風祭文庫・華代ちゃんの館






「秘密のレオタード」


作・風祭玲

Vol.950





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「まぁ?

 性転換麻薬・TSD(TransSexDurg)ですって?」

異世界と異世界の間に敷かれた亜空間軌道を驀進する華代ライナー。

その車内にオーナーである真城華代の驚いた声が響き渡ると、

「はい、

 人間界では最近性別を変えてしまうという効果を持つ麻薬のような薬

 TSDなるもが出回っておりまして社会問題になっているようです…」

とエプロンを身に着けた黒コートの男は深刻そうに説明をしてみせる。

「それは困りましたわねぇ…」

男が用意したチャーハンに舌鼓を打ちつつ、

華代は指先のスプーンを巧みに回しながら考え込むと、

「TSD…

 TSD…

 うーん、どこかで聞いたような…」

その言葉に聞き覚えがあることを呟きながら、

しばしの間、考え込んで見せるが、

パンッ!

突然両手でテーブルを叩くと、

「まぁいいわっ、

 考えていても仕方がないですね。

 でも、これって華代ちゃんにとって重大な営業妨害。

 まさに挑戦状を叩きつけられたともいえるでしょう。

 TSDについてはターミナルの駅長さんが何か知っているかもしれませんから、

 私の方から問い合わせてみます。

 で、次のクライアントはどの時間座標です?

 まさか、その変な薬の餌食になってしまっているわけじゃないでしょうね」

キラリ☆

目を光らせ華代はクライアントについて問い尋ねる。

「あぁっ、

 はぃっ

 大至急、調べますっですっ」

華代の言葉に男は飛び上がってアタフタとコクピットへと戻っていくが、

「TSD…

 華代ちゃんの知らないところで何かが動いていますわ…

 まさか…業屋さんが?」

男の後姿を見送りつつ華代は呟いていた。



「お待たせぇ」

夕方の校庭に少女の謝る声が響き渡ると、

ハァハァ

ハァハァ

息を切らせながら

校門のところで待っている男子生徒の下へと制服姿の少女が駆け寄って行く。

「いや、

 そっそんなに待ってないけど」

まさに飛んできたかのごとく走ってきた少女・大間朋子に向かって

山下晃はなぜか誤魔化すようにして笑って見せると、

「?」

晃の態度を見た朋子は小首を捻るが、

「はぁ…」

すぐに大きく息を継いでみせる。

すると、

「聞いたよ、

 新体操部、いま部員集めをしているんだって?」

そんな朋子に向かって晃は新体操部のキャプテンが奔走していることを指摘すると、

「あっ晃にも知られていた?」

それを聞いた朋子はバツの悪そうな顔をしてみせながらも、

「あっでもね。

 今日一人見学者が来たわよ」

と自分の練習を見学しに来た生徒がいたことを報告する。

「入ってくれそうか?」

「うーん、どうかなぁ…

 あたしは脈はある。と睨んでいるけど」

話し合いながら二人は歩き始め、

「それにしても新体操部が部員部不足とは信じられないなぁ…

 1年生が全員辞めてしまったんだって?」

と空を見上げながら晃は言うと、

「え?

 そこまで知っているの?

 参ったなぁ…

 大会が迫ってきたので

 ちょっとキツイ練習をしただけなんだけどね。

 でもそれで音を上げてしまうなんて、

 最近の子は根性が無いのよっ!」

グッ

と握りこぶしを握り締めながら朋子は力説をする。

「おぃおぃ」

朋子を横目に見ながら晃は冷や汗を流しつつ、

「まぁそれを言ったら、

 ウチの男子バレー部だって練習についていけないので辞めます。

 って言って辞めていく1年がいるけどな」

と朋子の悩みが他人事でないことを言う。

「はぁ…

 何処も大変なのよね…」

それを聞いた朋子は肩を落とし呟いて見せると、

「でもまぁ、

 まだ試合に出られるうちと違って、

 そっちってヤバイって聞くけど?」

朋子に向かって晃は問い尋ねる。

「春にいっぱい入ってきたんだけどね、

 だけど一人二人と抜け落ちちゃって…

 ここで最後に残っていた1年生が一気に辞めちゃって…

 …彼女達なら大丈夫だろうと思って期待していたんだけどなぁ

 あーぁ、

 3年生が引退した今となっては2年のあたしとキャプテンと島野さんと久保さんのみ…

 これじゃぁ団体出場なんて夢のまた夢よ」

と朋子は嘆いて見せると、

「まさに存亡の危機だな…」

話を聞いた晃はそう呟く。

「でも、希望は捨ててないわよっ」

ピンチでありながらも朋子は拳を握り締めて力説すると、

「なぁっ、

 にっちもさっちも行かなくなったら、

 俺がレオタード着てやろうか?」

と晃は自分を指差して見せた。

「え?」

思いがけない晃からの提案を聞いた途端、

朋子は1歩分晃との空間を開け、

「山下君ってそんな趣味があったの?」

と怪訝そうな目で晃を眺めたのであった。

「なっなんだよっ、

 俺が新体操しちゃいけないのか?」

自分を見つめる朋子に向かって晃は詰め寄ると、

「もぅ、やだなぁ山下君ったら、

 悪い冗談も程ほどにしないと、

 変態だと思っちゃうぞ」

と警告をしつつ、

バンッ!

晃の背中を思いっきり叩くと、

「あっちょっと用事を思い出したので、

 ココで失礼!」

そう言い残して晃の下から駆け出していったのであった。



「あっおいっ!」

走っていく朋子を晃は2・3歩追いかけるが、

すぐに立ち止まると、

「やっぱ、ストレート過ぎたかな…

 変態か…

 そうだよなぁ…

 僕って変態かも…」

と呟きながら晃はそっと自分の胸に手を這わせ、

Yシャツの下に着ている新体操部のレオタードの感触を確かめてみせる。

「はぁ…

 バレー部の練習を終えて後にレオタードを着て君に逢っている。

 なんて知ったら大間さんはどう思うかな。

 しかも、このレオタードは卒業していった和泉さんのものだってことも知ったら…」

と思いながら晃は自宅へと足を向ける。

そして自宅近くの公園を通りかかったとき、

『お兄ぃちゃぁん』

と晃を呼び止める少女の声が響いたのであった。

「?

 だれ?」

人気の無い公園に突然響き渡ったその声に晃は驚くと、

チキチキチキ!!!

いきなり晃の正面に一条の軌道が姿を見せ、

程なくして、

パォォォン!!!

タイフォンの音を響かせながら

その軌道の上を列車が通過したのであった。

「え?

 でっ電車?」

余りにも突然なことに晃は目をパチクリさせていると、

列車が通過した後にさっきまでいなかったはずの少女が立ち、

晃を見るなり

ビシッ!

『華代っ、参上!』

と啖呵を切ってみせた。

「へ?」

少女の啖呵に晃は呆気に取られて仕舞うと、

『うーん、ちょっと気合が足りなかったかな?

 それともいまはコウモリさんを思わせるこっちのポーズかな?』

と少女は独り言を言い、

ビシッ!

啖呵をやり直してみせる。

そんな少女に近寄って、

「あのー、

 俺に何か用ですか?」

と晃は問い尋ねると、

『まぁ、いいわっ、

 はいっ

 これっ』

啖呵を切るのを諦めた少女はそう言いながら、

晃に一枚の名詞を手渡したのであった。

「ココロとカラダの悩み、

 お受けいたします 真城 華代」

渡された名刺の文面を晃は読み上げると、

『はーぃ、

 契約成立ね』

少女・華代は言うなり黒いカードを取り出し、

ピタッ!

っと晃の額に貼り付けてみせる。

そして、

『ふむふむ、

 なぁんだ。

 お兄ちゃんは新体操選手になりたいのねっ』

とそれに浮き出た数字から晃が密かに抱いている望みを言い当てると、

「なっ何で判った!!」

晃は驚きながら飛び上がって見せる。

『うふふっ、

 この華代ちゃんには不可能なことはありませんよ。

 しかもお兄ちゃんは運が良いです。

 ただいま華代ちゃんでは特別サービス実施中!

 なんと3割引でお兄ちゃんをいま着ているレオタードが良く似合う

 立派な新体操選手にてしあげますわぁ

 では、華代ちゃんの力をとくとご照覧あれ!!!』

腕をまくりながら華代はそう言い、

そして、高く手のひらを揚げて見せると、

『そうれっ!』

と掛け声を放ったのであった。

すると、

ゴワッ!

一陣の突風が晃に襲い掛かると、

ビリビリビリィィ!!

晃が着ていた制服が引き裂かれるようにして消え去り、

その下に来ていたレオタードが姿を見せる。

すると、

ムリムリムリ!!

レオタードに包まれていた晃の胸が膨らみ始めると、

ウェストが括れ、

ヒップが張り出していく。

そして、

スーッ!

モッコリとしていた膨らみを失った股間に一筋に縦筋が引かれていくと、

晃の体は一回り小さくなり、

「いやぁぁぁぁぁぁんんん!!!!!」

甲高い声を上げながら晃は煌く星空の彼方へと消えていったのであった。

『ふぅ…

 契約成立、お仕事終わりっ』

額に浮き出た汗を拭いながら華代は充足感を感じていると、

シャカタタタタタ…

華代の目の前に軌条が姿を見せ、

パォォォン!!!

タイフォンの音共に前照灯の灯りが華代を照らし出した。



そして翌日。

「みんなっ

 ちょっと来て」

新体操の練習場でレオタード姿になって柔軟運動をしている部員に向かって、

キャプテンの鹿島洋子が嬉しそうに呼び集めた。

「新入部員が入ってくれたんですってね、

 キャプテン?」

洋子の顔を見ながら朋子は返事をすると、

「えぇ、そうよ。

 さっこっちにきて」

と手招きをしてみせる。

そしてオズオズと姿を見せたレオタード姿の少女を見た途端、

「やっ山下…君?」

朋子は思わず絶句してしまったのであった。

「あっあの…」

驚く朋子に少女は顔を真っ赤にして何かを言いかけるが、

膨らんだ胸、

括れた腰、

そして、縦溝を刻む股間へと朋子の視線が動いていくのを感じてしまうと、

「いやっ

 そんなに見ないでください」

と恥じらいの声を残して走り出していく、

「まって、

 山下君。

 一体どういうことなの?

 なんで…レオタード…

 しかもそれって…

 和泉先輩が着ていたレオタードじゃない」

朋子は走っていく少女に向かって声をかけるが、

「………」

その言葉への返事は帰ってこなかったのであった。

そう、洋子が連れてきたレオタードがよく似合う新入部員は

朋子の彼氏であった山下晃の変わり果てた姿であり、

さらに彼、いや彼女が着ているレオタードは

朋子に新体操のすばらしさを教えてくれた和泉基子のものであった。



今回の依頼も実に簡単でした。

晃くん…じゃなかった晃さん。

立派な新体操選手となって新体操部を立て直してくださいね。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街に華代ライナーと共にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり