風祭文庫・華代ちゃんの館






「恋の悩み」



作・風祭玲


Vol.444





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



タタン

タタン

「はぁ…」

秋の夕日が照らし出すプラットホームに置かれているベンチに腰掛け

学生服姿の少年がなにやら思いつめた様子で目の前の線路を走り去っていく電車を眺めていた。

「はぁ…」

ココに腰掛けてすでに100回目となるため息が彼の口から漏れると、

「…まもなく下り線に電車が参ります。

  危ないですから黄色い線の内側にお下がりください」
 
とホームに電車の接近を知らせる案内放送が響き渡った。

すると、

フラリ

彼は立ち上がると、

ヨロヨロ

とプラットホームの上を線路の方向へと向かい始めた。

プワァァァン!!

程なくして線路の遥か向側より駅へ接近してくる電車のライトが光る。

しかし、立ち上がった彼は徐々に強さを増してくるライトを惹かれるように眺めていると、

一歩前へ足を踏み出した。

そのとき、

「いーけーまーせーん!!」

突然少女の叫び声が響き渡ると、

「はぁ?」

彼・剣四郎はゆっくりと振り返った。

すると、

ズドドドドドド!!

頭の帽子を押させながら

ベージュ色を基調としたワンピースのスカートを翻し、

小学生ぐらいの女の子が剣四郎めがけて突進してきていた。

「え?」

一直線に向かってくる少女の姿に剣四郎は唖然として見ていると、

「えぇいっ!」

ドォォォォォン!!

「うわわっ」

全身の力を込めて体当たりしてきた彼女に突き飛ばされ、

その弾みで剣四郎はプラットホームの端へと押し出された。

と同時に

プワァァァァァァンン!!

煌々とライトを輝かせ

プラットホームに進入してきた電車のタイフォンが激しく響き渡ると、

「うわぁぁぁぁ!!」

剣四郎は悲鳴を上げるや否や、

這いずるようにして引き下る。

と同時に

ウォォン

タタン

タタンタタン

タタンタタン…

腰を抜かした剣四郎の目の前を轟音とともに銀色の車体が通り過ぎて行った。

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

去っていく電車のテールランプを見送りながら、

剣四郎は胸を押さえて呼吸を整えていると、

「もぅ駄目ですよ!!

 飛び込んだりしては!
 
 お勤め帰りのおじさんたちや、
 
 学校帰りの学生さんたちに迷惑が掛かるでしょう」

と剣四郎を突き飛ばした少女が長い髪をたらしながら注意をはじめだした。

すると、

「だっ誰が

 飛び込み自殺をするか!!」

注意をする少女に向かって

剣四郎は自分の胸の中に溜まっていた言葉を思いっきり怒鳴ると、

「え?

 自殺するのではなかったのですか?」

少女はちょっと驚いた表情で返事をする。

「あっ当たり前だろう!!

 もぅ、
 
 ちょっと悩んでいただけでいちいち飛び込んでいたら
 
 体が幾つあっても足りないだろうが!!
 
 まったく、
 
 最近は悩むことも出来ないのかよ」

と剣四郎がいまの自分の気持ちを呟くと、

キラーン!!

いきなり少女の目が強く輝き、

「あのぅ…

 お兄さんって、何か悩みを持っているのですか?」

と尋ねてきた。

「あぁ

 あるよ、いっぱいにな、
 
 これでも悩みの多き高校生なんだからな」

少女の問いに剣四郎はそう返事をして立ち上がると、

パンパン

っとズボンを叩く、

すると、

「ねぇ

 その悩み、聞かせてくれない?」

と言う言葉と共に剣四郎の目の前に一枚の名刺が差し出された。

「あぁ?」

差し出された名刺を訝しげに眺めながら剣四郎はそれを受け取り、

そして

『心と体の悩み解決します。

 真城華代…』

と名刺に書かれてている文句を読み上げると、

「はいっ

 その通り、
 
 悩みの多い男の子の味方、
 
 華代ちゃんとは私のことでーす!!」

華代と名乗った少女はそう高らかに宣言をすると胸を張った。

しかし、

「へー…

 悩み多い男の子の味方が、
 
 その男の子を突き飛ばして轢殺しようとしたんかい」

華代の言葉に剣四郎は白けた目で華代を見下ろした。

「もぅ細かいことを気にしてぇ

 そんなことじゃぁ女の子にもてないよ
 
 いいこと?
 
 女の子にもてるその第一条件は、
 
 過去のことをいちいち蒸し返さないこと。
 
 判った?」

さっきの華代の行為を指摘する剣四郎に華代はそう言い張ると、

「おーぃ

 俺はお前に殺されかけたんだぞぉ」

と剣四郎の低い声が響き渡った。



「で、お兄ちゃんの悩みってなぁに?」

「俺の抗議に全然詫びてないな」

「華代は忙しいのっ」

「なら、俺に構わなくても良いじゃないか」

「悩んでいる男の子を放っておいて次の仕事にはかかれないわ」

「あぁそうかよ」

タタンタタン

タタンタタン

走り去っていく電車を見送りながら、

再びベンチに腰掛けた剣四郎と彼の隣に座った華代との会話が続く、

すると、

キャッ

キャッ

反対側のホームに赤いスカーフをなびかせながら、

セーラー服姿の女子高校生がはしゃぎながら姿を見せると、

「はぁ…」

彼女達を眺めながら剣四郎は大きくため息をついた。

「ふぅぅぅん

 あれは、赤薔薇女学園の方達ですね」

脚をぶらぶらさせながら女子高校生を見た華代は彼女達の学校名を言い当てた。

すると、

「ドキッ」

剣四郎はオーバー気味に驚くと、

「あらっ

 赤薔薇女学園になにかあるわけですか?」

それを見逃さずに華代は質問をする。

「うっ」

華代の指摘に剣四郎は冷や汗をかくと、

「!!」

何かに気づいた華代は

「ははん…

 謎は解けましたわ、
 
 あなた、
 
 赤薔薇女学園の女の子になりたいのでしょう」

ビシッ

剣四郎を指差しながら言い切った。

「はぁ?」

華代の思いがけないその言葉に剣四郎の顔から一気に表情が消えていく、

しかし、

「わかるわぁ

 古典的なセーラー服の基本を押さえておきながらも
 
 しかし、随所に漸進的なデザインを施している。
 
 女の子はもちろん、
 
 男の子の憧れでもあるのよねぇ」
 
赤薔薇女学園の少女たちを見ながら華代はウットリとしながらそう言うと、

「あっあのなぁ…

 あいにく俺には女装趣味はないんだ、
 
 なんで、俺がセーラー服を着なくてはならないんだよっ」

華代の耳元で剣四郎が怒鳴った。

「あらそうなの?」

「おいっ!!

 いいか
 
 俺の悩みはセーラー服ではなくて、
 
 あの赤薔薇女学院に通っている竜崎百合華と言う女の子なんだよ」

「まぁ」

「ったくぅ

 さっき、思い切って告白したのに
 
 お友達でいましょうね。
 
 なんて返事されて

 それで落ち込んでいたのっ
 
 そしたらお前が突き飛ばしたんじゃないかよ」

場の勢いなのか、

華代に誘導された結果なのか、

剣四郎は機関銃の様にこれまでの事情を言うと、

「ふむふむ」

華代は幾度も頷きながら手帳に克明に記していった。

そして、華代の手の動きが止まり、

パタンと手帳を閉じると、

「なるほど

 わっっかりました
 
 まさに華代ちゃんの得意分野ですね」

自信に満ちた表情で華代は立ち上がり、

「あなたは、

 その百合華さんとお友達で終わって良いのですか?」

ビシッ

と指差しながら尋ねた。

「はぁ?

 それはまぁ…」

華代の勢いに押されて剣四郎はしどろもどろになると、

「ふふ、

 そうでしょうそうでしょう、

 でも、お付き合いには段階を踏まないといけません、

 あなたはいきなり告白をしたりしたものだから、
 
 相手が警戒しそのような返事をさせてしまうのです」
 
「段階?」

「そうです。

 いいですか、
 
 お付き合いというのは、
 
 まずクラスメイトから始まり、
 
 学園祭や体育祭でお互いに心を通わせて、

 そして、お付き合いが始まるのです。

 しかし、
 
 あなたはそれらの手続きを無視していきなり告白という愚行を…
 
 まったく、乙女心を何だと思っているのですか、
 
 いいでしょう、
 
 いまから華代があなたにちゃんとした道を歩かせてあげます」

と華代は言うと、

「ちょ

 ちょっと待ってくれ、
 
 百合華さんが通う赤薔薇女学院は女子高だぞ、
 
 男の俺がいけるわけが…」

華代の言葉に剣四郎が慌ててそう言うが、

しかし、剣四郎の言葉が終わる前に

「そぉれっ!!!」

華代の掛け声がプラットホームに響き渡った。

その途端、

ゴワッ!!

華代を中心に突風が巻き起こると、

「うわぁぁぁぁ!!」

瞬く間に剣四郎へと押し寄せ、

ゴワァァァァァ!!!

突風が一気に吹きぬけると、

プワァン

タタンタタン

タタンタタン

何事もなかったの様に電車が到着をする。

「あっあれ?」

まるで何事もなかったかのような光景に剣四郎は呆気に取られていると、

プルルルルルル!!!

ホームのベルが鳴り響いた。

「あっいけねっ」

その音に気づいた剣四郎が慌てて電車に飛び乗ると、

バタン!!

剣四郎を乗せた電車は走り始めた。

「いったい…

 なんだったんだ?」

つり革につかまり剣四郎が華代とのことを思い出していると、

シュゥゥン…

つり革を掴む自分の手が見る見る細く白くなりはじめた。

「え?」

そのことに剣四郎が驚くと、

見る見る着ていた学生服がブカブカになっていくと、

ズルリ…

肩の線が一気にずり落ちた。

「なっなんだこれぇ?」

原因はさっぱりわからない。

しかし、自分の体が一回り小さくなってしまったことに剣四郎が驚いていると、

「やだぁ、

 なにあれ?」

少し離れていた所にいる女子高校生が剣四郎を指差しヒソヒソ話を始めだした。

「え?」

自分のことが彼女達の話題になっていることに剣四郎は恥ずかしくなると、

「何かの罰ゲームなのかしら?」

「えー男の制服を着て電車に乗ることが?」

「なんかかわいそうね」

と言う声が剣四郎の耳に飛び込んでくる。

「罰ゲーム?

 何のことだ?」

彼女達の意外な言葉に剣四郎がそう思っていると、

フサッ!!

自分の肩に髪の毛がかかり始める。

「髪の毛?

 俺の髪?」

肩に掛かった髪に剣四郎が気がつくと、

「なんだ?

 これぇ!!」

いつの間にか剣四郎の背中まで髪の毛が伸びていたのであった。

「え?

 え?

 えぇ?」

意味も判らずに剣四郎は混乱していると、

その間にも、

ググググ…

彼の膝は内股へと曲がり、

さらに腰が膨らんでいくと、

履いていたズボンをパンパンに膨らませた。

「なっなっなっ

 なんだこれは!!」

ムリッ!!

見る見る膨らみ始めた胸に剣四郎は胸を押さえるが、

ある程度膨らんだところで

ピチッ

ブラジャーの締め付ける感覚が剣四郎の胸の周囲から発せられる。

「どうなっているんだよ

 おいっ」

喉仏がなくなり少女の様な声が剣四郎の口から零れると、

ズズズズズズ…

ブカブカになってしまっていた学生服が変化しはじめ、

瞬く間に剣四郎が着ていた制服は赤薔薇女子高のセーラー服へと変化してしまったのであった。

スー

外気がプリーツのスカートの下より潜り込んでくると、

股間に密着している下着を軽く撫でるのを感じながら、

「え?

 いやだ、
 
 どうして?
 
 なんで?」

すっかり、赤薔薇女学園の生徒と化してしまった剣四郎が混乱してしまっていた。

「あれ?」

「あの人…いつのまに着替えたんだろう…」

「赤薔薇の人だったのか、

 なんだ」

混乱する剣四郎をよそに女子高生達はそううわさする。



「ちょっと、

 なんで俺が女子高校生になってしまったんだよ、
 
 え?
 
 華代ちゃん?
 
 華代ちゃんが俺を女子高生にしたの?
 
 違うっ
 
 俺は…あたしは…
 
 女の子になりたくなんてないのよぉ」



さて、今回のミッションも実に簡単でした。

やっぱり、あっ名前聞かなかったけど大丈夫よ

まずはクラスメイトからはじめましょうねぇ…

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

また会う日まで…

では