風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

HBS研究所編
(最終話:決戦、HBS研究所(後編))

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.035



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。






”ヒミコ”に隠された能力を使って、

約100体のドールを支配下に置いた俺は一気に研究所内へと突撃していった。

ズドドドドドド…

ドール達が履いているトゥシューズの音が地響きとなって研究所に迫る。

グワッッシャ〜〜ン!!!

正面玄関の自動ドアが開くまもなく木っ端みじんに粉砕されると、

白い山となったバレリーナの大群が研究所内へとなだれ込んできた。

俺はドール達の流れに巻き込まれるように、研究所の中へと突入した。

ゴゴゴゴゴゴ……

トゥシューズが奏でる轟音が研究所内に響き渡る。

「琴美はどこだ?」

俺は『兎娘』の能力を最大限に発揮して彼女の居場所を探した。

「!」

「上か…」

俺は閉じこめられる危険性があるエレベータは使わずに

階段を飛び跳ねながら上へと駆け上る、

むろん後からバレリーナの大群がそれに続く、

ゴゴゴゴゴゴ…

ビシビシビシ…

ドール達が一斉に駆け上がってきたために、

研究所のビルに細かいヒビが入り始めた。

「こりゃ、下手をすると崩れるかも…」

危機感を感じた俺は途中で振り返ると、

後からついてきたバレリーナの大群を眺めると、

「おまえ達はココの場で待機」

とドール達をセットした。

身軽になった俺は各フロアを丹念に調べるが、

奇妙なことにどのフロアでも出会う人達は

皆チュチュ姿のバレリーナばかりだった。

「親父、HBS研究所の正体ってバレエ学校だったのか?」

頭の上のヌイグルミに訊ねると、

「おっかしぃなぁ」

親父も、この奇妙な光景の説明が出来ないみたいだった。



「こっコレは一体どういうことだ」

椚は自分のすっかり変わってしまった姿に愕然としていた。

そう、彼もご多分に漏れず、

ツンと上向きの見事なバストに細く括れたウエスト、

ふくよかなヒップ…

そしてそれらを優しく包む真珠色のクラシックチュチュと

足下を飾るピンクのトゥシューズがよく似合うバレリーナになっていた。

「ミスター椚、コレは一体どういうことですか」

と言う声とともに、

トマトジュースを抱えたバレリーナが優雅にバレエを踊りながら入ってきた。

「おっ、お前は…まさか、ビルか?」

椚が入ってきたバレリーナを指さして驚く

「Oh!!、あなたは、まさか、ミスター椚?」

椚自身もビルに触発されてか、バレエを踊り始めていた。

「コレ買ってきました、どうぞ」

とビルが踊りながらトマトジュースを差し出すと。

「違う、私が飲みたかったのはオレンジジュースなんだ」

と椚は叫んだ。



「ココかな?」

俺はドカンとドアを突き破ると、

そこは沢山のパソコンや端末などが雑然と置かれているシステム室だった。

「琴美は…いないか…」

部屋の中を一通り眺めていると、

「長谷部さん、誰かが来たみたいですよ」

「部長か?」

と言う声がした。

声のした方を覗くと、

チュチュを身にまとった数人のバレリーナがバレエを踊っていた。

「あのぅ、お取り込み中すみません、

 琴美という女性がこちらでご厄介になっていると思うのですが、
 
 どちらにいるかご存じありませんか?」
 
とバレエを待っている彼女たちに訊ねると、

「あぁ、それなら、椚部長が知っていると思います」

とバレリーナの一人が答える。

「椚部長さんはどちらに?」

と訊ねると、

「それなら、上の階だよ」と

別のバレリーナが答えた。

「この上かぁ…」

俺が上の階へと向かおうとしたとき、

コレまで頭の上に乗かっていたヌイグルミがぴょんと飛び降りると、

コンピュータのキーボードとマウスを器用に操作し始めた。

「親父、何を始める気だ?」

と訊ねると、

「ふふふふふふ…

 これまでのウラミたっぷりと晴らさせてもらうぞ」

と親父は呟きながら、パソコンの操作を続けた。

そして、数々のセキュリティーを破ってある機密事項のフォルダを開くと、

「ほぅ………」

と頷いた。

「なんかあったの?」

と聞くと、

「ん?、見て見ろコレを…」

と言いながらあるファイルの内容を俺に見せた。

俺には何がなんだか判らなかったが、親父は、

「コレは、”ナデシコ”が抱えているバグの詳細だぞ」

とつぶやき、

「うわぁ〜

 なんじゃこりゃぁ、
 
 とくこんなものを製品として出荷しているなぁ」
 
と驚きの声を上げる。


「長谷部さん、バニーさん達コンピュータを勝手に使っていますよ」

と長谷部の部下が責任者の長谷部に言うが、

「勝手にさせろ、俺はバレエを踊ので精一杯だ」

と言うと片足を高くあげた。


親父の探索はさらに続き、

そこで見つけた”アリス”のソースファイルやいろんなファイルを

片っ端から自宅のパソコンへ転送を始めた。

「親父ぃ〜そんなことをしたら警察沙汰になるよ」

と俺が心配して言うと、

「大丈夫大丈夫、

 連中がやったことの方が大きいからコレくらい大したことがないし、
 
 それに操作しているのは私ではないこのトトちゃんだ」
 
と言って作業を続けた。

そして自宅のパソコンから、あるファイルをこっちのサーバーに転送すると、

「よぉし、コイツを世界中のHBSのコンピュータに

 送り込めば連中は一巻の終わりだ。」
 
と言った、

「何なの?」

と聞くと

「ふふふふふ、

 こいつをだなぁ…
 
 送るとだなぁ…」

そう説明するヌイグルミを見た俺の背筋に冷たいものが走った。

「せぇのっ、ポチとな」

と言ってヌイグルミはマウスのボタンをクリックすると、

そのファイルは配信されていった。

「さぁて、終わった終わった」

とサバサバした台詞を吐いて、再び俺の頭の上に乗っかると、

「よぉし『兎娘』っ、

 ここでの仕事は終わった。
 
 さぁ!!琴美君の救出に行くぞ」
 
と叫ぶ。

「親父、ひょっとして、コレが目的だったのか?」

俺が訊ねると、

「さぁ急ぐんだ、琴美君が待っているぞぉ」

と言ったまま答えなかった。

「やっぱり、折檻だ!!」

俺は拳を握りしめるとシステム室を後にした。


「長谷部さん、あのバニーさん達何かやらかしたようですよ」

「俺は、何も見ていないし、何も知らない」

と部下の心配する言葉に長谷部はそう言うとバレエに専念した。


俺は上の階に上がると、

でーん

と構える豪華なドアを蹴り開けようとしたが、

さすがに「兎娘」の力ではびくともせず、

それならばと再び「バレリーナ」に変身すると、

「うぉりゃぁ〜、バレリーナー・キック!!」

っと叫んで、ドアを蹴り破った。

バコン!!

と言う音を立ててドアが開くと俺は中へと入っていった。

そこは大きなモニタールームになっていて、

そこでも二人のバレリーナが優雅にバレエを踊っていた。

「やっぱり、ココにも居たか…」

俺はバレリーナの姿を見るとがっくりと肩を落とした。

「とにかく、椚と言う奴を捜し出さないと…」

と思って、部屋の中を探し始めた矢先、

「むわてぃ」

と女性の声。

「え?」

そして、一人のバレリーナがつま先立ちのまま俺の前に立ちはだかった。

「えっと、どちら様でしょうか?」

と俺が訊ねると、バレリーナは、

「ふふふふ…

 ついに”ヒミコ”が私も前に来たぞ…
 
 もうすぐお前は俺のものになる」

と俺を指さして言う。

「へ?」

事態が良く飲み込めない俺はしばし唖然としていたが、

頭の上のヌイグルミが

「お前、まさか…椚か?」

と訊ねると、

「むっ、その声は、鳥羽か」

と答えた。

かつての宿命のライバルが、

いままさにヌイグルミとバレリーナと言う姿で再会した。

「鳥羽…時間というのは…人をこうまで変えてしまうのか」

と椚がしみじみと言うと、

「お前こそ…バレリーナになってバレエを踊とは…

 …何時からココはバレエ教室になったんだ?」
 
と尋ねた。

その声を聞いた椚はムッとした顔になって

「うるさいっ、ついさっき、バレエ教室に衣替えしたんだ」

と反論する。

「Oh、なんてことです。

 ミスター椚、
 
 バレエ教室の件はちゃんと本社の許可を取っているのですか?」
 
ともぅ一人のバレリーナ・ビルが嘆き始めた。

「うろたえるなっ、

 本社本社って太平洋の向こう側の連中がいま何が出来るっ、
 
 ココは日本だ」
 
と椚はうろたえるビルを一括した。

「さて、鳥羽、”ヒミコ”はその娘なんだろう

 …さぁ、おとなしく渡してもらおうか」

と言いつつつま先立ちで椚が俺に近づいてきた。

俺も間合いを取りながらつま先立ちで後ろに下がる。

しばらくの間二人のバレリーナによるにらみ合いの舞が続いた。

沈黙の時間が流れる。

先に動いたのは椚の方だった。

「”ヒミコ”は俺のものだぁ〜」

と飛びかかる椚

「させるかぁ〜」

と俺

2羽の白鳥が空中で交差し、トゥシューズがそれぞれの顔面を直撃した。

「おぉっ、クロス・カウンター!!」

とヌイグルミが叫んだ。

ドタン!!

大きな音がモニタールームに響いた。

「祐介っ、しっかりせい」

ヌイグルミが駆けつける。

「ミスター・椚、立つんです」

ビルが叫ぶ。

しかし、椚が立ち上がることは2度と無かった。

椚のトゥシューズは俺の顔をかすったのに対して、

俺のトゥシューズは椚の顔面を確実に捕らえていた。

「勝ったな」

俺は起きあがりながら呟くと、

「おいっ、琴美はどこだ?」

と言いながら俺はビルに詰め寄った。

「ふっ」

ビルは一瞬笑みを浮かべると

バッ

っとヌイグルミを奪い、そして

「コイツの命が惜しければ、無駄な抵抗はやめるんですね」

と言った。

再び沈黙の時間が流れる。

今度は俺が先に動いた。

「いいよ、そんな奴どうなっても」

と言うと、

「こっ、コラ祐介っ、父親になんてことを言うんだ」

とヌイグルミがあわてる。

「コレが父親だってぇ?」

俺があきれた口調で言ったとき。

ゴゴゴゴゴゴゴ…

地響きが徐々に近づいてきた。

「なっ、なんだ?」

予想外の展開にビルがうろたえ始めた。

と同時に、

ドワ〜っ

と下で待機していたドール達がモニタールームになだれ込んできた。

「うわぁぁぁぁ〜」

たちまちのうちにだだっ広いモニタールームは白一色に埋まってしまった。

「ふっ、形勢逆転だな」

俺はモニタールームを埋め尽くしたバレリーナを背景にビルに迫る。

ビルは肩をすくめると、

「私の負けでーす、

 琴美さんは廊下を出た突き当たりの部屋にいまーす」

と言った。

「向こうか」

俺はバレリーナ達をかき分け、廊下に出ると言われたドアを叩きながら、

「琴美っ、ソコにいるのか?」

と声を上げた。

するとしばらくして

「祐介?」

と中から返事があった。

「待ってろっ、いまこのドアをぶち抜くから」

と言って俺は少し後ろに下がると

「うぉりゃぁ!!」

っと脚でドアをぶち破ると勢い余ってそのまま部屋の中に滑り込んで行った。

ズッデーン!!

「いててて…」

俺は頭をさすりながら起きあがると、

一人の人影が俺を見つめていた。

「琴美…」

起きあがってその者の姿を見たとき、

「えっ」

っと驚いた。

そう、彼女もチュチュとトゥシューズを身につけたバレリーナの出で立ちになっていた。

「………お前、その格好…」

と言うと

「知らないわよっ、

 いきなり風が吹いたと思ったら、
 
 こんな格好になったんだから…

 それに、あたしの格好を言う前に、
 
 あんたこそその格好はなんなのよ」

琴美は俺の格好を指さして言った。

「いやっ、これはだなぁ……

 そう、お前を助けるために…」

と俺が言ったところで、

「まぁまぁお二人さん、

 無事再会できたところでさっさと帰ろうか」

と言いながらヌイグルミが入ってきた。

「何?このヌイグルミは…」

琴美が気味悪そうに言うと、

「あぁ、親父だよ」

と俺はヌイグルミの正体を説明した。

「えっ、おじさまなの?……

 うわぁぁ、しばらく見ないうちにこんなになっちゃって」

琴美はヌイグルミに近寄ると、

そっと抱き上げてそう言った。

「こっ、コラ、祐介っ

 お前…なんて言う説明をするんだ」

ヌイグルミを介して親父が文句を言う。


……結局、ドール達は一緒にはつれては帰れないので、

 とりあえず親父の会社が引き取ることになったが、
 
 はて、どうやって運んだんだ?

 そして俺は三度「兎娘」へ変身すると
 
 琴美を抱き上げると帰途についた。

……それにしても、バレリーナ姿の琴美って結構グッと来るものがあったなぁ……



翌朝、

「おはよ」

と挨拶を言いながらリビングに降りると、

「おぉ、起きたか祐介っ、コレを見て見ろ」

と言って親父がテレビを指さした。

「?」

と思いながらTVを見ると

HBS社の極秘扱いだった

”アリス”のバグに関する情報が世界中の報道機関並びに各研究機関に送られ、

その結果バグの存在が白日の下に晒された件と、

そのHBS社のコンピュータシステムが超悪性のウィルスに感染したために

機能が麻痺状態に陥っている件の2つのニュースが流れていた。

「親父、これって…」

と言いながら親父の顔を見ると、

思いっきりニタァ〜っとした顔でTVを見ていた。

記者に詰め寄られ、

しどろもどろになっているHBSの日本支社長の映像を見ていると、

あの研究所の連中がどうなったのかふと気になった。

やがて

「おっはよう、祐介っ」

と言う声と共に琴美が迎えに来た。

「おい、そんな大声をだすなよ」

俺が文句を言うと。

「朝練まで、時間がないのっ、また今日も走っていくわよ」

と言うと俺の手を引っ張って走り出した。

本当にタフな奴だ………



HBS研究所編 おわり



次回予告
「はぁ、終わった終わった」

「もぅなーんもやる気がしない」

「コラ祐介、あんたにはもぅ一つやることがあるんでしょうがっ」

「へ?」

「さっさと、レオタードに着替える」

新体操という舞台で優雅かつ華麗に繰り広げられる美少女達の戦い。
しかし、その裏ではある計画が静かに進められていた。

次回新章「敵は狸編・第1話:出会いは祭囃子の中で」お楽しみに


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