風祭文庫・華代ちゃんの館






「性転鉄道九九九」


作・風祭玲

Vol.999





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



パォォォン…!!!

無限に伸びる亜空間軌道を驀進する華代ライナー。

その華代ライナーの中央部に連結されている食堂車にて、

ハムハムハム…

華代ライナーのオーナーである真城華代は山盛りの特製チャーハンに舌鼓を打っていた。

『お味は…如何でしょうか』

香ばしい香りを放つチャーハンを食べる華代の脇からコック姿の従者が声をかけると、

カチャリ…

華代は手にしていたレンゲを皿の横に置き、

『そうねぇ…

 味加減はちょうど良いのですが、

 ちょっと火力が足らなかったみたいね。

 ご飯から湿気を感じました」

ナプキンで口を拭きつつ指摘する。

『!!っ

 誠に申し訳ございません。

 以後気をつけますっ』

その指摘に聞いて従者は即座に頭を下げると、

『まぁまぁ、

 感じたことをありのままに言っただけですから、

 そんなに気になさらないで。

 でも、ターミナルの駅長さんとの勝負の前には、

 一度厨房機器の調整をしておく必要がありますね』

と華代は笑いながら言う。

『ははっ、

 そのように手配いたします』

華代のその言葉を聞いて従者は少しホッとしつつ再度頭を下げた時、

ホォォォォォォンン!!!!

窓の外から汽笛の音が鳴り響き渡るや

ブワァァァ

シュゴゴゴゴゴゴゴ!!!

ヘッドライトの光とともに濛々たる蒸気を吹き放つ黒い巨体が通り過ぎ、

その後に続くようにしてこげ茶色の客車群がすれ違って行く。

『すれ違い列車?

 こんなところでは珍しいわねぇ…』

それを見た華代は目を丸くして窓に駆け寄るが、

華代ライナーの車窓から見えるのは小さくなっていくテールライトの明かりだけであった。

『あれは…九九九号ですね。

 どこに向かっていくのでしょうか』

華代の背後で従者は時刻表をめくりつつそう指摘すると、

『なにそれ?』

従者の言葉の意味が分からない華代は聞き返す。

すると、

『いえ、最近この界隈に出没するようになった亜空間列車でして、

 機関車はかつての蒸気機関車。

 またそれに続く客車群も機関車と同じ時代の古風な佇まいの車両です』

と言いながら従者は直角に折り曲げた両腕を蒸気機関車の連結棒のごとく動かし華代に説明をする。

『ふーん、

 で、その九九九…スリーナントカって何の目的で走っているの?』

『九九九と書いてサン・キュー号ですよ、華代様。

 くれぐれもスリーナイ…なんてことは言わないでください』

華代からの質問に従者はコックの衣装を脱ぎつつ釘を刺し、

『なんでも九九九号のオーナーは黒尽くめの女性だそうで、

 金色の髪を靡かせるそれはもぅ美しい方だとか』

と褒め称えてみせる。

『コホンっ、

 オーナーが美人かどうかなんて、

 そんなことはどうでも良いです。

 で、目的はなんなのですか?』

やや不機嫌そうに華代は咳払いをした後、

改めて九九九号の目的を正すと、

『あぁ、申し訳ありません。

 詳しくは判りませんが…

 そうだ、天界の亜空間鉄道管理局に問い合わせてみましょうか、

 何か知っているかもしれません』

思いついたように従者は手を打ちとあたふたと先頭車両へと向かっていく、

『黒尽くめの女性ねぇ…

 あたしが知っている範囲では…』

去っていく従者の後姿を見つめながら華代は呟くと、

クショッ!

どこかの街に店を構えている黒蛇堂の店内にくしゃみの音が響き渡った。

『また風邪…ですか?

 黒蛇堂様?』

店で飼っている五芒山羊のスミに餌をやりつつ、

従者は心配そうに尋ねると、

『いっいえ…大丈夫です。

 ちょっとクシャミが出ただけです』

と黒衣をまとう黒蛇堂は返事をし、

『誰か私の噂をしているのでしょう』

と返事をしながら笑ってみせる。

『はぁ、噂ですか。

 黒蛇堂様の噂話をするとしたら、

 姉上の白蛇堂様か、

 兄上様、もしくは業屋様でしょうか』

それを聞いた従者は笑いながら指摘すると、

『クショッ!』

『ヘッチッ!』

『ハクショっ!』

亜空間軌道を走る業ライナーの中で3発のクシャミがほぼ同時に響き渡ったのであった。



『華代様っ、

 九九九号の目的が判りましたぁ!!!』

それから程なくして従者が慌てて華代の元に駆けつけてくると、

『どうしたんです?

 そんなに大慌てで』

華代は飲みかけのジュースをテーブルに置いて聞き返す。

『管理局に問い合わせをしたところ。

 九九九号の目的はさまざまな理由で女の子の体になりたい。

 と願っている少年のところに駆けつけ、

 性転換手術を無料で行う病院へ連れて行ってあげる。

 と言葉巧みに誘っているそうです。

 そして、既に性転換手術を受け女性になった元少年も数多く居るとか』

と従者は九九九号の目的を告げるや、

『なんですってぇ!』

それを聞かされた華代は驚いた声を上げと、

『それって、あたしの仕事を横取りしているってことじゃない。

 ううん、そんなんじゃないわっ

 全ての性転換(TS)を司る一級神・華代ちゃんへの挑戦であり、

 立派なライセンス違反よっ!

 前回のTSDと言い…またしても華代ちゃんピーンチ。

 なにをボヤっとしているのっ、

 華代ライナーっ方位反転180°!

 全速力で九九九号を追いかけなさい』

テーブルを蹴飛ばし従者に向かって指示を出した。

『はっはいっ』

華代の指示を受け従者が先頭車の乗務員室に飛び込むと、

ガシャンッ!

華代ライナーの行く手にポイントが姿を見せ、

チュィィン!

チュィチュィィン!

レールと車輪を軋ませつつ華代ライナーはループ線へと転線していく。

そして、ループ線を大回りして先ほど九九九号が走り去ったレールへと合流すると、

パォォォォォン!

ヒュォォォォォンンン…

華代ライナーは一気に加速を始めたのであった。



「先生、さよぉならぁ!」

「さよぉならぁ」

さて、場所は変わって夕暮れの街に少女達の挨拶の声が響き渡ると、

「はいっ、

 気をつけて帰るんですよ」

少女達を見送る女性の声が響き渡る。

ここはとある街の中に建つバレエ教室。

シニョンに髪を結い上げ

ラフな服装の少女達が次々とその玄関から出て行くと、

「はぁ…」

最後に同じシニョン頭ながらも少女達とは少し面持ちが違う少女が出てきた。

「気をつけて帰るのよ、

 それとお母さんによろしくって伝えてね」

最後に出てきた少女に向かって見送りをしていた女性はやさしく声をかげると、

「はい」

少女は小さく返事をして街の中へと消えて行く。

「はぁ…」

穿いているハーフパンツの裾から白いバレエタイツを覗かせながら、

少女は相変わらずため息をつきながら薄暗くなった道をトボトボと歩き、

やがて小さな公園の前にたどり着くと、

ヨロヨロと道から離れその公園の中へと踏み込んでいく。

そして、

キィ…

人待ち状態になっていたブランコに腰掛けると

それを小さく揺らしてみせたのであった。

キィ

キィ

人の気配が途切れた公園にわびしくブランコのきしむ音が響き、

少女は一人夜の街を眺めていると、

「いいのかなぁ…

 僕はこんなことをしてて」

そうつぶやいてみせる。

とその時、

スッ

不意にその脇にひとりの人影が立つと、

「え?」

いきなり現れたその影に少女は驚きながら仰いで見た。

と同時に、

『麻沢一太郎君ね』

と影はやさしく声をかけたのである。

「!!っ

 誰?

 なんで僕の名前を知っているんですかっ」

影からの声に少女、

いやハーフパンツの股間をわずかに膨らませる一太郎は腰を浮かせながら驚きの声を上げると、

『うふっ』

影は不敵な笑みを浮かべゆっくりと一太郎の正面へと移動していく。

そして、明かりを放ち始めた街灯にその全貌を見せたのであった。

一太郎の前に立ったのは漆黒のコートを羽織り金色の髪を靡かせる若い女性…

「誰なの?」

一太郎は警戒しながら正面に立つ女性に向かって改めて話しかけると、

女性はゆっくりと手を伸ばし、

『私の名は明照。

 あなたの悩みを解決してあげるわ、

 九九九号に乗りなさい』

と告げる。

「九九九号?

 僕の悩み?

 いまあったばかりの僕の悩みをどうして知っているんですか?」

明照に向かって一太郎は聞き返すと、

『確かに会ったばかり…

 でも、わたしはあなたの悩み、生い立ちも含めて全て知っているわ。

 そう、あなたの母親は某バレエ団の有名プリマバレリーナ。

 天才振付師と呼ばれた男性と結婚し、

 自分の後を継ぐ女の子が授かるを期待していたものの、

 でも、生まれてきたのが残念ながら男の子だった。

 このことに母親は相当落胆し、

 赤ん坊だったあなたをあやしているときでも自分の舞台写真を見せながら

 あなたが男の子であることにため息をついていたそうね。

 やがて子育てに一区切りをつけた母親は舞台に復帰したものの、

 でも生まれて来た我が子が男の子であることを恥じたのか、

 なかなか自分の舞台に連れて行くことはなく、

 あなたはバレエについてなにも知識を得ることはなく育っていく。

 しかし、転機がきたのは、

 5才になったあなたが偶然母親の舞台写真を見つけ、

 ”見てみたい。”とせがんだのがそもそもの始まり。

 そして、はじめてみた母親が演じる舞台にあなたは感激し、

 やがてその真似事をするようになっていく。

 すると、それを見たあなたの母親は一大決心をすると

 あなたを自分のレッスン室へと連れて行き、

 そこで”汗を流す団員達のようになりたいか?”

 と問い尋ねた。

 そう、そこであなたはその問いに躊躇わず”うん”と答えてしまった。

 そして、その翌日からあなたは男であることを否定され、

 バレリーナとなるためのレッスンを受けさせられる。

 無論、あなたはいつしか母親のようなバレリーナになることを目標にレッスンに励んだけど、

 でも、あなたの体はあくまでも男。

 成長するにつれて男の体でバレリーナになれないことに気がつき、

 そして、こうして悩むようになった』

とどこで調べたのか一太郎の生い立ちからここまでの経緯を話して見せる。

「ぐっ」

明照の言葉に一太郎は言葉を詰まらせてしまうと、

「そうさ、

 僕は男だ。

 女の子みたいに髪を伸ばしお団子にしても、

 レオタードを着てどんなに頑張ってレッスンをしても、

 トゥシューズを履いてみても、

 バレリーナになれるわけがない。

 第一、こんなことをしていることそのものが可笑しいんだよ。

 僕にはもっと別にすることがあるんじゃないかと思うようになったんだ。

 だけど、母さんの顔を見るとバレエをやめることなんて言えないし」

と明照に向かって一太郎は自分の心情を言う。

すると、

『だから悩むことなんてないのよ、

 九九九号に乗ればあなたの悩みを解決できるところに連れて行ってあげる。

 ふふっ、

 無料で性転換手術をしてくれる病院行きの列車…

 それが九九九号よ』

一太郎に向かって明照はそう言うと、

バッ!

一太郎が着ていたシャツとハーフパンツを無理やり剥ぎ取って見せた。

その途端、腰周りに小さなフリルがあしらわれたレオタードと、

足を包む純白のバレエタイツが露になり、

「あっいや」

そう言いながら一太郎は膨らみを持つ股間を手で隠しながらしなを作ってみせる。

『まったく、

 なにが”いや”ですか。

 この変態が…』

それを見た明照は不快そうにそう吐き捨てると、

『こちら明照っ

 九九九号応答せよ。

 九九九号応答せよ』

と取り出した無線機に向かって声を上げた。

その途端、

シャカタタタタタ

明照の脇に二条の軌道が姿を見せ、

ホォォォォン!!!

シュカシュカシュカ!!

煙を噴き上げヘッドライトを輝かせる列車が接近してきたのであった。

「え?

 え?

 えぇ!!」

それをみた一太郎は驚きの声を上げると、

シュゴゴゴゴ!!!

ギギギギギギ…ギィィィ!!

一太郎の目の前に列車は停車し、

バタン!

と客車のドアを開けてみせる。

『さぁ、乗るのです』

驚く一太郎の後ろから明照が声を上げると、

「いっいやだ、

 なんで、こんなのに乗って僕は女の子にならなければならないんだ。

 ぼっ僕は…

 バレリーナじゃなくて水泳選手になりたいんだ。

 水泳選手になってオリンピックで金メダルを取りたいんだ」

1・2歩後ずさりしながら一太郎はそう訴えると、

『聞き分けのない子ね、

 すっぱりと股の邪魔なものを切り取ってやろうっていうのよっ。

 いまなら無料でオッパイも膨らませてあげるわ。

 さぁ、その好意に甘えるのが普通でしょう』

痺れを切らした明照は厳しい口調で言うと、

『さっさと乗りなさい』

と命じながら一太郎の手を掴みあげ九九九号に押し込もうとする。

「い・や・だぁぁ!!」

『えぇいっ観念してさっさと女になれ、

 世間を欺き堂々とバレエ教室に通う変態レオタード男がぁ!』

公園の中に一太郎と明照の声が響き渡ると、

『ちょっと待ったぁぁぁ!!】

華代の声が響き、

シュカッ!

明照の頬を何かが突き抜けていくと、

スコッ!

一太郎の指と指の間に一枚の名刺が挟まった。

「え?

 ココロとカラダの悩み、

 お受けいたします 真城 華代?」

名刺に書かれた文句を一太郎が読み上げると、

『なに?

 真城…華代っですって?

 ってあの真城華代っ!!

 およこしっ!』

一太郎の手にある名刺を取り上げ、

その文面を改めて明照が読むと、

シャカタタタタタ!!!

九九九号の脇に新しい軌道が敷かれ、

パォォォォンン!!!

タイフォンの音共に

シュゴォォォォ!!!

煌々とヘッドライトを輝かせる華代ライナーが九九九号の前方から走ってくる。

そして、轟音と共にライナーが走り去った後、

白のワンピースを微かに揺らしながら、

一人の少女がその軌道の上に立っていた。

『TSを司る一級神、真城…華代…

 この子が』

少女を見ながら明照はそうつぶやくと、

シュバッ!

『華代ちゃんっ、参上!

 いつだってクライマックスよぉ!』

と少女…いや華代は明照に向かって啖呵を切って見せたのであった。



『お前が真城華代か…』

九九九号の客車のステップに足をかけ明照は声を上げると、

『あなたねっ、

 あたしの大切な大切なお仕事の邪魔…じゃなくて、

 許可なく男の子を女の子にしているのは。

 無許可のTS業務は重罪よ』

と華代は食って掛かる。

ところが、

『ふんっ、

 何を言っているの?

 無許可ですって?

 ふんっ、

 そんなの市場独占業者が振り回す空論だわ。

 市場の独占は良いことではないわ、

 ライバルがいてこそ市場は活性化し、

 顧客は満足をしてくれるわ。

 九九九号、何をしているのっ

 変態レオタード男は乗ったわ。

 さっさと発車しなさい』

と明照は列車に向かって命令をする。

その途端、

ホォォォォォン!!!

九九九号の機関車より汽笛の音が響くと、

ジュカッ

ジュカッ

ジュカッ

蒸気の音を吹き上げながら九九九号は走り始め、

『ほほほほ、

 それでは失礼、

 パイオニアさん』

金色の髪を棚引かせながら明照は九九九号と共に去っていく。

『あっ

 こら、

 待ちなさいっ』

一瞬間をおいて華代は怒鳴り声を上げると、

パォォォォン!!

走り去っていった華代ライナーが再び姿を見せ、

すばやく華代を回収すると、

『クライアントとの顧客契約は完了しているわ、

 九九九号を追いかけるのよ』

と華代は従者に言いつけるなり、

ライナーの乗務員室に鎮座するオート三輪・華代バードへと乗り込む。

『逃がさないわよぉ、

 絶対に!』

パンパンパン!

高らかにエンジン音を響かせる華代バードのハンドルを握る華代はそう呟きながら、

ドンッ!

思いっきりアクセルを踏み込むと、

パォォォン!!!!

華代ライナーは一気に加速し、

九九九号の後に迫い始めた。



ホォォォン!!

パォォォン!!

夜の町並みを眼下に見下ろしながら二本の列車は速度を上げていく、

シュカシュカシュカシュカ

蒸気を吐き先を行く九九九号に華代ライナーがジワリジワリと迫っていくと、

『ちっ、

 しつこいっ』

窓から身を乗り出しながら明照は唇をかみ締め、

『何をしているっ、

 さっさとあの列車を撃墜をしないか』

と列車に命令を出す。

すると、

ガコンッ!

九九九号に連結されている武装甲車の砲台が動き、

追ってくる華代ライナーに照準を合せた途端。

ドシュルルルルルン!!

パルサー・カノンを撃ち放ってみせると、

『なにっ!』

九九九号からの砲撃に驚いた華代は慌てて華代バードのハンドルを切る。

ヒィィィィン!!!

ズォォォォン!!!

間一髪。

九九九号が放った光線砲の弾道が逸れていくが、

しかし二発目が直撃コースで向かってきた。

『南無三!』

それを見た華代は思わず目を瞑ってしまうと、

『ATフィールド展開!』

人工知能の声がコクピットに響き渡るや、

バキーン!

華代ライナーの前に出現した六角形のシールドがエネルギー弾を弾いて見せる。

パォォォォン!!!

攻撃をかわした華代ライナーは九九九号の下にもぐりこむルートへと軌道を進めて行く、

『華代様、

 いきなり撃ってきましたね

 いかが致しますか』

『向こうは本気でやる気ね。

 だったらいいわ。

 この喧嘩、受けてたつ』

九九九号からの攻撃に華代も従者は妥協点はないことを悟ると、

『あのぉ、華代様。

 華代ライナーは専守防衛ですので、

 攻撃系の武器は持ち合わせておりませんが』

と従者は釘を刺した。

『ぐっ、

 仕方がないですわ。

 Rデコ!

 ATフィールド最大出力で展開。

 相手の攻撃を防ぎつつ、

 前に出るのよっ」

と華代は華代バードならびに華代ライナーの制御を司る人工知能に向かって声を上げるや、

パォォォン!!

パキィィン!

華代ライナーは周囲に堅牢な防御障壁が張られ、

先行する九九九号へと接近していく。

『おのれっ、

 あくまでも楯突く気かっ

 明日の主はあたしであることを思い知らしめてあげる。

 速度を上げなさいっ

 絶対に華代ライナーを前に出してなりませんっ」

接近する華代ライナーを見た明照は九九九号に向かって命じると、

ホォォォォン!!

パォォォォン!!

二重螺旋を描く軌道を走る九九九号、華代ライナーの壮絶な追いかけっこが始まったのであった。



「あーぁ、すっかり遅れちゃった…

 凛ちゃんにまた怒鳴られるな」

すっかり日の落ちた神社に続く坂道を夢原希は一人歩いていると、

シュカタタタタタ!!

その彼女の両脇にレールが姿を見せる。

「え?

 線路?

 こんなところに?」

突然現れたレールに希は驚くと、

ホォォォォォン!

パォォォォォン!

汽笛の音とタイフォンの音がこだまし、

カッ!

強烈な光源が希に迫ってくる。

「え?

 え?

 うっうわぁぁぁぁ!!」

迫る光に思わず希がへたり込んでしまうと、

シュカシュカシュカシュカ

ヒュゥゥゥン!!

ダダダダダ

タタンタタンタタン

彼女の両脇を猛スピードで列車が走り抜けていったのであった。

「たっ大変っ、凛ちゃん!!」

それから程なくして血相を変えて希が神社の社務所に飛び込んでくるや、

「どうしたの?

 希?

 真っ青な顔をして」

と巫女装束姿の夏木凛は聞き返す。

「いっいまそこで、

 蒸気機関車と電車があたしを追い抜いていったのよ」

と希は表を指さしつつ真剣な表情で訴えるが、

「?」

社務所にいたメンバー4人は互いに顔を見合わせ、

「ちょっとごめんね」

そう言いながら水無月可憐は希の額に手を添えてみせる。

「熱は無い様ね」

額に手を添えながら可憐はそう呟くと、

「じゃぁ、何か思い悩んでいることであるの?」

と秋元小町がたずねる。

「違うって!

 本当だって、

 シュポシュポってあたしを追い抜いていったんだよ」

皆に向かって希は訴えるが、

「希…

 あなたは疲れているの。

 ここはあたし達に任せて、

 とっととお家に帰って寝なさい!!」

と彼女の肩をたたきながら凛は命令したのであった。



同じ頃、ある場所では、

「未確認飛行物体急速接近中。

 未確認飛行物体急速接近中。

 私設防衛軍出撃。

 迎撃体制をとれ!

 私設防衛軍出撃だぁぁ!」

猫柳、猿島、犬塚などの各私設防衛軍が未確認飛行物体の接近を受けるや、

一斉に迎撃機が出撃していく、

だが、

「そんなぁ

 そんなぁ」

迫る飛行物体を目撃した者達はみなわが目を疑うと、

「蒸気機関車と電車が空を飛んでいるぅぅぅぅ!!!」

と一斉に訴えたのであった。

「はぁ?

 蒸気機関車と電車が空を飛んでいるって…」

報告を受けた司令部は皆一斉に困惑してしまうと、

「おーぃ、

 労務管理はどうなっているんだ?

 カウンセラーを用意しろぉ、

 下手をすると厚労省から立ち入り検査が来るぞ」

「そうだ、

 俺の知り合いに腕のよい精神科医がいるから来てもらおうか」

などの様な暢気な会話が始まるが、

だが…

その暢気な会話もいつまでも続かず、

ホォォォォン!!

パォォォォン!!

迫る汽笛とタイフォンの音が響き渡るや、

「ばかな…

 うぎゃぁぁぁぁ…

 ドガンッ!!(ブツッ)」

同時に音声はかき消されてしまい、

それ以降沈黙してしまったのであった。



「若っ、

 大至急地下のシェルターに非難してくださいっ」

円堂家武道場に切迫した声が響き渡る。

「何事だ」

ギラリと刃先を光らせながら刀を構える忠太郎はその真意を問い尋ねると、

「未確認飛行物体が2機、

 当家に向け、急速接近中です」

その問に武装した男たちは返事をするや、

「えぇいっ、

 我が円堂家の防空網が易々と突破されてたまるかっ、

 即刻撃ち落せ!」

そう命じつつ、

「ウリャァァァ!!」

目の前の稲束に巻きつけられた唐渡のイラストに向かって斬りかかろうとするが、

その途端、

シャカタタタタタ…

忠太郎の両脇にレールが引かれていくと…

パォォォォン!!!

ホォォォォン!!!

迫る列車のヘッドライトが彼を照らし出し、

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

その直後、忠太郎の悲鳴が響き渡ったのであった。



「かっ華代さまぁ…

 周りに迷惑を掛けるのはいかがなものかと」

「黙ってなさいっ

 舌を噛みますわ」

「ひぇぇぇ、

 お母さぁん」

「泣くな、煩い」

九九九号、華代ライナー双方一歩も譲らずのバトルは延々と続き、

灼熱のサバンナを濛々と砂埃を上げながら駆け抜けていったと思えば、

海の中にある巨大な城に飛び込み驚く人魚を蹴散らし突き進んでいく。

『ほぉ…これはこれは激しいバトルですな』

『あれ、華代ライナーでしょう、

 なにムキになっているのかしら』

『まったく、何を馬鹿なことをしているのだ』

たまたま近くを通りかかった業ライナーは安全側線上で停車すると、

業屋は白蛇堂達は壮絶なバトルを半分あきれ気味で見るが、

九九九号と華代ライナーとのバトルはなおも続き、

「ユバンゲリオン発進っ!」

「了解っ」

ある秘密基地では接近する未確認物体をとめるために

3機の蒸気駆動型人道人型決戦兵器が出撃するものの、

パォォォォン!

ホォォォォン!

ドカッ!

呆気なく跳ね飛ばされてしまうと、

『ブンブン総帥っ

 一大事ですっ!』

別の秘密結社の本部ではなす術もなく

パォォォォン!!!

ホォォォォン!!!

ドガァン!

壊滅に近い損害を受けたのであった。



『ちょっとぉ、

 これって華代ライナーじゃない?』

ここは天界の時空間管理局。

突然巻き起こった時空の混乱劇にてんてこ舞いの中、

コンソールパネルを眺めていた銀髪の女神が驚いた声を上げると、

『そうねぇ…

 華代ライナーと…

 もぅ片一方は九九九号ね』

と黒髪の女神は華代ライナーと九九九号を補足してみせる。

そして、

『もぅっ!

 まったく何を暴走しているのかしら、

 巻き込まれてあっちこっち世界の軌道が狂っているじゃない。

 ありゃりゃ、すでに衝突事故も起きているわ。

 すぐにトラブルスイーパーを呼び出して』

コンソールを叩きつつ銀髪の女神は声を上げた。



ギャンッ!

ブォォン!

パンパンパン!

湖に浮かぶ古城を横目にして走る湖岸道路を花嫁衣装を着た少女が運転するクルマが走り去っていくと、

そのクルマを追いかけて黒づくめの男達が乗り込むクルマ、

そして、そのクルマを追いかけてオート三輪がカーチェイスを行っていた。

プルルルル

そのカーチェイスの最中にオート三輪に置かれたケータイが鳴ると、

『R、後を頼む。

 あっはい、鍵屋です。

 空き部屋は甲・乙・丁の3種類あります。

 お客様のご要望は何でしょうか』

運転はRに任せて鍵屋は電話口に向かっていつもの営業言葉を言う。

その途端、

『こちら天界・時空間管理局。

 トラブルスイーパーに緊急依頼。

 現在、時空間に大規模な乱れが生じている。

 トラブルスイーパーは速やかに乱れた時空間の修繕を行うこと』

と一方的に告げるや電話が切られた。

『やれやれ、

 相変わらず女神は人使いが荒い…』

それを聞いた鍵屋は呆れて見せると、

『やぁ、マイケル。

 あのクルマのタイヤは防弾仕様のようですが、

 どうしましょうか?』

とRは前を走るクルマについて尋ねると、

『仕方がありません。

 一気に片をつけます』

前を見据えて鍵屋が声を上げるや、

シャカタタタタタ!!!

オート三輪の両脇をレールが走り、

ホォォォン!

パォォォン!

正面から黒煙を噴き上げる九九九号と華代ライナーが迫ってきたのであった。



『はぁ…なんてことでしょう。

 伯爵と対決する前にこの世界が終わってしまっただなんて』

崩れゆく時計塔と堤防が決壊し沈む古城を眺めつつ鍵屋はため息をつくと、

抱き上げていた花嫁姿の少女をそっと路傍に寝かせてあげる。

そして、

『お爺さんには、あなたがここにいることを連絡をしておきますから、

 ご安心ください』

気を失っている少女に向かって鍵屋は話しかけると、

『あのぅ…

 戦いに行くのですか?』

とオート三輪の人工知能・Rは問い尋ねる。

『それが通りすがりのトラブルスイーパーの宿命ですから、

 行きますよ。

 夏みかんっ』

ダッシュボードに夏みかんを置いた鍵屋は気合十分にアクセルを踏むと、

パァンパンパンパン

エンジン音を高らかにオート三輪は亜空間へと飛び込んでいく。

そう、乱れた世界の秩序を守るために。



ホォォォン!!!

パォォォン!!!

もはや異世界の運命さえも左右するほどになってしまった

華代ライナーと九九九号とのバトルは熾烈を増ていく、

『仕方がないわ、

 複線ドリフトをするわよっ』

先を走る九九九号を見据えて華代はつぶやくと、

『えいっ』

とばかりにノッチを最終段にまで一気に上げた。

すると、

パォォォン!

華代ライナーは一気に加速し、

九九九号を牽引する蒸気機関車の前に出ると、

ギャァァンン!

複線ドリフトをかけその頭を抑える。

『よっっしゃ!!!

 Rデコ!

 後を任せたわ』

それを見た華代は乗務員室から飛び出して行く、

『あぁっ

 華代様っどちらに』

それを見た従者は華代の身を気遣うと、

『決まっているでしょう、

 いまがチャンスよ、

 向こうに乗り込んで契約者を奪還するのよ。

 Rデコ!

 向こうのドアにこちらのドアを近づけるのよ、

 それからあなたも来るの』

と華代は言うと従者の手を引き、

車内を駆け抜けていく。



『!!っ、

 こっちに乗り移ったか』

九九九号の車内にいる明照は華代が九九九号に乗り移ったことに気づくと、

『真城華代…

 かつてはわたしの夢を叶えてくれる憧れであった。

 しかし、いまのわたしにはそれに近い力がある』

と自信満々に呟くや、

シャッ

腰に下げたビームサーベルを抜くや、

『来るなら来いっ』

と気勢を上げてみせる。



コツリ

コツリ

『かっ華代様』

『しっ』

及び腰の従者を伴い華代はゆっくりとした足取りで古風な車内を移動していく、

そして、

ガラッ

カチャリッ!

車端にある貫通路のドアを開け隣の車両へと移っていくが、

どこにも明照の姿も彼女が押し込んだ変体レオタード男…もとい一太郎の姿は無かったのであった。

『どこにいるのかしら…』

いっそこの場で術を使おうかと華代は考えるもののすぐに頭を横に振り、

そして、ある車両に通じるドアに手をかけたとき、

シュパッ!

そのドアの取っ手をビームが貫通する。

その後、

カラリ

乾いた音を立ててドアが開くと、

『ふっ、

 やったか、

 自ら乗り込んでくるとは馬鹿なやつ』

手ごたえを感じつつビームサーベルを構える明照はほくそ笑むが、

『!!』

すぐにドアの向こうに人影がないことに気がつくや、

バッ!

すぐに振り返り構え直した。

しかし、彼女の背後にはレオタード・バレエタイツ姿のまま座席の上で震えている一太郎の姿しかなく、

肝心の華代の姿は見当たらなかったのである。

『どこに消えた!』

全神経を集中させつつ女性は華代の居場所を探ろうとした時、

『それっ』

ボンッ!

掛け声と共に爆発音が響くと、

車内にもうもうと煙幕が沸き起こり、

たちまち皆の視界を奪っていく。

『くっ、

 やるじゃない』

視界を奪われながらも明照は笑みを見せると、

『こんなこともあろうかと』

と言いながらすばやくマスクを被り、

マスクに備え付けられている赤外線スコープで華代の居場所を探り始める。

しかし、どこを探しても華代の姿はなく、

『どっどに消えた?』

明照は次第に焦り始めた。

と、そのとき、

『うふふっ、

 どこを見ているのですか?

 目が見えるいうことはあなたから私に近づいてくれる。と言う意味。

 そんなことではこの華代ちゃんに一矢報いろうなんてことは出来ませんよ』

と華代の声が響くなり、

『そうれっ!』

華代の掛け声が車内に響き渡った。

その途端、

ゴワッ!

一陣の突風が車内に巻き起こり、

『うわぁぁぁぁぁ!!!』

「いやぁぁぁ!!」

その突風によって明照や一太郎は巻き上げられてしまうと、

「あっあっあはぁぁぁん」

ムリムリムリ!!

風の中、

レオタードに包まれていた一太郎の胸が膨らみ始めた。

と同時にウェストが括れ、

さらにヒップが張り出していく、

そして、

スーッ!

モッコリとしていた膨らみを失った股間に一筋の縦筋が引かれ、

肩幅が狭くなっていくと、

シュルリ

彼が着ていたレオタードが変化し始めたのである。



「いやぁぁぁぁぁぁんんん!!!!!」

程なくして甲高い声を上げながら唇にルージュが引かれ、

一太郎は真珠色のチュチュを翻す立派なバレエっ娘へと変身してしまうと、

「あぁ…

 あたし…バレリーナになっちゃった…」

と憂いの表情を見せながら、

トココココ…

とポアント立ちで華麗に舞い始めたのであった。



『ふぅ…

 勝負あったわね』

煙幕が晴れ、

シャキっ

奪い取ったビームサーベルで明照の背中に当てつつ華代は勝利宣言をすると、

バッ

バッ

『なっないっ

 なくなっている』

華代に構わず明照は自分の股間をまさぐりながらそんな声を上げる。

『え?

 さっき使ったあたしの術は男の子を女の子にする術よ。

 女の人であったあなたに掛かるわけないでしょう』

それを聞いた華代は眉を寄せながら尋ねると、

『あははは…

 女に…

 俺、女になっているよぉ』

と明照は嬉しそうな声を上げたのであった。



パォォォン!!

『華代様、

 九九九号のオーナーの明照ですが、

 実は女性ではなく男性だったそうです。

 しかも女性になりたい願望があるものの、

 華代様に相談することが出来ず、

 同じ願望を持つ少年を性転換手術させることで、

 その欲求を満たしていたとか』

と従者は華代に明照の招待を説明する。

『なるほどねぇ…』

それを聞いた華代は大きくうなづいて見せると、

ホォォォォン!!

華代ライナーから離れていく九九九号へと視線を移す。

『それにしても、

 なんで一太郎君のところに九九九号は現れたのでしょうか、

 彼はバレリーナになることを嫌がっていたんでしょう』

首を傾げながら従者は疑問を言うと、

『いやよいやよもいいのうち。

 言うでしょう。

 一太郎君は表ではバレリーナになるのを嫌がっていたけど、

 本音では女の子になってバレエをしたいって思っていたのよ』

と華代は言うと、

『ねぇ、運動したからお腹が空いたわ、

 何か作って』

そう従者に向かって告げたのであった。



今回はちょっと大変なお仕事でした。

でも一太郎くん。

立派なバレリーナとなってお母さんを安心してあげてくださいね。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街に華代ライナーと共にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり