風祭文庫・華代ちゃんの館






「二人」



作・風祭玲


Vol.129





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



雲の隙間から梅雨明け間近を思わせる夏の日差しが差し込む

キンッ!!

金属バットの音がグランドに響きわたると、

打球を追って白いユニホーム姿の少年が駆ける…

そう毎度おなじみ、野球部の練習風景だが、

そのグランドの少し外れたところで、

投球練習をしている二人の姿があった。

シュッ

バシン!!

一見すると只の練習風景なのだが、

シュッ

ピッチャーの投げたボールがキャッチャーミットから大きく外れた。

すると、

「くおらっ!!相沢っ、どこに投げているんだ!!」

球を取り損なったキャッチャー・田口が大声を上げた。

「なんだとぉ、俺の球がとれないっていうのか」

怒鳴られたピッチャー・相沢がすかさず怒鳴り返す。

「んだとぉ!!」

田口はミットと地面にたたきつけると、

相沢の方へと歩いていく、

「上等じゃねぇか」

相沢も田口の方へと向かって歩いていく、

やがて、二人は歩み寄ったところで、

「ちょちょっと、二人ともケンカはやめてよ」

マネージャの河合奈津子が飛び出して、

すかさず二人の間に割って入ると、

「邪魔するなっ、奈津子っ

 今日という今日は許せねっ
 
 俺はコイツをぶん殴る!!」

相沢は顔を真っ赤にして怒鳴る。
 
「うるせーっ、

 今日こそ決着をつけてやる」

田口も負けじと怒鳴る。
 
「もぅ、相沢君も田口君もどうしちゃったのっ

 昔の相沢君と田口君に戻ってぇ……」

奈津子は思いっきり声を張り上げた。



昼過ぎ…

奈津子は部員達の昼飯の買い出しに出かけていた。

そして、帰りに彼女はフラリっと途中の公園に立ち寄ると、

ベンチに座り、

足下で飛び跳ねている雀をボンヤリと眺めていた。

「相沢君も田口君も…昔は息が合ったのに…」

彼女はそう言いながら、ため息を漏らしたとき

「おねえちゃん!!」

奈津子は突然声を掛けられた。

「え?」

奈美子は思わず顔を上げたが、

しかし、目の前には誰もいなかった。

「?」

不思議そうな顔をしていると、

「こっちよ、こっち…」

再び声を掛けられた。

「あら…」

「えへへへへ…」

いつの間にか彼女の左横に一人の少女が座っていた。

「どうしたの?、道に迷ったの?」

奈美子が声を掛けると、

フルフル…

少女は首を横に振り、

「はい、コレ…」

っと言って、一枚の紙を彼女に手渡した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

とその紙には書いてあった。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城…

 ふぅ〜ん…」

奈美子はその文面を読むと、

シゲシゲと少女・華代を眺めた。

「うん、何か悩み事があったら

 あたしに相談して、

 きっと、良い解決法が見つかると思いますよ」

と華代は笑みを浮かべながら奈津子に言う。

「悩みと言ってもねぇ…」

奈美子はしばらく考える顔になったが、

「う〜ん、無いわね…」

と華代に答えた。

「え?、でも…

 さっき、結構真剣な表情で悩んでたようですよ」

と華代が言うと、

「あぁ…あれは”あたしだけの悩み”じゃないから…」

と奈津子は笑ってごまかす。

「でも、悩みなんでしょう…」

「うんまぁ、そうだね」

「それ、華代に聞かせてよ」

と華代が言うと、

「……う〜ん…」

奈美子はちょっと考える顔をしたのち

コレまでの経緯を華代に話した。



「ふぅ〜ん、大変なんだね…」

話を聞き終わった華代呟く、

「うん、

 あたしと、相沢君・田口君は昔っからの幼なじみでね

 あたしを含めた3人で一緒に甲子園へ行こう

 って約束してきた仲なのよ、

 それが、1年・2年と予選で敗退…

 もぅ3年で後がないって事になってね…

 まぁ苛立っているのは判るんだけど、

 この最後のチャンスこそ二人で力を合わせて欲しいのよ。

 で、二人が啀み合うんじゃなくて、

 以前のように息がぴったりと合う二人に戻してあげたいと思うんだけど…

 ねぇ華代ちゃん何かいい方法知らない?」

と奈美子が華代に尋ねた。

「二人の息がぴったり合う…」

華代はしばし考えると、

ピン

何か思い当たったのか、

「そうだお姉ちゃんっ、

 いい方法があるよ」

と言うと、

「二人をプールの所にまで連れてきて」

と付け加えた。

「プール?」

奈津子が納得のいかない顔をすると、

「うん、いい方法を思いついちゃった…

 これなら二人はケンカなんかしないで

 息がぴったりと合う仲になるよ

 じゃ、あたし先に行ってるから…」

華代はそう言うなり、

タッタッタ

と駆けだしていった。

「あっちょっと…

 …行っちゃった…」
 
奈津子は狐につままれたような気持ちで学校に戻ると、

相沢と田口の両人に別々にプールへ行くように告げた。



「んっ、田口…

 お前、何やってんだそんなところで…」

奈津子に言われて相沢がプールに行くと

そこには田口が待っていた。

「相沢っ、お前こそ練習をサボって何しているんだ?」

「うるせーなー、

 奈津子にココに来いって言われたんだよ」

相沢が答える。

「なに?、俺だって奈津子に呼び出されたんだぞ」

再び険悪な空気が流れ始めたとき、

「あっ、来た来た、

 お兄ちゃん達、こっちに来なよっ」

プールの中から女の子が顔を出して彼らを手招きした。

「?」

予想外のことに出鼻をくじかれた二人は顔を見合わせる。



水泳の授業は午前中で終わったみたいで、

雲間から覗く日の光を受け、

水は静かに輝いていた。

そしてそのプールサイドを、

ユニホーム姿の二人が華代に向かって歩いていく、

「誰?キミは?」

相沢が華代に訊ねる。

「えへへへ…

 奈津子おねーちゃんに頼まれたんだけどね」

「奈津子が?」

田口が怪訝そうな表情をする。

「二人とも息がぴったりと合うようにしてってね…

 だから…

 ………
 
 そうれっ!!!」

一呼吸おいて華代はかけ声をあげた。

ブワッ

突如巻き起こった一陣の風が二人の身体を突き抜けていく

「うわっ」

思わずこらえる二人。

「なっ、なんだ?」

風が通りすぎると、

あたりは何もなかったかのように静まった。

「相沢くーん、田口くーん」

奈津子が声を上げながらプールサイドを駆けてくる、

「あっ、奈津子っ」

と相沢が声をあげると、

その声はまるで女のような声になっていた。

「!!」

慌てて口を閉じる相沢。

「相沢っ、なんだその声」

と言う田口の声も女性の声だった。

口を押さえ黙る二人…

「どうしたの?」

二人の様子に奈津子は首を傾げた。

ムクムクムク…

二人の胸に2つの小さな膨らみが現れると、

見る見るユニホームを押し上げ始めた。

それだけではない、

ユニホームから覗く日に焼けた逞しい腕が

細くなって行くではないかっ、

さらに、脚が内股なっていくと

大柄だった二人の背が徐々に小さくなっていく…

肩幅も狭くなり始めユニホームがだぶつきだした。

「なっ、なんだこれは…」

膨らんだ胸がユニホームの下でプルンと揺れた。


スルスル

坊主頭の短い髪が伸び始めると、

見る見る肩に掛かりはじめる。

日焼けした男の顔がふっくらとした女の顔に変わっていく…

「あっ相沢君…田口君…」

奈津子は呆然と二人の変身を眺めていた。

二人も自分の身に起きている異変が”信じられない”と言う表情だった。


二人の変身はさらに続き、

汗と砂で汚れていたユニホームのズボンの裾が

スルスルと上がていくと、

女のムッチリとした脚が姿を現す。

さらに上着が消えると、

アンダーシャツの袖が消え肩が出る。


するとアンダーシャツはスベスベの黒いナイロン素材にかわり、

キュッ

と身体に密着すると、

胸の膨らみが強調された。

「そんな…そんな…」

やがてシャツはショーツになったズボンと一体化すると、

女性の水着へと替わってしまった。

無地の胸元に可憐な刺繍が入る。

もぅ、二人の股間には男を象徴する物はなかった。

長く伸びた髪の毛がお団子にまとめ上げられると

日に焼けた顔にメイクが施された…


「こっ、これって…」

呆然としている奈津子の前には、

水着姿の二人の美女が立っていた。


「レッツ、シンクロナイズド・スミング!!」

華代のかけ声がすると、

「うわっ」

「かっ体が勝手に…」

二人はそう叫びながらも

スッとプールサイドに立つと、

可憐なポーズをつけ…

水に飛び込んだ。

「あっ相沢君…田口君…」

ガックリと膝を落とす奈津子の目の前で

プールの中では、

二人の”息の合った”美しい演技が繰り広げられた。



今回の依頼も実に簡単でした。

さぁ、相沢さんに田口さん、

シドニーはもぅ間に合わないけど

頑張ってアテネを目指してね…

あれ?

何か違うな…

まっいいか

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり