風祭文庫・華代ちゃんの館






「プレゼント」



作・風祭玲


Vol.162





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



”ジングルベール”

”ジングルベール”

と言うわけで世の中は20世紀最後のクリスマス(商戦)の真っ最中

そんな街中を花束を片手に一人の男が急ぎ足で歩いていた。

「やば…」

彼は腕時計を見ると小走りになる。

やがて目的の駅が見えてくるとホッとしたのもつかの間、

目前の歩行者信号が点滅をし始めた。

「ちっ仕方がないっ」

彼はダッシュで走り始めたとたん、

建物の影から飛び出てきた女の子とぶつかってしまった。

キャッ(ドタン)

「ごっごめんっ、急いでいたもので」

悲鳴を上げて倒れた少女を彼は抱き起こすと、

「大丈夫だった?(キラ☆)」

っと歯を輝かせながら尋ねた。

「え?(ポッ)」

少女が彼の顔を見て顔を赤らめていると、

「ごめんね…」

と再度謝った。

「いっいえ…前をよく見てなかった私が悪いんです」

少女はそう言って立ち上がったが、

「あっ」

彼女の下から潰れた花束が出てきた。

「あらら…

 まぁ仕方がないな、信号を無視しようとした罰だなこれは」

頭を掻きながら彼が言うと、

「ごめんなさい」

少女が頭を下げた。

「君のせいではないよ、潰れた花はもぅ一度買い直せばいいんだから」

「でも…」

「じゃね」
 
彼はそう言い残すと青信号に変わった横断歩道を渡り始めていた。



「どうしたの?」

彼の消えた横断歩道を眺めながら少女がたたずんでいると、

彼女に声をかけた別の少女が居た。

「はい?」

少女が振り向くと、

ニコッっと彼女が笑いそして

「はいコレ…」

と言って一枚の名刺を彼女に手渡した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

とそれには書いてあった。

「華代さん?」

「うん…

 何か悩み事?」
 
「………」

少女は一瞬黙ると、

「実は…」

と事の顛末を華代に説明をした。

「ふむふむ…、

 じゃぁ、その人にお花の弁償をしてあげたいのね」

説明を聞いた華代が言うと

コクン

少女は頷いた。

「よしっ、判ったわ

 後はこの華代に任せて」
 
華代は少女にそう言うと駅へ向かって走っていった。



「ん〜と、

 電車はまだ着ていないからきっとホームに居るわね」

時刻表を見て華代はそう言うと改札を抜けホームに降り立った。

程なくして少女が言っていた彼の姿を見つけた。

「あっ居た居た…あれ?」

そう、彼の手には新しい花束が握られていた。

「そっか…新しいのを買っちゃたのか…」

チッ!!

華代は軽く舌打ちをすると、

「でも、華代の本領はこれから…

 恐らくあの花束は誰かさんへのクリスマスプレゼントね」

 よしっ、それなら…

 この華代ちゃんがクリスマスにふさわしくコーディネートしてあげる」

っとそのときホームの壁に貼ってある新型携帯電話の広告が華代の目に入った。

『コレ一台で、もぅあとは何もいらない!!』

と言うキャッチコピーが踊っているポスターを見ながら、

「ドコデモの新しいのが出るんだ…

 へぇぇぇ…さすがは天下のSOMYねっ
 
 今度のは300万画素・光学24倍のデジタルビデオがついて…

 わっ、しかもMDにトライステーション3
 
 さらにはDVDにプリンターまでついちゃって…

 携帯電話の競争って激しいって聞いていたけど
 
 ココまで来ると執念を感じるわ…
 
 でもよく折り畳みの携帯サイズに押し込んだわね…変形するのかな?
 
 あら?………」

そう…華代はにこやかにその携帯電話を持つアイドルの姿を見てポンと手を打った。

「そうか…よぉしっコレで行こう!!

 そうれっ!!」

そう言って彼女が両手を挙げかけ声と同時に華代が手を振り下ろすと、
 
ゴンッ!!

一陣の風が花束の彼に向かって突き進んでいく、

『まもなく1番線に上り電車が参ります…』

駅の放送が入り彼がふと見上げたとき、

ブワッ

突風が彼の身体を吹き抜けていった。

「うわっなんだ?」

不思議そうにキョロキョロしている彼の姿を見ながら

「よしっ任務終わり!!

 良いクリスマスイブを楽しんでね」

華代は満足そうに頷くと入って来た電車に乗り込んだ。



タタン・タタ・タタン

電車に揺られながら望田和彦は身体の異変を感じていた。

ムズムズ…

「なんだ?、これは」

電車のドアにもたれ掛かりながら和彦は身体の様子が

少しずつ変わってきていることに気づいた。

体中が妙にムズ痒い…

…しかし、掻きむしるほどでもない。

「当たるようなもは食べた覚えはないんだけどなぁ」

そう思いながらも自然と手が胸のあたりを掻いていた。



電車を降りた和彦が恋人の斉藤明奈との待ち合わせ場所へと向かうと

クリスマスのイルミネーションが灯る待ち合わせ場所に

彼女の姿があった。

「いやぁ…お待たせお待たせ…」

花束を片手にそう言いながら和彦が明奈に走り寄ろうとしたとき、

ビクゥッ

胸のあたりから言いようもない快感が体中に走った。

「!!っ

 なんだ?」
 
和彦は一瞬立ち止まると自分の胸を触った。

すると

ビクッ!!

再び快感が走る。

「あんっ!!」

思わず和彦の口から喘ぎ声が漏れた。

「っ!!」

和彦はそこが駅前だと言うことを思い出すと慌てて口をつぐんだが、

幸い駅前の雑踏に彼の喘ぎ声がかき消されていた。

しばらくの間立ちつくしていると、

「和彦さん、どうしたの?」

和彦を見つけた明奈が走り寄ってくると顔をのぞき込むなり。

「顔色が青いわよ?、どこか具合が悪いの?」

と尋ねた。

「そっそう?、たっ大したことはないよ」

和彦が慌てて取り繕うと、明奈はシュンとした表情をすると、

「……ごめんね…」

「え?」

「迷惑だった?」

と和彦の顔を見上げながら言う、

「ぜっ全然!!、だっ大丈夫だよ

 さっいっ行こうか」

和彦が明奈の腕を取って歩き出そうとしたとき、

ムリッ

突然彼の胸が重くなり始めた。

「…なんだ?」

反射的に手で胸を探ると掌にゆっくりと膨らんでいく肉の感触が伝わってくる。

「な゛っ」

思わず上げた足が止まる。

「?」

明奈は和彦の顔を見る。

ムリムリ…

胸の膨らみはお構いなしに増し、

すぐにコートの上からでもその存在がくっきりと目立ってきた。

「かっ和彦さんそれ…」

「こっコレは…」

驚きの目で和彦が膨らんでいく自分の胸を眺めていると、

パサッ

いつの間にか彼の髪が伸び肩に掛かり始めていた。

それに併せて股間の重みが徐々に小さくなっていく

明奈はただ呆然と和彦の変身を眺めていた。

なんだ?

どうした?

駅前をせわしく行き交う人たちも足を止め彼の変身ショーを見物し始めた。

ググググ…

和彦の足が内股になっていくと、

体格も徐々に小さくなり、着ていた服がだぶつき出す

そして程なくして彼の視線は明奈と同じくらいの高さになった。

明奈は和彦と握っていた手をふりほどくと一歩彼から離れた。

「あっ待って…」

と和彦は声を出したが、

彼の口から出た声はオトコの声ではなく、

女性の鈴のような音色になっていた。

スト…

支えを失ったズボンがずり下がる。

「…なんで、なんで」

繰り返し和彦はそう言い続けていたが

身体の変化が止まると、次は着ている衣服の変化が始まった。

シュワァァァァ〜っ

コートがまるで蒸発していくようにして消えると、

だぶついていたズボンがしぼむようにして彼の足に張り付き、

ジワッ

見る見るシースルーのタイツへと変化し彼の美しい脚線美が丸見えになった。

さらに、上着が消え、

後に残ったシャツが紅く染まりながらその裾が伸びて彼の股間で覆うと、

一方で見事に膨らんだ胸を下から締め付けるようにして持ち上げる。

胸元から上の部分が消えて肌の白い彼の肩が露出すると、

シャツの縁に白い綿毛のようなのものが生え始めた。

「…………」

和彦の口から声は出なくなっていた。

腰には黒いベルト、

首にはチョーカー、

そして手首にはカフスが次々と巻かれてゆく、

やがて靴が紅いブーツとなって彼の膝下を覆うと、

ポン!

お尻には白いうさぎの尻尾のようなボンボンが姿を現した。

ニョキッ!!

サラサラの長い毛が光輝く頭の上に深紅の2本の耳が立つと、

いつの間にか両耳の間にサンタ帽が姿を現した。



「……………」

駅前からすべての音が消えた。

その中心には白い縁取りが入った紅いバニースーツを着た少女と

彼女の傍で腰を抜かしているもぅ一人の少女

そして、声を出すことを忘れたギャラリーが居た。


「あっサンタさんだぁ!!」

その子供の声で止まっていた時計が動き始める。

「こっこれは…」

ようやく変化が止まった自分の身体を見下ろして和彦が声を上げると

「そんな…そんな…」

その一部始終を目撃していた明奈は彼以上にショックを受けていた。

「いっいや…あの…これは…その…」

ハッと我に返った和彦が言い訳をしようとしていると

「そんな…和彦さんが女の子だったなんてぇっ!!!…」

と叫び声を挙げた。

「え゛っ?」

呆気にとられる和彦。

「酷いですぅ…あたしをずっと騙していたなんて…」

泣き崩れる明奈に、

「いや…そうじゃなくて…これは突然…」

必死になって和彦が言い訳をすると、

「………判りました。

 ……やっぱりあたしには男運が無かったんですね」

「そうじゃなくて…こ・れ・は」

なおも言い訳をしようとしている和彦に、

「…いえ、騙された私が悪いんです…」

「違うって…」

「どこにカメラがあるですか?」

と言いながら明奈が左右をキョロキョロすると

「これ”どっきり”なんでしょう?」

と和彦に言った。

…なぁんだ…そうか

彼女の発言に事態の意味が分かったギャラリー達も散り始めた。

「へ?」

その意味が分からない和彦がキョトンとしていると、

「これまで色々ありがとうございました」

明奈はそう言って深々と頭を下げると改札口へと走って行く。

「おいっ明奈…違う、待ってくれ」

和彦がそう言って走り出そうとしたとき、

ズデン!!

はき慣れないブーツが滑って彼は思いっきり転んでしまった。

「いてて…

 まっ待ってくれぇ、違う、違うんだ」

起きあがってなおも声を上げていると、

「よう、おねぇちゃん!!、

 サンタ・バニーとはあのポスターのコスプレ?
 
 粋だねぇ…

 どう俺達と一緒に遊ばない?」
 
いつの間にか和彦に大学生くらいの男達のグループが声をかけてきた。

「ちっ違う!!」

「まーまー」

「そうじゃなくて…」

「よしっ、今日はクリスマスだし俺達のおごりでいいからさ」

「だから…」

「いいじゃん、行こうよ」

彼らは和彦の肩を担ぐとそのままイブの街へと消えていった。



今回の依頼も実に簡単でした。

駅にあった携帯電話のポスターを参考にしたんですが

気に入っていただけたかな?

みなさんももし困ったことがあったら気軽に華代に相談してくださいね。

では、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり