風祭文庫・レンタルボディの館






ヒミコ

HBS研究所編
(第1話:初登校の朝)

作・風祭玲
(原案者・TWO BIT)

Vol.030



「RENTAL BODY」シリーズの詳細については

http://homepage2.nifty.com/~sunasan/

を参照して下さい。





「なんで俺がセーラー服を…」

ハンガーに掛けられた一着のセーラー服を少女が恥ずかしげに見上げながら、

「はぁ〜っ、あんなところで事故らなければなぁ〜」

そう呟いた。


話は2日前に遡る…

そのとき俺は深い闇の底で眠りについていた。

『……介…』

『…祐介…』

「ん?、誰だ?、俺を呼ぶのは…」

『祐介…』

「だからお前は誰なんだ?」

俺が問いかけたとたん、

フワリと浮き上がると猛烈な勢いで俺は上へ上へと登り始めた。

シャシャシャ…

見えない光の粒が線となって俺の横を通り過ぎていく、

ポツン…

突如、俺の向かう先に波紋が広がると、

ジワジワ…

っと黒い世界に中に漆黒の闇が広がりだした。

ゴォォォォォ…

俺はさらにスピードアップして登っていく…

やがて漆黒の闇がすべてを覆い尽くしたとき、

…Pi・Pi・Pi・Pi・Pi…

規則的な機械の音が耳に入ってきた。

「…あっ、意識が回復したようですね…」

人の話し声が聞こえてくる。

シャッ!!

覆い尽くした漆黒の闇を一気に引き裂くようにして、

俺の意識が目覚めた。

その瞬間、

一人の女性の姿が俺の意識に入り込んできた。

髪の長い、巫女のような装束を着た女性…

「…だっ誰だ、君は………」

『わたしはヒミコ…』

その声を聞いた俺は、

ハッ!!

と目を開けた。

すると、

パァァァァァ…

強烈な光が俺の目に飛び込んでくる。

「うっ」

堪らず俺は右手を挙げると光を遮った。

「おいっ、部屋の電気を暗くしろ、

 急に立ち上がったんで網膜がエラーを起こすぞ!!」

と言う男の声がするのと同時に、

すぅ…

部屋の明かりが徐々に落とされていった。

「…何処だココは…」

俺は訳も分からずキョロキョロとしていると、

「神経系・循環器系…シンクロ率…

 ふむっ、どれも異常ないようですね…」

と言う男の声がしたので、その方を向くと、

そこには白衣姿の男達がなにやら計器とにらめっこをしていた。

「では契約面に関しては後ほど担当のモノが伺いますので」

白衣の男達から少し離れたところで、

書類の束を持った別の男がそのようなことを言うと、

カチャッ!!

っとドアの音を立てて部屋から出ていった。

「お世話になりました」

お袋の声がする。

「どうやら俺は生きているらしい…

 契約って…何だろう?

 それより、ココはどこだ?

 この臭いは…病院か?

 …病院?

 なんで俺は病院にいるんだ?

 怪我したのか?

 そう言えば…

 確か…
 
 確か…
 
 そうだ俺は事故ったんだ…」

解れた糸をたぐり寄せるようにして俺は記憶を辿った。

「えっと…

 そうだ…

 バイト代を貯めてやっと買ったバイクに跨り俺は国道を快調にとばしていた…

 新品のバイクの調子はきわめて良く、

 慣らし運転だと言うことを忘れてさらにアクセルを入れたとき…

 そうだ、
 
 アイツが飛び出してきたんだ。

 目にハッキリと焼き付いている。
 
 あの白黒ブチの憎たらしい顔をしたネコ。

 俺はそいつを避けようとして…

 バランスを崩して…

 その後は…

 う〜ん、ダメだ思い出せない。

 ただ、あの状態の事故となればそれなりの怪我のはずなのに、

 なぜか身体の何処からも痛みを感じない。

 なんだ…これは?」

などと考えていると、

「気分はいかがですか」

見るからに医者と言う風貌の白衣姿の男が俺の顔をのぞき込んできた。

「祐介!!」

続いてお袋の顔も視界に入ってきた。

「お袋…」

そう言う間もなく、

「鳥羽祐介君、だね」

と白衣の男が尋ねてきた。

「はい、そうですが…」

と俺は声を出したところで、ハッと口を閉じた。

なぜならまるで少女の様な声が俺の口から出たからだ。

「なっ、なにこれ…」

驚きと共に異様な不安感が俺の心に広がっていった。

「キミは昨日交通事故を起こして、この病院に搬送されてきたのだよ」

医者はそう言うと俺に怪我の症状を次々と伝えてきた。

話からすると相当な重傷のようだがなぜかそんな感じがしない。

それどころかさっきの声のことが気になる。

「…ということで、

 キミの本物の身体はいまメディカルマシンの中で集中治療を受けているのだが…」
 
と医者が説明したところで、

「メディカルマシン?」

と俺は聞き返した。

そういえば以前テレビで見たことがある。

大きく傷ついた人間の身体を人工溶液の中に浸すことによって、

大けがをしても比較的短期間で集中的に治してしまう…と言う話を…

「けどそれって、確か治療を受けるヒトは人工冬眠的な状態に…」

と思ったとき、この状況の辻褄合わせが出来る答えが浮かんだ。

その時、担任の杉山が顔を出してくると、

「いやぁ、災難だったなっ鳥羽君」

病室に似合わない”えびす顔”の顔を見たとたん、

「なんで、先生が…」

と言う言葉が俺の口から飛び出してきた。

「おいおい、なんではないだろう…

 交通事故で受け持ちの生徒が入院したとなれば、
 
 担任として見舞いに来るのは当たり前だろう」
 
と杉山が言うと、

「ハイハイ…」

俺は適当に返事をした。

「さてと…実は君に話があってな…」

「話?」

「君が入院したあと、どれくらいの期間入院しなければならないのか

 ご両親と共に担当医に聞いたところ、
 
 恐らく一ヶ月ほど入院と言う話になってな」

「それで…?」

「まぁ、なんて言うかその…鳥羽君、キミの出席日数がねぇ…」

と杉山が言ったところで、

「あっ!!」

俺は自分の出席日数に余裕がないことに気づいた。

「まぁ、このコトで君を留年させるわけにもいかず、

 そこでご両親と相談したところ、

 体が完治するまでの間、
 
 取りあえず替わりの身体を借りてもらうことになってね」

と言う杉山の話を聞いた俺は、

「替わりの身体?…やっぱり…」

思わず飛び起きた…

「あぁいかん、急に起きては…」

俺の行動に驚いた医者が声を上げるのと同時に、

ファサ〜

何かが降ってくると俺の顔を覆いあっという間に視界が遮られた。

「うわっ、なんだ、なんだ?」

藻掻いているうちにそれが自分の髪であることに気づきながら、

やっとの思いで髪をかき分けて顔を出した。

「ぷはぁ〜っ」

大きく深呼吸しながら自分の身体の様子を見てみると、

眼下には

白く細い2本の腕…

2つの膨らみが盛り上がっている胸…

そう、どう見ても女の子の身体だ。

「女の子の身体なのか?」

そう思いながら股間に手を持っていく…と、

そこには男のシンボルはなかった。

「おっ、女の子…??

 なっなんで…」

そこでようやく親父の声が聞こえてきた。

「どうだ、祐介っ、女の子の身体は…

 男の時と違って気持ちのいい物だろう」

と腕を組みながらにこやかに言うと、

「どうして…」

俺は親父に尋ねた。

「実は…だな…祐介…

 父さんも母さんも、ホントは…女の子が欲しかったんだよ

 なぁ、母さん」

と話をお袋に振った。

「ちょっちょっとお父さんたらっ…

 うん、まぁそぉねぇ…
 
 女の子なら一緒に買い物は行けるし、

 家事や料理も手伝ってくれるし…ねぇ…」

とお袋が言ったところで、再び親父が、

「だから、まぁ替わりの身体を借りると決まったときに、

 どうせ借りるのなら、いっそ女の子の体にしようと話し合った訳なんだ」

と経過を説明した。

「ぬわにぃ〜っ」

俺のイヤそうな表情を見た親父は、

「まぁ、そうイヤな顔をするな。

 女の子はいいぞぉ…
 
 ブルマは履けるし、
 
 カラフルなレオタードも着られる。
 
 際どい水着を着て男どもの視線を集めるコトだって出来る」

人差し指を上げながら一つ一つ確認するようにして親父が言うと

「おっ親父ぃ、正気か?」

「おっお父さんたら、先生のいる前ではしたない」

「…でも、祐介。女の子の生活もそんなに悪くないから、

 ひと月くらいの経験もいいものだぞ

 それにしても、母さん
 
 祐介の保険にレンタルボディの特約をつけておいて良かったじゃないか、なぁ」

「そうねぇ…

 いくらお父さんがRB関係の会社に勤めているからといても、

 いざ借りるとなると、結構するからねぇ…」

などと親父とお袋のとりとめのない会話が続いたのち、

話の切れ目を見つけた杉山が、

「それでは鳥羽さん、

 祐介君が新しく着る制服を用意して置きますので、

 あとで学校の方まで取りに来てください」
 
と口を挟んだ。

「ほんと、先生にはご迷惑をかけてばかりで…」

お袋がそう言いながら頭を下げる。

「いえいえ…

 じゃ鳥羽君、
 
 学校の方は体が治るまでのあいだ女子生徒として通える様なっているから、
 
 ちゃんと登校するんだよ」

杉山はそう言い残すと部屋から出ていった。

「え?制服って…」

俺は親父の顔を見ると、

「決まっているだろう、

 まさかその身体で学生服を着て学校へ行くわけには行かないだろう」

「え゛っ」

そういわれた瞬間、俺の脳裏に女子が着るセーラー服のイメージが浮かんだ。

「いやだ!!、セーラー服は絶対に着ないぞ」

思わず親父に抗議したが、

「校則では女子の制服はセーラー服に決まっているんだろう?

 校則は守らなきゃぁ」

と涼しい顔…

「ぐっ…………くっそぉ〜、親父てめぇ」

俺は親父を睨み付けたが、親父の顔は笑っていた。

結局、その日は借りた身体とのシンクロ率に

まだばらつきがあると言う理由で一日様子を見ることになり、

翌日、俺の本体は入院したままの状態で俺は退院した。


しかし…

お袋が持ってきた着替えの服を俺は見て仰天した。

それは…薄いピンク色の生地にリボンやらレースをあしらった、

そぅ俗に「ピンクハウス」と呼ばれるフリフリの衣装だった。

「ぬわんじゃぁ〜コレは…」

衣装を手に取りながら叫び声を上げていると、

「これっ祐介ったら、そんな大声を出すんじゃぁありません

 お医者様からも感情を高ぶらせてはいけない。って言われているでしょう」

とお袋が窘める。

「わかっているけど、こんなもん着られるかよぉ…」

「仕方がないでしょう、

 お父さんが探し回ってやっと買ってきた服なんだから、
 
 おとなしく着なさい」

と素っ気ない。

「また、親父か〜」

俺が頭を抱えているの見たお袋は、

「祐介っ、

 そもそもこうなった原因はあたし達の反対を無視して、

 バイクを買って…
 
 勝手に事故を起こしたお前が悪いんだからね」

と強い調子で俺に言い聞かせ始めた。

ぐっ、痛いところを突かれた。

「はいはい、判りましたよ…」

反論できずに仕方が無く俺はピンクハウスを着ようとしたとき、

「ちょっと待った、祐介っ、その前にコレを付ける」

と言ってお袋が渡したのはブラジャーとパンティだった。

「いくら借り物と言っても女の子なんだから、ちゃんとしなくっちゃダメ」

「………」

俺は顔を真っ赤にしてブラとパンティを眺めた後、

仕方なくパンティに足を通し、

お袋に教えられながらブラを身につけた。

キュッ

っと胸の周りが締め付けられ、思わず緊張感が走った。

そしてそれから、フリフリのピンクハウスを着た。

「へぇ…なかなか可愛いじゃない」

とお袋が感心しながら俺の姿を眺めた後、

「じゃぁちょっとそこに座りなさい」

と言って俺を付き添い人用ののイスに座らせると

櫛で髪を梳かし始めた。

「ちょっちょとお袋…」

俺は声を上げたが、お袋は俺の髪を梳かし続ける。

サラ…

櫛が髪を梳いていく感触が気持ちいい…

「事故でお父さんに散々迷惑を掛けたんだから、

 少しぐらいお父さんを喜ばせて上げなさい。ね」

そう言われると、俺は何も言えなかった。

俺の髪を梳かし終わると今度は髪を三つ編みに編み始めた。

この風景、事情が知らない人が見たら、

退院を前に身支度をしている母と娘にしか見えないだろうなぁ

などと思っていると

「よし、出来た。」

ポン!!

と言う声と共にお袋は俺の肩を叩くと俺に鏡を渡した。

「あっ」

そう鏡に映った俺の姿はフリフリの衣装を着て、

三つ編みのお下げ髪に赤いリボンが可愛らしく飾っている少女の姿だった。

「うわぁぁぁ〜

 親父の舞い踊る姿が目に浮かぶぞ、これは…」

俺は呆然としながら鏡に映った自分の姿を眺めた。

「さて、行きましょうか」

お袋の一言で俺は病室を出ていった。

病院から自宅まではタクシーを使ったために、

他人にこの姿を見られずにすんでホッとしたのもつかの間、

しかし、いざ自宅の玄関前に立ったとき、

ドクン…

俺は思わず緊張した。

ゆっくりとドアノブに俺は手を近づけていく、

そして、指先がノブに触れるか触れないかまで接近したとき、

バン!!

「お帰りぃ、ゆうちゃん!!!」

と言う恋えと共に勢いよく親父がドアを開けた。

「ゆっ、ゆうちゃん?」

「おぉ、すっかり可愛くなって…パパは嬉しいぞぉ」

「パパだぁ?」

「さっ、ママ、何をボサッとしているんだ、

 折角”娘”が退院してきたんだから、
 
 スグに記念写真を撮とらなくっちゃ」

そう言うなりイソイソと自慢の一眼レフタイプの

高級デジタルカメラを用意していた三脚にセットし始めた。

「はいっチーズ」

Pi!!

と、親父は俺の姿を十数枚の写真に収めると、

すぐさま書斎へと引き上げて行き、

立ち上げてあったパソコンで画像処理を始めた。

「なっ、なにをしているんだ?」

親父の後ろで俺が声をかけると、

「ん、決まっているじゃないか、

 ゆうちゃんの可愛い姿を壁紙にするんだよ」

ニカッ!!

と笑いながら親父が答えた。

「うわぁぁ〜、親父っ

 それだけはやめてくれぇ……」

俺は大声を上げたが梨の礫だった。

そのあと親父にさんざん引きずり回された後にようやく解放された俺は

疲れた身体を引き吊りながら自分の部屋のドア開けたとたん思わず絶句した。

ペッカァ〜☆

ドアを開けた俺に目に飛び込んだのは、

まさに少女趣味無限最大出力全力投入を施した煌びやかな部屋だった…

「あははは…」

俺は部屋の中を力無く歩いていくと、

ベッドの上に置かれている大きなクマのヌイグルミに

寄りかかるようにへたり込んだ…

しばらくして親父が部屋に来ると、

「ゆうちゃん、どうだい?

 パパが丹誠込めてドレスアップした部屋は気に入ってくれたかな?」

とさわやかに声をかけた。

「おっ、親父ぃ…

 俺に部屋を…
 
 俺の部屋を元にもどせっ!!」
 
と怒鳴ったが、

「だめだよ、ゆうちゃんっ

 女の子が「俺」なんてはしたないコトを言っては…

 それに…事故を起こしたのは、何処の誰かなぁ…」
 
と付け加えた。

「ぐっ、それを言われると…」

俺が握り拳を握りながら反論できないでいると、

「そうそう、学校の制服はクロゼットの中に入れて置いたからね」

と一言言い残すと部屋から出ていった。


「どっ、何処で…こうなったんだ…」

その時、あの憎たらしい顔をしたブチネコの顔が俺の脳裏をよぎった…

「あんのぉ、ネコめぇ…

 今度見つけたら半殺しにしてやるぅ」

クマのヌイグルミを抱きしめながら俺は叫んだ。


緊張の夕食が終わると、

俺は疲れた身体を湯船の中に沈めていた。

「へぇ……女の子の身体って…柔らかいモノなんだなぁ…」

短期間に様々なことが一度に起こったので、

俺はまだ自分の新しい身体をじっくりと観察する暇がなかったが、

今にも折れてしまいそうな華奢な身体をしげしげと眺めると、

「大切に使わなきゃな…」

っと思った。


翌日、

クロゼットを開けた俺の目の前に一着のセーラー服が揺れていた。

「はぁ…」

再びため息をついて、俺はセーラー服を見る。

「今日から女の子だなんて…

 学校の連中の反応を考えるだけで気が重くなる……

 えぇぃっ!!

 ひと月もすれば俺は男に戻れるんだ、それまでのガマン…」

首を振って自分にそう言い聞かせると

俺は覚悟を決めてセーラー服に袖を通した…

制服の感触が身体を包み込んでいくのを感じながら

2度と元の世界に戻れないようなそんな予感がした。



つづく

次回予告
一ヶ月間限定の女子高生として学校に通うことになった俺、

「お前…いいのか?」

「へ?」

っと下を見ると紺色のスカート

「お〜〜っ」

「……………あはははははは」

「ここじゃぁ、出来ないわよねぇ…」

お約束通りの騒ぎを乗り越えたものの、


ふと立ち寄った体育館で…運命の出会い?が待っていた。

「ねぇあなた、新体操…やってみない?」

「へ?、新体操ですか?」

次回「HBS研究所編・第2話:琴美・襲来」お楽しみに


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