風祭文庫・華代ちゃんの館






「世紀を越えて」



作・風祭玲


Vol.170





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



冬の夕日がゆっくりと山の中に吸い込まれ、

その残光が一瞬の輝きを増したとき、

俺は箒の動きを止めるとその様子をじっと眺めていた。

「はぁ……これが20世紀の夕暮れか…」

そう、今日は平成12年12月31日。

西暦に直すと2000年の大晦日

いままさに20世紀が暮れようとしていた一瞬だった。

「これっ、篤子やっ、ボャっとしている暇は無いぞ」

ナデナデ…

その声と共に俺の尻を撫でる感触が走る。

ゾワッ…

言いようもない悪寒が俺の背筋を走り抜けていく。

「くぉのスケベ爺ぃっ!!!」

ドカッ!!

俺は一瞬のうちに振り返ると、

スグ後ろで生息していた”それ”を思いっきり蹴り上げた。

あぁ〜〜〜〜っ!!

ドップラー効果によって歪んだ叫び声を残し、

”それ”は夕焼けに向かって飛び去っていく。

「ふんっ」

元の向きに戻って掃除の続きをしようと箒を持ち替えたとたん、

「これっ、おなごがそんな乱暴ではいかんぞ」

いつの間にか消えていったはずの”それ”が俺の目の前に立っていた。

”それ”の正体とは西脇玄三…俺の爺さんでこの月影神社の神主でもある…

ゲシッ

「俺は男だ!!」

俺は声が出るより先に殴ると、

「ほうほう…男とな?

 その割にはその巫女装束を随分と色っぽく着こなしているではないか
 
 それに、まだ”てぃ〜ん”のクセに化粧などもしておって…ん?」

玄三はそう言いながらにやけた顔で俺を眺める。

「うっ、うるせー」

「ほっほっほっ…

 人間素直が一番…
 
 色気づくとは誰ぞ恋人でも出来たかな?」

「…っテメ〜…

 己の人生が今世紀で終わりたくなかったら

 いまスグに俺の目の前から消えろ…」
 
フルフルと拳を持ち上げながら唸るようにして俺が呟くと、

「(ポン)さて、社務所の具合はどうかな…

 さぁ今夜は忙しいぞぉ〜それぇ!!」
 
と言う言葉を残して俺の尻を再び触ると疾風の様に消えて行った。

「じっ地獄に落ちろ!!

 このスケベ爺ぃ!!」

バキッ!!

俺の叫び声と共に手にしていた箒の柄が無惨に砕け散る。



言い遅れたが、俺の名は西脇篤志、高校2年生

好きな科目は国語と英語、嫌いな科目は数学かな?

クラブはクラシックバレエ部でぇ…

ケーキ作りが得意なのぉ……

ハッ!!

俺は何を口走っているんだ。

くっそぉ…最近、心の中までおかしくなってきた、

気がつけば学校帰りにケーキをパクついていたり、

部屋の中にはヌイグルミが増えていたり、

さらにタンスの中には…(…恥ずかしくて言えん、勝手に想像しろ)

そうだ、そもそもこうなったのは

あの日の朝…ここで”真城華代”と言う女の子に出会ってからだ!!

詳しい話はここの”天罰”にその経緯が掲載されているので

割礼(<違うだろ!!)割愛するが、

そう、あの日以降俺は女の子になってしまった。

そんな俺をみて親は驚くわ、爺は喜ぶわ、学校では騒がれるわと

まったく平穏な男子高校生としての生活は見事吹っ飛んでしまった。

えぇぃ…華代めぇ…

今度逢ったらこの身体を意地でも元に戻して貰うぞ!!!

っと俺は夕焼けを背に決意を新たにしていた。



「おーぉ、いたいた」

「おぉ〜ぃ」

突然後ろから声が掛けられ

振り向くとユニクロのジャンバー着込んだ男が3人

手を挙げながら俺に向かって歩いてきた。

「あん?

 おぉっ、北条に佐竹、浅井じゃねーか」

そう、連中は俺が男だった頃からの親友で

年末・年始の忙しいときにはバイトに来てくれている頼もしい即戦力である。

「バイトに来たぜ」

「爺なら社務所だよ」

っと俺が社務所を指さすと、

「了解!!」

そう言い残して北条と浅井が社務所に向かっていったが佐竹一人が

「………」

俺をじっと見つめていた。

「(ポッ)なっなんだよ」

顔を赤らめながら言うと、

「う〜む、巫女装束姿と言うのも、

 いやぁ…なかなかの物だなぁ…」
 
とまるで品定めをするがのようにして俺を眺める。

「くっ…佐竹…お前もかぁ…」

即座に奴の頬へと右ストレートを見舞わせたが、

パシッ

俺の拳は奴の頬の一歩手前で遮られるのと同時に

ヒョイと俺は奴の肩に担がれてしまった、

「はっ離せっ」

手足をじたばたさせていると、

「西脇っ、お前の気持ちもわからんではないが、

 少しは女の子としての実感を持ったらどうなんだ?

 いつまでも男のつもりで居ると思わぬケガをするぞ」

とまるで俺に言い聞かせるようにして言うとそのまま下に下ろした。

「男のつもり…」

その言葉を聞いたとたん

ジワッ

目から涙が溢れてくる。

「え?あっ…ごっごめんっ」

泣き出した俺を見て佐竹が狼狽え始めた。

「ばかぁ!!」

ゲシッ

言いようもない感情の盛り上がりに俺は奴の股間に一撃を咬ませると

そのまま境内を走りだした。

おっゴッ!!

佐竹は顔を青くして飛び跳ねる。

「くっそうっ…なんなんだコレは…」

涙を拭きながら走っていると、

「ほほぅ、それは乙女心じゃな」

玄三がのんびりお茶をすすりながら俺の横にぴったりと併走してそう告げた。

うわぁぁぁぁぁぁ〜っ

ドカッ!!

俺は玄三を思いっきりけ飛ばしたが

「乙女心…って」

俺は奴の言葉をを復唱するとその場に立ち止まって考えた。

「さようっ、

 篤子よ、お前には体に合わせて心も乙女になって来ているんじゃ

 だから…無駄な悪あがきは止めて…なっ」
 
と三度俺のお尻を撫でながら玄三がそう言う、

「くぉのっまだ懲りないかっ!!」

蹴り飛ばそうとしたとき、

「はははは…さらばだまた逢おう…」

玄三は俺の前から残像を残して消えていた。

「ふん、変態爺めっ

 それにしても、確かに爺が言う通りかも知れない…
 
 これは急いで華代を探し出さないと、
 
 俺は完璧な女子高生になってしまうぞ」
 
言いようもない不安が俺の心を鷲掴みにする。



「おい大丈夫か?」

「イテテて…

 あんにゃろう、男の痛み知っている筈だぞ…」
 
「その分、女の子になって来ているって証拠か?」

社務所の休憩室で北条達が話をしていると、

「さーさ、アルバイトのみなさん…

 日が暮れました、今夜は決戦態勢で行きますよぉ
 
 それまでじっくりと休養してくださいね」
 
っと玄三が集まっているアルバイト達に声を掛ける。

「ん?」

そのとき、窓際に座っていた浅井が

神社の境内に一人の女の子がポツンと佇んでいるのを見つけた。

「女の子?

 こんなに早く?」
 
彼が不思議そうに境内を眺めていると

それに気づいた佐竹が、

「どうした?」

と尋ねた。

「え?、あぁ女の子がね…あれ?」

再び視線を戻すと、いつの間にか少女の姿は消えていた。

「?」

「いや、なんでもない」

気のせいか…佐竹はそう思いながら答えた。



ちょうどその頃、掃除が終わった俺が箒を担いで社務所に戻る途中、

ふと社殿をみると、そこに一人の女の子の姿が目に入ってきた。

「かっ、華代だ!!」

瞬時に彼女をあの真城華代と判断した俺は、

吸い寄せられるようにして社殿へと走っていく。

「男に戻れる」

と言う淡い期待を持って…すると

「おぉ…ぃ、篤子や」

「あん?」

突然声がかけられたので声をした方を見ると、

社務所で玄三が俺に手招きしていた。

「なんだよぉ…」

「ちょっと来い」

「いま忙しいのっ」

「いいから…」

「ったくぅ」

進路を変えて社務所の手前まで来ると、

「いま忙しいって言っているだろう」

と文句を言うと、

「なぁ、こっちとこっち、どっちの袴がいいかのぅ」

っと2つの袴を出して俺に見せた。

「………まさか、それだけのために俺を呼んだのか?」

「女の子の意見を尊重しようと思ってな」

「ふざけるなっ!!」

俺は怒りながら社殿を見ると、

さっきまでいた華代の姿は社殿から消えていた。

「あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ぁ…」

俺が声にならない声をあげると、

「ん?何か居たのか?」

暢気に玄三が出て来ると俺の横に並びキョロキョロとあたりを見回した。

「なんだ、誰もいないじゃないか」

見上げながら俺に言うと、

「きっ貴様が呼び止めなければ、

 俺は男に戻れたものを…
 
 えぇいっ、お仕置きよぉっ!!」
 
ドカッ

俺は叫びながら思いっきり玄三を蹴り上げた。



紅白歌合戦が終盤に入り、

12時が近付いてくると参拝者ために境内に積み上げられた木材に火が入れられた。

パチパチと燃え上がる木材が合図になって、人々が徐々に集まってくる。

それに伴って、

「…はいっ、500円お納めください」

「はいっ、それは…」

お守りや破魔矢が飛ぶように売れ始めた。

無論、バイト部隊はフル回転を始めるものの

やはり世紀を越える為なのか参拝客は例年よりも多く、

てんてこ舞いの様相を呈してきた。


ゴォォォォン〜っ

近所の寺から除夜の鐘が鳴り響く、

「はぁ〜っ

 ちょちょっと一休み…」
 
運搬係の浅井達3人が交代のバイトと入れ替わるようにして休憩に入った。

「だぁぁぁぁぁぁ…」

「はぁ疲゛れた〜っ」

社務所の休憩室に入るなり浅井がドッと倒れ込んだ。

「おいおい、くたばるのはまだ早いぞ」

笑いながら北条が言っていると、

「だいぶお疲れのようですね」

と言う声と共にスタミナドリンクを持った少女が控え室に入ってきた。

「はい、コレ」

そう言いながら少女はドリンクを彼らに手渡すと、

「おぉ、サンキュー…」

グビッと北条と浅井がそれを一気に飲み干した。

「お兄さん達大変そうねぇ…」

「あぁ…」

「いま困っているコトってなに?」

少女の質問に、

「キミは?」

佐竹が訊ねると、

「あっ、ごめんなさい。ハイこれ…」

そう言って少女がポシェットから紙を取り出すと

彼らに一枚一枚手渡した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

とそれには書いてあった。

「真城華代…」

北条が名刺に書かれている名前を言うと

「う〜ん…どこかで聞いた名だなぁ…」

と首を捻った。

「そう言えば…」

浅井も同じように首を傾げると、

「へぇ…華代も有名になったんだ」

それを聞いた華代はご満悦になる。

「…ねぇねぇ…お兄さん達が何か困っていることはないの?」

華代の質問に

「そうだなぁ…人手が足りないってコトかな?」

北条が華代に説明すると

「人で?」

「海のヒトデじゃないよ」

「わっ判っているわよ(ちょっと想像しちゃったけど)

 人手となると、やっぱり巫女さんね…」
 
そう呟きながら華代が一人頷くと、

「うん、大丈夫…、華代に任せて…」

ドン

と華代は胸を叩いた、そして、

「じゃぁ行くね…

 そぉれっ!!」

とかけ声をあげた。

ブワッ

一陣の風が休憩室を吹き抜ける。

「うわっ、なっなんだ?」

北条達が突然襲ってきた風に驚きの声を上げたが、

スグに風はやみ、また、華代の姿も消えていた。

「あれっ?、華代ちゃん?」

北条がキョロキョロしていると、

「おっ、おいっ」

浅井がうわずった声を上げた、

「どうし…なに?」

振り向いた北条と佐竹は信じられない光景を目撃した。

そう、2人の後ろいた浅井の髪がジワ〜っ伸びていくと、

瞬く間に腰まで届くような長い髪になってしまった。

浅井の変化はそれだけではなく、

手が細く小さくなり、また胸に2つの膨らみが現れた。

シュルシュル

着ていた服が見る見る白衣に

また下着が襦袢へと変化していく、

「あぁぁぁぁぁ…」

真っ青な顔で出す声が徐々に女性の声へと替わっていくと、

それに合わせるようにして緋袴が現れるとギュッっと締め付けた。

「あんっ」

思わず声が漏れる。

ムクリ…

すっかり姿形が変わってしまった浅井が起きあがると、

「浅井…お前…」

北条と佐竹は信じられない物を見ているような表情で言うが、

「北条・佐竹…おっお前達も変身が始まっているぞ」

と巫女になってしまった浅井が北条と佐竹を指さしてそう言う。

「なに?」

そう、北条と佐竹も浅井のように見る見る髪が伸び始めていた。



「全く…この忙しいのになにやってんだぁ」

時間になっても姿を現さない3人にしびれを切らせた俺は

休憩室に向かうと休憩室から一人の少女が出ていくのが目に入った。

「華代…っ?

 まっ間違いないっ彼女は…真城華代だ…」

俺は華代に引き寄せられるようにして渡り廊下を走っていく、

そして休憩室の手前で

「まさか!!」

バン!!

俺はためらいもなく休憩室のドアを開けた。

「おいっ、お前らっ、大丈…

 うわぁぁぁぁぁぁぁ…」

そう、休憩室には北条達3人の男の姿はなく

替わりに長い髪を檀紙で包み、

水引で縛った3人の巫女が俺を見上げると、

「あっ篤志か…

 真城華代ってお前を女にした奴だったんだよなぁ

 (シクシク)俺達も女になっちゃったぁ〜っ」

と言いながら俺にすがってきた。

「えぇいっ、うっとおしいっ」

俺はすがる巫女達を足で払いのけると、

「まだ遠くに行っていないはずだ」

スグに華代の後を追い始めた。



ザワザワ…

境内は相変わらず参拝者でごった返している。

「そうねぇ…3人だけじゃぁまだ足りないわね」

華代は社殿の上から参拝者達を眺めると、

「よしっ、

”新世紀おめでとう特別出血大サービス”

 この華代が巫女さんの大増員をしてあげるね」

と言うと、華代は両手を高く上に上げると、

「そうれっ!!」

と声高く叫んだ。

すると、

ゴゴゴゴゴゴゴ…

ドハッ!!

地鳴りと共にまるで津波のようにして華代から発せられた風は

くまなく境内を吹き抜けていった。

「わぁぁぁぁ」

「きゃぁぁぁ」

「いやぁぁぁぁ」

突然巻き怒った風に参拝者達が一様に驚くと、

続いて起こった信じられない出来事に声を出すことが出来なかった。

「うわっ、なんだコレ?」

「えぇっ」

「きゃぁぁぁぁ」

そう、参拝者達が次々と巫女へと変身し始めていた。

「なんじゃ?」

玄三は信じられない光景を目撃していた

そう、彼の目には境内にいる者達の姿が

皆巫女へと変身していく様子が映し出されていた。

「ぱっパラダイスじゃ」

玄三は一歩前に出ると、

「”ぱらだいす”じゃぁぁぁぁぁ」

と叫びながら境内を走り回り始めた。



「真城華代、どこだぁぁぁぁ!!」

俺が大急ぎで境内に戻るとその惨状が目に飛び込んできた。

「うわぁぁぁ〜っ

 何じゃコレは…」
 
俺が目撃した境内はまさに至るところ逃げまどう巫女達で埋まり

その中に一匹

「ぱらだいすぅ〜」

と叫び声を上げている玄三の姿があった。

「くぉらっ」

俺は玄三をひょいとつかみあげると

「貴様、何をしているっ」

と迫ると、

「よっよう、篤子か…

 見てごらん!!

 パラダイスだよパラダイス…」

玄三は大混乱に陥っている境内を指さして声を上げた。

「真城華代だよ!!

 彼女が現れたんだ!!」

俺は玄三の耳に思いっきり怒鳴った。

「それにしても…

 華代の奴…何処に消えたんだ?」

華代の姿を求めて境内をいくら見回しても彼女の姿は見つからなかった。

「おっ、あんな所におなごが…」

「なに?」

俺は玄三が指さした社殿の屋根を見るとそこに一人の女の子が立っていた。

「真城…華代…」

俺はそう呟くと、

「クスっ…ではみなさん、良い新世紀を…」

華代はそう告げるとポンっと大きなバルーンを出すと、

フワリ

彼女の姿が夜空に浮かび上がる。

「こらぁっ!!、俺を男に戻せっ」

俺は思いっきり怒鳴ったが、

華代はそんな俺を後目に夜空の彼方へと消えていった。

「ちくしょう…行くのならあたしを元に戻してからにしてぇ…」

俺の叫び声がむなしく夜空に消えていった…



新世紀、明けましておめでとうございます。

真城華代ですっ。

20世紀の大晦日、2世紀詣でのつもりで神社に行ってみたら

新たな依頼人に出会えるなんてラッキーでした。

さてみなさんは初詣にはもぅ行かれましたか?

普段あまり行かない人もせめて100年に一度くらいは行った方がいいですよ。

さて、20世紀の華代の物語もココで一区切り、

再びお会いするときはずっとグレードアップした華代があなたをお待ちしています。

ではまた逢いましょう…じゃぁねっ。



それにしても何故あのお爺さんは変身しなかったんだろう…



おわり