風祭文庫・華代ちゃんの館






「秘密の花園」


作・風祭玲

Vol.800





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



パコーン!

パコーン!

ラケットに弾かれた白球がネットの上を行きかい、

その白球に食いつくようにして二人のプレーヤーがラケットを振り合う。

だが、運命の気まぐれとも言えるようなこの均衡は長続きせず、

パシツ!

「あっ」

永沢勝行が伸ばしたラケットの先を白球が掠めていくと、

「きゃぁぁぁ!」

「篤農先輩ぃ!」

コートの周囲を埋め尽くしているテニスウェア姿の女子部員や

さらのその外側で成り行きを見守っていたギャラリーから一斉に歓声が沸き起った。

「うっしゃぁっ」

それらの歓声に押されるようにして篤農実はにこやかに手を上げ応えると、

コツン!

いきなり実の頭が小突かれ、

「おいっ、

 キャプテンを打ち負かしたからと言って、

 あまり調子に乗るんじゃないぞ」

と勝行が実の耳元で囁く。

「判っているって、勝ちゃん」

勝行の注意に対して実は意味深に返事をすると、

「その”勝ちゃん”て言うのをやめろ、

 ここはコートの中だぞ」

思いがけないその返事に勝行は少し慌てながら注意するが、

「これぁ!

 ゴリラ永沢ぁ!

 篤農君になにをするのよぉ!」

すかさず女子部員から怒鳴り声が響いた。

その途端っ

「うるせーぞ、

 無駄口叩いてないで、

 女子部員はさっさと練習をしろ!」

彼女達の声に怒った勝行が怒鳴り返すと、

「なんだってぇ!」

「ゴリラの分際であたしたちに命令をする気?」

と今度は女子側が食って掛かってきた。

「やる気かぁ!」

「なによぉ」

元々、イケメン系である篤農目当てにテニス部に入部してきた女子部員と、

一見してガテン系と言える男子キャプテンの勝利とは

価値観のギャップもあってか、

水と油、

コブラとマングースと揶揄されるほど互いに毛嫌い、

まさに一触即発の状態だった。

そして、いまもにらみ合いがピークに達しようとしたとき、

「まぁまぁ」

実が中に割って入ると、

「勝ちゃん、ケンカなんてはしたないよ

 部室に戻ろう…」

そう言いながら女子に向かって力む勝行を部室へと引っ張りはじめた。

「えぇ…

 行っちゃうのぉ?」

女子達からもれる残念そうな声をバックに実は勝行を部室の中へと押し込むと、

カチャン!

とドアにカギを掛けた。



二人だけとなったテニス部の部室の中で、

「邪魔者は排除したよ、勝ちゃん」

と実が囁くと、

「だから、その勝ちゃんはやめろって」

勝行はその風体に似合わない笑みを浮かべた。

そして、二人は手を差し伸べあうと、

互いに抱き合い、

顔をゆっくりと近づけていく、

そして、二つの唇が最接近したとき、

「外の連中は俺達がこんな関係だってことを知らないだろうなぁ」

と実が呟くと、

「ふっ、

 外の奴らのことなんてどうでもいいさ、

 俺が愛しているのは実、お前だけだよ」

勝行は囁いた。

「実…」

「勝…」

むせ返る汗の匂いに中、

二人は硬く抱きしめあい、

そして、その唇を重ね合わせようとしたとき、

「!」

「!」

すぐ真近から投げられる熱い視線に気付くと、

ピタッ

動きを止め、

「誰だ!」

「誰だ!」

と同時に叫び声をあげる。

すると、

「あぁんもぅっ、

 そこでとめてはダメですぅ」

と残念がる声とともに、

フリフリの白ワンピースに

髪を三つ編みにした10歳ぐらいの少女がひょっこりと顔を出した。

「なっ」

「おっ女の子?」

思いがけない少女の登場に勝行と実は唖然とすると、

「え?

 あっ、

 おっオホン!」

少女は顔を赤らめながら咳払いをし、

「はいっ」

と言いながら1枚の名刺のような紙を差し出した。

「なになに?

 ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

渡された名刺にはそのように書いてあり、

勝行と実が声をそろえてその文面を読み上げると、

「はい、そうですっ、

 ココロとカラダのカウンセラー 

 兼。

 心の奥に秘めた密かな願望をかなえて差し上げる

 夢の執行人の華代ちゃんですっ」

と少女・華代は胸を張った。

「で、そのカウンセラーが俺達に何の用で?」

華代に向かって二人は尋ねると、

「あの…みんなを騙して…

 っていうか、嘘をついて…

 若い男の人同士がこんな薄暗い部屋で一線を越えてまでして

 仲良くなることはいけないことだと思います。

 どうせ仲良くなるのなら、

 女の子同士の方がずっと絵になると思いますよぉ」

と華代が言うと、

「お二方っ

 この華代ちゃんが修正をしてあげますわぁ!」

と続けながらその両手を高々と掲げ、
 
「薔薇は百合になってこそ、

 見ごたえがありますわぁ

 そうれっ!」

と声を張り上げて手を降ろした。

すると、

ドワッ!

華代の手元から猛烈な風が沸き起こると、

たちまち部室の中をかき回し、

「うわぁぁぁ」

「なんだぁぁぁ!」

二人は抱き合ったままその風に吹き飛ばされてしまった。

さらに風は部室から飛び出していくと、

「きゃぁぁぁぁ!!!!」

「何かにつかまれ!

 突風だぁ!!」

外のコートで練習をしていたテニス部員達をも巻き込んでいったのであった。

程なくして突風が収まると、

「なんだ?」

「なんなんだ?」

半壊した部室から勝行と実は顔を出すが、

ムスッ!

ほぼ同時に二人の身体に異変が始まると、

二人の胸板が消え、

プルンッ!

それを置き換わるようにしてバストが突き出し、

キュッ!

ウェストは括れ、

ムチッ!

ヒップは色気を醸し出しながら大きく膨らんでいく。

さらに、

キュッ!

鍛えた肩は狭く、

手足は細く、

覆っていた体毛が消えていくと、

二人の股間から男のシンボルは消え、

何も無くなった股間に縦の溝が刻まれていく。

「うそぉ!」

「なんで?

 女になっていく…」

たわわに実った胸を押さえ、

大きなお尻を強調するように内股の腿をピタリと閉じながら、

勝行と実は互いの身体を指差すと、

シュワァァァ

二人が着ていた男子のユニフォームが身体にあわせるように萎縮していくと、

次第に胸と体の線を強調し、

花が開くようにスコートのパンチラが眩しい

女子用のワンピースタイプのユニフォームへと変わって行く。



パコーン!

パコーン!

外で響き当たるポールの音をバックで聞きながら、

「勝ちゃん」

「実ちゃん」

二人の少女は互いに細い手を相手にまわすと、

膨らんだ胸を合わせ、

ゆっくりと抱き合う。

そして、そんな二人の姿を部室の表では、

モッコリを股間を膨らました元・女子部員達が

部室の壁にピタリと身を寄せ、

鼻息を荒く見守っていると、

「なぁに、あれ?」

「まったく男ったらスケベなんだから」

そんな女子部員の姿を元・男子部員は軽蔑の眼差しで見ていたのであった。



はーぃ。

今回の依頼も実に簡単でした。

勝行さん、実さん。

仲良くするなら女の子の同士が一番ですよ、

ただ勢い余って、

女子部員にされてしまった男子の方々、

男子部員にされてしまった女子の方々には

心よりお詫びいたします。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり