風祭文庫・華代ちゃんの館






「祭」



作・風祭玲


Vol.131





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



ワッショイ!

カンカン!

ワッショイッ!

カンカン!

拍子木の音に合わせて法被姿の大勢の男達に担がれた

神輿が上下しながらゆっくりと街中を移動していく。

ワッショイ

ワッショイッ


やがて休憩所に近付くと、

ワッショイ、ワッショイ

神輿が激しく上下した後、

わ〜〜〜っ

という歓声と共に神輿は用意された台の上に無事置かれた。


「…はぁい、ご苦労様です…」

神輿の到着を待ち構えていた人たちが出てくるなり、

担ぎ手達に次々と御神酒がふるまわれ始めた。


ガヤガヤ…

ザワザワ…

笑い声や話し声が飛び交う休憩所の様子を

道ばたの大きな石に腰掛けながら一人の少女が眺めていた。

『…ちょっと、隣よろしいでしょうかな?』

「はぃ?」

声を掛けられた少女が顔を上げると、

そこには腰を紐で縛った貫頭衣を身につけ、

長い髪を耳の両側に束ね、

首には曲玉、

額には鏡、

手に剣を持った。

そう、日本神話に出てくるような姿の老人が立っていた。

「…………」

少女は老人の奇抜な姿にしばらく呆気に取られていたが、

ハッと我に返ると、

「どっどうぞ…」

と言いながら老人に場所を譲ると、

『おや、わしが見えるのか、お嬢さん…』

老人は少女に態度にちょと驚くと、

『…そうか、まだこの国も捨てたものではないな…』

老人はそう言いながら少女の横に座った。

『…ふぅ〜〜〜っ』

老人は汗を拭きながら一息入れていると、

「?」

少女は不思議な顔をしながら老人を見つめていたが、

通りを行き交う人たちは、

まるで老人が見えないのかのように、

その横をただ通り過ぎていくだけだった。


『…!っ、どうしましたかなお嬢さん…』

少女の視線に気づいた老人は少女に訊ねると、

「いっいえ……あのぅ、お祭りの方ですか?」

『…アハッハッハッ…

 …この格好が珍しいのかね』

ポン

っと老人は胸を叩くと、高笑いを始めた。

「えっえぇ…」

少女の返答に、

『…じつはのぅ…

 わしがこうして街の中に出るのは1年ぶりなんじゃよ』

「1年ぶり?」

『…昔は色々と出かけることもあったんだが…

 …どうも50年ほど前の異国との大戦からこっち、

 …出かけることもめっきりと少なくなってな…

 …こうして街中に出かけるのは年に一度…

 …おかげですっかり世間から疎くなってな…』

と言いながら老人は再び笑い出した。

「へぇ…大変なんですね」

『まぁ…年に一回と言っても正月には参拝客がくるし

 また秋には出雲への出張があるから、

 それなりの楽しみはあるんだがな…

 でも、こうやって街中を見て回るのが一番じゃ』

キラリ!!

老人は白い歯を輝かせながら少女に言う、

「ふぅぅん」

老人の話に感心しながら少女が頷いていると、



わっしょい

わっしょい

女性のかけ声がしてくるのと同時に

女性の担ぎ手に担がれた神輿が姿を現した。

「うわぁぁぁ、女神輿だ」

少女が歓声を上げる。

『……ふんっ』

老人は女神輿をチラっと見るとぷぃと横を向いてしまった。

わっしょい

わっしょい

わ〜〜〜っ

女神輿も、激しく上下した後に用意された台置かれると、

担ぎ手たちが休憩で散っていった。

『…よう、八雲のっ、ひさしぶりじゃのぅ』

八雲と呼ばれた老人の所にやはり同じ姿をした別の老人が現れた。

『…けっ、八坂じゃないか

  なんじゃ…にやけた顔をしおって』

八雲の老人は怪訝そうな顔をする。

『…いやぁ、女に担がれて回ると言うのはいいもんじゃのぅ…』

っと八坂の老人が言うと、

『…恥ずかしくはないのか?』

明らかに不機嫌そうに八雲の老人が言う、

『…全然』

『…恥さらしが』

『……おや、うらやましいのか!』

『なんだと…!!』

徐々に険悪な空気が二人の間を流れだした。

ハラハラしてその様子を見ている少女、

『…おっ、そうやってムキになるところを見るとそうか…

 まっ無理もない…

 締め込みを締た法被姿の意気のいい兄ちゃん達に担がれるのも

 そろそろ飽きだだろう、

 なっ、いっそ、お前も宮司に神託をだしたらどうだ』

という八坂の老人に、

『…余計なお世話だ!!』

とついに八雲の老人は怒鳴った。

『…おぉこわっ…』

八坂の老人は八雲の老人の剣幕に

そう言うとそそくさと立ち去っていった。

『はぁ〜っ………わしだって…』

彼が去っていくのを見ながら、八雲の老人はポツリと呟いた。

「おじぃちゃんっ、どうしたの急に元気がなくなって」

少女は心配そうな顔をしてのぞき込むと、

『…あっ、あぁ…つまらないところを見せてしまったね』

キラ…

老人は笑顔を作りながらそう言うが

歯の輝きは弱々しくなっていた。



「はいっコレ…」

少女はそう言いながら老人に一枚の紙を手渡した。


【ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代】

とその紙には書いてあった。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代?』

老人がそれを読み上げると、

「うん、おじいさん、なんだか悩んでいるみたいだから…

 華代が力になれたらって思ってね」

そう少女・華代が言うと、

『…悩みか……』

老人は考える顔になる…

『…悩みは無いが、要望ならあるな……』

「えっ、何ですか?」

興味津々の華代が訊ねると、

スッ

老人は黙って女神輿を指さした。

『…実を言うとわしもな…

 若くてピチピチとしたギャルに担がれたいものだ…

 もぅ、褌姿の男に担がれるのは飽きたわ…』
 
と華代に言う。

「ふぅ〜〜〜ん、

 なぁんだ、それなら簡単じゃない」

華代がそう言うと、

『なに、出来るのか?』

「うふっ、華代に任せて…

 要するに”若くてピチピチとしたギャル”が

 神輿を担いでくれればいいんでしょう」

と言う華代に

『まっ、まぁストレートに言えばそうだが…』

と老人は顔を赤くしながら返事をする。

それを聞いた華代は、

立ち上がると大きく両手を上げた。

「じゃっ、行きますよぉ…

 そうれっ」

とかけ声をあげながら両手を振り下ろすと、

ぶわっ!!

まるでそれに合わせるかのように

一陣の風が休憩所を吹き抜けていった。


「うわっぷっぷっぷっ」

休憩所で御神酒を飲んでいた次郎は

突然襲ってきた突風に驚いていた。

「なっなんだ?」

一瞬仲間と顔を見合わせたが、

「只の突風だろう…」

「よくあることだ」

と言う仲間の声に

「そっそうかなぁ…

 あっあ〜ぁ、

 酒がこぼれちまったじゃないか」

彼は升につがれた御神酒が零れていることに気づいた。

「パパァ〜っ」

「あなた…」

それと時を同じくしてその休憩所に次郎の妻・智子と

智子に抱かれて娘・百合華が姿を現した。

「おうっ!!

 どうだ、俺の勇ましい姿、

 ちゃんと写真に撮ったか?」

娘の姿を見て次郎は上機嫌になる。

「えぇ、バッチリよ…」

妻の智子はそう言いながらカメラを指さした。

「ようし…じゃぁ、

 もっといいところを見せてやるぞ、

 ちゃんと撮れよ…」

次郎は法被の袖をまくるりながらそう言うと、

「はいはい、判ってますよ」

智子はちょっと呆れながら返事をした。


やがて、休憩が終わり法被姿の男達が神輿の周りに集まると

「よ〜〜しっ、

 じゃ一丁行くかっ、

 そこのお嬢さん達にもいいトコ見せてやろうぜ」

と女神輿を担いできた女性達をチラリと見て次郎が叫ぶと、

「おぉ〜〜っ」

男達が気勢を上げた。


やがて神輿が担ぎ上げられると、

ワッショイ

ワッショイ

と始めたが…


ファインダー越しに夫・次郎の姿を覗いていた智子は

彼の身体が徐々に変わり始めているのに気づいた。

「あれ?…次郎さん…どうしたのかしら…」

そう、次郎の自慢の胸や肩の筋肉が徐々に消え失せ、

腕も細く、

日に焼けた脚も白く細くなり、心持ち内股になっていった。



カシャ

カシャ

智子は夫の身体の変化を気にしながらシャッターを押す。

ワッショイ

ワッショイ

しかし、次郎はまだ自分の体の変化に気づいていないようだった。

「…なにかしら…」

智子は不安になりつつも彼の姿を追う、

ムクムク…

次郎の胸が膨らみ出す。

さらに身体も徐々に柔らかく小さくなっていく、

しかし、彼は笑顔を絶やさずに神輿を担いでいた。



身体の変化は彼だけではなかった、

次郎の後ろも横も、

神輿を担いでいる男達すべての身体が

彼と同じように変化していた。

ワッショい

ワッしょい

掛け声のトーンも徐々に高くなっていく、

わっしょい

わっしょい

「…なんだ、胸がやたらと弾むなぁ」

身体の動きに合わせて胸が

プルン、プルン

っと弾み始めて次郎は身体の異変に気づいた。

しかし、重い神輿を担いでいるために

容易に確認することは出来なかった。

わっしょい

わっしょい

沿道での観客も神輿の担ぎ手達の身体が

徐々に変わっていく様子に気づいた。

「なぁ…この神輿を担いでいるのはニューハーフか?」

「さぁ…」

そんなやりとりがジワジワと広がっていく、

次郎の顔から角がとれ、ふっくらした女顔になったとき


ガシャン…

智子の手からカメラが滑り落ちた。

「…どうしたの?ママ…」

そう言いながら百合華が母親の顔をのぞき込むと、

「そんな…そんな…」

智子の顔は蒼白になり、

まるで妖怪でも見たかのような表情で呆然と立っていた。


わっしょい

わっしょい

褌が食い込んだヒップをふりながら次郎達が街を練り歩く

スッキリ束ねた髪に粋なかんざしを刺し。

額には、ねじりはちまき、

赤い紅がハッキリ、クッキリと浮かび上がった祭り化粧。


わっしょい

わっしょい

『…ほっほっほっ

 こりゃいいわっ、
 
 極楽極楽!!』

神輿の上ではあの老人がえびす顔で座っていた。



今回の依頼も実に簡単でした。

あのおじいさんって神様だったんですね。

どおりで妙な格好をしていると思ったわ…

これで八雲神社も女神輿に仲間入りなんだけど

あっ、いっけなーぃ

担ぎ手の人たちの服装変えてなかったわ!!

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり