風祭文庫・華代ちゃんの館






「当たりクジ」



作・風祭玲


Vol.495





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



ホーケキョ!

ウグイスの鳴き声が響き渡る午後の小道を学校帰りの二人の男女が並んで歩いていく、

ホーホーホー…ケキョ

「う〜ん、どこに居るのかなぁ…」

藪の中から響き渡るその声に

ブレザー姿の大場亜紀が腰をかがめ藪を覗き込みながら声の元を探りはじめだすと、

「おいおい

 どうでもいいじゃないかよ

 放って置け」

そんな亜紀の姿を横目で見ながら学生服姿の田沼健太が注意をした。

「ちょっと、静かにして」

健太の声に亜紀は自分の口に人差し指を当てる仕草をすると、

「はぁ?」

亜紀の仕草に健太は首をかしげる。

すると、

「いるのよっ

 ほらっ

 そこに…」

と何かを見つけたのか亜紀は藪の中を指差す。

「なに?

 居るのか?」

「そうよっ

 だから静かにして」

この藪の奥に声の主・ウグイスが居ることを亜紀は指摘すると、

再び藪の中を見入る。

ところが、

「ふぁ

 ふぁ」

亜紀の隣に立つ健太はクシャミをもよおし始め、

そして、

「ふぇっくしょいっ」

と大声を張り上げてクシャミをしてしまうと、

バタバタバタ!!

その声に驚いたのか藪の中より1羽の鳥が飛び出し、

空高く消えていった。

「あーぁ」

姿を消していく鳥の姿を見ながら健太はそんな声を上げると、

ジロッ

ウグイスを逃してしまった亜紀は健太を睨みつけた。

「え?

 あっ

 いやっ

 まぁ、なんだ

 そっそういえば今日ってひな祭りだよなぁ…」

亜紀の無言の抗議を逸らすかのように健太はそう言うと、

「で、それがなぁに?」

未だに怒りが収まらない亜紀は腕を組みながら返事をする。

「ん?

 いやぁ、実はウチって男ばかりの兄弟だろう?

 でな、

 俺が生まれる前、親父とお袋は今度こそ女の子だと意気込んでいたんだって」

「ふぅぅん、

 で、生まれたのがハズレクジの健太というわけか、

 道理でねぇ…」

健太のセリフを亜紀は逆手にとってそう言うと、

「だっ誰がハズレクジだ!!」

亜紀の言葉に健太は食って掛かった。

しかし、

「やーぃ、ハズレクジぃ」

食って掛かる健太に亜紀はさらにからかいだすと、

「お前なぁ」

最初は亜紀のからかいを容赦していた健太だったが次第に怒り始め、

そして、なおもからかう亜紀に殴りかかろうとしたそのとき、

「お兄ちゃぁぁん!」

彼のすぐ後ろで女の子の声が響き渡った。

「なっ!?」

出鼻をくじかれた格好になってしまった健太が振り返ると、

ニコッ

彼の後ろに春物のワンピースに大きなカバンを重たそうに下げた小学生くらいの少女が立っていた。

「なっ何かな?」

さっきまでこのような少女が居なかったはずなのに…

そう思いながら健太が少女に話しかけると、

「はいっ

 これ」

その言葉に返事するかのように

少女はワンピースのポケットより名刺のようなモノを取り出すと健太に手渡した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

その名刺を健太と亜紀が声を上げて読み上げると、

「はいっ

 悩み解決の仕事人・華代ちゃんです」

その声を受けて少女・華代は笑顔で返事をした。



「悩み解決って言ってもなぁ」

華代の自己紹介に健太はそう言いながら亜紀を見ると、

「何を言っているの、

 悩みならいっぱいあるでしょう」

と亜紀はそっけなく突き放した。

「えぇ?

 いっぱいって、俺そんなに無いよ」

「あらそうぉ?

 少なくても、その頭の中をナントカして貰いたい。

 って思わない?」

「なんだとぉ?」

亜紀の言葉に健太が怒鳴ると、

「お兄ちゃん、

 お兄ちゃん、

 大丈夫、華代はみぃんなっ判っているから」

と割って入るように華代は健太に言う。

「え?

 みんな判っている。って

 俺の悩みをか?」

華代の言葉に健太は改めて聞き返すと、

「うん」

華代は元気に返事をした。

そして、

「お兄ちゃん、”当たりくじ”になりたいんでしょう?

 うん、華代には判るわぁ…その悩み…

 お兄ちゃんの深刻なその悩み、

 この華代が見事に解消してあげます。

 華代の手に掛かればお兄ちゃんはたちまち当たりくじ・勝ち組よ

 では行きますよぉ!!!

 そぅれっ!!」

一方的に華代はそう言うと、続けて掛け声を上げた。

その途端、

ドンッ!!

突然沸き起こった突風が健太を襲い、

「うわぁぁぁぁ!!」

吹き荒れる突風に健太は吹き飛ばされかけてしまった。

しかし、

ホーホケキョ…

「え?

 あれ?」

ウグイスの声に健太が我に返ると、

いつの間にか風はやみ、

また、目の前に居たはずの華代の姿は消えていた。

「なんだ?

 どぅなったんだ?」

訳がわからず健太がキョロキョロしていると、

ムズッ!!

悪寒にも痺れにも似た感覚が健太の背筋を駆け抜けていった。

「え?」

その言いようも無い感覚に健太は驚くが、

しかし、それ以上のインパクトを持って変身が彼に襲い掛かった。

シャー…

水面に広がる波紋の如く、

脚の皮膚の表面を撫でるかのようにピリッとした感覚が走り抜けていくと、

グッグググググ…

見る見る彼の脚が内股へと変わりはじめ、

ムリムリムリ!!

追ってヒップが膨らみ始めた。

「え?

 なに?

 なんだ?」

内股になり、そしてヒップが膨らみ始めた下半身に健太は驚くと、

間髪もおかずに彼のウェストもキュッと引き締まっていく。

「うわぁぁぁぁ!!

 なんだこれは!!」

細くなっていく手、

小さくなって行く体、

そして、膨らみ始めた胸と

シンボルが消えていく股間…

健太を襲った変身は彼の姿をある者の姿へと変えていった。

「うわぁぁぁ!!

 なっなっなんだよ」

すっかりダブダブになってしまった学生服を引きずりながら健太が尻餅を付くと、

ファサッ

そんな彼の肩に長く伸びた髪が覆いかぶさるようにして掛かった。

「え?

 え?

 ちょちょっとぉ」

彼の口から出る声が一瞬、濁ると

すぐに鈴の音のような音色の声へと変わっていく、

そして、その後、

ジワジワジワ…

健太が着ていた学生服が変化し始めた。

ズボンはプリーツのチェック柄の膝上スカートへと変わり、

靴下はソックスとなって脚を飾る。

そして、シャツはブラウスへと変化し、

上着は濃紺のブレザーへと変わっていった。

最後に

シュルリッ

キュッ!!

膨らみを見せる胸元にアクセントのリボンが付くと

そこには亜紀と同じ服装をした一人の少女が座り込んでいた。

「え?

 え?

 えぇぇ?」

すっかり変わってしまった自分の姿を健太はマジマジと見ていると、

「そっそんなぁ

 健太が…おっ女の子になっちゃった」

亜紀はまるで信じられないものを見ているかのような声を上げるなか、

「ぬわんじゃぁ!!!

 これはぁぁぁ!!!」

健太の怒鳴り声が響いていった。



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

健太君、ご両親が望んでいた身体になれてよかったですね。

さっこれからすばらしい女の子ライフを送ってくださいね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

それではまた会う日まで…

では