風祭文庫・華代ちゃんの館






「イブの夜」



作・風祭玲


Vol.555





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



ジングルベル

ジングルベル…

クリスマスイブの街に響き渡るクリスマスソングを聴きながら

「けっ

 ぬわにがっ
 
 クリスマスだっ」

俺は一人文句を言いながら歩いていた。

「ったく…」

最初のうちはそれなりに威勢良く文句を言っていたものの、

しかし、その口数も徐々に少なくなってくると、

「はぁ…

 また今年も一人っきりのクリスマスかぁ
 
 あーぁ
 
 せめて、これくらいの彼女がいればなぁ…」

ふと本心を呟きながら、

俺はCDショップに掛かるアイドルのポスターを眺めていた。



女の子と最後にクリスマスを過ごしたのは高校生の頃、

それからすでに10年近くが過ぎたいまでも

未だに俺は一人ぼっちのさびしいクリスマスを送っている。

「ふっ…

 かなわぬ夢か…」

そんな事を言いながらCDショップから出た途端、

「おにーちゃんっ」

いきなり声を掛けられた。

「おっおにーちゃん?」

少女を思わせるその声に俺は驚きながら振り返ると、

「えへっ」

ちょうど俺の斜め後ろ、

歳は10歳くらい、

白いワンピースにフードつきのジャンパーを羽織った少女が俺を見ていた。

「なっ何か用?」

最近、変質者の少女連れ去り事件が続発しているだけに、

俺はやや困惑しながら理由を尋ねると、

「えへっ」

少女は俺に向かって軽く会釈すると、

「ハイこれ!」

そう言いながら肩から下げているポシェットより一枚の名刺を取り出し、

俺に向かって差し出す。

「なになに?

 『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』」

俺は手渡された名刺の文面を読み上げると、

「はいっ!

 なんでも相談。
 
 なんでも解決のスーパーレディ華代ちゃんとは私のことよ」

華代と名乗る少女はニッコリと微笑みながら返事をし、

「さて、お兄ちゃん、

 お兄ちゃんの悩み聞かせて、
 
 うふっ
 
 隠しても無駄、
 
 お兄ちゃんのその姿を見ればなにかを悩んでいる事くらい
 
 一発で判るわ」

と自信たっぷりに方目を瞑って見せた。

「なっ悩みって言われてもなぁ」

華代にズバリ言われて俺は困惑すると、

「ねっねっねっ

 こっそり、華代にだけ教えて、
 
 大丈夫、
 
 誰にも言いふらしたりしないから、
 
 それに、華代はこれまでにも大勢の人の悩みを解決してきたのよ、
 
 大船に乗った。と思って相談してよ」

と胸を叩いて見せるが、

しかし、それで俺の不安を解消させるにはどう見ても説得力が無かった。

そして、

「はぁ…

 こんな女の子にそこまで言われるだなんて…

 俺もそーとー落ちぶれたなぁ…」

と俺はガックリと肩を落とし、

「いーよっ

 まっもっと大きくなって、
 
 きれいなお姉さんでも紹介できるようになったら、
 
 また声を掛けてくれ、
 
 と言っても、そのときには俺もおっさんになっているけどな」

と言いながら華代の前を立ち去ろうとした。

すると、

「ふむ、判りました。

 それがお兄ちゃんの悩みなわけですね、
 
 ふふっ
 
 よござんすっ
 
 お前さんのその悩み、
 
 見事に解決してみせやしょう」

華代はそういうや否や、

スーと両手を挙げた。

「なっなにを始める気だ?」

華代の行動に俺は驚いていると、

「あっそうだっ」

急に何かを思いついたのか、

華代は挙げた手を下げ俺に話しかけてきた。

「なっなに?」

「お兄ちゃん…

 ケータイ持っているでしょう?」
 
「まっまぁ…」

「うん、だったら、

 ケータイを出して」

「え?」

「いーから、ケータイを出して」

華代は俺に向かってしきりにケータイを出すように言うと、

「はっはぁ」

俺は言われた通りにポケットよりケータイを取り出す。

すると、

「うんっ

 じゃぁねっ
 
 そのケータイを開いて、
 
 ”装着変身”って言ってくれない?」

ケータイを出した俺に向かって華代はそう指示をすると、

「はぁ?」

華代の指示に俺は思わず聞き返した。

「いーからっ

 華代の言うとおりにして!」

困惑する俺に向かって華代は命令をすると、

「はいはい」

仕方なく俺はケータイを開くと、

「装着変身!」

とケータイに向かって言った。

その途端。

「そぉぉぉぉぉぉぉれっ!!!」

華代のかけ声と共に挙げた両手を仰ぐように一気に下げると、

ドンッ!!

その手の動きに誘発されたかのように、

突風が俺に向かって吹いてきた。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

まるで台風に巻き込まれたかのような強風に俺は身をかがめると、

「おーほほほほほほ!!!」

風と共に華代の笑い声が響き渡る。

そして、

フッ!!

ピタッ!!

あれほど吹き荒れた風がいきなり止むと、

「あっあれ?」

さっきの突風がまるでうそだったかのようにその痕跡すら消えうせていた。

「なんだったんだ?

 あの風は?」

最初っから風など吹いていなかったかのような周囲の雰囲気に俺は臆しながら、

一歩を踏み出そうとすると、

グッグググググ!!!

いきなり俺の身体を変化が襲った。

「なっなんだこれぇ」

見る見る細くなっていく手、

白く敏感になっていく肌、

内股になっていく足、

伸びてくる髪、

次々と思いかかる変化に俺はただ驚いていると、

ズッズズズズズズズ…

着ていた服が見る見るだぶ付き、

小さくなっていく手が袖の中に入ってしまった。

「ちょちょっと

 待て!!」

袖口を垂らしながら俺は困惑していると、

シュルリ…

今度はその服が変化をし始め、

ズボンはスカートに、

シャツは可愛く、

そして、髪がきれいにまとめられると、

「いっ」

CDショップのガラス窓には

清純そうな女の子が驚いた顔で見つめている様子が写っていた。

「うっなっなんだ…

 これ…
 
 おっ俺、
 
 まさか、女の子に?」

小さく膨らんだ胸を感じながら俺は困惑していると、

「ねーねー彼女っ

 どうしたの?」

「せっかくのクリスマスイブなのに一人?」

たちまち男達が声をかけてくる。

「え?

 あっいえっ
 
 !!っ」

その声に俺は返事をしようとするが、

しかし、自分の口から出てきた声に慌てて口をつぐむと、

「おーっ

 いいねぇ、その仕草っ」

「なぁ俺達これからパーティするんだけどこない?」

男達はそう言いながら俺の手を掴むと、

「あっいやっ」

俺は拒もうとするものの、

しかし、その力は思ったように出す事は出来ず、

「あれれ

 口ではイヤだって言うワリには

 そんなに嫌がってないじゃん。
 
 ってことは、

 オッケーってことかな?」

「じゃぁ決まりだな」

「あっちょちょっと」

男達の強引なペースに飲まれてしまった俺は、

まるで最初から用意されていたかのようにクルマに乗せられ、

そのままイブの街より連れ出されてしまった。

「なっなんで…どーなっているの?」

クルマの中でただ一人困惑している俺を置いて…



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

きっと、今夜のイブはあなたにとって忘れられない夜になりますね。

あっ、パーティについては華代からのプレゼント。

存分に楽しんでくださいね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

では