風祭文庫・華代ちゃんの館






「伝染」



作・風祭玲


Vol.222





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「う〜ん…困ったなぁ…」

夕暮れの町中を一人唸りながら学生服姿の少年・篠原保が歩いていく、

「どうしよう…か」

そう呟く彼の表情はどこか真剣かつ深刻でもあった。

無理もあるまい、

つい今しがた彼は追いかけてくるクラスメイト達から逃げおおせたばかりだった。

「う〜ん…」

なおも悩みながら歩く彼に突如、

パッパッパー

「馬鹿野郎!!

 死にたいのか!!」

激しいクラクションと共に罵声が浴びされると、

「え?、あっ」

保は赤信号の横断歩道を渡っていたコトに気づいた。

まるで覆い被さるように迫った状態で停車しているトラックに圧倒され、

彼がその場に立ちすくんでいると、

「…何をしているの、こっちよこっち」

と叫ぶ少女の声と共にギュッと保の手が握りしめられると、

グイっ

と彼の身体は歩道の方へと引っ張られて行った。

「ひき殺すぞぉ!!」

ブロロロロロロ…

殺気だった運転手がそう叫びながらトラックを出していくのを横目で見ながら、

「あっ、ありがとう。

 ちょっと考え事した…」

気恥ずかしそうに保は少女に礼を言って立ち去ろうとしたとき、

「あっちょっと待って」

と少女は彼を呼び止めた。

「え?」

振り向いた彼に、

「はいっ」

少女はそう言って一枚の名刺を差し出す。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代…』

保は横書きの名刺に書かれている文句を読み上げたあと、

ふとそれを裏返しにすると、

「姫神 古都音?」

と首を傾げながら縦書きに書かれた文字を読んだ。

「え?…

 あっあぁ、そっちは関係ないの、

 うん、

 で、お兄ちゃん…何か深刻な悩みを抱えているでしょう」

と少女・華代は慌てて彼の手にある名刺を表に戻させるとジッと保を見つめた。

「まっまぁ…」

彼はそう返事をすると、

「じゃぁ、お兄ちゃんのその悩み、あそこで聞かせてね」

と華代は角に立っているドーナツ屋を指さした。



一方、その上空では

「なぁんだ…

 久々に暇つぶしが出来ると思ったら…

 先を越されたか…」

残念そうに呟きながら着物姿の一人の女性が

腰掛けた姿勢でドーナツ屋に入っていく二人を眺めていた。



「…と言うワケなんだ……あのぅ聞いてます?」

喋りまくる女子高生達の声でまさに鶏小屋状態の喧噪に包まれている店内で、

彼は華代に自分の悩みを話していた。

「ふわぃふわぃ、しいてますよぉ」
(はいはい、聞いてますよぉ)

華代は口一杯にドーナツを頬張りながらそう返事をするが、

その両手にも一個づつドーナツを持っていた。

「よーふるにぃ、おにぃーひゃんがぁ
(要するに、お兄ちゃんは)

 なふやひゅみにはいるまえに、かのひょをふくるとしぇんえんしたのね)
(夏休みに入る前に、彼女を作ると宣言してのね、)

 ひょれれなふやふみがおわったのれ、かのひょをふぉーかいしりょと
(それで夏休みが終わったので、彼女を紹介しろ)

 れぇこほになひゃぁ」
(てことになった…)

そう華代が言ったところで

スッ

保は黙って紙ナプキンを差し出した。



「(はぁ…)大丈夫、そう言うことなら華代に任せて」

ドーナツをすべて食べ尽くした後、

Lサイズのジュースを一気飲みした華代は彼に向かってそう言うと、

ドン

と胸を叩いた。

「でも、そんなこと出来るんですか?」

疑い深そうに保が華代を見つめると、

「まっっかせななさいっ」

華代は自信たっぷりに言うと、スグに両手を高く上げ、

「では行くわよぉ

 そうれっ!!」

と声を放った。

その途端、

ゴワッ!!

ドーナツ屋の店内に一陣の旋風が巻き起こると、

「きゃぁぁぁ

 いやぁぁぁ」

店内にいた女子校生達のスカートが次々とめくれていく、

「うっうわぁぁぁぁぁ…」

慌ててスカートを押さえる彼女たちの姿を、

目を丸くしながら見入っている保の姿を見て、

「ほっほん」

華代は咳払いを一つすると、

「…ちょっと場所が悪かったみたいね」

と小さく呟き、

「じゃぁ、保君、

 君の悩みはもぅ解決しているわ、

 明日、自信を持って学校に行けばいいのよ」

華代はそう彼に念を押すと、

「じゃぁね」

と言う言葉を残してドーナツ屋から姿を消した。



翌日…

「うぅ…

 華代ちゃんの嘘つきっ

 何も変わって無いじゃないか」

保はいまにも泣き出しそうな顔で学校に向かっていった。

やがて、彼の行く手に校門が見えてくると、

「そうだ、休んじゃおうか…」

と言う考えが浮かんだものの、

しかしそれは、

「よう、篠原っ

 今日こそはお前の彼女を紹介して貰うぜ」

「嘘だったら、承知しないぞ」

「さぞかし美人なんだろうなぁ」

クラスメイト達が彼を取り囲んだ後のことだった。

「あぁ…紹介してやるよ

 なにしろ俺にはいっぱい居るのだからな」

まるで護送されるようにして彼は教室に入るとヤケでそう言った。

「ほぅ…」

ガチャッ

取り囲んでいたクラスメイト達は彼が逃げ出せないようにドアの鍵を下ろす。

「おぉ来た来た」

そう言って教室の中で保を待ちかまえていたクラスメイト達は

みな白Yシャツ姿の男子生徒ばかりだった。

そう、保の学校は男子校だったのだ。

「おいっ、白薔薇女子に通っているって聞いたが間違いはないだろうなぁ」

やや体格の言い男子生徒が保の近づくと

そう言って胸ぐらを掴み上げると、

「…あぁそっそうだよ」

苦しさから逃れるかのように保が首を横にして言う。

「間違いないんだろうなぁ…

 嘘だったらどうなるか判るだろうな」

そう言って彼が迫った時、

シュルルルルル…

まるで萎むように男子生徒の身体が見る見る小さくなっていくと、

白のワイシャツは白襟に赤のアクセントのあるセーラーへと変化し、

ツンと膨らんだ胸を可愛らしく包みこんだ。

その一方で、

履いていた黒のズボンはベージュ色のプリーツのスカートとなって

いつの間にか内股になった股を隠した。

「おっおい、高木…お前…」

目を丸くしながら隣に居た男子生徒が声を掛けるが、

彼の変化は更に続き、

短髪の頭からはさらさらとした髪が伸び、

日焼けした肌は白くなっていく…

こうして清楚な女子校生に変身したクラスメイトを

他の者達が信じられないような目つきでただ黙って見ていた。

「いっ、いや

 そんな目で見ないで…」

彼はまるで内気な少女のような声を上げるとその場に座り込んだ。

「おっ、おい、どうなってんだ」

彼の変身を見て教室中が一斉にざわめきだした。

「おぃ…高木、冗談だろう?」

と言いつつ彼と連んでいる者がポンと肩にさわった途端、

「いやぁぁぁん!!」

と言う声を残して

たちまち、彼と同じセーラー服姿の女子校生に変身してしまった。

「………」

静寂が教室を支配する。

そう、誰も脚を動かすことが出来ないのだ。

しかし、次の瞬間、

「いやぁぁぁ…あたし女の子になっちゃたぁ!!」

と女子校生に性転換してしまった彼が

傍にいた者に飛びついたのを皆が見た途端。

「うわぁぁぁぁ!!」

瞬く間に教室内はパニックに陥った。

「助けてくれぇ!!」

「俺には彼女が居るんだ!!」

「女になんかなりたくねぇ」

しかし、無情にも鍵を掛けられたドアは開くことはなく、

そして、逃げまどうクラスメイト達の間から、

次々と湧くようにして立ち上がったセーラー服姿の少女達が彼らを襲っていく。

「なっなっなんだ?…」

この光景に一番驚いていたのが他ならない保であった。

バリン!!

必死の思いで一人の生徒が開かないドアを蹴破って廊下に飛び出すと、

ヌッ

彼の前には鬼のような表情をした教師が彼の前に立ちはだかていた。

そして、

ゲシッ!!

っと一発彼を殴り飛ばすと、

「くぉら貴様らっ、勝手にドアに鍵を掛けた上に

 蹴破るとはどういうことだ!!

 職員室へ来い!!」

と怒鳴ったが、

「きゃぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁ!!」

教室の中から飛び出してきた女子学生達にたちまち踏みつぶされてしまった。

こうしてセーラー服を靡かせながら教室から飛び出した

女子学生達は次々と他のクラスを襲い、

そして、そこにいる男子学生を女子学生へと性転換させていった。



はぁはぁはぁ

「待てぇ!!」

それから小一時間後…

保は大勢の女子学生達に追われていた。

「さぁ、男で残っているのはあなただけよ

 大人しく女の子になりなさぁい」

ついに追いつめられた保に一人の少女が詰め寄った。

そう、保にさわって一番最初に女子学生にされた彼である。

「助けてくれぇ!!」

怯えながら保が叫び声を上げると、

「うふふふふ…」

少女達は不気味な笑みを浮かべて保に近づき、

そして、無数の手が保に迫っていった。

「えぇぇい」

ペタペタペタ

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

少女のかけ声と共に保の悲鳴が校内に響いた。



で、その翌日…

「…で、あるからして、このxは…」

カッカッカ

履き慣れないスカートを履いた女性教諭が黒板に書いた方程式を説明する中で、

「なんで、篠原は女にならないんだ?」

「ホント」

と席に座る女子達の視線は教室のある一点に注がれていた。

「………」

そう彼女たちの視線の先には

教室内を埋め尽くすセーラー服の中に一人ぽつんと座るYシャツ姿の保が居た。

「あっあのぅ…華代ちゃん…

 これって解決法なの?、

 そりゃぁ確かにみんなが女の子になれば解決するかもしれないけど、

 でもね、僕の言いたかったのはこういうコトじゃないんだ」

と肩を振るわせながら保は呟いていた。



今回の依頼も実に簡単でした。

保君、良かったね、女友達が一杯出来て、

これだけ居ればきっと彼女の一人や二人出来るって…

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり



あとがき…

実はこの話、オフ会で猫野丸太丸さんと話していたときに
ふと思い浮かんだのが切っ掛けでして、
ならいっそ、華代ちゃんでハートフル物を…と意気込んでは見たモノの
書いて行くうちに見る見る軌道がずれてしまって…
なんだかゾ○ビ物になってしまいましたね。