風祭文庫・華代ちゃんの館






「秘めた思い」



作・風祭玲


Vol.250





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「一本!!

 それまでっ」

その声と共に主審の右手が高く挙がった。

「おしっ!!」

ガッツポーズをする相手を見ながら僕はガックリと膝をついた。

「こらっ高崎っ

 あんな相手に負けるなんて弛んでいるぞ!!」

戻ってきた僕に本庄先輩の怒鳴り声が響く。

「はっはぁ…」

顔面保護用のプロテクターを外しながら僕はやや力の抜けた返事をすると、

その途端

「なんだ、その気の抜けた返事はっ

 ビシッとしろ

 ビシッと!!」

「おっオッス」

鳴り響いた先輩の怒鳴り声に僕は反射的に返事をした。

「ったくっ…

 戻ったらコッテリと絞ってやるから

 サッサと着替えてこいっ」

先輩は僕にそう告げるとスタスタとその場から去って行ってしまった。

「はぁ……」

そんな先輩の後姿を見送った僕は大きくため息を吐くと、

道着姿のまま先輩が出ていった別の口から試合会場を出て行った。



「…あ〜ぁ…

 負けちゃったなぁ…」

そう呟きながら僕は空いていたベンチに座ると

両手の甲につけていたプロテクターを外し始めた。


と、そのとき、

「お兄ぃちゃん!!」

少女の声が響き渡った。

「うわっ!!」

突然の声に僕が驚くと、

「クスクス…

 そんなに驚かなくったって良いじゃない…」

と言う声と共に一人の少女が僕の前に姿を現した。

年は小学校高学年くらい…

その小さな手には不釣り合いな大きな鞄と

腰まで届く長い髪と吸い込まれてしまうような不思議な目をした少女だった。

トコトコトコ…

少女は僕の目前にやってくると、

「はいっ、これ…」

と言いいながら一枚の名刺を差し出した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代…』

横書きの名刺に書かれている文句をそう読み上げると、

ニコッ

華代と名乗る少女はニッコリと微笑んだ。

そして微笑みながら

「で、お兄ちゃんはココで何をしているの?」

華代が尋ねてきた。

「おいおい、華代ちゃん

 この格好を見て判らない?

 僕は、空手の選手なんだよ」

と彼女に言い聞かせるようにして教えると、

「あぁ、そうなんだ…

 じゃぁ、お兄ちゃん強いんだね」

華代はそういうとそのまま僕の隣に座ってしまった。

「あのね悪いけど、

 お嬢ちゃんのお遊びにつき合っている暇はないんだよ。

 お兄ちゃんはねぇ、こう見えても忙しいのっ

 誰の妹さん?

 深谷先輩かな?

 それとも熊谷先輩かな?」

等と独り言を言いながら首を捻っていると、

「ひっどーぃ、華代のこと信用してくれないの?」

と華代は目に涙を浮かべて僕に迫ってきた。

「え?、

 あっいや、悪かった。

 お兄ちゃんが悪かった。

 なっだから泣かないでくれ…

 こんなところ、もしも先輩に見られたりしたら、

 それこそ一大事だからなっ」

華代の様子に僕は慌てながらそう言うと、

パッ

「はいっ、じゃぁお兄ちゃんの悩み事を聞かせて…」

顔を上げた華代はさっきまでの営業スマイルに戻っていた。

「ちっ、なんだ、引っ掛けかよ…」

そんな華代の様子を見た僕は頭を掻きながら呆れた。



「ふむふむ…

 なるほど…

 お兄ちゃん…試合に負けちゃったんだ」

僕の話を聞きながら華代は開いた手帳にメモを取っていく。

「まぁね…

 うちの部って強豪って言われてきただけに

 僕の負けは汚点になるからね…」

僕は両肘を膝の上につき手に顎を乗せながらそう言うと、

「それは大変ですね」

と華代は心持ち心配そうな顔をした。

「やっぱり、僕にはやっぱり空手は向いてないのかなぁ…」

そう僕が呟くと、

「そんなことはないですよ、

 次には勝ちますって…」

と華代は励ますように僕の背中を叩いた。

すると、

「あっ…高崎君、ココにいたの?」

と言う声と共に

人混みの中から一人のジャージ姿の女性が姿を現した。

「あっ、行田さん!!」

彼女の姿を見た途端、僕は反射的に立ち上がった。

「あら…妹さん?」

長い髪を頭の後ろで束ねただけの彼女は、

僕の隣で座っている華代を見つけると腰を屈みながら声を掛けた。

「いや…僕には妹なんて居ませんよ」

彼女の発言を訂正するように僕が言うと、

「じゃなんなの?

 まさか、変なことをしようとして…」

と言いながら行田さんは軽蔑に満ちたような目で僕を見た。

「だっ誰が」

顔を真っ赤にして僕が声を上げると、

「はいっこれ…」

と言いながら華代は行田さんに僕に渡したのと同じ名刺を差し出した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします?…』

「ふぅ〜ん…

 で、高崎君はこの子にどういう相談をしていたの?」

と行田さんが僕に訊ねると、

「いっいや、別にまだ何も…」

頭を掻きながらそう返事をした。

「高崎のお兄ちゃん、

 試合で、負けちゃったんだって…」

横で聞いていた華代が口を挟んだ。

「かっ華代ちゃん、なんて事を言うんだ!!」

華代の言葉に慌てた僕は彼女の口を両手で塞ぐと、

「あらあら、試合前、本庄君があたしの所に来て、

 今日の試合は男子はすべての階級を制覇するぞ!!

 って息巻いていたけど、

 どうもそれは春の夢で終わっちゃったのね…」

と皮肉を込めながら僕に言った。

「………」

彼女のその言葉に僕は反論できなかった。

「じゃぁ、今日は戻ったら地獄の特訓が待っているわね」

と行田さんは軽く笑うと去っていった。



「はぁ…」

再び僕はため息を吐くとベンチに座り込んでしまった。

そして握りしめた、手を眺めながら、

「実はねぇ…華代ちゃん、

 僕が空手を始めたのは彼女と知り合いになれたら…
 
 って考えたからなんだよ」

と呟いた。

「へぇぇ…そうなんですか…」

「うん、行田さんは女子の空手部の部長で

 彼女の型は切れがあって力強く、

 それでいて、まるで舞を舞うような優雅さがあるんだ。

 で、僕はそんな彼女に近づきたくて空手を始めたんだけど、

 でもなぁ…

 あれ?、なんでこんなことを君に言うんだろうなぁ…

 あはは、変なの…」

一方的だったが、でも華代ちゃんに僕の心の内側を喋っているうちに、

なんだかコレまで重かった気持が少し軽くなってきていた。

「うん、でも、ありがとう、

 こうしてお話が出来ただけでも気が楽になったよ

 さぁて、戻って特訓を受けるとするか…」

僕はそう華代ちゃんに言うと立ち上がった。



「判りました、要するにお兄ちゃんの望みは、

 さっきの行田さんって言う女の人とお友達になりたいんですね」

と念を押すようにして華代ちゃんが尋ねてきた。

「え?、

 あはは

 まぁ確かにそうだね」

頭を掻きながら僕がそう返事をすると、


キラッ!!

一瞬彼女の目が光った。

「え?」

「では、華代がお兄ちゃんのために一肌脱いでさし上げますね」

というと、華代ちゃんは腕まくりをし始めた。

「?、何を始めるんだ?」

僕は彼女の不可解な行動に首をかしげた。

すると、華代を両手を高く上げると、

「では行きますわよぉ

 そうれっ!!」

と声を放った。

その途端、

ゴワッ!!

一陣の旋風が巻き起こると僕の体を突き抜けていった。

「うっうわぁぁぁぁぁ…」

僕は思わず両腕で顔を覆うと、

風に吹き飛ばされまいとして踏ん張った。



「……あれ?」

僕を襲ったはずの風は消え辺りは何事もなかったかのような状態になっていた。

「華代ちゃん?」

腕を降ろすと、さっきまで傍にいた華代の姿が消えていることに気づくと、

彼女の姿を探し始めた。

「え?、さっきまでそこにいたのに…」

キョロキョロしながら周囲を探していると、

「おらっ、高崎っ

 お前、まだそんな格好をしているのかっ」

と本庄先輩の怒鳴り声が鳴り響いた。

「ヤバ…」

慌ててプロテクターを手にとって更衣室に駆け込んだとき、

シュルシュル…

徐々に視点が下がり始めた。

「え?」

それに合わせてダブついてきた空手着を不思議そうに見ると、

ムニッ!!

鍛えてそれなりにあったはずの僕の胸に小さな膨らみが2つ膨れ始めていた。

「なっなんだこれ?」

空手着の胸元を開いてムクムクと膨らんでいく胸を眺めていると、

ジワッ

その上に乗っている乳首が褐色からピンク色に変わってくると、

ジリジリと痛み始めてきた。

「おい高崎っ

 そんなところで突っ立って何をやって居るんだ」

シビレを切らした本庄先輩が俺の頭を殴ろうとすると、

「おっお前…高崎だよな…」

とマジマジと眺めながら尋ねた。

「はぁ、そうですが…え?」

先輩にそう答えようとして声を出すと、

いつの間にか僕の声がまるで女性のようなトーンの高い声に変わっていた。

「なんだぁ?」

その声に着替えをしている他の選手達が僕に視線を向ける。

…なに?、どうしたんだ?

変化していく自分の身体に僕は困惑をしていた。

ムリムリムリ…

そうしている間にも、

僕の萎むように腰がくびれ、

変わってヒップが張り出していく、

「おっおいっ、

 お前、女…に…」

信じられないような声で本庄先輩がそう言うと、

バサッ

伸びてきた髪が僕の肩に掛かってきた。

「そんな…」

グググ…

いつの間にか内股になり、

股間が次第に軽くなっていくのを感じながら、

僕はその場に座り込むと、

ツン!!

っと2つの果実が胸で揺れた。

「おいおいっ」

「なんだなんだ…」

いつの間にか僕の周りに人だかりが出来る。

「いっいっいやぁぁぁぁ!!」

突然、猛烈に恥ずかしくなった僕は

悲鳴を上げると逃げ出すようにして更衣室から飛び出してた。

「そんな…

 そんな…

 女の子になっちゃったよぉ…」

僕の悲鳴が武道館にこだました。



今回の依頼も実に簡単でした。

高崎君、試合見負けちゃっても

女の子になっちゃえば行田さんと良いお友達になれるよ、

今度は頑張って勝てるようになってね。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり



あとがき…

ふぅ〜っ

250物語を目前にして長らく停滞していましたが、
やっとこさ、250物語を達成することが出来ました。
う〜ん、感無量!!