風祭文庫・華代ちゃんの館






「海の家」



作・風祭玲


Vol.135





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



ザザーン

ザザザザ…

波の音が響く真夏の砂浜…

”行ったわよぉ…”

”そーれっ”

ビーチボールでバレーを興じる女の子のグループや

”お兄ちゃん待ってよぉ”

”きゃははは”

波に戯れる家族連れ…

そう、今年の夏は例年にない猛暑のために、

どこの海水浴場も海水浴客でごった返し、

そのおかげでどの”海の家”も大いに繁盛していたのだが…



チリン…

風に吹かれた風鈴の音色が店内に響く…

「はぁ暇だぁ〜っ」

「ホント、暇だな…」

人気のない海の家にアルバイト店員の川崎智貴と桜井武の声がむなしく響く…

「何でこんなに暇なんだろう…」

「まぁ、客がいなくっちゃぁ、店員は暇だわな…」

テーブルに頬杖をつきながら二人はモノトーンの世界から

外の光の世界を眺めていた。

「………」

ガタン!!

智紀はおもむろに立ち上がると、

「先輩〜っ、ホントに大丈夫なんですか?」

店先で元気よく体操をしている彼らの先輩である

山辺拓也に話しかけた。

「何を言っておるっ、

 今日はダメでも明日にはドバッとピチピチのギャル達が押し寄せてくるわっ」

至って自信たっぷりの返事をする山辺に

「そのセリフ…昨日も聞きましたよ…」

智紀は顔をしかめながらそう返事をすると

「ホントにこんな調子で”真夏の出会い”なんてあるのかな」

そう言いながら武の顔を眺めると、

彼は肩をすくめて”さぁ?”と言うポーズを取った。



そもそも事の発端は、

夏休み前、

智紀と武が

「あ〜ぁ、どこかいいバイト先がないかなぁ…」

「出来れば、ひと夏の出会いがあるバイトがいいなぁ」

などと言っていたときに

「おぅ、お前らっ、いいバイト先があるぞぉ〜っ」

と誘ってきたのがこの発端だった。



「はぁ〜っ、こんな事なら別のバイトを探せば良かった」

と智紀がぼやいていたとき、

「………くぉらっお前らっ!!

 そんなところでくちゃべっている暇があるなら、

 さっさと客の呼び込みでもせんかっ」

調理場からひげを生やした”海の家”の主人が出てくるなり

智紀達に向かって怒鳴り声をあげた。

「…やべぇっ」

まるで蜘蛛の子を散らすようにして智紀達は外へと出ていった。

「全く…、最近の学生ときたら…」

腕組みをしながら主人は彼らの後ろ姿を眺めていると、

「その通りですなっ、最近の学生は根性が無いですな」

と主人の横で余裕たっぷりの山辺…

「…………そこで何をしている…」

主人はジロリと山辺をにらみつけると

「お・ま・え・も客を呼んでくるんだ!!」

と念を押すように彼の胸に指を突き立てるとそう命令した。

主人の気迫に山辺は一瞬たじろぐと

「……行って来ま〜す」

と言う言葉を残して彼の前から走り去っていった。



真夏の太陽がほぼ空の中央にさしかかった頃…

「くっださいなっ」

その海の家に女の子の声が響いた。

「………」

「くっださいなっ」

「………」

「あれ?、誰もいませんか?

 お休みなのかな?」
 
いくら呼んでも返事が返ってこない様子に少女が不思議がっていると

「いらっしゃーぃ」

突如少女の頭の上から声が降ってきた。

「うわっ!!」

驚きの声を上げて華代は数歩下がって視線を上に移すと

ひげ面の男の顔が空中に浮かんでいた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

少女の悲鳴が店内に響いた。

「あっ、脅かしてすまんすまん」

「え?」

少女がよく見ると、

それは幽霊でなく海の家の主人だった。

「ご注文は何を?」

「かっかき氷を…」

恐る恐る少女が言うと

「かき氷ひとつ毎度ありっ」

彼がそう言うと、

ドン!!

っとイチゴのシロップがかけられた山盛りのかき氷が

少女の目の前に差し出された。



チリリン…

涼しげな風鈴の音が響くなか

シャクシャク…

波の音と少女がかき氷を食べる音のみが店内に響くなか、

「そうですか…」

少女はかき氷を食べながら主人から悩み事を聞いていた。

「はい…」

深刻そうな表情の主人の手には一枚の名刺が握られ、

そしてそこには

”ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代”

と言う文章が書かれていた。

「…この通り、立地条件はいいのですが、

 こういうわけか客が来なくなってね…」

そう言いながら主人は閑散を言う言葉を通り越している店内を眺めた。

「何か対策は?」

華代が聞き返すと、

「…無論私も色々と手は打って見たんだが、

 …どれも…」

と返事をする主人の顔は曇っていた。

「ふぅぅぅぅん…」

華代が店内を眺めてみると、

大幅にディスカウントされたメニューや商品が並べて居るのだが、

どれも砂埃をかぶっていた。

「なるほど…

 そうですね…」

そう言いながら華代は頷くと、

「何か判りましたか?」

主人は華代に詰め寄った。

「えぇ、あたしの考えを言わせていただきますと」

シャク

華代はかき氷を一口口に運ぶと、

「…ココには華やかさがありませんね」

と断言した。

「華やかさ?」

「そうです、要するに女性の姿です」

華代はそうきっぱりと言い切ると主人は

「そりゃぁ女性のバイトも募集したのですが、

 集まってくるのはなぜか男ばかりで…」

とため息混じりにポツリと言うと、

ニコっ

華代は微笑み、

「………なんだ、アルバイトさんが居んじゃないですか

 じゃぁ、その人たちでココを華やかにしましょう」

と言った。

「え?…でも、男ですよ、ウチのバイトは…」

困惑している主人に

「大丈夫、大丈夫!!

 心配しないで、あたしにすべてを任して下さい」

華代は言いながら勢いでかき氷を一気に飲み干した途端、

頭を押さえてしゃがみ込んでしまった。

「どうしました?」

心配顔の主人に、

「……あっ頭が痛い…」

「………」

そう訴えかける華代に注がれる主人の視線はどことなく冷淡だった。



程なくして

「はぁ〜っ」

「結局客は見つからなかったな…」

などと言いながら智紀達が戻ってくると、

「お帰りなさ〜い」

華代が彼らを出迎えた。

「なっなんですか、この女の子は…」

突然現れた華代の姿を見た武が驚きの声を上げると、

「はいこれ」

と言って華代は名刺を一枚一枚彼らに手渡した。

「コンサルタントか何かですか?」

名刺に書かれている文句を読んだ山辺が華代に訊ねると、

「えぇ…まぁ、そう言った筋の者です…

 それでぇ…ここのご主人から依頼されたのですが…」

「はぁ?」

「海の家の繁盛のために一肌脱いでくださいな」

とニッコリとしながら華代は言った。

「一肌脱ぐって?」

武と智紀が顔を見合わせたとたん、

「……とは言っても、何がいいかなぁ…

 ”アンミラ”や”馬車道”はちょっとインパクトが足りないし…」

華代は考えるそぶりをしながらそう呟くと、

壁に貼られている一枚のポスターが目に入った。

それは某ゲームメーカーのポスターで

バニースーツ姿のお姉さんの姿が大きく描かれていた。

「先輩〜ぃ、

 また勝手にこんなのを貼ったんですかぁ〜?」

ポスターに気づいた武が山辺を軽蔑の目で見ると、

「ばっっか者っ!

 バニーこそが女性の究極の美!!

 バニーガール以外は一切認めん!!!」

と高らかに宣言した。

「あ〜ぁ、また始まったよ…」

「先輩のバニーフェチも困ったもんだよなぁ」

と智紀達が話し合っていると、

ぱぁぁぁぁぁ

華代の表情は一気に明るくなり、

「ありがとうございますっ

 そうですよねっ
 
 バニーですよねっ」
 
華代はそう言いながら山辺にしきりに握手したあと、

「じゃっ、行きますよっ

 それぇっ!!!」

とかけ声を発した途端

ドンっ!!

華代の周りから一陣の風が巻き起こると

みるみる辺り一帯へと広がっていった。

「いっけなぁ〜ぃ、力入れ過ぎちゃった!!」

華代が叫んだのと同時に

「うわっ」

「なっなんだ」

智紀達が叫び声をあげた。



そう、声を上げた2人の胸に突如プクリとした2つの膨らみが現れると、

ムクムクと隆起し、

やがてプルンと揺れる見事な果実に成長して

シャツを下から押し上げた。

「わっ!わっ!!わっ!!!」

揺れる胸を押さえながら2人が狼狽していると、

今度は

シュルルル…

2人の背丈が頭一つ分小さくなると、

日に焼けた肌は白く…

さらに、手足が細くなっていった。

「………」

店の奥にいた主人はポカンと口を開けて智紀達の変身を眺めていたが、

そう言う彼自身も、生えていた髭や胸毛などが消え

そして、胸が膨らんでいた。

「わっ、ナイッ、無くなっているっ!!」

股間の異変を感じ取った武が叫び声をあげると、

「ホントだ俺のも無くなってるよ!」

続けて智紀も声を上げたが、

その声色は女性を思わる声に変化していた。

「ふはははははっ、

 何のこれしきっ」

変身が始まってもあくまで平静を装う山辺だが、

その表情は引きつっていた。



ススス…

短かった彼らの髪が背中まで届き始めると

シュツ

武達のシャツが空気を抜いたようにピッタリと肌に張り付いた。

そして、スルスルスル…

と半袖の袖口が肩に上がっていくと、

そのまま肩を露わに、

さらに胸元まで露出させると

キュッ

と胸周りを締め上げると見事な胸の谷間を見せつけた。

「………」

引きつったままの智紀の頭に

ニョキッ

とウサギの耳を思わせる二本の耳が立つと

両腕にはカフスが姿を現し、

さらには、首に蝶タイがしっかりと絞められた。

そして、シャツが黒く染まりながら

裾がゆっくりと伸びると股間で1つにつながり、

さらに、ボンボンのような尻尾が現れると

シャツは怪しい光沢を放つハイレグのバニースーツになってしまった。

また、短パンはすでに網タイツに変化して、

ムッチリとした脚を包み込むとそれを怪しく表現し、

サンダルは黒いエナメルのハイヒールへと変化していた。

「おいっ」

「おっお前…ばっ…」

2人がお互いの姿を見ている間にも

ほっそりとした女性顔に変わった彼らに次々とメイクが施され、

そして、唇に真っ赤なルージュが引かれると

お色気たっぷりのバニーガールに変身してしまった。



しかし、変化は智紀達だけで終わりではなかった。

華代の発言通り

彼女から発せられ勢いに乗った風は次々と海水浴客を襲い…

もといっ海水浴客を吹き抜けていった。



「…おぉい、冷えたビール持ってきたぞ」

ビールのケースを持ちながら

仲間の元に駆け寄ってきた青年が

ブワッ

と風に包まれたとたん、

ニョキっ

ポン!

ウサギの耳が頭に生えると瞬く間にバニーガールに変身した。

「うわっ、何コレっ」

「なっなんだ、お前っその格好はっ」

仲間の男が声を上げたとたん

ポン!

ポン!!

彼らも続いて変身した。



そして、

風が吹き抜けた家族連れには

「ママぁ…」

「どうしたのマーちゃん?」

海パン姿の少年が母親のところに駆け寄ってくると

「…身体が変…」

と言う言葉を言葉を残して、

ポン!!

少年はナイスバディの立派なウサギ娘に成長した。

「きゃぁぁぁ…」

悲鳴を上げた母親もむっちりとした熟女の香りが漂うバニーに変身し

「どうしたっ」

起きあがった父親もバニーに…



「おいっ、大丈夫かっ」

「しっかりしろっ」

海で溺れていた人を浜辺まで運びあげた筋肉モリモリ・競パンモッコリの

ライフセイバーの厳つい身体のお兄さん達もご多分に漏れず…

ポン!

ポン!!

ポ・ポン!!!

っとお色気たっぷりのバニーのお姉さんに変身していった。



ワーワー

キャーキャー

大勢のバニーガール達が騒ぐ砂浜を見つめながら、

智紀達と同じようにバニーガールに変身していた山辺は

「ぱっパラダイスだ…」

と半ば呆然と眺めているのとは対照的に

「…どうやら…真夏の出会いは無理みたいだな…」

智紀と武はお互い抱き合って泣いていた。

そして、その傍らでは

「ちくしょう!!、いっそ商売替えでもするか…」

黙々とトウモロコシを焼いているバニー姿の主人がいた。



今回の依頼も実に簡単でした。

いやぁ、いいヒントを頂きました。

接客業をするならやっぱりバニーさんじゃなくっちゃね。

さぁこれでこの海の家も商売繁盛間違いなしっ

でも、力み過ぎちゃったのは失敗でした。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり