風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

敵は狸編
(第2話:敵は狸)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.110



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。






でで〜〜ん


と広がる、広大な狸小路邸…

人工衛星でしかその全容を見ることは不可能と言われるその敷地の中には、

満州より広い巨大穀倉地帯は言うに及ばず、

中東をしのぐ大油田、

菱刈金山をはるかにしのぐ巨大金鉱脈に、

シリコンバレーと台湾が束になって掛かっても、

横綱相撲ができる大ハイテク工業団地。

そして、ウォール街をも凌駕する国際金融センターを擁する

まさに、現代人類文明の要塞と言う言葉がぴったりと言う様相を呈していた。
(作者注:ちょっと設定に無理があるなぁ…)


そして、敷地の奥、世界遺産に登録申請中の原生林の中に、

狸小路邸・本宅が置かれていた。


「あれ?、美鈴ちゃんは?」

モップかけをしていたメイドの一人が、

いまし方まで隣で作業をしていた同僚の姿が見えないことに気づき声を上げた。

「さぁ?、だれか、美鈴さん…どこに行ったかしらない?」

「えぇ居ないの?」

数人のメイドが集まると、すぐに同僚の捜索が始まった。

が、しかし…

「うそ…外に出て行っちゃたの?」

幾ら探しても見つからないので、

仕方なく中央管理センターに問い合わせたところ、

メイドの一人がごみを捨てに屋敷の外に出ていったことが判明した。

「ノーマルスーツ(メイド服)のまま外に出ちゃうなんて、なんて無茶な…」

時をおかずモビルスーツ(機械化メイド服)部隊がお庭番とともに出撃していったが、

1ヶ月後、合同捜索部隊が仕掛けた罠に掛かった彼女は、

人間だったかつての面影はなく、すっかり野性化した姿になっていた。

『警告!!、屋敷外に出るときは必ずモビルスーツを着用のこと』

そう言う張り紙が出されたのは言うまでもない。



さて、常にそのような緊張感が漂う本宅内に、

狸小路邸の敷地内を血管のように張り巡らされている私設新幹線ターミナル

狸小路中央駅がその威厳を放っていた。


そして夜も遅くなったその中央駅に

正門発・最高速度320km/hの”スーパーたぬき20号”が静かに入線してきた。

ドドン…ドドン・ドドン…

新幹線車両特有の間の長いジョイント音を轟かせて、

JR−W・500系電車とほぼ同一設計の車両が長旅を終えゆっくりと停車すると、

「さっ、若…いえ、お嬢様、お付になりました」

ドアが開くなり、真っ先に飛び出した昌之助が深々と頭を下げた。

「ごくろう…」

そう言いながら昌之助の前をオレンジレッドのレオタードに身を包んだ美少女が

悠然と通り過ぎていく。

「お兄様っ!!」

突如、一人の女性が声を上げながら走って来た。

「澪か」

「澪お嬢様…」

澪とは千代彦より2つ年下の妹で、

温和な大和撫子的なイメージとは裏腹に少々困った性格の持ち主でもあった。


タッタッタ

澪は千代彦に近づいてもそのままの勢いで近づき、そして

「えぇ〜〜〜ぃ!!!!」

ドォォォォォォン!!

と思いっきり千代彦を突き飛ばした。

無論、千代彦も突き飛ばされる直前、瞬時に身構えたものの、

彼女の腰が入っていたのと、予想以上のパワーだったために、

「どわぁぁぁぁぁ〜」

っとホームの上を飛び、

「お嬢さまぁ〜っ」

昌之助の叫び声があがったときには、

ズンっ(パラパラ)

哀れ、千代彦はホームの壁に激突・めり込んでいた。

「あら…ごめんなさい。

 思わず手が出てしまって…
 
 でも、ワザとではありませんのよ、お兄さま」

澪が謝りながら手を差し出すと、

「みっ澪ぉっ…

 少しは加減しろよな…
 
 いまこっちはか弱い乙女なんだから…」

そう返事をしながらめり込んだ壁から脱出してくると、

澪は千代彦の姿を見る成り、

「あら、またトランスなさったんですかぁ〜

  一言言っていただければ、手加減しましたのにぃ…」

と言ったが、千代彦は意に介することなく、

「はははは、今宵は満月だからな…

 そろそろ、この体質にもいい加減慣れないとな…

  ところで、今日のお前の力はいつもよりも強力のようだが」

そう言いながら澪を眺めると


「…あら、判りました?、

 今回はRBに初挑戦してみましたの」

澪は自分の体に手を置き千代彦の質問に答えた。

「RB……、あぁ最近流行っているアレか?」

「はい…

  色々と面白い遊びができて飽きませんわ」

と言いながら

パンパン!!

と手をたたくと、

ドドドドドドドドドドド〜っ

『お兄ぃさまぁ〜っ』

地響きを上げながらまるで地津波のようにして黒い集団が迫ってきた。

「なっ、澪がいっぱい…」

青ざめる千代彦。

「みっ澪っ、これは一体っ」

『クスクス…』

駅舎を揺るがす笑い声の後、

『現在研究中の最新のRBの機能の一つですわ…

  こうやって一人の人格が多数のRBを一斉に制御ができるとか…

  ではお兄さま、おやすみなさいませ』

大勢の澪はそう言いながら一斉に頭を下げると

ザッザッザッ

隊列を組むなり悠然と引き上げていった。

「澪の奴…また妙なことを始め出したな」

千代彦が呆気に取られていると、

「コホンっ、若…いえ、お嬢様、そろそろ引き上げませんと」

懐中時計を見ていた昌之助が千代彦に声をかける。

「あっ、そうだったな」

千代彦は立ち上がると昌之助とともにホームから消えていった。



そのとき、隊列を組んで歩いている澪達の中から一人が抜け出ると

立ち去っていく千代彦の後ろ姿を見ながら、

「お兄さまのあの格好…

  きっとあたしに隠れて何か面白いことを始める気ですわ…」

そう呟くと、

「女子バレー部員はいるかっ」

と声を上げた。

「はっ、ここに控えております」

いつのまにかエンジのブルマーに白のTシャツ姿の女性が

白いボールを抱えて澪の足元に控えていた。

「お兄様が何やら企んでいるようです、早急に調査しなさい」

澪が命令を発すると、

「はっ、かしこまりました」

バレー部員はそう答えるなり、すっと姿を消した。

「うふふふふ…」

澪の口元が幽かに緩んだ。



「はぁ、終わった終わった…」

「お疲れ様でした」

巫女のバイトが終わった俺と琴美は夜の商店街を駅に向かって歩いていた。

「それにしても、あいつは何だったんだ?」

「さぁ…男から女になるなんて…祐介といいとこ勝負の変態ね」

琴美は横目で俺を見ながらしみじみとそう言うと、

「おいおい、俺をあんな変態と一緒にするなよ…」

っと言いかけたところで俺の視線は一つのショウウインドウにくぎ付けになった。

そこはとあるブティックのもので、

中に飾られているマネキンが着ている女物の洋服に俺はいつのまにか見とれていた。

「ちょっと、祐介っ、祐介ったらっ」

気づくと琴美が俺の袖口をつかんで引っ張っていた。

「え?」

「やだ、しっかりしてよ…

  そう言えば、あんた最近女物に興味があるみたいだけど、

  大丈夫?」

琴美は心配そうな顔で俺を見ていた。

「だっ大丈夫だよ、

  ただ、あぁ言うお姉さんとお茶でも飲めたらなぁ…

  っと思ってね」

俺がそう言い訳をすると同時に、

ズンっ

琴美は俺の足を思いっきり踏みつけた。

「っ痛ぅ〜っ

  あにするんだよっ」

痛みをこらえながら叫ぶと、

「悪かったわねっ、

 どうせあたしはあのマネキンのようなナイスバディじゃぁないわよ」

と言うとズンズンと先に歩き出して行った。

「まったく…なんなんだよアイツは…おい待てよ…」

俺はすぐに琴美の後を追いかけていった。

「そうだ…バイト代も入ったし、あの服買おうかなぁ…」

俺自身は気づいていなかったが、

どうもその頃から妙に女物の服とか装飾品のことが気になり出していた。




「なんですってぇ…お兄さまが勝負をするですってぇ」

あれから1時間後、澪は思わず大声を上げていた。

「はい、確かな情報です」

Tシャツの袖にキャプテンと書かれたブルマー姿の女性がそう付け加えると、

「あたしを差し置いて…そんな楽しいことを…」

「如何いたします、澪様」

「……よっく分かりました、

  この勝負、あたしがプロデュースをしてさしあげますわ

  早速、マスコミ各社に連絡をしなさい」

そう命令を発すると、

「はっ」

バレー部員は返事とともに、

「では、失礼します」

と言って澪の部屋から出て行こうとした。

とのとき、

「あっ、ちょっとお待ちなさい」

っと澪は彼女を制すると、

「は?」

澪はしばし考える顔をした後、一回肯くと、

「ついでに、”狐川”さんと”猫柳”さんにも一報を入れておきなさい」

と付け加えた。

「え?、狐川と猫柳に…ですか?」

バレー部員がキョトンして返事をすると、

「そうです」

「よろしいのですか?」

「えぇ、構いませんわ、

  但し、あくまで一報のみです。

  余計なことは言う必要はありません」

「はい」

首をかしげながら彼女がそう返事をすると立ち去っていった。

「せっかくですから、狐川さんたちにも手伝ってもらいましょう」

澪はそう言いながら空にかかる月を眺める。

「なんでしょう…このワクワクする感覚は…

  あぁ…とても面白いことが起こりそうな気がしますわ…」

誰も知らないところで、また一つ歯車が回り出した。



プワァァァン!!

電車から降りると、駅の周囲は何やら物々しい雰囲気になっていた。

夜も遅いと言うのに、駅前広場から妙にザワついた感じがしていて、

そして、俺の家に近づくに連れ徐々に緊張感も漂い始めていた。

「何かあったのかしら…」

「さぁ?」

高まってくる緊張感に琴美は俺の腕をしっかりと握ってきた。

「大丈夫だって…」

緊迫感を解きほぐそうとしたが、

そういう俺の手も汗でぐっしょりと濡れていた。

そして、家の前の角を曲がったとたん。


パッパッパッパッ

猛烈なフラッシュの雨と、

『…あっ、来ましたぁ…』

と言う声とともにいくつもの強烈なライトが俺と琴美を照らし出した。

『…鳥羽裕子さんですねっ』

「はぃ?」

『…このたびは、狸小路千代彦さまと人生をかけた大勝負をするそうですが、

  勝算はあるのでしょうか?』

「え?」

『…つきましては、狸小路家と対抗する狐川家が支援を申し出ているそうですが、

  すでに接触はなされているのでしょうか?』

「はぁ?」

『…狸小路千代彦さんに何か言いたいことは…』

と矢継ぎ早に質問を浴びせられ、戸惑っていると、

「祐介っ」

うちの玄関のドアが勢いよく開くと、お袋が飛び出すなり、

「早く、こっちに…」

有無を言わさず俺と琴美の腕をつかんで玄関内へと引きづり込んだ。

『…お母さんですね、何か一言…』

マスコミの質問の矛先がお袋に集中する。

バタン!!

玄関のドアが閉められると。

ふぅぅぅぅぅ

全員が思わず座り込んでしまった。

「おばさま…なんの騒ぎですか」

琴美が恐る恐るお袋に訊ねると、

「どうもこうも、突然マスコミが押し寄せてきてこのありさまだよ、

  祐介っ、お前一体何をやらかしたんだ」

お袋はそう言いながらジロリと俺を睨んだ。

「俺は何もしらんぞ、親父が何かしでかしたんじゃないか?」

そう、ここん所親父は”やれ会議だ、やれ実験だ”と言うことで

殆ど家には帰ってこなかった。

まぁそれ故に、俺の巫女装束姿を見損なったわけなのだが…


「………まさか…」

考えて込んでいた琴美が声を上げた。

「なに?」

「ほら、八幡様のあの一件…」

「八幡様ってあの変態との勝負か?」

俺が今夜、巫女のバイトをしているときに遭遇した、

狸小路とか言う妙な奴と新体操の勝負することになったことを思い出した。

すると

「その通り!!」

勢いよく玄関のドアが開くと、

マスコミのライトを背に受け、

長いひげを生やした一人の老紳士が立っていた。

「誰?、あんた?」

「ふっふっふっ」

老紳士は俺の質問に答えず口元に笑みを浮かべていた。

「よう、祐介っ元気だったか?」

なんと、その老紳士の後ろから親父がひょっこりと顔を出した。

「あなた…」

「親父…」

「おじさま…」

「コホン!!、入ってよろしいかな」



コポコポ…

「どうぞ…」

居間では、老紳士に親父・お袋・俺・琴美がテーブルを囲むように座っていた。

「あっ、これはどうも」

ずずずずず…

お袋が差し出したお茶を老紳士はゆっくりと啜る。

「う〜む、お茶はやっぱり静岡に限りますなぁ」

と飲んだ茶の感想を言うが、

「いぃえ、そのお茶は狭山ですよ」

お袋は怪訝そうな目で老紳士を眺めた。

「…ところで、おっさん、だれなの?」

一呼吸置いて俺が口を開くと、

ジロリ…

老紳士は俺を見るとおもむろに口を開いた。

「君が鳥羽祐介君かね」

老紳士の重みのある声が部屋に響いた。

「えぇ……え?、俺の正体を知っているんですか?」

思わず声を上げると、

「ふっ、すべてを調べさせてもらった」

「………」

さらに重苦しい空気が居間の中を支配する。

「…なるほど…君が、あの狸小路に闘いを挑むのか…」

老紳士がポツリとこぼすと

「え?」

「いや、何でもない。

  さて、申し遅れましたが私は…」

そういって懐から名刺入れを取り出すと一枚の名刺をテーブルの上に置いた。

「?」

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真…』

名刺を手に取った俺がそこまで読み上げると、

サッー

それを聞いた老紳士の表情は急に青ざめ、一気に脂汗が吹き出すと、

バッ

電光石火のごとく俺の手からその名刺を奪い取り

ダン!!

懐より取り出した別の名刺をテーブルの上に置いた。

「ゼハ…ゼハ…

 あっ、しっ、失礼っ、

 いまの名刺は見なかったことにしてください」

「なっなんでです?」

肩で息をしながら取り乱す老紳士の姿に驚きながら理由を尋ねると、

「いっいや、

 君には関係の無いことだよ」

そう言いながら老紳士は取り出したハンカチで額の汗を拭う。

ところが、

「あ…」

いつの間にか老紳士の背後に望む庭に一人の女の子の姿があり、

そして、俺と目が合った途端、

ニコッ

と微笑む。

「あっ、どうも…」

それを見た俺は思わず会釈をすると、

「祐介?、

 庭に誰かいるの?」

とお袋が聞いてきたので、

「ん?

 あぁ…庭に女の子が…」

と俺が指差した。

「なにぃ!」

ガタン!!

それを聞いた老紳士は慌てて飛び上がるなり、

ダダダダダダ!!

グワラッ!!

っと窓を思いっきり開けた。



チチチ…

「………」

静寂の時が流れる。

「居ない?」

老紳士が飛び上がる直前までそこに居たはずの少女の姿はなく、

お袋が餌などで呼び集めた小鳥が飛び回る普段の庭が姿を見せていた。

「おっかしーな…」

腰を上げた俺も一緒になって探してみたものの、

しかし、猫の子一匹見つけることができなかった。

「誰も居ないじゃない…」

後からきた琴美が言う。

「いや、確かにそこにいたんだけど…」

庭を指差しながら俺がそういうと、

『…Kを発見、

 至急追跡されたし』

携帯電話でどこかに電話をかけていた老紳士はそう言うと、

パタンと携帯電話を折りたたみ、

そして、俺をキッと見つめながら、

「よろしいですか、

 さっきの呪文はくっれぐれも口外せぬように…

  でないと、あなたの人生にとって重大な問題が起こります」

と真顔で警告をする。

「はぁ?」

「よろしいですなっ」

改めて念を押す老紳士の表情には鬼気としたものを感じた俺は、

「はっはぁ」

そう言って肯いた。

…一体、あの名刺は…それにさっきの女の子って…なんだ?

俺が名刺への疑問を持ち始めた頃、

玄関前で待ち構えていた報道陣の前に一人の女の子が姿をあらわした。

『…あっ、誰か出てきたようです』

『…おっ女の子です…』

大量のフラッシュが炊かれ、たちまちのうちに記者・レポータが少女に群がる。

『…中では、どのようなことが話し合われていたのでしょうか』

『…これは、今回の一件に”狐川”が全面的に協力をするということでしょうか?』

『…試合方法は新体操と言うことだそうですが、それ以外に何か』

猛烈な質問攻めのあと、少女は向けられたマイクの一つに

「そうですね…新体操は楽しいですよね…」

そう答えると

「そうだ、皆さんもいっしょに参加してみませんか?………」

と提案をしてきた。

『え?』

全員がきょとんとしていると、

「さっ、あたしが案内してあげますよ……そぉれっ!!!」

少女の掛け声が発せられると

記者やレポータ達が持っていたマイクはこん棒に、

カメラはリボンへと替わり、

そして、道路は上は手具を片手にカラフルなレオタードに身を包んだ美女達が

舞い競う場へと変わっていた。



おぉ………

パチパチパチ!!

一人の演技が終わると難を免れたギャラリーから拍手が沸きこる。



「なんだか外が騒がしいわねぇ…何をやっているのかしら…」

お袋が玄関の方を眺めながら言うと

「…表か……」

老紳士は苦虫を噛み潰した表情で歓声の上がった方向を睨んでいた。

突如部屋の中に”デビルマン”のテーマが流れると、

「失礼」

老紳士は懐から携帯電話を取り出すと話し始め、

「………そうか、分かった、

 今は手を出すな、

 まだ準備は終わっていない。

 監視だけをしろ」

と誰かに命令をした後、携帯電話を切ると、

「…やはり、

 あの”K”が現れたか…

  …彼女のおかげで、ぼっちゃまは…」

と呟きながらハラハラと涙を流し始めた。

「どうかなされましたか…」

老紳士の頬に流れる涙に親父が理由を訊ねると、

「あっ、いっいや…」

老紳士が慌ててハンカチを取り出すと涙を拭き、

そして、それを見届けた親父が

「実はな、祐介…

  今日、お前、狸小路の息子さんと勝負をする約束をしたそうだな」

と話を逸らすかのように俺に聞いてきた。

「あぁ、その事か…」

「”あぁ、その事か”ではない、

 狸小路と言えば日本屈指の大財閥、

  勝てる見込みはあるのか?」

「そんなもん、やってみなければ分からないだろう」

「それでは、困る」

「え?」

「というわけで、実はこの方は、

  狸小路の永遠のライバルである狐川家の代表執事さんなのだ」

と老紳士の紹介をした。

「狐川家の代表執事:東大寺です」

老紳士はそう言って頭を下げた。

「はぁ、そうですか」

つられて俺も頭を下げると、

「で、その狐川さんがなんで俺に会いに?」

と名刺を見ながら訪問の理由を尋ねた。

老紳士は

コホン

と一つ咳払いをした後、

「我が狐川とにっくき狸小路とは平安の昔より事ある毎に対立をしてきました。

  片方が平家を担げば、片方は源氏を後押しし

  新田を支援すれば、足利にテコ入れをする。

  豊臣を支持すれば徳川を盛り立て。

  薩長とくれば幕府。

  そして明治・大正の世では海軍と陸軍

  また、戦後では○○党と□□党、

  と言う案配でいわば日本史のターニングポイントの裏側には

  常に我が狐川と狸小路の力が働いてきました」

「はぁ…」

「そして、今日、再び日本史が動き出そうとしている

  なぜだか分かるかね?」

「はぁ………ってまさか?」

「そう、そのまさか…だ

  君と狸小路との試合はこの国にとって

  源平・関ヶ原に並ぶ重大な事件になりつつある。

  と言うことだよ」

老紳士はそういうなり、

ビシ

と俺を指差した。

「祐介っ、凄いっ、歴史の教科書に載るじゃない」

琴美が目をキラキラ輝せながら喜んでいた。

「そーいや、こいつ歴史オタクだったっけ」

俺は舞い上がっている琴美を横目で見ていると、

「よって、我が狐川家は狸小路家との対抗する上で、

  君に全面協力することを決定した。と言うわけだ」

ズズズズズズ…

東大寺は話し終わると、

再びお茶をすすった。

「で、協力って何をしてくれるんですか?」

俺は協力の内容を訊ねると、

ズズズズズズ…

東大寺は茶を啜ると

「まずは、君に数々のオリンピック選手を育て上げた、

  新体操の名コーチをつけよう。

  彼女の手に掛かれば、

  どんなヤツでも1週間以内にオリンピックで金メダルを取れるようになる。

  と言うから期待して良いぞ」

ニヤリとしなから東大寺が言うと、

「俺でもか?」

「あぁ、そうだ、

  先日も何処ぞの札付きの不良を立派な選手にしたと言うから大丈夫だ」

「不良をねぇ…」

俺は新体操選手にされてしまった不良を思わず同情すると同時に

言いようも無い不安にかられた。

…俺、大丈夫かなぁ…


「続いては、試合当日までの君の身辺警護だ」

「俺の身辺警護?」

「そうだ」

「いや、そこまでは…」

と言うと、

「ふっ、甘いなぁ…」

東大寺は茶を啜ると、

ピクッ

「そこだ!!」

っと叫ぶなり、側にあったポットをテレビの方へ投げつけた。

ガッシャーン

テレビのブラウン管がポットの直撃を受け粉砕されると。

「うふふふふふふ…、

  さすがは狐川家代表執事の東大寺さん

  よくぞ見抜きましたね」

テレビの近くに座っていた琴美がそう言いながら突然立ち上がると、

「であっ」

掛け声とともに来ている服を剥ぎ取った。

「なっ…」

俺の目の前には髪をポニーテールに纏め上げ、

エンジのブルマーに白のTシャツを身につけた、

琴美とは似ても似つかない女子バレー部員が立っていた。

「ふっ、タヌキの手下が…

  そこに居たお嬢さんはどうした!!」

東大寺が叫ぶと、

「あら、ご心配なく、

  彼女はホラ、このとおり無事ですよ」

と言って押し入れのふすまを開くと、

うーうーうーっ

手足を縛られ猿轡を噛まされた琴美が唸り声を上げていた。

「いっ、何時の間に…」

俺が驚いていると、

「おそらく、さっき”謎の少女・K”が現れたときでしょう」

「私たちも気づきませんでしたが」

親父とお袋も驚きの声を上げた。

「ふふふふ、タヌキを侮ってはいけません、

  しかし、ここにノコノコと現れたのが運の尽き…

  ものども、出会えっ!!」

東大寺の声がすると同時に、

『ハッ!!』

複数の女性の声が部屋の中に木霊するとウェディング・ドレスに身を包んだ女性が、

ある者は畳の下から…

ある者は天井から…

そして、ある者は茶箪笥の中から…

次々と飛び出してくると、たちまちのうちに女子バレー部員を取り囲んだ。

「どっこいしょ」

東大寺がおもむろに立ち上がると、

「紹介しよう!!、

  狐川特殊部隊・”狐の嫁入り”の皆さんだ

  さて、そのバレーのユニホーム…

  どうやら狸小路澪の直属のようだが、

  どうする?、お嬢さん?」

半ば勝利宣言のような感じで言うと、

バレー部員は

「流石は狐川…抜かりはないようですね

  しかし、これであたしを捕まえられると思ったら大間違いですよ」

「なにをっ」

特殊部隊員がにじみ寄る

「うふふふふふ」

バレー部員が一瞬の笑みを浮かべると

バレーボールを取り出し、

「そ〜れっ」

と言いながらボールを放った。

「は〜ぃ」

ついつられて特殊部隊員の一人が手を出したとき。

ボムッ!!

突如ボールが破裂すると部屋中が真っ白に煙ってしまった。

「しまったっ、煙幕かっ」

東大寺が叫ぶ、

ゲホゲホゲホ…

「窓を開けろっ!!」

親父の叫び声がした。

ガラガラガラ…

手探りで窓を開けて煙を逃がしていると、

「おほほほほほほ、

  今夜はこれくらいにしておきます、

  しかし、明日からはこうは行きませんから

  覚悟しておくんですね」

バレー部員の声が夜の空に響いた。

ようやく煙が収まると、

いつの間にか特殊部隊員の姿も無かった。

「あれ、あのお姉さん達は?」

俺が東大寺に訊ねると、

「ははは、あのもの達は”影”用が終わればすぐに引きます」

と東大寺は何事も無かったように座っていた。

「分かりましたか?

  君はもはや常に狙われていると言うことを…」

「う〜〜む」

俺が考え込んでいると、

「というわけで、鳥羽さん、

  あなたからさっき見せていただいたこのプラン、

  なかなか面白いので、ぜひ、私どもも参加させてください」

東大寺は親父の手を取るなりぎゅっと握り締めた。

「東大寺さん、それでは……」

「えぇ、やりましょう!!」

俺が考え込んでいるのをよそに

親父と東大寺は友情を深めていた。

そしてその東大寺が手にしているファイルのタイトルに

「バレリーナ戦隊ロビン(仮名) 第19次中間報告」

と言う文字が書かれていることに俺はまだ気づいていなかった。

こうして、日曜日の夜は更けていった。



コポコポコポ…

同じ頃、ここは猫柳邸執務室

「お館様…狸小路よりこのような物が送られてきましたが如何しますか」

執事がそう言いながら、主・猫柳泰三の前に1枚のFAXを差し出した。

それに目を通した泰三は、

「放って置けっ」

っとひとこと言い、

そのまま処理済みの箱に放り込んだ、そして、

「それより、HBSの五十里から申し出があった例の件はどうなっておる?」

と執事に聞き返した。

「はっ、お館様の指示通りに進めていますが…」

と言う返事に、

「よろしい…」

っと満足そうに答えると、執務室の横にある巨大水槽群を眺めた。

色々な魚が入っている水槽群の中に、

何故が一つだけ何も入っていない空の水槽がぽつんとあった。

「お館様…なぜあの水槽にはコレクションをお入れにならないので?」

執事の質問に、

「はははは、あの水槽に入る物は決まっておる」

「え?」

要点を得ない執事に、泰三はニヤリと笑うと、

「人魚だ…しかも、ただの人魚ではない、

 人魚の中の女王と言われる”乙姫”をあの水槽で飼う…
 
 それが私の夢だ…」
 
と言うと、執事をちらりと見た。そして
 
「この五十里という男は使えそうだ、たっぷりと援助をしてあげなさい…
 
 ”猫”は”狸”と”狐”の化かし合いには参加をする気はない」

そう言うと泰三は再び水槽を眺めた。

「ははっ、畏まりました」

執事は深々と頭を下げた。



つづく

次回予告
一端は撃退した狸小路バレー部

しかし、敵はありとあらゆる手段を使って俺の練習の邪魔をする。

そして、絶体絶命の俺の前に現れた4人のバレリーナの正体は!!

と言うわけで

次回「敵は狸編・第3話:出撃!!、バレリーナ戦隊」お楽しみに


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