風祭文庫・華代ちゃんの館






「卒業式奇譚」
(健吾編)



作・風祭玲


Vol.590





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「はぁはぁ…

 はぁはぁ…」

卒業式シーズンまっただ中の通学路を

さかんに周囲を気にしながらひた走りに走る男子生徒の姿があった。

ピッ!

『こちら、フィールド1。

 ターゲットはポイントN2を通過』

『了解っ

 ターゲットを牽制しつつ移動されたし』

『了解っ』

ピッ

『こちらフィールド3、

 ターゲットを確認。
 
 監視を行います』

『お嬢様、

 ただ今、本部に到着。

 お召し替えをなさっております』

『了解!』

男子生徒がある地点を通過するたびにその方々より怪しげな無線交信が行われ、

その発信源は徐々にある一つのポイントへと収束してゆく。

そして、そのポイントのグラウンドゼロ。

『平成16年度・卒業式』の看板がかかるとある学園の校門横では、

「おっおいっ

 またか」

「卒業式にするかぁ…?」

幾重にも設けられたバリケードと、

その周囲を固める物々しい装甲車の車列に、

卒業生はもとより、

在校生達も目を見張りながら学園内の敷地に踏み入れた途端、

ピピーッ!!!

「はい、卒業生は右に

 在校生は左に」

「よしっ

 通れっ」

校門奥に設けられた検問所によって、

全員、厳重なチェックを受けさせられていたのであった。

一方、

「こっ校長…」

「やれやれですな…

 まっでも、

 この光景も今日で見納めだと思うと

 なんか寂しいものを感じますな」

「そっそうですか?

 私はやっとこの騒ぎが終わると思いますと、

 嬉しさでいっぱいですが…」

目の前で繰り広げられる物々しい警備の様子を

この学園の校長と教頭がやや他人事のように眺めながら、

他人事のような会話をしているが、

この騒ぎの元凶である人物はと言うと、

「村内っ!」

ただでさえ緊張している学園内の緊張をさらに高める声が鳴り響く、

「村内っ

 村内はいずこ?」

村内という名前の人物を探しているのか、

さらに2・3度、同じ名前を呼びつけると、

「はっ、

 お嬢様っ」

その返事と共に黒い疾風が駆け抜け、

シュタッ!!!

純白のウェディングドレスに身を包んだ少女の前に

執事の衣装をビシっと決めた初老の男性が跪いた。

「村内っ

 どこに行っていたのです?」

「ははっ

 申し訳ありません。

 十津川健吾さまの現在位置を確かめに行っていたのです」

少女の叱責の声にそう男性は返すと、

「あぁ、そうでしたの」

少女は大きな振りをしながら驚いて見せ、

そして、

「で、

 十津川健吾様はいまいずこに?」

と蟹江響子は笑みを浮かべながら尋ねると、

「はっ、

 現在、十津川様は南南西の方角、

 距離10000ほどの地点を進路をランダムに変え、
 
 こちらに進行中とのことです」

蟹江家執事長の村内は報告をする。

「そうですか、

 よろしい」

その報告に響子は満足そうに頷くと、

「うふふっ

 私の追っ手を上手くまいているようですが、

 しかし、あなたは所詮孫悟空…

 この私の手の平の上で踊っているだけにすぎませんのよ」

と呟く。

「まったく、その通りです。

 十津川様も大人しく己の運命を受け入れて、

 お嬢様の婿になればよいものを」

響子の言葉を受けて村内も追随して申しあげると、

「村内っ

 口が過ぎますよ、

 私の夫となる人への無礼な言動は、

 誰であっても許しませんよ」

と響子は口元を純白の手袋が覆う手で隠しながら警告をした。

「はっ(ビシ)

 申し訳ありません」

響子の警告に村内は直立不動になって詫びると、

「さて、そろそろでしょうか、

 ふふっ

 健吾さまっ

 今日、この晴れやかな良き日こそ、

 私たち二人の新たな旅立ちにまさに相応しいですわ、

 さぁ、

 おいでください。

 健吾様と私のバージンロードの準備は整っておりますわ

 おーほほほほほ!!!」

ゴワァァァァ!!!!

学園の上空を警戒飛行する蟹江家空軍機の轟音をバックにして

響子は気高く笑い声を上げた。



時を同じくして…

「ふぅ、すっかり春ねぇ…」

公園の木々よりホロホロと散っていく桃の花びらを眺めながら

春の訪れを白いワンピースにお下げ髪の少女・華代は感じ入っていると、

『華代ちゃーん』

と彼女の名前を呼ぶ声が響き渡った。

「あっ、

 黒蛇堂っ
 
 こっちこっち」

その声に華代は振り返ると、

吸い込まれそうな黒く長い髪を揺らせ、

髪の色と同じ黒い衣装を身に纏った少女が走ってくる様子が見え、

その彼女に自分の居場所を知らせるかのように、

華代は大きく手を振り回す。

『ふぅ…』

「あらら、携帯を鳴らしてくれたら私から出向いたのに」

息を切らせ到着した黒蛇堂に向かって華代はそう言うと、

『そう言うわけにはいきませんですわ、

 はい、これ』

そんな華代に黒蛇堂は手にしていた包みを差し出しす。

「え?

 あっ」

差し出された包みを見て華代は一瞬、キョトンとするが、

しかし、すぐに中に入っているものの察しがつくと、

「うん、ありがとう!」

と礼を言い、笑みを浮かべる。

『ところで、それでいいの?

 華代ちゃんなら”白”だと思ったんだけど…』

「うん、

 キャラ的にあたしが”白”だとちょっとヘンだから、

 これでいいよ」

「そう…

 ところで、これ、結構注文があるみたいで、

 なかなか手に入らなかったけど、

 人気があるみたいね』

包みの中身について黒蛇堂はそう言うと、

「まぁねっ」

ガサゴソ…

華代は袋を開け、

「じゃーん」

と言いながらそれを取り出したとき、

ピピッ!

華代の2本のお下げ髪が何かを感じ取るのと同時に、

クイッ

と真上に向かって伸び、アンテナの様に立ち上がった。

『かっ華代ちゃん?』

「むむっ

 感じます。

 助けを求める少年の魂の叫びが、

 感じます。

 悲鳴を上げる少年の心の痛みが…」

この街のどこからか送られてくるSOSの発信場所を華代は感じ取ると、

「方位っ!
 
 南
 
 南
 
 東の方角!
 
 距離2580!!」

と叫び声を上げ、

シャキーン!!

黒蛇堂から手渡されたもの…

ハーティエルバトンを颯爽と掲げると、

「ルミナスっ!

 シャイニーストリィィームッ!!」

と声を上げた。

その直後、

ズドォォォォン!!!

桃の花が舞い散る公園に光の柱が立ち、

そして、それが消え去ると、

ボーン!!

爆発したような髪を左右に束ね、

ピンク色を基調にハートマークをあしらったフリフリの衣装を身につけた出で立ちで

姿を見せると、

「輝く生命、シャイニー華代ちゃん!!!

 悩める人の希望と勇気を一つにするために、

 さぁ、あなたの悩みを聞かせてください!!

 このシャイニー華代ちゃんがその悩みを見事解決してあげますわ」

との声を残して颯爽と走り去っていった。



『はぁ…

 あれ、

 どこかの水神様が作ったアイテムをベースに

 天界の女神が作ったものだそうだけど…

 人気があるのも判る気がします…

 でも、華代ちゃんなら…

 黒い方をしていただけると思っていたのに…』

変身した華代が去った後、

ポツンと一人取り残された黒蛇堂はそう呟くと、

青いコミューンを手に取ると、

ビシッ!

公園の一点を指さし、

『とっととおうちに帰りなさい」

と声を上げてみせた。



『なにぃ!

 十津川様を見失っただとぉ!!』

『もっ申し訳ありません!!!』

『えぇいっ

 聞く耳持たん!!

 お嬢様になんと報告をすればいいのだ!

 早急に探し出せ!!』

「うーっ

 困ったなぁ…
 
 これじゃぁ…
 
 学校には入れないなぁ」

校門の前で執事と兵士のとのやりとりを影で聞きながら、

今日、晴れて卒業式を迎える十津川健吾は困惑していた。

「まったく、

 蟹江さんも困ったものだよなぁ…

 落ちたハンカチを拾ってあげただけなのに、

 いきなり僕を運命の人だとか、

 婿になって貰います。

 だなんて言い出して…

 僕はそんなつもりで拾ったわけではないのに」

戒厳令下の校門を見ながら健吾は愚痴をこぼしていると、

チョイ

チョイ

そんな健吾の背中を何者かがつっつきはじめた。

ビクッ!

「だっ誰だ!!」

その感触に健吾は飛び上がりながら小声で怒鳴ると、

「え?

 うわっ!」

自分の真後ろにいる人物の姿に今度は腰を抜かしかけた。

すると、

「むっ

 何者だ!!」

その物音に気づいた警備兵がすかさず声を上げると、

「ヤバ!!」

健吾は慌てて自分の後ろに立つ人物を抱きかかえるように逃走し、

そのまま、近所の小さな公園へと連れ込むと、

「しぃぃぃぃぃ!!!!」

と口に人差し指を立てる。

ところが、

「あらあら、

 いいのですか?

 あなたは今日の主役じゃないのですか?」

フリヒラのピンクの衣装を身にまとった少女はそう指摘をすると、

「ところで、君は誰?」

と健吾は名前を尋ねる。

すると

「あっ申し遅れました」

健吾の声に少女は慌ててハート型のポシェットより一枚の名刺を取り出すと、

「わたくし、こういう者です」

と言いながら手渡した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

手渡された名刺の文面を健吾は読み上げると、

「はいっ

 今日はさらにパワーアップしたシャイニー華代ちゃんで対応いたします。

 よろしくね』

と返事をしながらニコリと笑う。

「とは言っても悩みと言ってもねぇ…」

華代の申し出に健吾は難しい顔をすると、

「だーから、もぅ、悩むことはないのよ、

 このシャイニー華代ちゃんに出来ないことはないのだから」

と叫ぶのと同時にハーティエルバトンを取り出し、

「光の意志よ、わたしに勇気を希望と力を…」

と叫びながら、そのバトンを振り回すと、

「ルミナス・ハーティエルアクション」

とかけ声が響き渡った。

すると、

ドォォン!!

そのバトンが描いたハートの形をした突風が吹き抜け、

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その風に巻き込まれてしまった健吾の身体がみるみる変化しはじめる。

平らだった胸がみるみる膨らみ、

腕が細く変わり、

ウェストが引き締まり、

そして、ヒップが張り出すと、

バサッ!!

手入れの行き届いた髪が肩を隠す。

そして、さらに着ていた学生服がセーラー服へと替わってしまうと、

「え?

 なっなにこれぇぇ!!!」

そこには鈴の音のような声を上げて戸惑う一人の女子生徒の姿があった。

「うんっ、

 よしっ

 バッチ、オッケーね」

文字通り女子生徒と化してしまった健吾の姿に華代は満足そうに頷くと、

「では、グットラック!!

 健闘を祈ります!!」

と言うなりその肩を押すが、

その直後、

ピコーン!!

「むむむむっ

 新しいクライアントを察知!!

 じゃっ、

 私は次の仕事がありますので」

次なるターゲットをゲットした華代はそう言い終わるのと同時に、

ズドドドドドドド!!!

一目散に走り去ってしまった。

「あっシャイニー華代ちゃん!!!」

瞬く間に姿を消してしまった華代を追いかけて、

健吾が校門前まで飛び出すと、

「おいっ

 そこの!!」

その健吾の姿に気づいた兵士が呼び止めた。

「え?

 あっ…」

その声に健吾が萎縮してしまうが、

「むっ?

 よしっ

 いいぞっ」

兵士は健吾を一目見た後、バリケードの門を開ける。

「え?

 いっいいの?」

予想外の兵士の行動に健吾は驚くと、

「女は通ってよしっ」

兵士はそれ以上の言葉は言わなかった。

「はっはぁ…」

その言葉に乗せられて健吾は学園内に入り込めたが、

しかし、校門を通過した後に、

「はっ

 元に戻るにはどうすれば…」

その時になって健吾は今後のことに気がつき、

そして、

「ちょちょっと、シャイニー華代ちゃん!!

 どうすれば元の姿に…
 
 男にもどるの?!」

と声を張り上げていた。



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

健吾君、

これからは健吾ちゃんとして立派な女性になってくださいね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

って、次のクライアントはすぐ近くなのよね、

いったい誰なんだろう?

では