風祭文庫・華代ちゃんの館






「カーニバル」



作・風祭玲


Vol.300





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



テンツクテンツク

夕日が射し込む人気のない商店街に祭囃子の音が響き渡ると、

ひゅぅぅぅぅ〜っ

真夏の一日の残り香と熱気を含んだ風が

シャッターが降りたままの店先を吹き抜けていった。



そんな商店街の一角で、

「はぁ…」

巴のマークが入った法被を着て、

ため息をつきながら一人の男が目の前に置いてある御神輿をただ眺めて居た。

「何、ため息をついて居るんだよ」

ポン!!

と言う別の男の声に

この祭を実質的に取り仕切っている愛子拓也が顔を上げると、、

「よっ」

彼の友人である新城勝良が挨拶をした。

「あぁ…仕事帰りか?」

スーツ姿の勝良を見て拓也がそう言うと、

「まぁな…女房と娘を抱えて慣れないサラリーマン生活を満喫している。

 とでも言うかな?」

勝良はそう言いながら

「どっこいしょっ」

っと拓也の隣に座った。

”○×商店街青年会”

と書かれた幕が夏の夕焼けに侘びしく光る。

「それにしても…

 バイパスにウルトラストアが出来てからこっち、

 どんどん店がつぶれてしまったなぁ…」

静かな住宅街かと思わせる商店街を眺めながら勝良が呟くと、

「あぁ…」

拓也は力のない返事をする。

「…人は集まらないのか?」

担がれることがなさそうな御輿に視線を送りながらそう尋ねると、

「あぁ…」

またも拓也は力のない返事をした。

「そうか…」

音のない…侘びしい時間が過ぎていく…

その一方、

そんな二人をあざ笑うかのように

駅の階段から帰宅に急ぐ人たちが続々と吐き出されると

通路と化した商店街を無言で通り過ぎて行く。

「……」

このギャップに勝良は気まずさを感じると、

「あっいけねっ

 女房が帰ってくる前に洗濯物取り込まなきゃ…

 じゃっまた後で来るからなっ」

と右手を小さくあげながらそう言うと、

まるでその場から逃げ出すようにして立ち去っていった。

「はぁ…」

そんな彼の後ろ姿を眺めながら拓也は大きくため息をつくと、

「俺も…帰るか…」

と言って腰をあげた途端、

「お兄ちゃん!!」

彼を呼び止めるような少女の声が響いた。

「はい?」

突然掛けられた声に拓也が振り向くと、

「えへへへへ…」

大きなツバ付きの帽子を被り、

白のよそ行きのワンピース姿の少女が

笑みを浮かべながら立っていた。

「えぇっと…」

予想外の少女の登場に拓也は思わず慌てると。

クスッ

少女は小さく笑いながらそばに寄ってくるなり、

「はいっ、これ…」

と言いって一枚の名刺を拓也に差し出した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代…?』

横書きの名刺に書かれている文句を拓也が読み上げると、

「はいっ、

 お兄ちゃんのその悩み、

 華代が見事解決してあげますわ」

と華代はポンと胸を叩く。

「はぁ…?」

華代の言葉に呆気にとられ気味の拓也がそう返事をすると、

「それにしても、人気が無いですねぇ…」

華代は周囲を見回しながらキツイ一発を浴びせた。

華代からのストレートな直撃弾を浴びた拓也は、

「オホン!!」

と咳払いをするなり、

「大きなお世話だ。

 と本来ならそう言うトコなんだけど、

 しかし、君の言うことは事実だな」

と腕を組みながら華代に言う、

「でも、

 お祭りなんでしょう?

 これではちょっと寂しすぎますわね」

閑散を通り越している雰囲気に華代はそう言うと、

ダァン!!

拓也は目の前の机を叩くと、

「判っているっ

 何が足りないのか

 何をどうすればいいのか

 すべてなっ、
 
 しかし、人が集まらないんだよ、
 
 こうも、商店街に人が居なくてな」

と力説をした。

すると、

「なんだ、そう言うことですか…

 それなら華やかにすれば良いんですよ

 華やかに」

華代は片目を瞑って拓也にそう言った。

「華やか?

 はは…

 それが出来れば苦労はしないよ、

 大体どうやれば良いんだ?

 女の子を呼んでぱーっとサンバでも踊らせるか?

 そりゃぁ人が集まるだろうよ」

自暴自棄的に拓也は華代に迫ると、

ポン!!

「うん、それいい!

 それいいよ!!

 お兄ちゃん、頭が冴えているぅ!!」

華代は手を叩くと、拓也に飛びついた。

「うわっなっなんだ?」

喜ぶ華代に拓也は戸惑うと、

「じゃっ、サッサとしよう、

 ではいきますよぉ…そうれ!!」

華代がそうかけ声を張り上げると、

ゴワッ!!

一陣の風が巻き起こると拓也の身体の中を吹き抜けていった。

「うわぁぁぁぁ

 なっなんだ!?」

突然の出来事に拓也は慌てると

ビクンッ

拓也の身体が電撃を打たれたかのように微かに飛び跳ねた。

「え?」

身体を突き抜けた電撃に拓也が驚くと、

モリッ!!

モリモリモリ!!!

突如、拓也の胸がまるで風船を膨らませるように膨らみ始めると、

法被を下から持ち上げていく、

「うわぁぁぁぁぁ

 なんだこりゃぁぁぁぁ!!」

プルプルと震える乳房に拓也が驚きの声を上げるが、

さらに彼の身体は変化していった。

きゅぅぅぅぅ…

ウエストが急速に絞り込まれると、

ムリムリムリ…

それに対してヒップが張り出てくる。

「あぁぁぁぁぁ…」

変化していく身体に拓也は声を出せないでいると、

その間にも彼の身体は艶めかしい曲線を描ていった。

「うわぁぁぁ!!

 なんだこれぇ!!」

既にDカップを越えてしまった乳房を抱えながら拓也が狼狽えると、

「大丈夫大丈夫!!」

狼狽える拓也を元気づけるように華代は言うが、

しかしその間にも、

拓也の髪は金色に染まりながら長く伸び、

そして法被から覗く腕は細く、そして小麦色に染まっていった。

「そうそう…もうちょっとよ

 はいっレッツミュージック!!」

変身していく拓也を眺めながら華代がそう声を張り上げると、

商店街に設置してあるスピーカーから

陽気なサンバのリズムが流れ始めた。

そのリズムを聴いた途端、

ムズムズ

拓也の身体が燃えてくると、

「うわぁぁぁぁぁ、

 やめてくれぇ!!」

拓也は悲鳴を上げながらサンバのリズムに身体を動かし始めた。

「あっ、行けない…

 衣装もちゃんとしなくっちゃ!!」

法被姿のまま、サンバを踊る拓也を見ながら華代はそう言うと、

「それぇぇぇ」

再びかけ声をあげた。

その途端、

彼が着ている法被はまるで溶けるように姿を変えると

シュルシュルシュル

踊る身体を艶やかに表現する羽などのデコレーションへと変化し、

そして下着は、

男のシンボルが消えてしまった股間を隠す小さな布になってしまった。

「あっあぁぁぁ」

喉仏が消え、女性の声が拓也の口から漏れると

女性の顔になってしまった彼の顔に次々とメイクが施されていく、

そして、その顔を引き立てるように

ラメが光るアイシャドウとルージュが引かれると、

カッカッカッ

拓也はハイヒールを響かせながら乳房を激しく揺らし

そして腰をくねらせて踊る、

サンバダンサーになってしまった。



「なっなんだ?」

「すっげぇ!!」

「サンバだよ」

「何かの宣伝?」

たちまち拓也の回りに勤め帰りのサラリーマンやOL、

そして部活を終えた学生達が人だかりを作る。

「うわぁぁぁぁ〜

 見るな!!

 俺をみないでくれぇ!!」

踊りながら拓也は悲鳴を上げるが、

しかし、彼の身体は増えていくギャラリーに

さらに燃え上がると

より一層激しく踊り始める。

「おぉぉ!!」

パチパチ!!

サンバダンサーとなってしまった拓也の激しい踊りに

ギャラリーから一斉に拍手がわき起こると。

どこから来たのかカメラ小僧のフラッシュが幾本も焚かれた。


しかし、

「う〜ん、一人では寂しいですね」

その様子を頷きながら華代が呟くと、

「よしっ、では、

 華代ちゃんの大サービス、

 これで、不況退散、商売大繁盛よ

 そうれ!!」

と声を張り上げた。

すると、

ゴワッ!!

華代から発せられた一陣の風がギャラリー達の間を吹き抜けて行った。

「きゃっ」

「うわっ」

「なんだ?」

吹き抜けた風にギャラリー達は驚いていると、

「まっママ…」

たまたま傍を通りかかった母親に連れられていた幼女が

母親のスカートを引っ張った。

「どうしたの、茜ちゃん?」

それに気づいた母親が腰を屈めながら尋ねると、

「あのね、あかねね…」

と幼女が母親にそう告げた途端、

メリメリメリメリ!!

瞬く間に着ていた服を破りながら幼女の身体が急激に成長していくと、

「(カッ!!)…あたしっ、踊りたいのよ!!!」

とヒールを鳴らしながら日に焼けた肌と

Eカップに成長した乳房を揺らせながらサンバを踊り始めた。

「きゃぁぁぁぁ!!

 あかねがぁぁぁぁ」

ナイスバディの身体をくねらせながらサンバを踊り始めた娘を見て

母親は腰を抜かして叫び声をあげるが、

しかし、そんな彼女も瞬く間に小麦色のサンバダンサーに変身してしまうと、

「ねぇそこのあなた…あたしと茜、どっちがいい?」

と娘と競うように踊り出した。

その一方で、

「いやぁぁぁ!!」

制服姿の女子高生が悲鳴を上げると、

着ていたセーラー服がサンバ衣装に替わった途端、

ボリュームアップした肉体を踊らせ。

また、むさ苦しいネクタイ姿のおっさんも

次々と艶めかしいサンバダンサーへと変身していく。

こうして、見る見る商店街にサンバダンサーが溢れていくと、

皮肉にも寂れていた街は久々の活気を取り戻していった。



今回の依頼も実に簡単でした。

拓也さん、やっぱりお祭りは激しく、

そして、楽しくしなくっちゃね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では


ps…

「ふぅ…途中でパチンコ屋に行ったら大量大量!!」

カンカンカン!!

そう言いながら勝良が戦利品を片手にアパートの階段を登り、

そして、

「君恵っただいまぁ〜っ」

と言いながら部屋のドアをあけると、

「あなたおかえりなさい」

「ぱぱぁおかえりぃ」

と言う声と共に艶やかなサンバ衣装を身につけ、

豊満な肉体を揺らせながら彼の妻と娘が出迎えた。

「………」

ポト…

呆然とする彼の口が微かに開くと銜えていたタバコが下に落ちる。

すると、

ポン!!

彼の肩が叩かれると、

「なぁ、お前もサンバ踊るか?

 楽しいぞ!!」

っと衣装を揺らせながら拓也が声を掛けた。



おわり



あとがき…

この話…

実は半年ほど前のリオのカーニバルのニュースを見たときに思いついたのですが、

日本が真夏の時になんとか形に出来て良かった。

さて、執筆300物語到達!!

う〜ん、感無量!!