風祭文庫・華代ちゃんの館






「卒業式奇譚」
(嗣雄編)



作・風祭玲


Vol.591





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「ふぅ…

 うーん…」

桃の花がホロホロと舞い落ちる朝の公園に学生服姿の少年が一人、

ブランコに腰掛けじっと地面を見つめていた。

「うーん、

 やっぱり言えないよなぁ…」

キィ…

キィ…

腰掛けているブランコを微かに揺らせつつ、

少年は考え込んでいると、

「やっぱり…

 僕のような者がそう言うお願いをするのも…
 
 ちょっと変だよなぁ
 
 よしっ
 
 やっぱやめよう」

と結論づけ、立ち上がろうとしたとき、

「…お待ちなさーぃ!!!」

遙か彼方より少女の声が響き渡り、

ズドドドドド…

遠方より砂煙があがる様子が見えてくる。

「なっなんだ…?」

次第に近づいてくる砂煙の姿に少年は唖然としていると、

ズドドドドドド!!

「悩める人の希望と勇気、

 すべてを一つにするために、

 シャイニー華代ちゃん、ただ今参上!!(はぁはぁ)」

その声とともに

ズサァァァァァ!!

少年の前を疾風が駆け抜け、

やがて立ちこめた砂煙が晴れると、

ハートをあしらったフリヒラのピンクのワンピースに

爆発したような髪を左右に束ねた少女が砂煙の中から姿を見せた。

「なっなんだ」

あまりにも突拍子のない事に少年は唖然としていると、

「ハァハァハァ

 待って、ちょっとタンマね。

 立て続けの仕事はさすがのあたしもきっついわ」

と少女は少年に向かって言うと

腰のポシェットの中よりペットボトルを一本取りだし、

グビッ、グビッ、グビッ!

っとそれを飲み干した。

「ふぅ…」

一本飲み終えてようやく落ち着いたのか、

少女は息を整えると、

「んと」

ゴソゴソゴソ…

ハートマークをあしらったポシェットを漁り、

そして、

「あったあった」

言いながら一枚の名刺を取り出すと、

「はいっ

 これ」

と言って差し出した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

手渡された名刺の文面を嗣雄は読み上げると、

「はいっ

 今日はさらにパワーアップしたシャイニー華代ちゃんで対応いたします。

 よろしくね』

ニコリと笑いながら返事をし、

「で、お兄ちゃんの困っている事ってなぁに?」

と尋ねた。

「え?」

「隠してもダメよ、

 このシャイニー華代にはちゃぁぁんと判って居るんだから、

 お兄ちゃんの心の苦しみが」

「べっ別に…困ってなんか居ないよ」

「あら、素直じゃないのね

 いいわ、当ててあげようか」

「え?」

「うふっ

 そうねぇ…

 大好きな先輩が今日卒業するんだけど、

 でも、その第二釦をください。

 って言えないとか…」

頬に人差し指を当てながら華代はそう指摘すると、

「(ギクッ!)

 なっなんで、判ったの!!」

自分の心の中をずばり指摘されてしまった嗣雄は思わず声を上げる。

「え?

(当てズッポだったんだけど)」

驚く嗣雄の姿に華代は冷や汗を掻きながら呟くと、

「え?、

 いま何か言った?」

と嗣雄は聞き返す。

「いえ、

 べっ別に…」

その言葉に華代はそう答えると、

嗣雄の表情が急に真面目になると、

「うん…

 そうなんだ…

 ずっと、憧れていた先輩が居てね…
 
 その先輩が今日卒業するんだよ、
 
 で、せめて第2ボタンでも貰えたらなぁ…
 
 なぁんて思ったりしていたんだけど、
 
 可笑しいよね、

 男の僕がそんなお願いをするだなんて…」

と自分の気持ちを華代に伝える。

すると、

「いいえっ」

華代はその考えを否定すると、

「どんなに困難なことでも諦めてはダメです。

 きっと、その先輩もあなたからの申し出を待っていると思いますよ、

 さぁ、このシャイニー華代ちゃんが、
 
 あなたに勇気を希望を与えてあげます!!」

華代はそう言うなり、

あのハーティエルバトンを取り出すと、

「光の意志よ、わたしに勇気を希望と力を…」

と叫びながら、そのバトンを振り回すと、

「ルミナス・ハーティエルアクション」

とかけ声が響き渡った。

すると、

ズドォォン!!

華代のバトンが描いたハートの形をした突風が吹き抜け、

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

瞬く間に嗣雄の姿がその中にかき消えてしまうと、

「あぁぁぁ…

 かっ身体がぁぁぁ」

嗣雄は突風の中で変身してゆく、

小さく膨らんだ胸、

細い腕、

絞り込まれたウェスト、

見た者を虜にしてしまう乙女の瞳と、

小さな口…

「あっあぁぁ」

嗣雄のシルエットは徐々に小さく

そして、細くなって行くと、

ブワッ!!

風が吹き止み再び姿を見せたときには、

助詞の制服に身を包んだちょっと内気そうな少女が立っていた。

「えぇ?

 なっなにこれぇ!!」

お尻を覆うだけの短いスカートを摘みながら

嗣雄は少女の声を上げると、

「うふっ

 勇気を持てるようにちょっとだけ環境を変えてみました。
 
 たった今からアナタは女の子よ、
 
 これなら堂々と先輩の第2ボタンを貰えますよ」

と華代は言い、

そして、

「じゃぁ頑張ってくださいね」

そう言い残して去っていってしまった。

「え?

 ちょちょっと、
 
 そんな…
 
 なんで、僕が女の子に…」

華代が去った後、

嗣雄は

ペタン!

とその場に座り込んでしまうと一人呆然としていたのであった。



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

嗣雄君、

その姿なら先輩もから第2ボタンを頂けると思いますよ

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

では