風祭文庫・華代ちゃんの館






「雄太の願い」


作・風祭玲

Vol.888





こんにちは初めまして、

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「もぅ男なんかもう嫌だ!

 女の子になりたいよぉ!

 女の子の身体になって、

 女の子の水着を着て、

 男になってしまった鹿場先輩や蝶野先輩と一緒に部活をするんだぁ!」

T高校水泳部の猪瀬勇太は顔中に血管を浮き立たせ激しく唾を飛ばしながら華代に迫ると、

「はっはぁ…」

勇太の気迫に押された華代はただ頷き返事をするだけだった。

なぜこのような事態になってしまったのか、

そもそもの発端は…



「うふっ

 匂うわ匂うわ、

 心の寂しい男の子の匂いが…

 うふっ、

 まさに華代ちゃんにとって至高の香り。

 さーて、

 悩みを抱えるいたいけな男の子はどこにいるのかしら」

暮れなずむ街に聳え立つT高校の校舎を仰ぎ見ながら

華代ライナーより降り立った華代は

ピンク色のカートを手に校舎へと向かって行く。

「うーんと、

 どこに居るのかしらぁ

 この世界の依頼人は…」

しばらくの間、華代は校舎の周りを歩き続けるが、

しかし、なかなか依頼人と思えしき男子の姿を見つけることはできず。

突然、立ち止まって頭を掻くと、

「仕方が無いわね…

 あたしが影を広げるから、

 依頼人の居場所を読み取って」

誰も居ない後ろに向かって告げる。

すると、

『畏まりました』

その声と共に黒装束の男が姿を見せ華代に頭を下げると、

ジワッ!

華代の足元の影が一気に拡大し、

校舎を、街を覆い始めた。

『うーん…』

街中をおおい尽くした華代の影を見ながら黒装束の男は唸るが、

『おぉ!』

ついに依頼人を見つけたのか声を上げると、

『華代様っ、

 依頼人を見つけました。

 南・南・西の方角…

 距離は25、校舎内。

 上下角・±0…水平…です』

と報告をする。

「あっそうですか、

 南南西の校舎内!

 1階。

 うん、あっちに向かえばいいんですね」

それを聞いた華代は校舎を指差すと、

『はい』

黒装束の男は静かに頷いて見せた。

その一方で、

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

その校舎から息を切らせながらYシャツ姿の猪瀬勇太が飛び出してくると、

「そんなぁ!」

「そんなぁ!」

「そんなばかなぁ!!!!」

と声を張り上げながらその場に突っ伏し

泣き声を上げながら泣き出してしまうと、

オーィオイオイ!

大粒の涙を滝のように流して勇太は泣きはじめた。

と同時に、

ピンッ!

華代の頭の上に毛がピンっとそそり立ち、

「やや、

 感じます。

 感じます。

 助けを呼ぶ声が!

 感じます。

 もがき苦しむ声が!

 このすぐ傍に!

 どうやら校舎から出てきたみたいですわ。

 あの彼が心の寂しい人に間違いないですね」

華代は頭の上の360°全方位無志向レーダーで

校庭で突っ伏して泣き声を上げる勇太を見つけると、

カラカラ

カートを鳴らしながら走り始め、

「(まずは第一印象!)

 おにーちゃんっ!」

と心の中で気合を入れながら可愛い声で声をかけたのであった。



「え?

 憧れの先輩が男になってしまった…んですか」

校庭の隅、

可憐な花が咲き乱れる花壇の敷石に腰掛けながら

華代は隣に座る勇太の話に目を丸くする。

「そうなんだ、

 僕の憧れだった鹿場先輩と蝶野先輩…

 女子水泳部の華と謳われた二人の先輩が、

 突然、汗臭いマッチョ男になってしまったんです。

 何でこんなことになったのかは判らないけど、

 でも、あんなに美しかった先輩が二人とも男の競パンを穿いて、

 プールサイドで抱き合い薔薇の華を咲かせている姿を見せられた僕は…

 僕は…どうしたら良いんですか?

 例え男同士になったとしても、

 先輩への憧れと愛は貫くなのでしょうか、

 教えてください。

 華代さんっ」

と勇太は一人盛り上がり鼻息荒く迫ると、

「はっはぁ…

 なんて言ったらいいのか…

 そのまぁ…ご愁傷様としか…」

完全に勇太のペースに乗ってしまい、

華代はそう返事をするだけで精一杯の状況になってしまっていた。

すると、

「!!っ、

 そうだ」

勇太はあることに気がつくと、

「先輩が男になってしまったのなら、

 僕が…

 僕が女の子になればいいんだ」

と呟き、

スゴゴゴゴゴ…

「もぅ男なんかもう嫌だ!

 女の子になりたい!

 女の子の身体になって、

 女の子の水着を着て、

 男になってしまった鹿場先輩や蝶野先輩の恋人になるんだぁ!」

気迫を背負って勇太は叫びながら華代に迫ると、

「はっはぁ…」

迫る勇太の気迫に完全に押されてしまった華代はただ頷くだけだった。

しかし、

「なぁ、華代さん。

 僕が女の子になるとしたらどうしたらいい?

 性転換手術をしてくれる病院って知っているかい?」

と忙しく尋ねると、

「あっ!」

そのときになってようやく華代は我に返り、

「コホンっ」

徐に咳払いをすると、

「そういうご用命なら真城華代にお任せください」

と言いながら頭を下げながら大きく振りかぶる。

そして、

「では行きますよぉ、

 そう…れっ…」

と声を張り上げ一気に上げた腕を振り下ろそうとした。

だが、

ピタッ!

その手が途中で止まってしまうと、

「ついでですから、

 その二人の先輩も女の子に戻してあげましょう」

と勇太に向かって言い、

「はぁ?」

華代の言葉がわからない勇太は呆気に取られると、

「で、その先輩二人はまだ汗臭い薔薇の華を咲かせているの?

 華代ちゃんをそこまで案内して」

と華代は勇太に指示をする。

「はぁ…」

華代に指図されるまま勇太は水泳部の部室まで案内をすると、

「・・・・・」

「・・・・・」

部室の中から男と男が絡み合う声がもれてくる。

「まぁ、

 なんていうこと…」

聞き耳を立てながら華代は頬を赤らめ興味津々に集中すると、

「あのぅ…」

それを見た勇太が声をかけるが、

「しっ、静かに、

 これから良いところなんだから」

口先に人差し指を立て、

華代は勇太をにらみつける。

程なくして、

部室の中から男の喘ぐ声が響き始めると、

「うわぁぁ、

 生よ!

 ライブよ!

 ネットの隠しカメラとは違うのよ!

 凄い、凄すぎる!!」

華代は鼻息を荒く囁き、

「!!!」

ついに中がフィニッシュを迎えてしまうと、

「ぷはぁ!

 …はぁ、とっても良いものを聞かせてもらったわ、

 華代ちゃんとても満足!」

と満ち足りた表情をして見せる。

「華代さんって…

 ひょっとして腐女子って奴ですか?」

そんな華代を軽蔑の眼差しで見ながら勇太は尋ねると、

ムッ!

華代は不機嫌そうな表情を見せ、

「レディに向かっての言葉は気をつけるのよ」

と戒めたのち、

大きく手を掲げ、

「そうれっ!」

の掛け声と共に一気に手を振り下ろした。

すると、

ゴワッ!

たちまち猛烈な突風が辺りを吹きぬけ、

「うわぁぁぁぁ!!!」

勇太もその風に巻き込まれてしまうと、

部室の壁にたたきつけられてしまう。

そして、

シュゥゥゥゥ…

風が収まったときにはその場には華代の姿はどこにも無かったのであった。

「なっなんだ?

 いまの風は!」

風が収まるのと同時に部室から男子二人が

競泳パンツを引き上げながら飛び出してくると、

「あれ?

 君は?」

と倒れている勇太に気がつき抱き起こす。

「うっうーん…」

その手の中で勇太は目を覚ますと、

「あっ気がついた、

 大丈夫?」

と二人は尋ねると、

「うっうわぁぁ!!!」

二人の顔を見ながら勇太は悲鳴を上げるが、

しかし、その声は少女のような甲高い声になっていたのであった。

「あっあれ?

 声がおかしい…」

驚く二人を他所に勇太は自分の喉に手を当てながら困惑すると、

ムリムリムリ…

勇太の胸が突然膨らみ始め、

キュゥゥゥ…

ウェスト周りは逆に引き絞られていく、

そして、ヒップが張り出してくると、

ズルッ!

肩幅が変わったためか勇太が着ていたYシャツはずり落ち、

まるで女の子が無理な男装をしているような姿になっていった。

「これは…

 どういうこと?」

細くなっていく手を見ながら勇太は驚いていると、

「うわっ!」

「かっ身体が!!」

男性になっていたはずの鹿場と蝶野の声が響き、

プルンッ!

二人の胸には形の良い乳房が飛び出すと、

盛り上がっていた競泳パンツもその張りを失ってしまっていた。

「やだぁ、

 女の子にもどっちゃった!」

「えーっ、

 折角、男の子になれたのにぃ」

程なくして残念がる少女の声が響くと、

「うっうそぉ!!!!」

その少女達の前では白アシの競泳水着を着た少女に変身させられた勇太が

驚いた表情で座り込んでいたのであった。



はーぃ、華代でーす。

今回の依頼も実に簡単でした。

いやぁ、あんなところであんなライブが聴けるだなんて、

まさにセールスレディ冥利に尽きますね。

さて、雄太さん。

これからは先輩と一緒に女子水泳部の3人娘として頑張ってくださいな。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり