風祭文庫・華代ちゃんの館






「後輩」



作・風祭玲


Vol.1001





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



パォォォン!!!

亜空間軌道を爆走する華代ライナー。

その華代ライナーの中間部に連結されている車両にはこのライナーのオーナー室があり、

真城華代はそのオーナー室で天界に提出するための報告書を作成していた。

『ふぅ…

 これで良しっと』

九九九号との件についての報告書を無事書き上げた華代は大きく深呼吸してみせると、

『コンコン!

 華代様。

 お茶が入りましたよぉ〜っ』

ノックの音と共に黒コート姿の従者が湯飲みをお盆に載せ入ってくる。

『あっありがとう』

目の前に置かれた湯飲みを見つめながら華代は礼を言うと、

『それは九九九号の報告書ですな』

と従者は華代がしたためた報告書に一瞬目を通し話しかける。

『えぇ…

 なんだかんだ言っても相当な騒ぎになってしまいましたし、

 一応天界にはキチっと報告をしないと思いましてね』

少女風の見た目とは違い、

こういうときの華代はどこか大人びた表情をして見せながら従者への質問に答える。

『はぁ…そうですなぁ。

 確かにあの時は私もつい熱くなってしまいまして、

 ちょっと脱線してしまいましたが、

 あっいやいや、

 華代ライナーに脱線は禁物ですな』

華代のその言葉に従者はつられて発言するものの、

直ぐに咳払いしてみせると、

『もぅ、終わったことです』

と華代は言う。

すると、

『小耳に挟んだのですが、

 今回の後片付けにトラブルスイーパーが出動したそうです』

と従者は耳打ちをして見せる。

『トラブルスイーパー?』

その言葉に華代は敏感に反応すると、

『はぁ…

 なんでもトラブル専門の二人組の掃除屋だそうで、

 天界でも一目置いているとか。

 なにしろ今回の騒ぎは天界・時空管理局でも手に余る大騒動。

 トラブルスイーパーも八面六臂の大活躍をしているとか…』

そう従者が告げたところで、

『オホンっ』

華代は大きく咳払いをしてみせる。

『あっ!

 こっこれは失礼しました』

それを聞いた従者は直ぐに恐縮してみせると、

『まっ、そう言う人がいるのなら、

 天界も安心でしょう』

従者に向かって冷たい視線を放ちつつ

トントン

と机を叩いてみせる。

『あはは…

 あっそうそう。

 先ほど玉屋様からの電報が届きましたので、お持ちいたしました』

話題を変えようと従者は懐より一通の電報を取り出しそのまま華代に手渡すと、

『電報?

 またまた。

 電話をしてくれればいいのに』

受け取った華代は電報を広げ文面に目を通し始める。

『まぁ、そこが玉屋様らしいと言う所でしょうか、

 なにか至急のご連絡でも?

 って電報で至急の連絡って言うのも変ですが』

と言いつつ従者は覗き込むようにして内容について尋ねると、

『う〜〜ん。

 ハンターに動きあり。

 注意されたし。

 って書いてあるわね』

文面に目を通した華代はそう呟く、

すると、

『ハンターって、

 あのハンターですか?』

と従者は聞き返すと、

『あたしに関係しているハンターって言ったら、

 あのハンターさん達しか居ないでしょう』

頬杖を付つつ華代は返事をする。

『でも、玉屋さんからわざわざ警告をしてくるだなんて、

 これまでと違った動きが出てきたのかな…あの方達に…

 まさかトラブルスイーパーと何か関係でも…』

と思案気味に呟いてみせるが、

『実際に何か事が起きているわけではないですし、

 その時に考えればよいでしょう』

直ぐにそう結論付けてしまうと、

『次のクライアントはどこにいるの?』

と従者に尋ねたのであった。



シュルルルルル…

シュルルルルン…

天井の高い体育館にリボンが舞い上がり、

シャッ

タンッ

そのリボンを操るスティックを手にする。

新体操部を率いる八神ノリカは色鮮やかなレオタードを光らせながら華麗に舞い踊っていた。

「すてき…八神先輩…」

「本当、新体操部の女神ねぇ」

「うん、こうして見ているだけでも感動するわ」

そんな彼女の舞を見ながら新体操部員たちはみな心を震わせ、

涙を流していた。

やがて、ノリカの動きが止まると、

「ふぅ…」

彼女は額の腕で拭いつつ演舞台より退場するが、

すぐにその周囲を部員達が取り囲むと、

「先輩っ

 あたしのタオルを使ってください」

「あぁんっ、

 あたしのを使ってください」

「ちょっと割り込まないでよ」

などと声を上げ、

ノリカに向かっていくつものタオルが差し出された。

「あっありがとう…

 でも、自分のを持ってきているので、

 気持ちだけ頂くわ」

まさに女の戦いの場と化してしまった空間から逃げ出すようにしてノリカは飛び出すと、

足早に自分が持ってきたタオルを手に取ってみせる。



レオタード姿のままノリカは演舞台の方を眺めると、

「はぁ…」

大きく息を吐き、

「あれから2年が過ぎたのか…

 まさか、あたしがこんなことになるなんてね…」

そう呟きながら、

クスッ

と小さく笑ってみせる。

そんな時、

「あっまた、アイツだ」

部員達の間からそんな声が響くと、

「こらぁ!」

と体育館の内側の周囲を巡っている通路に向かって怒鳴り声を上げた。

「え?」

その声にノリカは上を向くと、

「ひぇぇぇ」

そこには一人の人影があり、

慌てて走り去っていく様子が視界に飛び込んでくる。

「あれは…」

まるでかつての自分を見ているような気分になりながらノリカは呟くと、

「また、彼ね」

とノリカの隣に立つ新体操部キャプテンが小さく笑って見せた。

「彼?

 知っているの?」

キャプテンに向かってノリカは尋ねると、

「そっか、

 八神さんは新体操の遠征で居なかったんだっけ、

 実はね、最近男子があたし達の練習をこっそり覗きに来ているのよ。

 大方、あたし達のレオタード目当てだと思うけど、

 大事にならないうちに捕まえないといけないね」

と事情を話す。

「そっそう…」

それを聞かされたノリカは身に抓まされるような気分になりながら返事をすると、

「そう言えば…八神さんが新体操部に入る直前にも、

 似たようなことがあったわよねぇ、

 名前はなんていったっけかなぁ」

とキャプテンは昔この新体操部で起きた騒ぎを思い出すようにして指摘すると、

その当事者の名前を思い出そうとする。

「え?

 いっいいじゃないですか、

 昔のことだし。

 でも、確かに大問題になる前に捕まえないといけませんね」

考え込むキャプテンを制するようにしてノリカは言うと、

「じゃっあたし、

 今日の練習はこれで上がりますので」

そう言い残して足早に練習場から立ち去って見せる。

「ふぅ…

 やばいやばい、

 キャプテンったらまだ昔のことを覚えていたんだ」

レオタード姿のまま練習場から飛び出したノリカはやや不安そうにしながら、

更衣室がある新体操部部室へと向かっていく、

そして、更衣室のドアを開けようとした時、

「八神さん…ですね」

と声を掛けられた。

「!!っ」

突然響いた少年の声にノリカは驚くと、

バッ!

いきなり学生服姿の少年はノリカの前にひれ伏し、

「お願いしますっ、

 どうすれば先輩のような新体操選手になれるのですか?」

と懇願したのであった。



「え?

 えぇ?」

思いがけないその言葉にノリカは驚くと、

「ぼっ僕…

 女になりたいんです。

 先輩のような新体操選手になりたいんです。

 知ってます。

 先輩はかつて男だったんでしょう?

 しかし、突然女になって、

 そっそのような新体操選手になったんでしょう。

 お願いします。

 僕を女にしてください。

 そして、新体操選手にして欲しいんです」

額を地面にこすりつけるようにして少年は懇願してみせると、

「そっそうは言われても…

 あたしには何も出来ないのよ」

とノリカは困惑してみせる。

「じゃっじゃぁ、

 なんで先輩は女になれたのですか?」

困惑するノリカに少年は核心を尋ねると、

「それは…

 華代ちゃんって女の子が来てね。

 はいこれって名刺を差し出してくれたの。

 そうそう、ちょうどこんな感じで…」

とノリカは言いながら誰かが差し出している名刺を受け取り、

それを少年に向かって改めて差し出した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

手渡された名刺に書かれている文面を少年が読み上げると、

「そうそう、

 そうなのよ、

 これがそもそもの…」

とノリカが言ったところで、

「え?」

ノリカはなぜその名刺がこの場にあるのか不思議に思うと、

それと同時に、

『呼ばれ飛び出てじゃじゃじゃじゃぁぁん。

 あたしは貴方の悩みを見事解決する、

 心のセールスレディこと真城華代ちゃん只今参上』

と言う少女の声が響き渡ったのであった。

「かっかっかっ、

 華代ちゃぁぁぁん」

久方ぶりとなる華代との再会にノリカは思わず声を上げると、

『お久しぶりですね。

 まぁ立派な新体操選手になられて…』

と華代はノリカを見ながら嬉しそうな顔をしてみせる。

「え?

 まっまぁ…」

華代の言葉にノリカは頬を赤らめて見せると、

『で、君ね。

 女の子になって新体操選手になりたいって言う子は』

と華代は少年を見据えてみせる。

「あっあのう、

 彼女は一体…」

未だに事情を飲み込めない少年は困惑気味に尋ねると、

『うふっ、

 細かいことは気にしなくてもいいのよ。

 さぁ、いまからお兄ちゃんのその悩み、

 見事に解決して見せるわよぉ』

と華代は言う大きく振りかぶってみせた。

それを見た途端、

ノリカは慌てて物陰に隠れると、

「え?

 え?

 いや、急に用事を思い出して…

 さっきのは無しってことで、

 さっさいならぁ」

身の危険を感じたのか、

少年は慌てて逃げだそうとする。

しかし、

『逃がさないわよぉ〜

 そうれっ!』

と華代の掛け声が響き渡ると、

ゴワッ!

一陣の突風が逃げる少年を襲い、

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

まるで絡みつくような風の中で、

少年の腕は見る見る細くなり、

胸は風船が膨らむように2つの膨らみを盛り上げ、

細く括れていく腰。

大きく張り出していくヒップ。

そして、体が一回り小さくなっていくと、

サラッ

っと伸びる髪が少年の首筋にまとわりついていく。

さらに、体のサイズが変わり

ダブダブになっていた学生服からボタンが消えていくと、

生地が縮んで肌に密着し、

袖口が手首までスルスルと伸びていく。

またズボンからはベルトが消えると足を這い上がるようにして裾が駆け上がり、

腰まで短くなるとピタリと密着し、

やがてそれらは混ざり合って1つの姿に変わると、

黒地に赤のストライプが入った、

そう新体操部のレオタードへと変化していく。

「ああっっ

 そんなぁ」

甲高い声を上げながら少年はシニョンに纏め上げた頭をさらすと、

そこには少年ではなく、

新体操のレオタードを身にまとった少女が一人座り込んでいた。

そして、

「どうしよう…

 ぼっ僕…新体操部員に…」

むっちりと膨らむ胸と股間を手で隠しながら元少年は困惑気味に呟いていると、

「うふっ、

 新体操部にようこそ。

 新入りさん」

と声を掛けながらノリカはやさしく手を差し出したのであった。




今回のミッションも実に簡単でした。

ノリカさん久しぶりにお会いしましたが、

立派な新体操選手になられましたね。

また、本日新体操部に入部した君。

これから頑張ってノリカさんのようになるんですよ。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

では