風祭文庫・華代ちゃんの館






「潜入」



作・風祭玲


Vol.500





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「はぁ…

 困ったなぁ…」

街に春の風が吹きはじめたある日の午後…

とある女子高の周囲をブツブツと呟きながら歩く少年の姿があった。

少年の名前は信田修、

この近くにある高校に通う1年生である。

「う〜ん、

 あんな事いわれても…

 第一どうやって…」

制服姿の修は考え込みながら1時間以上ぐるぐると回り続けていた。

その場所とは…

お洒落なフェンス越しに黄色い歓声が響き渡るM女子学園であった。

「う〜ん」

歩きながら考え込む修の脳裏にある言葉が響き渡る。

「いーこと?

 君がしたことを帳消しにしたければ

 M女子学園・新体操部の部活の様子をこのビデオカメラに撮ってくるのよ」

と言う声と共に迫る新体操部のキャプテンの顔が映し出された。

ブルッ

アップで迫るその顔に修は反射的に身震いをすると、

「はぁ…

 あんなことをしなければ良かった…」

と後悔の言葉を吐いた。



元々内気だった修は”度胸試し”と周囲のそそのかされ、

新体操部の部室よりキャプテンである松ヶ瀬美咲のレオタードを盗んでくるように強要された。

そして、イヤイヤながら新体操部室に忍び込んだものの、

しかし、その現場を新体操部員達に発見されると、

美咲の下に突き出されたのであった。

「ふぅぅん」

突き出された修を見下したように美咲は一目見た後、

「ねぇ、

 あたしのお願いを聞いてくれたら許してあげるわ」

と言うと、

1台のビデオカメラを修に手渡し、

「このカメラでM女子学園新体操部の練習風景を撮ってきて欲しいの…

 あたし達の部室に忍び込んだ君なら造作のないことでしょう?」

と嫌味半分に命令をした。

「え?」

美咲のその言葉に修は驚くと、

「それが出来なければ、

 そうねぇ

 レオタードを着てみんなの前で新体操の演技をしてもらうのはどうかしら…

 無論、みんなって言うのは全校生徒なんだけど」

と修に恐怖の提案をした。

「ひっ!」

美咲のその提案に修は身を縮めると、

「ふふ…

 二つに一つ…

 さぁ好きな方を選びなさい」

と言うと美咲は修に決断を迫る。



「はぁ…」

コレまでの顛末を思い起こした修は大きくため息を吐くと再び歩き出す。

すると、

ピピッ!!

「はーぃ、

 新体操部集合!!」

すぐ脇に迫ってきた体育館内より声が響くと、

タタタタ!!!

その声に反応するかのように足音が響き渡る。

「あぁ…

 練習が始まっているんだ…」

音がした方向を振り返りながら修はそう呟くと、

…時間はないよ…

という焦りが修の心を締め上げ始めた。

そのとき、

「ねぇきみきみ」

という声と共に巡回中の警察官が修を呼び止めた。

「え?」

警察官の言葉に修は驚くと、

「カメラを片手に不審人物が徘徊しているって通報があったけど

 君か?」

と警察官は鋭い視線で修を見る。

「え?

 いっいやっ」

警察官のその言葉に修は慌てて手にしているカメラを隠すと、

「ちょっと、話を聞かせてもらえるかな」

と警察官は修に職務質問を始め出した。

「あっ

 いやっ

 あのぅそのぅ」

警察官の質問に修は冷や汗を流しながらシドロモドロになってくる。

すると、

「お兄ちゃん!!

 そんなところで何をしているの?」

突然、少女の声が響くき渡ると、

「もぅ、

 お姉ちゃんがまっているよ」

と文句を言いながら白いワンピースを着た少女が修の手を掴むなり、

グイグイと引っ張り始めた。

「あっ

 きっきみっ」

その様子に慌てて警察官は少女を呼び止めようとするが、

しかし、

「おまわりさん、

 お兄ちゃんが迷惑をかけてごめんなさい。

 ちょっと急いでいるので」

と言うなり

「こっちに来てよ」

と言いながら修を連れ去っていった。



「あっあのぅ…」

突然現れた少女に修は手を引かれながら声をかけるが、

少女は何も答えずに修の手を引く、

そして、M女子学園の通用門より敷地の中へと入っていくと、

そのまま体育館側の渡り廊下のところまで来てしまった。

「え?

 え?
 
 やっやばいよぉ」

人影はないもののM女子学園の敷地内、

しかも新体操部の練習の音が聞こえてくる場所にまで来てしまったことに修は顔を青くするが、

しかし、

「ふぅ

 もぅ大丈夫よ」

少女は落ち着いた表情で周囲に人影がないことを確認すると、

モゾモゾと肩から提げているポシェットを探り、

そして、

「はい、これ…」

と言いながら修に名刺を手渡した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

手渡された名刺の文面を修は読み上げると、

「はいっ!」

少女・華代はニッコリと微笑んだ。

「なっ悩みって」

華代の笑顔を見ながら修は聞き返すと、

「はーぃ

 お兄ちゃんいっぱい悩みを抱えているでしょう、

 だ・か・ら、

 華代がお兄ちゃんのその悩みを解決してあげるわ」

と華代は修に言う。

「でっでも…

 体の悩みだなんて…

 そんなの…」

華代の言葉に修はそう返事をすると、

「ふふーんっ

 隠していてもダメよ、

 お兄ちゃんの顔には”悩みアリ”ってしっかり書いてあるわよ」

と華代は人差し指を左右に振りながら告げた。

「え?

 そっそう?」

華代の指摘に修は慌てて両手で頬を押さえると、

「ふふっ

 いーから、いーから

 華代にお兄ちゃんお悩みを聞かせてよ」

と華代は修に迫る。

積極的な華代の表情を見ているウチに修は

「うっうん…

 実は…」

と悩みを話し始めた。

そして、全てを話し終えたとき、

「なぁんだ、そんなこと

 簡単じゃない!」

とジッと話を聞いていた華代は声を上げた。

「え?

 かっ簡単なの?」

華代の言葉に修は驚くと、

ニパッ!

華代は明るい笑顔を見せ、

「うん

 簡単だよ」

と返事をする。

「でっでもどうやって…」

「ふふ…」

驚く修に華代は意味深な笑みを浮かべ返ながら

「この場所に来たのは正解だったわね、

 さぁて、じゃぁ今回は念入りにじっくりと攻めてみようかしら

 修さんでしたっけ?

 覚悟はいーぃ?」

と尋ねながら華代はワンピースの両袖を捲り上げると

スゥー

そのまま両手を下げ、

そしてゆっくりと上げていく。

「え?

 え?

 えぇ?

 かっ華代ちゃん…

 いっ一体何を…」

これから何かをするような華代の素振りに修は引き下がりながら声を上げる。

しかし、

「大丈夫よ、

 痛くしないから…」

不安がる修に華代はそう言って聞かせると、

「そぉれっ!!」

っと掛け声を張り上げ一気に両腕を振り下ろした。

すると、

ドンッ!!

突然沸き起こった突風が一気に修へと襲い掛かり、

「うっわぁぁぁぁl!!」

修は腕を上げて顔を庇うと突風に耐えるように背を屈めた。

ビュォォォッ!!

うふふふふふ…

風の音にまぎれて妖精を思わせる華代の笑い声が響き渡ったのち

ピタッ!!

あれだけ吹き荒れていた風がピタリと止んだ。

「あっあれ?」

何事もなかったかのように静まり返る風景に修は呆気に取られるが、

しかし、その直後に始まった変化に修は悲鳴をあげた。



ムリッ!!

ムリムリムリ!!!

「うっわぁぁぁぁ!!」

突如、修の胸が膨らみ始め、

それに気づいた修は腰を抜かすが、

しかし、彼の変化はそれだけで終わることなく、

シュルルルル…

見る見る修の身体が一回り小さくなってしまうと、

キュッ!!

ムチッ!!

修のウェストが括れ、

ヒップが張り出しはじめる。

「わっわわわわわ

 なっなんだよ、

 こっこれは!!」

すっかりダブダブになってしまった制服を確かめるようにして修は手を上げるが、

しかし、その声は男性というより、女性に近い声へと変わり、

また、刈り上げていた髪が伸びると修の肩に軽く掛かりはじめていた。

「どっどうなって…いっいるんだ?」

男のシンボルが消えてしまった股間を押さえながら修は困惑をしていると、

シュルリ……

今度は修が着ていた服が変化し始めた。

「うわっ!!」

ジワッ

次第に締め付け始めてきた服の感覚に修は驚くが、

しかし、服の変化は修の想像を超えて進み、

「わっわっわっ」

シュルシュルシュル…

ピチッ!!

修が着ていた制服は瞬く間にレオタードへと変化してしまうと、

膨らんだ胸と露になっている色白の太ももを際立たせる。

「なっなんで」

伸びた髪がシニョンに結い上げられ、

そして、

パサッ

っとM女子学園の校章が入った白いジャージの上着が着せられると、

そこには一人の新体操部員がぺったりと膝をつけて座り込んでいた。

「ぼっ僕…

 女の子に…

 なっちゃった…」

身体に張り付くように締め付けてくるレオタードの感触を感じながら修はそう呟いていると、

「あれ?

 あなた」

そばを通りかかった同じジャージ姿の女子生徒が修に声をかけた。

「え?

 ぼっ僕?」

その声に修は慌てて腰を上げて返事をすると、

「新体操部の子でしょう、

 そんなところで何をしているの

 ほらっ

 練習はもぅ始まっているのよ、

 さっさとしなさい」

と言うなり修の手を引くと、

「え?

 いやっ

 あのぅ」

困惑する修を無視して練習が行われている体育館へと引っ張っていった。

そしてその頃、

「ふふふ…

 さぁて、

 あいつちゃんと撮ってこなかったらお仕置きだからね」

その頃、修を送り出した新体操部・キャプテンの美咲はそう笑みを浮かべながら、

練習そっちのけで修の帰りを待っていたのであった。



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

修君、悩んでいるより”なったほう”が早いって、

ふふっ立派な新体操選手として頑張ってくださいね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

では