風祭文庫・華代ちゃんの館






「ビーチ」



作・風祭玲


Vol.133





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「ふぅ…暑いわねぇ…」

一人の少女が汗をふきふき砂浜を歩いていく、、

「こっちの方に依頼人がいる予感がして来たんだけど、

 う〜ん、なかなか見つからないわ…」

少女はキョロキョロしながら歩くが、

なかなかピンと来る人物に出会えなかった。

ギラリ…

真夏の太陽が容赦なく少女を照らす。



「はいっ」

それと同じ頃、砂浜にボールが飛ぶ、

「はっ」

バシン!!

水着姿の女性がジャンプすると

思いっきり相手コートに目がけてボールを打ち込んだ。

ピッピー

審判の笛が鳴ると。

「やったぁ…」

小倉望は神戸光と抱きついて喜んだ。

「ご苦労さん!!」

俺・米沢翼はコートから戻ってきた二人に

そう言うとよく冷えたスポーツ飲料の缶を手渡した。

「サンキュー」

そう言って望が一気に飲み干すのに対して

光はゆっくりと飲む。

「次に勝てばいよいよ優勝じゃん」

俺が言うと、

「ふふん、実力実力!!」

っと望は得意満面の顔になって、

フンっと力を入れると右腕に力瘤を作った。

「でも油断しちゃダメよ」

光は望の方をちらりと見ると慎重な面もちになった。

「大丈夫、大丈夫!!

 ビーチバレーなんて、
 
 バレーボールで鍛えてきたあたし達にとって、
 
 楽勝よ楽勝!!」

根が脳天気な望はそう言いながら光の肩を叩くと

会場の外へと向かいだした。

「望っ、どこ行くの?」

光が彼女の行き先を訊ねると、

「トイレよ、ト・イ・レ…

 あんたも来る?」
 
と聞き返してきたので、

「ハイハイ、行ってらっしゃい、

 ちゃんと次の試合までには戻ってくるのよ」

と光が言うと、

ズズズズズ

彼女は缶の飲料を一気に飲み干してしまった。


コートでは望達の対戦相手を決める試合が始まった。

1個のボールを巡って2×2の女性達によるバトルを眺めているうちに

俺は望がなかなか帰ってこないことが気になった。

「望のヤツ戻ってこないな…」

気になった俺が光に言うと、

「そうね…いくら何でも遅すぎるわね」

光はそう言うと望が歩いていった方を眺めた。

「…あたし…ちょっと行って来る」

突然、光が腰を上げると望の後を追って外に出ていった。

やがて…

「たっ大変!!」

血相を変えて光が戻ってきた。

「どうした!!」

俺が訊ねると、

「のっ望ちゃんが脚にけがをした」

と訴えてきた。

「ぬわにぃ…」

大慌てで光の後をついていくと、

彼女は会場から救護室へとむかい、

そこで俺は望と対面をした。

右脚をケガしているらしく、

彼女の右足には包帯がぐるぐる巻きにされていた。

「一体どうしたんだ」

俺が叫ぶと、

「うん…ごめんね」

あれほど元気だった望が小さく言う、

「トイレの近くで割れたビール瓶の破片が

 あったのに気がつかなくて…」

「一気に踏み抜いたのか…」

俺が結論を言うと、望は小さく頷いた。

「まったくぅ…

 これじゃぁ、決勝戦は棄権だな…」
 
俺がそう言うと、

「そんな…」

望がそう言って俺を見つめた。

「翼…」

光も望と同じ顔をするが、

「仕方がないだろう、

 望の代わりの者が居ないんじゃぁ、
 
 試合は出来ないよ、
 
 じゃぁ、行って来るわ」

俺がそう言って救護室から出てしばらく歩いたとき、

「お兄ちゃん!!」

突然呼び止められた。

「?」

振り向くとそこに一人の女の子が立っていた。

「はぁ…やっと探したよ…今回のお客さん…」

少女は赤い顔をして、さらに肩で息をしていた。

「おっおいっ、キミっ大丈夫か?」

俺は思わず近付くと、

「はいっコレ…」

少女はそう言いながら俺に一枚の紙を手渡した。

【ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代】

とその紙には書いてあった。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代?』

俺が内容を読み上げると、

「うん、お兄ちゃん…ハァ…

 なんだか悩んでいるみたいだから…ハァ…

 華代が力になれたらって思ってね…」

っと少女・華代が言ったとたん、

ふら…

華代はふらつくと俺にもたれかかってしまった。

「おっおいっ華代ちゃん!!」

俺は華代の体を数回ゆすった後に額に手をやると

「すごい熱だ…

 とっとにかく医者に…」

俺は華代を抱きかかえて救護室に行こうとしたとき、

「…すぐに日陰に連れて行きなさい」

と俺を指示する声がした。

「え?」

「あなたは…」

「名乗るほどの者ではありません、

 ただの”通りすがり”の看護婦です」

と彼女は”通りすがり”をやや強調した自己紹介をした。

「はぁ…通りすがりの看護婦さんですか…」

俺は首をかしげながら言うと、

彼女の指示に従って華代を近くの木陰へと連れて行った。

すると、看護婦はテキパキと華代の介抱をし始めた。

その様子を見ながら、

「さすがはプロだねぇ…」

と感心していると、

「ん?」

俺は看護婦が持っていた鞄の中から

薬のビンが顔を出している事に気づくと

何気なくそれに手を伸ばした。

「あぁっ、それに触ってはいけません!!」

俺の行動に気づいた看護婦が声を上げた。

ビクッ

動きが止まった俺をチラリと見て彼女は薬を仕舞い直すと、

「彼女の応急処置は終わりました。

 あとは、気づいて水を飲みたがるようでしたら
 
 飲ませてあげてください。

 では…」

というと、静かに立ち去っていった。

「…なんだったんだ、あれは……」

俺はただ呆然と看護婦の後ろ姿を見送っていた。


「うっうん……」

しばらくしてようやく気づいたのか華代が目を覚ますと、

「あっあれ?あたし…」

周囲を見回している彼女に、

「…日射病で倒れたんですよ」

と俺は優しく言った。

「えっ、日射病?」

華代が慌てて起きようとしたが、

「あっ、もぅ少し寝てたほうがいいですよ」

と言うと、

「う〜〜ん、大失敗っ

 あたしが助けてあげなければ行けないのに
 
 逆に助けられてしまうなんて…」

と言うと華代は額に乗せたハンカチで目を覆った。

「まぁ、この陽気ですから…

 誰だって、日射病にはなりますよ」
 
俺は真夏の空を眺めながらそう言うと、

「よいしょっ…」

そう言いながら華代が起きあがっていた。

「あっあぁっ…

 華代さん、大丈夫ですか!!」

俺が慌てて彼女の身体に手を添えると、

「だっ、大丈夫ですっ

 それより、お兄ちゃんの困っている事ってなんですか?

 結構、深刻そうな顔をしていましたが…」

と聞いてきた。

その時になって俺は望のことを思いだした。

「あっ、そうだ…急いで棄権のことを言わなきゃ」

そう言うと

「棄権って?」

華代が聞く、

「いや、俺の友達がねぇ…

 ビーチバレーの試合に出ていたんだけど、
 
 脚をケガしちゃってね…

 それで、替わりの人が居ないから
 
 これから先の試合を棄権する事を
 
 言いに行くところだったんだよ」

と言うと、

「ビーチバレー?」

華代は考える顔をした。

「ビーチバレーって?」

しばらくして首をかしげながら華代が俺に聞いてくると、

「まっ、単純にいえば砂浜でやるバレーだよ」

と答えた、

「まぁ…砂浜でバレエですか…

 それはすごいですね…」

ようやく合点が行ったのか、華代は盛んに肯くと、

「だからといって馬鹿にしてはいけないよ、

 これでも立派なオリンピックの種目なんだからね」

と俺は胸を張っていう。

「そりゃぁもぅ…

 あたし…バレエの大変さって良く分かってますもの…

 じゃぁ、ケガをしたお友達の代わりの人がいれば

 お兄ちゃんの悩みは解決ですね」

と言うと、

「まぁ、そうだけど…

 あっじゃぁ俺もぅ行くね…」
 
と言うと華代と分かれた。


「華代ちゃんかぁ…不思議な子だったなぁ…」

と思っていると、

ブワッ…

突然巻き起こった突風が俺の身体を吹き抜けていった。

「うわっ、なっなんだ…」

一瞬、俺は唖然としたが、

別になにも起きなかったので、

そのまま会場に入ると、

すでにさっきの試合は終わっていたらしく、

会場では次の試合の準備が行われていた。

「あのぅ…すみません」

俺は係員の人に望達の棄権を言おうとしたとき、

ムクリ…

俺の身体に異変が起きた。

「どうしました?」

動きが止まった俺に係員が不審な顔をする。

「……かっ身体が変だ…」

と俺が言うと、

「?」

係員は怪訝そうな顔をするが、

スグにそれは驚きの顔になった。

ク・ク・ク・ク…

俺の背丈が徐々に小さくなると、

手足が細くなり始めた。

グググ…

肩も狭くなり女性の様ななで肩に変わると、

ウェストも細くなる。

Tシャツがだぶつき出すが、

変わりに胸に2つの膨らみが姿を現すと

だぶついたTシャツを下から押し上げ始めた。

プクッ

とTシャツ越しに盛り上がる乳首の突起がイヤらしさを

いっそう引き立たせる。

さらにすね毛が無くなった脚が内股に変わると、

俺の股間から男のシンボルの感覚が無くなった。

「そんな…」

ようやく出た俺の声は女性の声に変わっていた。

”信じられない…”

目の前にいる係員達は口をポカンと開けたそんな表情で俺を見つめていた。

「いやっ、見ないで…」

急に恥ずかしくなって俺が思わず膨らんだ胸を隠すと、

スススススス…ぴたっ

だぶついていたTシャツが肌にぴったりと密着した。

「え?」

驚く間もなく、

膝上までを隠くしていた短パンも肌に密着すると、

それは見る見る白くなりながら裾を伸ばし、

タイツとなって俺の脚を包み込んだ。

白の陰影が俺の脚を怪しく彩る。

スルスル…

それと同じくして、肌に密着したTシャツの袖が消えると

まるでキャミソールのように肩紐を残して肩を露出し

さらに、裾が腰を覆うと股間で繋がってしまった。

「えっえっえっ」

俺は続いて襲ってきた衣服の変化にただ驚いているだけだった。

やがて、シャツの生地が厚くスベスベになると、

その表面は真珠色に輝きだし、

さらに、胸の膨らみを強調している胸の部分に

羽で出来た飾りと美しい刺繍が次々と施され、

さらにいっそう胸を引き立て始めた。

すると

サッサッサッサッ…

腰回りから固いチュールで出来たスカートが

一枚生えると、その上に一枚…

と言う案配で次々と生えていった。

「これってもしや…バ…」

俺は自分がなっていくモノに気づいたときには

髪が伸びると後頭部を飾るひっつめたお団子頭になり、

さらに、女顔になっていた顔に濃厚なメイクが施されていった。

濃いアイラインと、真っ赤な紅がキュッと引かれると

ふぁさ…

頭に羽根飾りとティアラが姿を現した。

「………バレリーナ…」

スカートに遮られて足元は見られないが、

さっきまで履いていたサンダルは

足を包み込むトゥシューズに変わり、

ギュッ

っと足首を紐が巻き付いている感じがしていた。


「あっあっあのぅ…」

係員が恐る恐るバレリーナになった俺に声を掛けると、

まるでそれを合図するがごとく、

俺は優雅に立て膝のお辞儀をすると、

スッっと構えた。

「おっおぃっ」

自分の身体が勝手に動き始めた。

しかし身体はまるで操り人形のごとく、

バレーのコートへと躍り出た。

「おぉっ……」

決勝戦を見ようと詰めかけていた観客が

突然現れたバレリーナの姿にを見てどよめき始めた。

ネットを挟んだ反対側のコートでは、

望達の対戦相手が呆然と俺を見ている。

「うわぁぁぁぁっ

 誰か俺を止めてくれぇぇぇぇぇっ」

大勢の観客が注視する中、

真夏の日差しの下で俺はバレエを踊り続けた。



今回の依頼も実に簡単でした。

でも…砂浜でバレエなんて………

あっ、もしかして”ビーチバレー”のことでしたか…

う〜ん、日射病でちょっとボケてしまいました。

それにしても、

あたしを介抱してくれた看護婦さんって誰なんだろう…

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり