風祭文庫・レンタルボディの館






「ヒミコ」

HBS研究所編
(第3話:誘拐・そして…)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.032



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。






琴美と別れ家に帰ると親父が既に帰っていた。

「あれ、親父もぅ帰ってたの?」

居間で何か考え事をしている親父に話しかけると、

「あぁ…」

親父はそう返事をして俺の顔を見るなり、

「祐介…なにか変わったことはなかったか?」

といきなり真顔で聞いてきたので、

「なっ………

 なにも無かったけど…
 
 まぁこの身体のせいで、それなりの騒ぎは起きたけど」

と答えると、

「そうか…」

と言ったっきり黙ってしまった。

台所に行くとお袋は誰かと電話で話している様だったが、

俺に気づくと電話を切り、

「あら、悠ちゃん、お帰り」

と言った。

「親父…何かあったのか?」

と訊ねると、

「さぁ?、

 会社から帰ってきてから、ずっとあの調子なのよ」

とお袋は答えた。

「……まさか…リストラにでも逢ったんじゃないだろうなぁ」

「縁起でもないことを言うんじゃありません」

「それより、祐介、あんた新体操部に入ったんだって?」

「えっ、何で知っているの?」

「いま琴美さんから電話があって、

 ”明日の朝練、ちゃんと出るように”
 
 って伝えといてくれ言ってたわよ」

とお袋が俺に話した瞬間。

「ぬわぬぃ、新体操だってぇ」

親父がいきなり大声を上げながら駆け寄ってきた。

「いっいや…入ったと言っても、

 男に戻るまでの間の臨時部員だけど…」

と親父の迫力に押されながら俺が言うと、

「新体操と言えば、女性の美を競うスポーツ、

 さすがは我が娘。ちゃんと心得ているではないか」

親父はおれの肩を揺すりながら興奮して叫ぶと、

「誰が娘だ!!」

ボスッ!!

おれは親父の腹部に思いっきりボディブローを喰らわせていた。



「どうも、女って言うのはトイレが近くて行けないなぁ」

夜中、俺はトイレに起きると親父の書斎から明かりが漏れていることに気づいた。

「親父…まだ起きているのか?」

と思いつつ書斎をこっそり覗いてみると、

親父はどこかに電話をかけ、


「……あっ、野田君か…、あぁ私だが」

『…………』

「で、そっちの方は?」

『…………』

「そっか、連中の侵入経路は特定できたか?」

『…………』

「なるほど…」

『…………』

「あぁ、今のところ息子の周りにはコレといった変化はないそうだ」

と話をする。

「息子って…俺のことか?

 変化ってなんだ?」

親父の会話に不信感を募らせながら俺は書斎からそっと離れると、

自分の布団に潜り込んでいろいろ考えてみたが、

何時しか寝入ってしまった。


夢の中……

きれいな女の人…長い髪に朱色の衣装…誰だろう?


翌朝はお袋の一声で目が覚めた、

「ほら、祐介……いつまで寝ているの?、琴美ちゃんが迎えに来たわよ」

「ふわぁ?」

時計を見ると、起床予定時刻を大幅にすぎていた。

「しまったぁ〜寝過ごしたぁ〜」

俺は飛び起きると、早送りのビデオのごとく超特急で支度をすると、

朝食のパンをかじりながら、

「いってきまふ」

と家を出ていこうとしたとき、

「祐介、コレ…」

と言ってお袋から包みを渡された。

「ふわい」

俺は何も聞かずそれを受け取ると、玄関のドアを開けた。

「遅いぞ、祐介!!」

仁王立ちの琴美の姿が見えると同時に怒鳴られた。

そして…

「アンタのせいで間に合わなくなっちゃったじゃない

 学校まで駆けていくわよ…」

と言った時には琴美は俺の手を引いて突っ走っていった。



学校に着くと、

体育館ではすでに新体操部の朝練は始まっていて

コーチが俺と琴美の姿を見つけると、

「仁科さん、鳥羽さん、遅いですよ、早く着替えてきなさい」

と注意された。

琴美は

「すみませーん」

と一言謝ると俺と共に更衣室代わりの部室へと向かった。

そして、新体操部の部室の前に立ったとき

「入っていいのココ?」

と琴美に聞くと彼女は何も言わずいきなりドアをあけた

「なっ!!」

俺は驚き大慌てで部屋の中の様子を手で隠したが

しばらくして、そっと手をどかして部屋の中を覗いてみると、

部屋の中には誰もいなかった。

「あ?」

「女の子が着替えているとでも思っていたんでしょう」

意味深に琴美が尋ねてくる。

「そっか、居るわけないか、なんだ期待して損した」

俺がそう返事をすると、

「なんだって?」

と琴美が声を荒げた。

「いえ何でもありません」

シズシズと更衣室に入るなり琴美が、

「そうだ、あんた、レオタードは持ってきた?」

と聞いてきた。

「えっ、レオタード?」

俺がキョトンとすると、

「あれ、昨日おばさまに言ったんだけど」

と琴美が言ったとき、

俺は家を出る直前にお袋から渡された紙袋を思い出した。

「あっ、ひょっとして…」

そう言いながら紙袋を開けると、

中から青い光沢を放つレオタードが出てきた。

「あるじゃない、じゃ早くそれに着替えて…」

と言うと琴美はさっさと着替え始めた。

俺も琴美の着替えを見よう見まねで制服を脱ぐと持ってきたレオタードへ着替える。

実際着てみると、ナイロンの生地が肌にピッタリと張り付き、

なんだか、裸ではないけど裸のような感じがする変な気持ちになった。

「う〜mm、これはクセになりそうな気がするなぁ」

っと第2の皮膚になったレオタードの感触を楽しんでいると、

「コラっ、いつまで何しているの?」

と言う琴美の声でハッと現実世界に引き戻され、

「ほらっさっさと、する」

と言う声に急かされながら俺は部室を後にした。

結局、朝練は大したことは出来ず柔軟で終わってしまった。



昼休み…

「ねぇ…聞いた?」

閑散とした教室内に女子生徒の声が響く

「え?」

「学校の周りに変な連中が彷徨いているって話」

「なにそれ?」

「私もよく知らないんだけど、

 なんでも黒づくめの妙な格好をした数人の男が、
 
 この学校の様子を窺っているんだって…」

「いやだぁ、変質者?」

「でね、先生達が警察に通報したそうなんだけど、

 いざ、警官が学校の周りを調べてみると…」

「みると?…」

「何処にもそんな男達は居なかったんだってさ」

「はぁ?」

「それって、只の見間違えじゃないの」

「でも、その男達を見たのは複数の生徒と先生だから…」

「気味悪いわねぇ…」

と言う会話を聞きながら

「変質者ねぇ…、あたし可愛いから連れ去られちゃうかな?」

と俺が言うと、

「ぶっ」

琴美が吹き出し、そして、

「エセ女子高生が何を言ってんの、

 あんたなんか、スグに正体がばれて放り出されるわよ」

「失礼ねぇ、どこから見ても美少女じゃない」

「それよりも朝練では扱けなかったけど、

 放課後の部活ではたっぷりと扱く覚悟しなさいね」

琴美は片目を瞑りながら俺にそう言った。



放課後…

「いててて……琴美、痛いって…」

レオタード姿の少女が悲鳴を上げる、

「むわだ、むわだ、こんなの序の口よっ

 はい、今度はこっちぃ」

「痛ぁ〜ぃ」

柔軟体操に名を借りた琴美の俺へのしごきは熾烈を極めた。

夕方、日が落ちあたりが薄暗くなったころ、

「ふぅ〜、さすが作り物の身体ねぇ…

 一日でこんなに柔軟が出来るなんてやっぱ違うわ」

と琴美が感心する目の前で俺はぐったりと床の上に倒れていた。

「さて、今日はここまで、上がるわよ」

と言うと琴美は掛けていたタオルを取ると体育館を後にした。

「ひっ、人の身体だと思って好き放題しやがって…」

全身の筋が悲鳴を上げている身体をやっとの思いで起こすと、

琴美が消えた方を見て俺は文句を言った。


「さて、明日はなにをしようかなぁ…」

と言いながら体育館を出て部室に向かおうとしていた琴美の前に

バッ!!

突然数人の人影が出てくるとあっという間に彼女を取り囲んだ。

「えっ!!」

タオルを棄て咄嗟に琴美が身構えると、

「トバ・サン・デスネ」

と一人が言う、

「トバ?、違うわ、私は仁…」

と言った瞬間、

一人が琴美の前に出てくると手にした物を彼女の押し当てた、

次の瞬間、強烈なショックが彼女を襲った。

スタンガン…

琴美がそのことに気づいたとき、彼女は意識を失っていた。


「ったくう、まだ筋が痛いぞ」

俺が文句を言いながら体育館から廊下に出たとき、

気を失った琴美を担いだ数人の男達の姿が見えた。

「おぃ、お前ら…何をしてる」

俺が大声を出して男達の所に走っていくと、

「マズイ・ヒトニミラレタ」

と男達が言うと、

琴美を担いでいる一人を残して俺に向かってきた。

「この野郎っ」

っと俺は一人目を蹴り倒すと、続いて二人目を殴り倒した。

しかし、3人目に殴りかかろうとしたとき

ビシッ!!

強烈なショックが俺を襲った。

すると突然目の前が真っ暗になって、身体が一切動かなくなった。

「なんだ、どうしたんだ、おいっ!!」

俺は頭の中で怒鳴ったが、

身体は何の反応もなく、

再び次のショックを受けると俺の身体はそのまま倒れた。

「くっそぅ、こら起きろ!!」

と俺は叫んだが、

やがて、事務的な女性の声で、

「生命維持管理システムに重大な障害が発生しました、

 只今より当システムは保護モードに移行します。」

と言う声が数回繰り返し聞こえた後、俺の意識は闇の中に没していった。



…………

朱染め裾の長い衣装を着た高貴そうな女性……

ヒミコだ…

一体君は…

俺は女性に近づきそう言おうとした瞬間。

ハッと目を開けると、

お袋の顔が大写しで目に入ってきた。

「悠ちゃん、大丈夫?」

「お袋?」

「良かったぁ…」

お袋の安堵の声が聞こえる。

辺りを見回すと何処ぞの病院の一室のようだ。

「俺って………」

直前の記憶を辿る、そして琴美の顔が浮かんだとき、

「そうだ、琴美!!」

俺が飛び起きると、

「何処にいくつもりだ?祐介」

親父が真顔で俺を見る。

「何処って、琴美を助けに行くに決まってんだろう」

「ふん、で、何処を探すつもりだ?」

「じゃぁ親父は知っているのかよ」

俺はそう怒鳴ると、

コンコン

っと病室のドアが叩かれた。

「失礼します。」

と言う声と共にスーツ姿の男が入ってきた。

「課長、やっぱりHBSの連中の様です。」

と男は親父に言う、

「やっぱりな…で、拘束場所は判ったか?」

親父の質問に、

「いえ、そこまでは」

とスーツ姿の男が答えると、

「まぁいい、それはこっちで探す。

 で、例の物は?」

「こちらです」

と言いながらスーツ姿の男は親父に1つの包みを渡した。

「ご苦労だったな…」

親父はスーツ姿の男の労をねぎらうと、

「いえ、それでは私は社に戻ります。」

と言う言葉を残して彼は病室を去っていった。

なんだか親父の意外な一面を見たような気がした。

スーツ姿の男が出ていくのを見届けた親父は俺を見るなり、

「さて、祐介…」

「え?」

「琴美君の件だが、

 どうやらさらった連中は琴美君をお前と勘違いしてさらったようだ」

と結論を言う、

「なんで?」

俺の質問に、

「それはだな…

 お前のRBに使われているBIOSが、
 
 普通使われている”ナデシコ”ではなく”ヒミコ”と言う、
 
 特殊なBIOSが使われているせいだからだ」

と事情を説明した。

「”ヒミコ”?」

昨日、北条が言っていた台詞を思い出した。

「”ヒミコ”っていったら、

 極秘開発されていると言われているBIOSじゃないか?、それが何で俺に…」

俺はとんでもないコトに巻き込まれたのを実感した。



つづく

次回予告
ついに明かされる”ヒミコ”の正体、

「そうだ、

”ヒミコ”は米国の連中によって潰された”イザナミ”のリベンジとして

 極秘裏に開発を進めてきた、純国産のRB用BIOSだ。」

「国産のBIOS?」

「あぁ、米国産のBIOSが幅を利かせている今のRBの状況に風穴をあけるためのな」


そして、祐介は身代わりにとらえられた琴美の救出へと出発する。

「おい親父っ、なんでバニーガールならにゃぁならんのだ。」

「ふっ甘いな祐介、うさぎサンのお耳をバカにしてはいけないぞ」

次回「HBS研究所編・第4話:ヒミコ・ヒトの作りしもの」お楽しみに


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