風祭文庫・華代ちゃんの館






「信也の望み」



作・風祭玲


Vol.550





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



チュンチュン

チチチ…

とある神社の境内。

朝霧が立ち込める境内に突如、

ズゥゥゥゥゥン!!!

唸るような地響きが響き渡り、

バサバサバサ!!!

それに驚いた鳥達が止まっていた木より一斉に飛び上がっていく、

そして、逃げられるものが逃げ去った後、

社殿の前、ちょうど賽銭箱から5mのところで

バリババリ!!!

放電現象が発生すると、

放電は空中のある一点に向けて吸い込まれ始める。

そして、放電が一際大きくなったとき、

バリバリバリ!!

ビシーッ!!

塊となった放電の中心部より一人の女の子が姿を見せると

ワンピースのスカートを大きく膨らませながら、

スタッ!!

静かに着地した。

サーッ

女の子の着地と同時に境内は元の静けさを取り戻し、

そして、

「うんんんん…」

着地した女の子は両手をグーンと上に上げて、

深呼吸をしながら大きく背伸びし

「パァァァ…」

その肺の中に溜め込んだ空気を一気に吐き出しながら、

両手を下ろすと、

「はぁ…

 朝の空気って清清しくっていいわぁ…」

ワンピースのスカートを翻しながら

「さ・て・と

 今日のクライアントはどこかなぁ…」

と気分を入れ替えながらポシェットの中より取り出した手帳を広げ、

「ふむ、

 今日のお相手は○○市にお住まいの荒巻信也君ね」

今日のターゲットを設定する。

そして、

「うふっ

 待っててくださーぃ!

 本日、華代ちゃんがあなたの元へ伺いますから、

 それまでの辛抱ですよ、おほほほほほほ」

と高らかに声を響き渡らせながら、

日の光を受け朝霧が雲散霧消していくのに合わせて華代の姿は境内から消えた。



その日の夕刻。

パパパー

ゴワァァァ…

交通量の多い通りに面したフィットネスクラブ。

そのロビーに荒巻信也は座り込んでいた。

「はぁ…」

すでに1時間近く彼はロビーに座り込み、

幾度もため息をつく。

そして、

「よっよしっ」

何回かに一回の割合でため息ではなく気合を入れて腰を上げかけるものの

しかし、

「はぁ…

 やっぱりダメだぁ…」

まるで込められた空気が抜けていくかのように、

再び座ってしまう。

「ねぇねぇ…

 あの人、ずいぶん前から座っているみたいだけど…」

「ダメダメ

 関っちゃぁ、

 あぁいう人に声をかけると後が大変よ」

信也を遠巻きに見るスタッフの女性たちはそう言い合うと、

足早に通り過ぎて行き、

悩む信也に話しかけるものは皆無であった。

「はぁ…」

「うぅーん」

「はぁ…」

「うぅーん」

信也の悩みはなかなか解決する事はなく、

そのたびに腰を上げては降ろすを繰り返していた。

そんなとき、

「おにーちゃんっ!」

突然、信也の脇で少女の声が響くと、

「うわっ!」

いきなり響いた声に信也は飛び上がる。

「おっ女の子?」

目が合い、

ニコっと笑みを浮かべる少女の瞳を見ながら信也はそう呟くと、

「随分と探したわよ

 はいっ

 コレ!!」

少女は元気よく挨拶をした後、

1枚の名刺を信也に差し出した。

「ん?

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

手渡された名刺の文面を信也は読み上げると、

「はいっ!

 なんでも相談。
 
 なんでも解決のスーパーレディ華代ちゃんとは私のことよ」

少女・華代はニッコリと微笑みながら返事をした。

そして、

「さて、お兄ちゃん、

 お兄ちゃんの悩み聞かせて、
 
 うふっ
 
 隠しても無駄、
 
 お兄ちゃんのその姿を見れば悩んでいる事くらい
 
 一発で判るわ」

華代は信也が抱えている悩みを単刀直入に訊ねた。

「え?

 あっ
 
 あぁ…
 
 僕の悩み?」

「うん、

 そうよ
 
 聞かせて聞かせて」

驚く信也に迫りながら華代は訊ねると、

「恥ずかしいよ」

頬を赤らめながら信也はそう言い返す。

「もぅ、

 大人なんだから恥ずかしがらないのっ
 
 幾つになったのよ」

「え?

 にっ24才だけど…」
 
華代の言葉に押されて信也は思わず自分の年齢を華代に言うと、

「なんだ、

 そんな歳なのっ
 
 もぅ、だったら恥ずかしがらないのっ
 
 さっお兄ちゃんの悩み、
 
 華代に教えなさい」

「あっもぅ仕方がないなぁ

 誰にも言わないでね、

 実は…」

強気の華代に向かって信也は事情を説明しはじめだした。



「ふむふむ、

 要するにこの上にあるフィットネスクラブのインストラクターである美穂さんと
 
 一緒にレッスンを受けたいというのね」

信也の事情を聞いた華代はそう悩み事をまとめると、

「うんっ

 まぁ、そうかな…」

と信也は頭を掻きながら頷く。

「そんなの簡単じゃないっ

 素直に入門すればいいんじゃないの?
 
 ほらっ、あそこに受付があるでしょう?」

そんな信也に向かってそう華代は結論付けると、

「それが出来れば誰も苦労しないよ」

華代の言葉を信也は強く否定した。

「え?」

「ん?」

響き渡る信也の言葉にロビーに居た人が一斉に振り返ると、

「あっいえっ

 どっどうもすみません」

衆人の注目を浴びてしまった事に信也は身体を小さくし、

ペコペコ

と謝ると、

「もぅ!!

 こっち!!」

信也は華代の手を引くと、

「あっちょっと」

困惑する信也と共に一気に階段を駆け上がり始めた。

「かっ華代ちゃん、

 どこに行くの?」

「もぅ、

 じれったいんだから」

ドタドタドタ!!!

二人が一気に階段を駆け上がっていくと、

程なくしてレッスン室の前に出てしまった。

「あっ

 しまった。

 つっつい…

 どっどうしよう…」

勢いでここまで来てしまった事に信也は動揺をすると、

「はいっ

 いくわよっ」

そんな信也に構わずに、

スーッ

華代は両手を上に上げ、

「そーれっ!!」

の掛け声と共に一気に両手を振り下ろした。

すると、

ブワッ!!

信也に向かって一陣の風が吹きつけ、

「うわっ」

風は一つにまとまると信也を直撃する。

ゴワァァァァ!!!

長いような、一瞬だったような、

そんな時間が過ぎ、

ピタッ!

吹き抜けていた風が収まると、

「あっあれ?」

あたりは何事もなく静まり返り、

レッスン室からは、

『ワンツー

 ワンツー』

と軽快な音楽と共に女性の声が響いていた。

「なに?

 いまの?」

まるでさっきの突風が嘘だったかのような雰囲気に信也は呆然としたが、

しかし、

メリッ!!

そんな信也を”変化”が襲った。

「え?

 え?」

ムリッ!

ムチムチムチ!!!

信也の平たい胸がいきなり膨らみ始めると、

瞬く間に胸に果実の谷間を作り、

シャツを下より押し上げ、

その一方で、

キュゥゥゥゥっ!!

ウェストは細くなっていく。

また、ヒップがその反対に膨らみ始めると、

ググ…

ググ…

広い肩幅は狭くなり、

なで肩へと姿を変えていく。

そして、身長が小さくなっていくと、

「うっうわっ

 なっなにこれぇ!!」

体型の変化に着ていたシャツはズレ、

また、ズボンもダブダブになってしまった。

「いっ一体…

 何が…」

女性のように細く小さくなっていく手を見ながら信也は驚いていると、

その声も次第にトーンが高くなり、

女性の声へと変化していく。

「まっまさか…

 女の人になって…
 
 いる?」

伸び始めた髪を幾度も払いながら、

信也は軽くなってしまった股間をまさぐると、

自分の身体が急速に女性化していることを実感していた。

そして、

身体の変化が一旦止まると、

ムクムクムク…

女性化した身体に筋肉が張り出し、

鍛え上げられた健康美を作り出す。

こうして、一連の変化が終わると、

今度は衣服が変化しはじめた。

シュワァァァ…

男のもののシャツは裾が縮んでいくと、

ブラ状に変形し、

たわわに実る信也のバストをぴっちりと引き締める。

また、ズボンはパンツ状に変化すると股間を覆い、

一方、下着は裾を延ばすとタイツへと変化した。

そして、

シュルリ…

伸びた髪がポニーテールに纏め上げられると、

パシッ!!

露になった額にバンダナが巻かれる。

「こっこれって…」

すべてが終わったとき、

そこには原色のセパレートレオタードを身に着けた女性が一人立っていて、

まさにフィットネスのインストラクターと言う趣になっていた。

「うそぉ、

 こっこれが僕ぅ…?」

ガラス窓に映る自分の姿に信也は驚いていると、

「あらっ

 見かけない顔だけど
 
 新人?」

と同じレオタード姿の美穂が信也に声をかけてきた。

「え?

 あっみっ美穂さん
 
 いやっ

 あの…」

思いがけない美穂からの言葉に信也は顔を真っ赤にすると、

「あはは、

 そんなに緊張する事はないのよ、

 あたし、美穂。
 
 よろしくね」

と美穂は持ち前の明るさを振りまきながら信也に手を差し伸べた。

「え?

 あっはぁ…
 
 こっこちらこそ…」

美穂の言葉につられて信也も握手すると、

「さぁて、

 行きましょう」

美穂は信也の手を引きレッスン室へと入っていった。



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

信也君、美穂さんと一緒にレッスンできるようになってよかったね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

では