風祭文庫・華代ちゃんの館






「妖精」



作・風祭玲


Vol.134





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「やーぃ、”うそつき”香織がやってきたっ」

放課後の校庭に少年達の声がわき上がる。

「香織っ、”うそつき”じゃぁないもん!!」

その声に負けじと少女の声が上がった。

「”うそつき”じゃないか」

「香織、嘘なんかついてないもん!」

「へぇ…妖精が居るって言っているじゃないか」

「居るわよ、妖精さんは」

少女は真顔で少年達に言い返す。

「だから、うそつきって言うんだよ」

「妖精なんか居ないっておれの兄ちゃんが言ってたぞ」

「そうだそうだ…」

「だからお前は”うそつき”だ!!」

そう次々と少女を攻める少年達の言葉に、

「…香織…信じているもん妖精さんが居るって…」

やや泣き顔になりながらも賢明に言い返していると、

「こらっお前らっ、また佐藤を虐めているなっ」

一人の男性が駆け寄ってくるなり少年達を一括した。

「やべぇ…東山先生だ…」

少年達は直ぐに逃げ出そうとしたが、

すぐに彼らの逃げ道に彼は仁王立ちとなって立ちはだかった。

「お前ら…あれほど虐めをしちゃいけないっているだろうが」

東山孝はそう言うと彼らをにらみつけた。

「…だって、佐藤の奴、妖精がいるなんて言うんだよ」

「”うそつき”を”うそつき”と言ってどこが悪いんですか先生?」

少年達は孝にくってかかるが、

「だからといっていじめをして良いって訳ではないだろう」

とたしなめる。

「…………」

少年達が不服そうな顔をしていると、

「妖精さんは居るわよ絶対に…」

佐藤香織はそう呟いた。


「(ふぅ)…佐藤…

 お前の気持ちも分かるが、

 あんまりみんなを惑わす様なことは言わないようにな…」

孝は鼻でため息を吐きながら香織にそう言って注意すると、

「………」

香織はじっと孝を見つめていた。

その時、

「あら東山先生って子供の心を踏みにじるんですか?」

と女性の声。

「え?」

孝が顔を上げると、一人の女性が彼に近づいていた。

「あっ、緑川先生…」

孝は彼女の突然の出現に孝が驚いていると、

「妖精はちゃんといるわよね…」

緑川綾子は中腰になると香織に優しく言った。

「うん…」

見方を得たのか香織が元気に頷くと、

「緑川先生…困ります…」

孝が迷惑そうな顔をしていると、

「先生…いまの教育にかけているのは、

 夢をはぐくむ事だと私は思っています。

 だから彼女のような夢をあたしは壊したくないんですよ」
 
そう言いながら綾子が孝を見つめると、

「…そっそうですね」

赴任してきてまだ間もない彼女に心を惹かれている孝は、

そんな彼女の視線に思わず硬直するとそう答えた。


「あれ?、その少女は?」

孝が綾子の隣に立っている少女に気がつくと、

「えぇ…華代ちゃんと言って、

 さっき出会ったんですが

 なんでも、どんな事でも解決してくれるとか」

と少女の紹介をした。

「中学生じゃぁないんですか?」

孝はいぶかしげに少女を見ると、

「はい…これ…」

と言って少女は一枚の名刺を孝に渡した。


「『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代?』

 ふぅ〜ん…」

孝が名刺を読みながらそう言うと、

「うんっ、何でも相談して…」

華代は笑みを浮かべながら孝に言った。

「相談ねぇ…」

孝はしばし考えると、

…そうだ、緑川先生との間を取り持って貰おうか…

そう思いつくと、

「あっ、あったよ…華代ちゃ…

 あれ?」

孝は華代に声を掛けたがいつの間にか彼女は綾子のそばを離れ、

香織としゃべっていた。

「そうよ、妖精さんはいますよ」

「でしょう?、あたしも信じているのよ」

「うんうん」

そして、いつの間にか2人は意気投合をしていた。

「帰ろうぜ…」

「あぁ…」

場の雰囲気が変わったのを見て少年達は帰り始めていた。

とそのとき、

「大丈夫、華代おねぇちゃんが妖精さんに会わせてあげる」

と華代が叫んだ、

「ほんと?」

目を輝かせて香織が華代に聞き返した。

「うん…」

華代は笑顔で頷くと、

「いいんですか?
 
 そんな約束をして…」
 
心配顔の孝が華代に耳打ちすると、

「大丈夫ですよ!!

 そうれっ」

華代がかけ声を上げると、

ぶわっ

一陣の突風が孝の身体を吹き抜けていった。

「わっなんだ?」

突然のことに孝が驚くと、

ムクリ

彼の身体が波打った。

「え?」

ムクムクムク…

見る見る彼の胸に2つの膨らみが盛り上がると

シャツを下から押し上げた。

「こっこれは…」

「東山先生…」

孝の胸に現れた見事な乳房に綾子も驚くと

グググ

孝のウェストが細くなり、

さらにヒップが大きく張り出した。

そして肩がなで肩にかわったために、

ズルリ

彼の着ている衣服がずれ落ち始めた。

「わわわわ…」

その様子に慌てた孝が声を上げると、

まるで、鈴の音のような女性の声があたりに響いた。

「………」

少年達も目の前で起きている不可思議な現象に

ポカン

と口を開けて眺めていた。


ツンっ

いつの間にか起立した乳首がシャツの上にその影をつくると

敏感に孝を刺激した。

「………くっ」

それに耐えかねた孝が思わずしゃがみ込むと、

股間にあった男の逸物が無くなっていることに気づいた。

「無いっ…あたしの………そんなぁ」

両股をそろえて股間を押さえながら中腰になっている孝を見て華代は

「えっと…妖精さん妖精さん…それっ」

再び声を上げた。

シュルシュルシュル…

見る見る孝が着ているシャツから袖が消えると、

肩ひもを残して彼いや彼女の肩が露出した。

「いやっ」

露出した肩を孝が両手で押さえた。

しかし、変化はそれで終わることなく、

今度は履いていたズボンが白いタイツに替わると、

ふっくらと女性化した彼の足を美しく表現していった。

「………」

綾子は口を開いたまま声を出すことが出来ずに

ただ、孝の変身を見つめていた。

「あっ綾子さん、そんなにあたしを見つめないで…」

顔を赤らめながら孝はそう呟くが、

ピタリ…

彼の肌に密着したシャツが真珠色の光沢を持つ素材に変わると

ファ…

膨らんだ孝の胸を包み込むと、

キュッ

胸を持ち上げて胸の膨らみを強調した。

サラサラサラ

そして、その胸のところに鳥の羽のを模した飾りが姿を現すと、

さらに、それを彩るようにして刺繍が次々と施されていった。

また、シャツの裾が彼(彼女)の股間でつながると

薄いチュールのスカートが一枚、また一枚と

腰のあたりから生え始め、彼をあるものへと変身させていった。

「バレリーナ…」

そんな彼の姿を見ながら綾子はふと呟いた。

シュルル

薄いピンクのトゥシューズが孝の足を包み込むと、

彼の髪はスルスルと伸びると引っ詰めのオダンゴ頭にされ、

さらに、白い羽の髪飾りとティアラが彼の頭を彩った。

「イヤイヤイヤ…」

そう言いながら嫌がる孝の顔に、

濃厚なメイクが次々と施され、

最後に赤いルージュが彼の口に引かれると、

孝の変身は終わった。


「……………」

沈黙する周囲に下校を促す放送が流れはじめた。

しかし、

かかってきた曲は何時のではなく、

なぜか”白鳥の湖”の曲だった。

「あっ」

バレリーナになった孝は声を上げると、

すっ

と立ち上がると、香織に向かって片膝をつくお辞儀をした。

そして、曲に併せて華麗に舞い始めた。

「うわぁぁぁぁぁぁ〜っ、妖精さんだ!!」

目をキラキラさせながら香織は声を上げる。

「………」

しかし、綾子はまるで妖怪と出会ったような顔をして

孝の舞台を眺めていた。

「そうそう、お姫様には王子様が必要よね…」

華代はそう言いながら綾子をチラリと見ると、

ゾクッ

綾子の背筋に冷たいものが走った。

「あっあたしは…」

そう言って綾子が一歩下がったと同時に

「それぇ…」

華代のかけ声が上がった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

綾子の悲鳴が上がると彼女の居たところには、

厚手のタイツに浮き上がった股間の膨らみを恥じらう、

筋骨琢磨しい王子が立ち、

そして、華麗に舞う白鳥の姫にそっと近寄ると

彼女大きく空へと羽ばたかせ始めた。

そのあまりにもの美しさに香織は声が出なかった。


「う〜ん、バックがいないと寂しいわね」

2人の舞いの物足りなさに華代が気がつくと、

唖然と孝達の舞いを眺めている少年達を見て、

「そうだ…あなた達も、そうれっ」

「うわぁぁぁぁぁぁ〜っ」

華代のかけ声と少年達の悲鳴が校庭に響きわたると、

白銀のチュチュを身にまとった可愛い妖精達が、

孝と綾子を包み込むようにして舞い始めた。

「うわぁぁぁぁ…ぃ」

香織は目を輝かせながら

何時までも続く妖精達の美しい舞いを眺めていた。



「誰か…僕を止めてくれぇ……」

「いやぁ、あたしを元の姿に戻してぇ…」

「いやだよぉ…」

「お母さぁん…」

妖精達はそう叫びながら、

舞うことを止めずまでもいつまでも舞い続けていた。




今回の依頼も実に簡単でした。

香織ちゃん、夢はずっと持っててくださいね。

もしも、くじけそうになったら

また華代が助けてあげるからね、

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり