小路めっ

 すべてはあいつが悪いんだ!!」

そう叫び声をあげると、

俺はそばにあったクマのヌイグルミを思いっきり放り投げた。

が、投げられたヌイグルミは、

ガチャッ

「お〜いっ、祐介っ

 風呂が沸いているぞ…」

そう言いながらドアから顔を出した親父の顔面を見事直撃した。

「あらら…」


…チャポン…


「あぁ、さっぱりした」

濡れた髪を拭きながら風呂上りの上気した姿で出てくると。

「練習…そんなにキツイのか」

と新聞を読みながら親父が声をかけた。

「あれ?、母さんは?」

姿が見えないお袋のことを訊ねると、

「あぁ、母さんは…ほれ…同窓会だ」

と親父は答える。

「あぁ、そう言えばそんなことを言ってたっけな…」

俺一人で納得すると、

「えっ…あぁ…新体操の練習?

 そりゃぁ、鬼のようなコーチが来たから大変だよ」

と言うと、

「そうかそうか…」

そう言いながら親父の口元がは一瞬ニヤっと緩んだ。

「なんだ、そのやけに他人めいた態度は…」

「ははは…気のせいだろう

 ところで、どうだい?

 風呂上がりに牛乳を飲むと体にいいぞ」
 
そう言いながら、親父は牛乳が入ったコップを俺の前に差し出した。

「あっ、サンキュー」

俺は親父の手からそれをひったくるなり、

ゴキュゴキュ

っと飲んだが、3口目に妙な味が口の中に広がると、

ぶっ!!

ゲボッ!

口に含んだ思わず吐き出してしまった。

ゲホゲホ…

咳をしながら、

「おっ、親父ぃ、コレ変だぞ…」

と文句を言うと、

「おっかしいなぁ、まだ正味期限が切れて1週間しか経っていないが…」

と言いながらテーブルの上の紙パックの日付を眺めた。

「ぬわぃっ、1週間も…」

慌ててトイレに駆け込もうとしたとき、

ガクッ

突然脚の力が抜けた。

ドタン!!

俺はその場に倒れると、

「きっ、貴様っ、何をしたっ」

思わず俺は親父をにらむ、

「ふっふっふっ…

 なぁに、牛乳に痺れ薬と強力睡眠薬を少々」

「なっ」

親父はキラリと歯を輝かせながら言うと、

「じつはな、

 母さんが居ないことだし…

 これからお前の身体をちょいと弄ろうかと思ってな…

 あっ
 
 ちゃんと処女は守ってあげるから安心して眠りにつきなさい」

「なっ、何をする気だ…」

「大丈夫、大丈夫、パパにすべてを任せなさい

 はい、

 ワン!、

 ツー!!、

 スリー!!!」
 
と親父がそう唱えながら、

人差し指・中指・薬指を次々と立てたとたん、

俺の視界は真っ暗になった。

「ちっきしょーー…………」



「……………………………」

「…………………………!」

ハッ

と目が覚めると、俺はいつものベッドの中で寝かされていた。

「朝?」

カーテンから漏れる光と鳥の囀りの声を聞いていたとき、

眠りにつく直前の記憶がよみがえった。

「!!」

大急ぎで着ている物をすべて脱ぎ捨てると、

身体の各部を点検した。

相変わらず、男ではなく女の身体、

胸の大きさも変わらず、

感度も一緒、

そして、あそこの毛の生え方も…

「そうだ、顔…」

ハッとして

鏡を見ると、髪がぼさぼさ状態のいつもの少女の顔が映った。

「あぁもぅ!!!

 髪の手入れをしないまま寝ちゃったから、

 ボッサボッサじゃないのっ!!」
 
俺は髪の毛の状態に文句を言うと、

大急ぎで髪を解かし始めた。

とそのとき、

コンコン

ドアがノックされた。

「起きてるよぉ〜」

と髪を解かしながら返事をしていると、

チャッ

「ようっ、祐介っ、調子はどうだい?」

と親父が顔を出した。

「調子もどうも、せめて髪の手入れが終わってから寝か……

 じゃねっ、
 
 貴様っ、俺に何をしたっ」
 
俺はブラシをほっぽりだすと、

ぐぃっ

っと親父の胸ぐらをつかみあげた。

「こっコラっ、手を離さないか」

「やかましいっ、

 何をした、言えっ、白状しろっ」

「いや、ヒミコの修正をな…」

「なに?」

「…ヒミコの修正と身体の交換をしたんだ」

「え?」

思わず俺が手を離すと、

「ゲホゲホゲホ…

 全く、乱暴な娘だな、
 
 女の子はもっとお淑やかじゃないとお嫁に行けないぞ」
 
そう言いながら親父が乱れたシャツを直しているのを見て、

「おいっ、俺を嫁に行かせる気か?」

「お前がその気なら、

 父さんは奮発してお前のためにウェディングドレスを作ってあげるぞ」

「マジで言っているのか」

「花嫁の父というのも経験してみたいしな」

「殴るぞ…」

「ハハハハハ」

笑ってごまかす親父。

「で、さっき言っていた事って何だ」
 
「なんだ、覚えていたのか」

「当たり前だ、さらりととんでもないことを言ったな」

「なんのことだ?」

「ふざけるなっ、

 ヒミコの修正はともかく、身体の交換ってなんだ」

俺が訊ねると、親父は

「まったく、細かいところを気にする奴だ…

 まぁ、いいだろう」

ゴホン!!

親父はひとつ咳払いをすると、

「祐介っ、知っているかも知れないが、

 これまでお前が使っていた身体はいわば、

 ヒミコの稼働試験を前提にした身体なんだ、

 しかも、研究費の関係でコンシュマー向けの身体をベースにしている。」

「そういや、保険を使っていたっけな」

病院での出来事を思い出しながら俺が言うと、

「まぁな、で、研究費を少しでも多くヒミコに回すために、

 身体(RB)の使用料を保険で賄ったのだが、

 その関係上どうしても身体の性能に限界がある」

「それで?」

「うん、

 それでだ。

 実はあの狐川さんがヒミコに興味を持ってくれてな」

「ほぅ」

「ヒミコの研究に対して支援をしてくれることになってな…」

「ほほぅ」

「そこで、ヒミコのバージョンアップと

 その能力を100%発揮できる身体に交換したんだ」

ボコッ

そう言って胸を張る親父の頬に俺は迷わず右ストレートを打ち込んだ。

ドタン!!

ガタガタガタ

吹き飛ばされた親父が押入の襖にぶつかると同時に、

中の物が転がり落ちてきた。

ガシャンガシャン

そして、わけのわからん機材などとともに

ドタン

裸の女性の身体も飛び出してきた。

「なに?

 キャァァァァァァ!!」

そう

それは俺と同じ姿形をした女性が虚ろに開いた目で俺を眺めていた。

「イタタタタ、

 いきなり殴ることはないだろう」
 
親父が頬を押さえながら起きあがると、

「なっ、なんだコレは!!」

俺は女性の身体を指さしながら叫ぶと、

「ん?、あぁ…

 昨日まで使っていたお前の身体じゃないか、

 折角、押入にしまっておいたのに…

 ダメだぞ」
 
と言いながら女の身体を担ぎ上げた。

「どっ、どうする気だ、それ」

俺が指を指しながら言うと、

「いや、梱包して返却するのだが」

「返却?」

「ほれっ、お前も手伝えっ」

と言うなり

ポーン

と俺に包帯を投げた。

「?」

「RB返却用の特殊布だ、ちゃんと抑えているんだぞ」

と言いながら親父は俺の魂が抜け文字通り”抜け殻”となった

RBの脚から包帯を巻きだした。

まるで、殺人犯がその死体を処分しているような光景に、

俺は共犯者になったような気分で親父の作業を眺めていると。

ギュッ

何かが俺の腕をつかんだ。

「?」

何気なく腕を見ると、

いつの間にかRBの手が勝手に動き俺の腕をつかんでいた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ〜っ

 親父親父親父

 てっ手が……」

俺が取り乱だすと、

「ん?

 あぁ、お前のヒミコにRBが反応したんだな…

 そんなに騒ぐほどでもない」

とどこ吹く風。

「そっそんなぁ…」

「手を離すように念じてみろ、

 そうすればそいつは手を離すぞ」

と言われたので、その通りにすると

パタッ

RBは手を離した。


ふぅぅぅぅぅっ

「なんだか、自分をミイラにしたみたいで気分のいいものではないな」

俺は、包帯でグルグル巻きにされたRBを眺めていると、

「それより、学校には行かなくていいのか?」

親父が時計を指差すと同時に、

ガチャッ

「おはよ…祐介っ、学校行こう!!」

と琴美が元気良く玄関のドアを開けた。



「ふぅ〜〜ん、身体換えたの?」

「まぁね」

登校途中、俺は琴美に今朝起きた出来事を話していた。

「でも、見た目ではどこも変わっていないじゃん」

近寄って俺を見る琴美に

「確かに何も変わっていないみたいなんだけど…

 あの、親父のことだからなぁ…」

っと頭を掻きながら校庭に入ったとたん、



シュルルルルルルルルル…

ズン!!!

一発の砲丸が目の前に落下した。

「なっ」

めり込んでいる砲丸を眺めていると、

「ごめんなさ〜い」

一人の少女が駆け寄ってくるなり、

「手が滑っちゃって、ごめんなさいね」

と言って、砲丸を掘り起こすと

タッタッタッ

と駆けていった。

「ねぇ、砲丸投げの記録って何メートルだっけ…」

琴美が言う。

「さぁ?」

「100メートル以上は飛んでいるみたいね」

「そうか?」

再び歩き出すと、

シュゴッ

ドップラー効果を利かせながら今度はバットが飛んできた。

「ごめんなさーぃ

 お怪我はありませんか?」

植木に突き刺さったバットを引き抜きながら、

ソフトボール部の少女が謝った。

「うん…まぁ…」

俺が返事をすると、

「なんかにぎやかね今日…」

そういいながら琴美が指差した校庭では、

様々なユニホームに身を包んだ女性達が朝練に精を出していた。

「朝練…見たいだな…」

「そうみたいね

 でも…

 こんなに居たっけ?

 うちの学校のクラブって…」

そう言いながら玄関に入ろうとしたとき、

「!!」

一瞬何かを察知した俺は思わず琴美を突き飛ばしたとたん

バシャバシャバシャ

ジュォォォォォォォォ!!!!

上から液体が降ってくるなり白い煙を上げた。

「ごめんなさ〜〜ぃ、手が滑って…」

化学室から白衣姿の少女が手を振っていた。

そして、その手には硫酸のビンがしっかりと握られていた。

「…化学部も朝練見たいね」

「…そっそうみたいだな…」

思わず上を見上げて俺と琴美はそうつぶやいていた。


「ねぇ、変だと思わない?」

「何が?」

更衣室で着替えていると、

琴美が切り出した。

「どう考えてもさっきの…

 祐介、あんたを狙っているにしか見えないんだけど」

「まさか…

 誰が…」

「タヌキの一味…」

「あははは…

 いくらなんでも、そんなはずは…」

「日曜の一件を忘れたの?」

「はははは…そう言えば…」

「すぐに東大寺さんに連絡を入れたほうが…」

琴美のその言葉を聞いて俺も不安になってきた。

早速、東大寺から預かっていた専用の携帯電話を取り出したとき、

パッ

いきなり琴美が俺に抱きつくと、

その携帯電話を引ったくった。

「なっ、何をするっ」

俺が叫ぶと、

「うふふふふふ…

 お馬鹿さん、

 同じ手に2度も引っかかるなんて」

琴美がそう言いながら、

バッ

セーラー服の上着を脱ぎ捨てた。

「おっ、お前は……」

そう言う俺の目の前にエンジのブルマー姿の女子バレー部員が立っていた。

「おほほほほほ…

 狸小路・女子バレー部キャプテン、”紅の御蝶”よ

 この携帯電話は預かっていきますわ」

と言う言葉を残して、更衣室から駆け出していった。

一瞬呆気にとられたが、すぐに、

「むわてぃ…、電話を返せっ」

俺もすぐに後を追う、

「お〜っほほほほほほ…

 鬼さんこちら…」

俺と紅の御蝶との追いかけっこが始まった。

「んなろ…追いかけっこなら」

俺はブレスレットに手をやると、

「横着!!」

と叫び声をあげる。

パァァァァァァァ

光が俺の身体を包み込むとたちまち俺は”兎娘(バニーガール)”に変身した。

「なに?」

驚きの声をあげる御蝶。

「むわたんかぁ〜」

跳躍をしながら一気に差を縮める。

「くっそぉ〜っ」

御蝶は無線機を取り出すと、

「こちら、御蝶っ、緊急事態発生!!

 担当各員は至急集合のこと!!」

とたんに、

ソフトボール部や陸上部のユニホームを着た女子生徒が窓を突き破って

俺の前に立ちはだかった。

「お前等…」

「オホホホホホ…

 紹介するわっ、狸小路運動クラブのみなさんよっ

 さっ、やっておしまい!!」
 
御蝶のその言葉と共に

「うぉぉぉぉぉ〜」

一斉に飛びかかってきた。

「朝練にしては人数が多いから、

 おかしいと思ったぜ」
 
ヒラリ

俺は飛び上がると先陣のヤツの頭を踏みつけ

ガッシャーン

そのまま横の窓を突き破ると表に飛び出した。

「消えた!!」

「どこ行った!!」

「あっちだ!!」

「いやこっちだ!!」

「ちょっとあなた、踏まないでよ」

「キャァァァァ」

「いやぁぁぁぁぁ」

あまりにも大人数が狭い廊下にひしめいていたものだから、

たちまち大混乱に陥る。

「けっ、間抜けが…」

その様子を見ながら俺は御蝶の姿を探す。

「…いたっ」

体育館に向かって走っている御蝶の姿を見つけると

「待て、この野郎!!

 琴美をどこに隠した!!」

「!!

 なに?

 失敗したかっ」

御蝶は俺の姿を見るなり、再び無線機を取り出すと

「こちら、御蝶っ

 ポイントTにターゲットを誘い込む」

そう言うなり、一目散に体育館へと向かっていった。

「逃がすかっ」

俺も後を追って体育館に駆け込んでいく、

「でやぁぁぁぁぁぁ」

バゴォォォォォン

御蝶が閉めたドアを蹴破って中に入ると、

「祐介っ」

琴美の声が体育館に響いた。

「なっ」

見ると、琴美のみならず、

朝練にきていた新体操部のみんなが女子バレー部員につかまっていた。

「お〜ホッホッホ

 さて、どうする?」

まったく余裕の御蝶。

「くっそう」

「おっと、動くんじゃないよ

 じゃないと、ここに居る子達がどうなってもいいのかい?」

「なに?」

「もしも、アンタが抵抗すれば、

 彼女達を素っ裸にして

 この相撲部特製、使い込んだ廻しを締めてあげるよ」

と言いながら体育館の真中に山と積まれた薄汚れた廻しを指差した。

「いやぁぁぁ、そんなの」

新体操部のみんなが次々と叫び声をあげる。

「卑怯だぞ…

 大体おまえ達の目的は何だ!!」
 
と叫ぶと、

「うふふふ、女王・狸小路綾乃さまは無敗でなくてはいけないわ。

 だから、あたし達はそのために邪魔な者達を始末しているんですよ」

「なんだと!!

 そんなことはさせないぞ!!」
 
そう俺が言うと

「おほほほほ、負け犬の遠吠えね…

 さっ、あの女を子供の生めない体にしておやりっ」

御蝶が指図すると、

「おすっ」

厳つい大男がノッソリと俺の前に立った。

「紹介するわ、

 狸小路・相撲部主将”鬼瓦源太郎”君よ

 あなたの相手にぴったりでしょう」

御蝶は大男の紹介をする。

グキグキグキ

指の骨を鳴らしながら鬼瓦は、

「ふっふっふっ、

 バニーガールのねーちゃんをいたぶるなんて、

 御蝶もずいぶんいい趣味をしているじゃねぇ〜か」

そう言いながら俺を見下ろしたヤツの目を見たとき、

ゾクッ

俺の背筋に冷たいものが走った。

「この男はやばい…」

俺は直感的に鬼瓦の危険性を察知した。

「楽しませてもらうぜ…」

その言葉とともに、

ブン

鬼瓦の腕が空を切った。

ヒャッ

すんでのところでかわすと

ヒラリ

俺は鬼瓦から距離をおいた。

そのとたん

ビリビリビリ…

「キャァァァァァ」

服が引き裂かれる音ともに琴美の悲鳴が上がる。

「なっ」

見ると、琴美の制服が引き裂かれ下着姿にされていた。

「言ったでしょう…、

 抵抗をすれば、廻しを締めるって…

 さぁ、彼女の廻し姿を見たくなければ、

 おとなしくしている事ね」

「祐介っ」

琴美が泣きそうな声をあげる。

「くっそう…

 こういうときに仮面ライダーとかゴレンジャーみたいのが来てくれたらな…」

と思っていると、


♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪〜〜

突如ギターの音色が体育館の中に響き渡った。


カッ!

カッ!!

カッ!!!

それに合わせるようにして、

数本の強烈なライトが体育館内を照らし出すと、

「ふははははははは…」

光源の方から高らかに聞こえる笑い声が聞こえてきた…

「誰だ!!」

御蝶の叫び声がこだまする。

一方、直接ライトが照らされている為に、

他の狸小路バレー部員達は思うように動けなかった。

「よし、今だ!!」

ゲシッ!!

「ぐぉぉぉぉっ」

俺は目の前の鬼瓦の股間に鋭い一撃を加えると、

「琴美っ」

股間を抑えて苦しむヤツを馬乗りにして琴美の元に駆け寄った。

「祐介っ」

「このやろう!!」

キャッ!!

琴美の傍にいたバレー部員を突き飛ばすと、

彼女を抱き抱え一気に距離をおいた。

「何をしているのっ」

手で目を覆いながら御蝶が叫び声をあげる。


「はははははははは…ゲホゲホ…

 ゴホン!!、慣れないことをするもんじゃないな」

「ん?、その声…親父か!!」

俺が声をあげると、

「そこまでだ!!、タヌキ共っ

 これ以上、新体操の練習に打ち込む少女達に悪さをするなら

 我々が相手になるぞ!!」

と高らかにうたいあげる。

「おじさま…どうしたのかしら…」

「さぁな、何か悪いもんでも喰ったんじゃないのか?」

俺も手を翳しながら親父の方を見る。


「なにをしゃらくさいっ、

 全部員、あいつに向かって一斉レシーブ攻撃っ

 放てっ…」

御蝶の命令と同時に

そぉぉぉぉぉれっ!!

バレー部員の声がすると、

バシ!

バシ!!

バシ!!!

光源に向かって特製質量バレーボールが一斉に放たれた。

しかし、目標に着弾する寸前。

げしっ!!

次々とボールの軌道が変わると、

離れたところに着弾した。


「なにっ!!」

驚きの声をあげる御蝶。

すると、4人の人影が俺の目の前に舞い降りた。

「?」

カシッ

突如ライトが消されると、

カッ!!

今度は天井に仕掛けられたスポットライトが4人を照らし出した。

「うわっ」

「うそっ」

驚きの声を上げた、俺と琴美の前に、

4人のクラシック・チュチュ姿のバレリーナが

つま先立ちをしながら優雅にポーズをつけていた。

「ばれりーな?」

唖然としている俺に、

「ふっふっふっ…バレーに対抗するにはバレエ…

 そう、この者達こそ、
 
 私が手塩に育てた”バレリーナ戦隊ロビン”だ!!!!」

親父が叫び声をあげると

”2号:赤のキトリ”

”3号:青のフロリナ”

”4号:緑の葦笛”

”5号:桃の金平糖”

次々と彼女たちは優雅に舞ながら自己紹介をしていく、

パチパチパチ!!

「凄い凄い」

琴美はのんきに拍手していると、

俺はある一つのコトが気になっていた。

「1号が居ない…

 ハッ

 まさか…親父っ」

俺は上にいる親父に声をかけた。

「プロフェッサー・トバと呼べ!!」

「はぁ?」

「で、なんだ」

「戦隊物ってぇ〜のは、

 ガッチャマンの頃から5人一組と言うのが鉄則だよなっ」

「そうだ」

「でも、連中を見てみると、4人しかおらん。

 5人目はどうした?」

伺いながら俺が訊ねると、

「はははは…

 心配するな、ちゃんと居る」

「え?」

「そう、5人目は私の目の前にいる」

「……………まさか、俺?」

イヤな予感をしながら俺は自分を指さすと、

親父は満足そうに頷いた。

「帰るっ!!!」

クルリを振り向いて一歩足を出そうとしたとき、

「待てっ、祐介っ

 あの彼女達をそのままに、

 逃げるのか!!」

親父が体育館の隅で固まっている新体操部員を指差した声を張り上げた。

「こんな、アホらしいことにつき合ってられるかっ」

俺がそう言うと、

「そうか、

 そのまま、素直に帰れると思っているのか」

「なにっ」

親父は懐から笛を取り出すと。

ピロロロロロ〜っ

と笛を吹き始めた。

ググググググッ

すると突然俺の片手が動き始めた。

「おっ親父っ、何をしている」

腕を抑えながら俺が言うと、

「ふふふふ、

 なぁにちょいとヒミコに割り込みをかけているところだ…」

と余裕の返答。

「なっ」

「さぁ、1号:白のオデットよっ、変身だ!!」

「わっヤメロ!!」

ピカッ!!

高く上に上がった腕のブレスレットが鋭く光ると、

たちまち俺が着ていたバニースーツが消え、

替わりに純白のクラシック・チュチュが俺の身体を包む

そして脚には白のバレエタイツ、

足先にはピンクのトゥシューズ

顔には濃厚なメイクが施され、

頭には王冠が現れた。

光が消えると俺は美しいオデット姫に変身していた。

「あ〜っ、なんだコレは」

コツコツコツ

トゥシューズの音を立てながら自分の変身した姿を見てため息をつく、

「コレで2回目ね…」

琴美が呆れた顔で言う。

「親父てめえっ」

俺がにらみつけると、

「はっはっはっ、

 まぁ、そう言うことだ、

 新しい体に合わせてヒミコもそれ相応にバージョンアップしてある。
 
 さぁ、思う存分闘うが良い!!

 あっ、そうそう、その4人だがな、
 
 あれは、この前HBSの研究所からごっそりドールを持って来たろう
 
 で、その中からお前と一番相性のいいヤツを厳選してあるから、
 
 多少の無理は利くぞう。

 さぁ、これで5人そろった!!

 行けっバレリーナ戦隊っ、
 
 タヌキ共の野望を叩きつぶすんだ!!」

といつの間に身につけたマントを、

バッサバッサと

はたきながら叫んだ。

「何だよ、何だよ、

 要は全部俺一人って話じゃないか」

ため息をつきながら俺が愚痴をこぼしていると、

「何を言っているんだ祐介っ、

 仮面ライダーは一人でも出来るが、

 ゴレンジャーは一人では出来ないんだぞ!!
 
 それが出来るお前は果報者とは思わないのかっ」

そう言う親父に俺は
 
「……親父…本当はやりたかったんだろう?

 ゴレンジャーゴッコ…」

と呟いた。


「バレリーナ戦隊…

 ふっおもしろいですわっ

 任務とは関係なく、

 あたしはあなた達と勝負いたしますわっ」

ビシッ

御蝶は俺を指さすなり、そう言言い放つと。


「ふふふふふ、

 私くしたちはバレーだけじゃなくて

 球技全体を極めていますのっ
 
 だから、こういうのも得意ですわ」
 
パチン!!

キャプテンが指を鳴らすと、

グィッ

シャツの下からプロテクターが盛り上がると、

ズィ

ブルマーの裾が伸びて脚を覆う、

ガポ

ヘルメットが装着されると、

たちまちのウチに女子バレー部員達はがっしりとした、

プロテクターに守られたアメフト部員に早変わりした。

「なっ、なんじゃこれは!!」

「ふっふふふふふ

 狸小路・女子アメフト部、只今出撃!!」

 ぱしっ
 
 御蝶がボールを持った瞬間、
 
「レディ〜〜〜ゴッ!!」

のかけ声と共に弾丸のように動き出した。

手始めに、股間を抑えて蹲っている鬼瓦が弾き飛ばされた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…(キラ)」

叫び声を残してヤツが星になる。


「さぁ、次はあなたですよ」

御蝶は俺を見据えると、一気に突っ込んできた。

「うわぁぁぁぁぁ」

たちまちのうちに吹っ飛ばされる、バレリーナ戦隊。

「こらっ、オデットっ何をしておる

 バレエは格闘技だと言うことを忘れたのか!!」

親父が怒鳴り声を上げる。

「祐介っ、頑張って…」

琴美も声援を送る。

「…そうだった、バレエは究極の格闘技だったけ」

最も重要なことを思い出した俺は、

トン

と着地すると、

突進してくるアメフト部員のうち赤のヘルメットを被っている御蝶のみを見据え、

クロワゼ・ドゥヴァンで立った。

俺に合わせてほかの4人も同じ事をする。

「目標、赤のプロテクター

 全員っ、グラン・ジュッテ!!」

そう叫ぶと

タン!

右足を高く挙げてジャンプした。

タン!

タン!

4人も続く

「うぉぉぉぉぉぉぉ

 バレリーナ戦隊がなんだ!!

 われらは狸小路アメフト部!!」

御蝶たちは一丸となって突っ込んでくる。



「ねぇ…どっちが勝つと思う?」

「う〜ん、判らない」

人質になっていたはずの新体操部の部員達は、

お菓子を食べながらのんびりと観客モードになっていた。


「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ゲシッ!!

5色のトゥシューズが御蝶の一点を直撃した。

「うぉぉぉぉぉぉぉ」

はじき飛ばされる御蝶…

そして、一気に陣形が崩れ落ちるアメフト部。

ズドドドドドドドドド…

大音響が体育館に響き渡ると、

無残にもアメフト部は全員のびていた…

「ふぅ〜っ、勝負あったな」

第1のポジションで白目をむいている御蝶達を眺めていると

パチパチパチ!!

シーンと静まりかえった体育館内に親父の拍手が響き渡った。

「でかしたぞ、祐介っ!!、

 大勝利だ!!

 さぁ、一気に狸小路を蹴散らすんだ」

俺はそう言いながら、俺に抱きつこうとした親父の顔に、

ミシッ

遠慮なくトゥシューズをめり込ませていた。



つづく

次回予告
とりあえず一つの危機は去った。

しかし、くたびれ果てている俺を尻目に巨大な陰謀が姿を見せる。

狐川家執事・東大寺の謀とは一体いかなるモノなのか。

と言うわけで

次回「敵は狸編・第4話:狐の陰謀」お楽しみに


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