風祭文庫・華代ちゃんの館






「訪問者」



作・風祭玲


Vol.485





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



キィ…

軋むような音を上げて重厚なドアがゆっくりと開き、

間髪入れずに

「ごめんくださいーぃ」

と少女の声が古風な博物館か倉庫を思わせる店内に響き渡った。

「ん?

 客?

 黒蛇堂が出かけている間は結界が張ってあって客は入ってこないんだけどなぁ…

 あっさっき、慌てて飛び出していったから、

 結界を張るのを忘れていったなぁ…

 まったく」

店の奥で留守を守っていた男は文句を言いながら読んでいた新聞を折りたたむと

「はーぃ、いらっしゃーぃ」

しわがれ掛けた声を張り上げて店に出た。

すると、

「こんにちわ、

 黒蛇堂さん居ます?」

間髪入れずに窓から入る日の光を背にした小学生くらいの少女が奥から出て来た男に向かって尋ねた。

「ん?

 あぁ

 なぁんだ、華代さんか

 久しぶりだねぇ」

トレードマークとなっている白いワンピースに三つ編みの髪を見た男はそう華代に挨拶をすると、

「あれ?

 いないの?」

華代は店の奥を覗き込みながら男に尋ねた。

「あぁ…黒蛇堂なら、

 さっき慌てて出て行きましたよ、

 なんでも、この間客に渡した品物でトラブルがあったとか」

華代の言葉に男はそう返事をすると、

『…で、注目のエドちゃんですが、

 先ほど入った情報によりますと、

 ヒメちゃんを追いかけてあちらの方向へと泳いで行ったそうです。

 では、スタジオに一旦お返しします』

『はいっ

 そうですねぇ

 もしも、このままエドちゃんとヒメちゃんが仲良くなって

 赤ちゃんが出来れば良いことですが』

『えぇ、

 でも、こればっかりはヒメちゃん次第ですから、

 なんとも言えませんですねぇ』

と店の奥で点けられていたTVよりワイドショウの声が聞こえてくる。

「あら、

 TVなんて見てていいんですか?」

TVが点いている事をすかさず華代が指摘すると、

「あぁ、

 構わない構わない。

 コレくらいの息抜きは労働者として当然の権利だよ」

と男は胸を張って答えた。

「へぇぇ、おじさんが労働者ねぇ」

そんな男の姿を華代がニヤケながら横目で見ると
 
「なっなんだよぉ」

ビクッ

男は一瞬怯えたように身体を縮こまられながら反論した。

しかし、華代は

「ううん、

 別にぃ」

と話をそらし、

「そっか、黒蛇堂さん居ないのか」

と呟く、

「すぐに戻ってくると思うよ、

 それまで待っていれば」

そんな華代の様子に男はお茶を入れながらそう言うと、

「うん、

 そうしたいのは山々なんだけどね、

 3時にクライアントが中央公園に居る事になっているのよ」

と華代はポケットから懐中時計を取り出し時間を確かめた。

「3時かぁ…

 ちょっと微妙なところかなぁ」

華代の返事に男も時計を眺めながらそう言うと、

「どうしようなかぁ」

と華代は思案顔になる。

「なに?

 黒蛇堂にどうしても合わなければならないのか?」

「うん、

 さっき、天界にちょっと寄ったら銀髪の女神から

 コレ、預かってきたのよ」

男の言葉に華代はそう言うと、

ガサッ

天界の女神より託されたという包みを男に見せた。

「あぁ?

 銀髪の女神から?

 どうせ、いつもの如くホレ薬か何かだろう?

 要するにそれをウチに置いて売ってくれというのか?」

包みを眺めながら男はそう断定すると、

「まぁね、

 黒蛇堂さんって売り上げNo1だから…」

「おぃおぃ、

 それは買いかぶりだって、

 うちは、ホレ、

 店主があんな感じだから、もぅ利益が少なくて…

 もちょっとねぇ…腰を落ち着けて商売ができればねぇ」

と華代のホメ言葉に男はぼやく。

「そっか、

 女神様からは黒蛇堂に手渡して。としか言われなかったから、

 とりあえずおじさんに渡しておくね」

少し考えをめぐらせた後、華代はそう判断をして、

持って居た包みを男に手渡した。

「うん、

 判った、じゃぁこれは黒蛇堂にちゃんと渡しておくよ、

 それよりも天界はどうだった?」

包みを受け取りながら男は華代に天界の様子を尋ねると、

「どうって?」

「だって、去年、大騒ぎしたばかりだったろう?」

「あぁ、世界がぶつかった騒ぎのこと?」

「そうそう、

 私のところもあの時は商売上がったりでね」

「うん、あたしも3日間身動き取れなかったけど、

 その辺については体制を変えたので大丈夫って黒髪の女神が言っていたわ」

「そうか、

 でも、あの女神が言うことってどこまであてになるか」

「あっ非道いことを…

 言いつけちゃおうかなぁ」

男の言葉に華代はそんなことを言うと、

「あっこらっ!

 ダメそんなことを言っては」

男は慌てて両手を左右に振って静止させた。

そのとき、

ギィ…

黒蛇堂の扉が開くと、

「あっあのぅ…」

と言う言葉と共に一人の男の子が店に入ってきた。

詰め入りの学生服に黒いカバンを持つ彼はちょうど思春期の入り口に立っているように見える。

「いらっしゃませぇ」

男の子の姿を見た途端、華代は声を張り上げると、

「あっコラ!」

それを見た男はすかさず華代に注意をした。

「なによっ

 お客さんじゃない、

 商売しなくっちゃダメでしょう」

男の声に華代は言い返すと、

「いやっ、

 黒蛇堂が居ない時はマズイんだよ」

冷や汗をかきながら男は華代にそう説明をした。

「もぅ、

 気にしない。

 気にしない」

そんな男の言葉に華代はそう言い返し、

そして、男の子の方をみるなり、

「はいっ

 バレンタインのチョコから、

 鳥インフルエンザの特効薬、

 さらには、贈答用のヒツジに

 使用済み燃料棒までなんでも揃っている黒蛇堂へようこそ」

と華代は男の子に口上を言う。

「おっおいっ

 インフルエンザの薬ならあるけど、

 使用済み燃料棒は…置いてないぞ」

その口上を聞きながら男は突っ込みを入れる。

すると、

「あっあのぅ」

華代の迫力に圧倒されていた少年が口を開き、

「その…

 バレンタインのチョコなんですが…」

と華代に尋ねた。

「はいっ、

 白・黒・抹茶・小豆・コーヒー・柚子・サクラと取り揃えております」

彼の問いに華代はすかさず返事をする。

「はっはぁ…

 で、あのぅ…」

「あっはいっ

 星型・ハート型・女の子の秘密のところの形…

 形も色々ありますよ。で、お客様のご希望は?」

「いやっ

 形はその…いいんです。

 ただ、あの人のハートを射止められれば…」

少年は言葉に詰まりながらそう言うと、

キラッ☆

華代の目が一瞬、輝き、

「ははーん、

 チョコで想いの君のハートを打ち抜こうって魂胆ね」

と指摘した。

「うっ」

華代の指摘に少年は言葉を詰まらせると、

「あれ?

 でも、君は男の子だよねぇ…

 バレンタインデーにチョコを送るのは女の子のはずよ」

と指摘すると、

「そっそうなんだけど、

 でも…」

少年は口先をにごらせた。

「ふぅぅん、

 ねぇ、チョコを送る相手って、男の人?

 それとも女の人?」

そんな少年を見据えながら華代はそう尋ねると、

「え?

 ぶっ部のバスケ部の先輩なんです。

 でも、僕…先輩の事が気になって…」

華代の尋問に少年はついに真実を暴露してしまった。

「ふむっ

 それなら、チョコも良いけど、

 その前に君の身体も何とかしないとね」

それを聞いた華代は両手を高く掲げながら少年に言った。



「ちょちょっとぉ!!

 華代さんぁん、

 困りますぅ!!

 店内で力を使われては!!」

華代の姿に男は慌てて怒鳴るが、

しかし、とき遅く、

「じゃぁ行きますよぉ

 そぉれっ!!」

華代の掛け声が黒蛇堂に響き渡った。



ドンッ!!

ゴォォォォォ!!!

「うわぁぁぁ」

「ヤメテぇ」

「おーほほほほ」

掛け声と共に吹き付ける突風に少年と男の悲鳴が上がり、

そして、その中で少年の胸に2つの膨らみが盛り上がっていくと、

刈り上げた髪が伸びていく、

そして、彼が着ていた学生服は胸のリボンが可愛らしく飾るブレザーへと姿を変え、

また、括れたウェストからヒップには膝上のプリーツ・スカートが覆い、

スネ毛が消え、曲線美を描く足には黒い薄手のタイツが張り付く。

ヒュォォォ…

思い返せば一瞬のことだったが、

しかし、少年にとっては長い時間が過ぎ去ったとき、

さっきまで少年がいたところには胸のリボンまぶしい制服姿の少女が

膝を付け合せてペタンと座り込んでいた。

「うんっ

 それならバッチグーよ、

 さぁ、その姿で先輩に告白していらっしゃい、

 どんな男でも二つ返事で愛してくれるわ」

と華代は言うと彼いや彼女の手を取りゆっくりと立ち上げる。

「あっあのぅ」

「ううん、

 いいのよ、

 お代なんて、

 だって、あたしはあなたがが満足頂ければ、それが何よりの報酬なのよ」

華代は少女にウィンクをして見せながらそう告げると、

「さぁ、

 当たって砕けろ、

 ぐっどらっく!!」

と叫びながら黒蛇堂のドアを開け、少女を表に出した。



「まったく…

 商売の邪魔をしやがって」

元・少年を返した華代に男は文句を言いながら風で飛んでしまった商品を片付けていると、

「うーん、

 良いことをした後は気分が良いわ」

華代は大きく背伸びをした後、チラリと時計を見た。

その瞬間、

「あっ!!」

大声を上げると、

「いっけなーぃ、

 3時過ぎているじゃないの!!」

と叫びなり、

「おじさぁーん、

 黒蛇堂さんによろしく言って置いてねぇ」

と言う声を残して華代は慌てふためきながら荷物を抱えながら飛び出していった。

「はいはい」

その声を背中で聞きながら男は返事して、片づけを続ける。

そして、ようやく片づけが終わったとき、

キィ…

店のドアがゆっくりと開き、

黒装束姿の女性が静かに店内に入ってきた。

「あっお帰りなさいませ、黒蛇堂さま」

少女のその姿を見た途端、男はそう返事をすると、

店の奥へと戻っていった。



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

名前を聞かなかったけど君、先輩へのアタックの結果、華代に教えてね。

それと、黒蛇堂さん、今日は行き違いで会えなかったけど、

今度ゆっくりとお茶しましょう。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

また会う日まで…

では