風祭文庫・華代ちゃんの館






「テニスコートの怪」



作・風祭玲


Vol.350





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



パコーン!!

パコーン!!

放課後のテニスコートに練習の音が響き渡る。

「こらぁ、そこっ!

 球拾いをサボるんじゃないぞ」

男子のキャプテンである3年の水上祐介の声が響き渡った。

「はーぃ」

その声にセッセと球拾いをしている2年の葉木良雄が元気良く返事をすると、

パシッ!!

「ほらっ、あっちに球が飛んでいったぞ」

祐介がコースから外れ外へと飛んでいった球を指さし叫んだ。

そしてそれに反応するように、良雄はすぐに追いかけていく。

そんな良雄の後ろ姿を眺めながら、

「まったく、目障りなヤツめ、

 あんなのがコートをウロウロされると迷惑だ。」

と祐介はそう呟くと、

クッ

と髪をあげた。

その途端、

「きゃーーーーっ」

フェンスを一枚挟んだ向こうのコートにいる女子部員から一斉に黄色い歓声が上がる。

そう、スタイル、ルックスともに秀で、

さらに地方大会で準優勝した経験を持つ祐介は

女子テニス部員達にとって憧れの的であったが、

一方、良雄はと言うと、

運動神経にやや難がある上に、

身長が低く、また小太り気味の体格等の要因も重なり合って

女子部員達からは興味の対象外にされてしまっていた。

無論、彼も彼なりには努力をしているのだが、

しかし、未だにその努力が報われることはなかった。



「あら、随分と格好をつけているじゃない?」

「ん?

 なんだ、工藤か…」

突然掛けられた声に祐介か振り返ると、

彼の後ろには風に長く伸びた黒髪を靡かせながら、

女子テニス部のキャプテンである工藤礼華が祐介の後ろに立った。

「ねぇねぇ

 工藤キャプテンと水上先輩が並ぶと絵になるわねぇ」

「うんっ」

二人が並んでいる様子を見た女子部員達がそう囁いていると、

自然とその声が祐介の耳に届く、

「ふっ…完璧だ」

祐介はまさに至福の時を迎えていた。

そんな二人の姿を見ながら良雄は

「あと少し頑張れば、俺もあのように…」

と思いながら、

「水上キャプテンっ、拾ってきました!!」

と叫びながらコートから飛んでいった球を片手に良雄が戻ってくると、

「(くおのっ大馬鹿者……………)」

至福の時を無惨にぶち壊しにされた怒りを滲ませるように、

キッ

祐介は良雄を睨み付けた。

「なっなんか、まずいことをしましたか?」

祐介の殺気に良雄は困惑していると、

「葉木っ

 球拾いはしなくていいっ

 ずっと、あそこで見学をしててくれないか」

ギッギギギギギギ…

手渡されたテニスボールを半ば握りつぶしながら、

祐介は良雄にそう言うと、

コートの一番遠くの隅を指さした。

「わかりました」

それを聞いた良雄は元気良く返事をすると、

タッタッタッ

とその場所へと向かうとチョコンと座った。

「むわったくぅ!!」

まるで汚物を見るが如く祐介はそう呟くと、

「随分と、可哀想なことをするじゃない?」

一部始終を見ていた礼華が呟いた。

すると、

「ふっ、不細工な男はテニスをする資格はないっ」

髪をあげながら祐介はそう断言すると、

「あらあら…じゃぁ女の子はどうなのかしら」

と彼の言葉を返すようにして礼華が聞き返した。

しかし、

「女の子は別」

祐介は礼華の言葉にそう返事をすると、

ラケットを片手にスタスタとコートの中へと歩いていった。



パコーン

パコーン

コートを右へ左へと飛んでいく球を良雄が眺めていると、

「おにーちゃんっ」

少女の声が良雄の耳に響いた。

しかし、

その声を良雄は無視して球を追い続ける。

すると、

ツンツン

っと何かの棒のようなものが良雄の肩をつつくと、

ようやく、

「なんだよっ」

と文句を言いながら良雄が振り返った。

その途端、

「はいっ」

と言う声と共に一枚の名刺が彼の前に差し出された。

「え?」

差し出された名刺を反射的に良雄は受け取ると、

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします。

 真城華代………」

と名刺に書かれている文面を読み上げた。

そして読み終わった後、彼が名刺から視線をあげると、

彼の目の前にはワンピース姿で髪の長い少女が立っていた。

「どっどこから入ってきたんだ?」

思いがけない少女・華代の登場に良雄は驚くと、

華代を抱き上げてコートから飛び出していった。

そして、

「勝手にコートに入ってきてはだめだろう」

と華代に注意をすると、

「うふふ、華代は神出鬼没、

 その気になれば某敬愛なる将軍様のトイレにも、

 または、某ホワイトハウスのシャワー室にも、

 そして、某○民党本部の食堂にだっていけるんだから」

と胸を張って答えた。

「はいはいっ

 お兄ちゃんは忙しいんだから、

 さっさと帰るんだよ」

華代の言葉に良雄は半ば呆れ気味に返事をすると、

クルリと背を向けた。

すると、

「ちょちょっと待ってっ

 まだ華代の仕事は終わっていないよ」

と華代が叫ぶと、

「はぁ?」

面倒くさそうに良雄が振り返った。

すると、

「ねぇ、お兄ちゃんの悩み事あるんでしょう?

 その悩み、華代に聞かせて」

と言いながら華代は良雄に迫った。

「悩み事?」

「そう」

「うーーーん」

華代にそう言われて良雄が首を捻ると、

「そうだなぁ

 俺の悩みと言ったらもぅ少し身長が欲しいことかなぁ?

 俺が女の子ならこの身長でも十分だけど、

 でも、この身長じゃぁ、

 水上キャプテンみたいに女子の注目を集めることは出来ないしね。」

と良雄が言うと、

キラーン☆

華代の目が光った。

そして、

「出来ますよ」

っとひとこと呟いた。

「はぁ?…

 あははは、
 
 なに?

 俺の身長を伸ばしてくれるの?」
 
と笑いながら良雄が華代に尋ねると、

「ふふ…

 だから、できますってぇ!」

華代は良雄にそう答えながら、

「性転換仕事人の真城華代に出来ない事はこの世に無いのです!!」

と叫びながら、

ゴワァァァァァ!!

華代は嵐を巻き起こしながら両腕を高らかに掲げた。

「へ?

 ちょちょっと

 何を言っているんだ?」

華代の勢いに押されながら良雄がそう言うと、

「行きますよぉ!!

 覚悟はいいですかぁ!!」

華代のボルテージの上がった声が周囲に響きわたる。



その時、

「ねぇ、あの子達、あそこで何をやっているのかしら?」

と良雄を指を差しながら礼華がコートから戻ってきた祐介に尋ねると

「さぁな…(誰だ?あの女の子は?)

 このままコートに戻ってこなければ良いんだが」

良雄達を眺めながら祐介はそう返事をすると、

手にした小石を良雄めがけて放り投げた。

そして、その直後、

「そうれ!!!」

華代の元気のいい叫び声が良く晴れ渡った空に響き渡った。

すると、

ゴワァァァァァァァ!!

「うわぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

突然わき起こった突風がテニスコートに吹き荒れた。

「なんだこの風は!!」

吹き荒れる風に腕で目を庇いながら良雄が叫ぶと、

「おーほほほほほほほほほほ!!!」

華代の高らかな笑い声が彼の耳に響き渡る。

その途端、

ヒュルンッ!!

瞬く間にあれだけ吹き荒れた風がウソのように収まってしまうと、

チチチ…

何もなかったかのように何時のも光景が広がっていた。

「なっなんなんだ?」

唖然としながら良雄が立ち上がると、

「こらぁ!!
 
 何をサボっているんだ!!」

祐介が叫んだ。

「はーぃ」

その声に良雄がそう返事をすると、

「あれ?

 華代ちゃん?」

さっきまで目の前にいた華代の姿が無くなっていることに気づくと

華代の名前を叫んだ。

とその時、

ムクリっ

良雄の身体が微かに動くと、

「ん?」

何かに気づいた良雄が思わず声を上げた。

「何かいま…身体が動いたような…」

不審に思いながら良雄がそう呟いていると、

ムリッ!!

今度は彼の胸が動いた。

「え?」

しかし、そのことに良雄が驚く間もなく

ジワッ

胸のちょうど乳首のあたりが見る見る痛痒くなってくると、

プクッ

っと良雄の胸が膨らみ始めた。

「うわぁぁぁぁ!!」

良雄が思わず悲鳴を上げると、

「なにをやっているんだ?

 あいつは?

 ちょっと注意してくる」

その様子を見ていた祐介が

礼華にひとことそう告げて良雄の所に行こうとしたとき、

「あっ!!」

礼華が妙に濁った声を上げた。

「ん?、どうした?」

その声に祐介が振り返ると、

「いやぁ…

 なっなに?
 
 こっこれ」

礼華はスコートの裾を押さえながらその場に座り込んでしまった。

「おっおいっどうしたんだ?」

礼華のただならない様子に祐介が慌てて礼華の傍によると、

「こっ来ないで!!」

礼華は悲鳴を上げるようにして祐介の身体を突き飛ばした。

「なっ何をするんだっ

 え?」

突き飛ばされ尻餅を突いた祐介がそう怒鳴って礼華を見ると、

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

礼華は悲鳴を上げながら顔を両手で塞いだ。

すると、

モリモリモリ

礼華の股間が見る見る膨らんでいくと、

まるで、中から棒を突き立てたかのように彼女のスコートを下から持ち上げた。

「うそっ」

信じられない光景に祐介は目を剥いて驚くが、

しかし、

そうやって驚く祐介も

自分の胸が膨らみ始めていることに気づくまではそう時間が掛からなかった。



「わわわわわ…」

シュルルルルル…

次第に細くなって行く腕と、

小さくなってく身体に良雄は混乱をしていた。

そして変化は身体だけでは収まらず、

すね毛が消え、彼の脚がスベスベになっていくと、

パンッ!!

小さな音を立てて良雄が履いていたテニスウェアのパンツの股間部分が裂け、

シュルシュル

パンツは次第にプリーツのスコートへと変化していった。

「どっどっどーなってんだ?」

一連の変化に良雄はまるで少女のような声を上げると、

ゆっくりと伸びていく髪が肩に掛かりはじめた。

そして、膨らみを増しプルンと揺れ始めた胸を

キュッ

っとスポーツブラが優しく引き締めると、

「うっ」

良雄は顔を赤くしながら胸を押さえた。

「そんな…

 ぶっブラが…」

ブラの感覚に彼が戸惑うと、

スコートとなったパンツの下に穿いていたブリーフが

ジワリとアンダースコートへと変化した。

そして、その中では良雄のシンボルが縮むようにその姿を消し、

代わりに一本の溝がそこに刻まれた。

「あんっ

 オチンチンが…無くなっている…

 どっどうしよう…

 おれ…女の子になっちゃた…」

股間を押さえながら良雄が立ち上がると、

フワッ

吹き抜けた風が彼、いや、彼女のスコートを揺らした。

「いやっ」

そう叫びながら良雄は思わずスコートを押さえるが、

しかし、

その様子に声を掛ける者は誰も居なかった。

「うそっ」

恐る恐るコートの方を見た良雄の目に飛び込んできたのは、

「いやぁぁ止めて!!」

「女の子になっちゃった」

「なにこれぇ」

「そんな…男になちゃったよぅ」

と文字通り性別が入れ替わってしまい混乱するテニス部員の面々だった。



パコーン

パコーン

「ほらっ、

 そこっ
 
 さっさと球拾いに行って来なさーい」

スコート姿の祐介がそう叫ぶと、

「はーぃ」

良雄はそう叫びながら飛び出していった球を追いかけて行く、

すると、

「相変わらず、後輩を扱き使うんだな」

と言いながら礼華が声を掛けると、

「ふんっ大きなお世話よっ」

ツンとした態度をしながら祐介が返事をした。



「はぁ…

 ねぇ…華代ちゃん…

 わたしが背が欲しかっただけなの…

 別に女の子になりたかった訳じゃないの」

落ちている球に手を伸ばしながら良雄はふとそう呟いた。




さて、今回のミッションも実に簡単でした。

良雄君、ヤボな事は聞かないのっ

女の子ならその身長で十分なんでしょう?

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

華代はいついかなる時でも悩めるあなたの元に参上します。

ではまた会う日まで

では