風祭文庫・華代ちゃんの館






「充の変身」



作・風祭玲


Vol.650





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「離せよ!!」

放課後、

人気のない体育館に少年の声が上がる。

「離せよ」

「離せよ」

館内の天井に幾度も同じ台詞が響き渡り、

そして、その下では、

背中に陸上部と書かれたジャージを身につけた数人の少年達と

彼らに連れ込まれたであろう学生服姿の少年・松ヶ瀬充の姿があり、

充は激しく抵抗を繰り返していた。

「うるせーっ!」

「大人くしろ!」

充の抵抗に業を煮やしたのか、

ジャージ姿の少年・陸上部の上級生達が声を上げると、

そのうちの1人が腕を振り上げ、

ガッ!

抵抗する充の顔を殴る。

「何しやがる!!」

いきなり殴られたことに充が抗議するが、

「うるせー!」

「大体、生意気なんだよ!

 お前は!」

「そーだ、

 1年の癖に俺たちの記録に泥を塗りやがって!」

ジャージ姿の上級生達は代わる代わる因縁を付け始めた。

「えぇ!

 それは、先輩達の脚が遅いからでしょう!」

「なんだとぉ!」

「嘗めやがって」

「ヤキを入れてやる」

充が思わず言った指摘に上級生達が激怒すると、

ガシッ!

ゲシッ!

よってたかって充を足蹴にし始めた。

そして、足蹴にしながら、

「二度と陸上部の部室に入れないようにしてやる」

と1人が呟くと、

ニヤッ

ジャージ姿の少年達の顔に意味深な笑みが浮かび上がり、

程なくして暴行が収まると、

パサッ

暴行を堪えていた充の前に1着のある物が落とされた。

「な?」

それを見た充が驚くと、

「ふふっ

 コレがなんだか判るか?」

と上級生は充に尋ねる。

「これって…」

「くくくっ

 新体操部の顧問…

 キミも知っているだろう。

 あの婆さんがこぼしていたぜ、

 部員が少なくって団体競技には出られない。ってな。

 そこで、心優しい松ヶ瀬君は

 窮地に陥っている新体操部のために一肌脱ぎ、

 このレオタードを着てくれるんだよね」

と上級生は尋ねた。

「なに?」

その言葉に充が睨み付けると、

その直後、

「やっちまえ」

の上級生の声が響きわたると、

「やめろー!」

追って充の悲鳴が上がった。



ピチッ!

「あははは!!!

 見ろよこいつの格好!!」

「きゃははは!!!

 似合っている、
 
 似合っている」

程なくしてわき上がった上級生達の笑い声の中で、

「くっ」

新体操部のレオタード姿にされてしまった充は歯を食いしばっていた。

すると、1人の上級生が充の傍により、

「いいか、良く聞け、

 たったいまからお前は女だ。

 新体操部員だ。

 退部届は俺たちで出しておくから

 二度と陸上部には来るなよ」

充に向かってそう告げると、

上級生達は笑いながら去って行った。

「ちくしょう…」

上級生達が去った後、

充は自分のレオタード姿を見ながら

その悔しさをぶつけるように床を叩く。

「ちくしょう…」

「ちくしょう…」

上級生達のその仕打ちがよほど悔しいのか、

充は何度も同じ台詞を言い続けていると、

「お兄ちゃん!!」

彼のその耳元で突然少女の声が響いた。

「うわっ!」

突然響き渡った声に瑞樹は驚きながら跳ね上がると、

「そんなに驚かなくても…」

と小学生だろうが、

ワンピースにロングヘアの少女がキョトンとした顔で充を見ていた。

「あっああああ…」

突然現れた少女に充は慌てて膨らみを見せている股間を手で隠すと、

「クスッ」

少女は小さく笑い。

「ねぇ、お兄ちゃん、

 それ、女の人の格好だよね、
 
 なんで、そんな格好をしているの?」

と単刀直入、充が触れて欲しくないことを尋ねた。

「いっ!」

少女のその指摘に充は顔を真っ赤にすると、

「いっいいじゃないか、

 別に…
 
 僕がどんな格好をしようとも…」

と口を隠らせながら返事をする。

そして、

「そう言う君こそ、

 誰だ?
 
 なんで、小学生が体育館に入って居るんだ」

逆に少女に向かって聞き返した。

すると、

「はいっ

 これ」

少女の声と共に一枚の名刺が充の前に差し出された。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

手渡された名刺に書かれている文面を充が読み上げると、

「はいっ

 貴方の悩みをズバリ解決する、

 心のセールスレディこと華代ちゃんです。
 
 さぁ、お兄ちゃんの悩みを聞かせて」

と営業用スマイルを浮かばせながら華代は充に迫った。

「そんな…

 いきなり悩みだなんて」

華代の言葉に充は困惑すると、

「あら、無いんですかぁ?」

と華代もつられるように首を軽くひねる。

「うーん…

 とっちめたい先輩は居るけど、

 でも、悩みとなると…
 
 なぁ」

レオタード姿で居ることも忘れ、

充は考えるポーズをしながら返事をすると、

「ふむ…

 そうですか…

 折角のスペシャル・サービス・デーなのに、

 もったいないですね。

 うーん、

 じゃぁ、せめてものサービスといたしまして、

 お兄ちゃんのその姿を修正してあげます」

そう華代が言うなり、

「そうれっ!」

華代の声が体育館に鳴り響いた。



「なっ

 なっ
 
 なにこれぇぇぇぇ!!」

それから5分後…

体育館の中に甲高い悲鳴が響くと、

「うっうそっ

 ぼっ僕…
 
 おっ女の子になっちゃったぁ!!!」

ヘタッ

ムッチリと膨らんだ太股を体育館の床に着け、

そして、

ツンッ!

起立する乳首が影を作る胸を隠しながら、

充は呆然としながら座り込んでいた。

『はいっ、

 今日は華代ちゃんの出血大サービス!

 お兄ちゃんの因果律も変更しておいたので、

 お兄ちゃん…ううん、お姉ちゃんは立派な新体操選手ですよ。

 頑張ってねぇ!』

と華代の声が体育館に響き渡った。

「うそっ」

その声にシニョンのひっつめ頭を上げながら充が聞き返すと、

『華代ちゃんはウソつきません。

 その証拠にお姉ちゃんは美咲って名前になっています。

 確認してみるといいよ。

 では…』

「あぁちょっと、

 ちょっと、
 
 華代ちゃん!!
 
 華代ちゃんってば出てきてよ、
 
 ねぇ、何処に行ったの」

華代の姿を求めて、

充は体育館の中を探しまくるが、

しかし、華代の姿を二度と見つけることは出来なかった。



そして、華代の告げたとおり、

充はただ女の子になったと言うだけではなく、

社会的に美咲と言う少女になってしまっていたのであった。

「うそ…

 僕が…最初から女の子って事になっている。

 しかも、新体操を子供の頃からしていることに…」

新体操部の部活でレオタードを輝かせながら

充、いや美咲は手具を片手に華麗に舞い踊っていた。

しかし、

「おぉ、すげー」

「あれが、ジュニア大会で優勝した松ヶ瀬美咲かよ…」

充だった頃に無理矢理レオタードを着させて陸上部から追い出した、

あの上級生達も美咲の噂を聞きつけ体育館に姿を見せるようになると、

「あいつら…」

美咲の心に復讐心がわき起こり始め、

そして、

ひょんなことから学園一のマッドサイエンティスト・雪村春子との出会いによって、

美咲は上級生達への復讐へと大きく動き出すのであった。



それから二年後…

「イチィ!

 ニィ!

 イチィ!
 
 ニィ!」

無人のサッカーゴールが風に揺れる中、

体育館からは美咲の手によって新体操部員にさせられた

男子生徒達の声が響いていたのであった。



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

充君、あまり道を外さずに新体操頑張ってくださいね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

では