風祭文庫・華代ちゃんの館






「願い」



作・風祭玲


Vol.128





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



ミーンミンミン…

ザザザ…

風にゆれる沢山の七夕飾りが彩る商店街を俺と加奈子は歩いていた。

「うわぁぁぁぁっ

 相変わらず人が多いわねぇ…」

混雑している通りを歩きながら加奈子が声を上げた。

「子供の頃と比べると街も結構変わったけど

 この七夕祭りだけは昔と替わらないなぁ…」

その彼女の横で俺は昔をふと思いだしながら歩いていた。

「ねぇ…克巳」

「ん?」

「七夕って7/7でしょう?」

「まぁそうだな…」

「何で今ごろ8月にやっているのかな…」

七夕飾りを指差しながら加奈子が俺に訊ねると。

「さぁな…

 聞いた話では7/7は梅雨時でこういう催しには不適当なのと、

 旧暦の7/7は今の暦で8月上旬、

 まぁその頃は天気にが安定しているから

 って聞いたことがあるよ」

と俺が答えると、

「なるほど…」

加奈子は妙に納得した顔になった。

「ところで…」

「なに?」

「お前…今度のバレエの発表会、大丈夫なのか?」

俺が気になっていることを訊ねると、

「う……ん」

加奈子の顔が急に暗くなる…

「なんだ、自信がないのか」

「そう言うわけでは…ないけど」

「主役の重みってヤツか?」

俺が先回りをして言う。

「う……ん……」

「お前なら大丈夫だよ」

元気がなくなった加奈子の頭を

ポンポン

っと叩いたとき、

あるものが目に入った。

それは、商店街のほぼ中央にある広場に

”願い笹”

と書かれた巨大な笹がおいてあり、

通行人がめいめい自分の願い事を書いた短冊を下げていた。



「ねぇ、あそこ…行ってみない?」

そう言って加奈子が指さすと、

「ふぅん、願い事コーナか…」

俺は”願い笹”の方へと歩み寄った。

受付のおばちゃんから10円の短冊(げっ有料かよぉ)を買うと、

俺は神妙な気持ちで短冊に願い事を書き込む。

「よし、こんなもんかなぁ」

俺が願い事を書き込んだ短冊を眺めていると、

「へぇ…それが克巳の願い事?」

覗き込んだ加奈子が言う。

「わっ、コラっ、見るなよ」

俺が慌てて短冊を隠すと、

「嬉しい…、

 あたしのこと心配してくれているんだ」

そう言って加奈子は微笑む…

「まあな…」

俺が答えると、

「そうだ、克巳っ、ちょっとソレ貸して…」

「えっ?」

いきなり加奈子が短冊を俺の手から奪い取ると、

サラサラサラ…

彼女は俺の短冊になにやら書き加え始めた。

「加奈子…

 それは俺の短冊だろうが…

 お前の願い事は自分の短冊に書けよ」

と呆れながら言うと、

「まぁまぁ…

 いいじゃない…」

と彼女は答え、

「よし、できた」

と言って短冊をちょっと眺めたあと、

スグに笹に短冊をくくり付けてしまった。

「?」

俺がそれを見ようとすると、

「ダメッ!!」

加奈子が声を上げると、俺の腕を引っ張った。

「なっなんだよ」

「見ちゃだめなのっ、行こ」

と言うと、

彼女は俺の腕を引っ張り、

そのまま”願い笹”のコーナーから離れていった。

「おっおい、加奈子…

 そんなに引っ張るなよ…
 
 あっごめんなさい

 コラっ」

俺達と入れ違いで

一人の女の子が”願い笹”のところに入っていったが、

俺は大して気にとめなかった。



「へぇ…”願い笹”ですか…」

華代は商店街中央の公園にでっかく作られている

”願い笹”

を見ながら声を上げた。

そして、

「いっぱい短冊がかけられていますねぇ…」

と言いながら、

彼女は感心しながら短冊を一枚一枚眺めはじめた。

「ふぅ〜ん、

 青い短冊は男の人で、

 赤い短冊は女の人の願い事が書かれているようですね…

 あれ?」

そのとき、華代は一枚の青い短冊に目が行った。

彼女がそれをシゲシゲと眺めたあと、

「なるほど…

 この願いなら、あたしでも実現できますね…」

と呟くと、

短冊に書かれた名前を見て、

「克巳さんですね…

 では、行きますよぉ…

 そうれっ」

っと華代は叫び声を上げた。



「はい?」

俺は一瞬誰かに名前を呼ばれたような気がした。

「どうしたの?」

綿飴を食べながら加奈子が首をかしげる。

「いや…誰かに呼ばれた見たいだが…」

俺が答えたとき、

「あら、三枝さんじゃない?」

っと突然声をかけられた。

「?」

振り向くと数人の女の子を連れた一人の中年女性が立っていた。

「あっ、先生!!」

加奈子が答える。

「誰?」

俺が訊ねると、

「うん、バレエの先生よ」

と加奈子が彼女を紹介した。

「へぇ…あの人が…」

俺がそう思っていると、

ピクっ

背筋を撫でられるような妙な感覚が全身を駆け抜けていった。

「なんだ…これは」

思わず俺は周囲を眺めた。

加奈子がバレエの先生達としゃべっている様子が目に入る。

ドクン…

突如強い”何か”が俺の身体を突き抜けていった。

グ…グググ

なにやら強い力で俺の身体が徐々に変わり始めた。

「なっ、なんだ…」

まるで粘土細工のように見る見る

腕は細く…

肩は小さく…

腰は細く…

臀部は大きく張り出した。


「あれ?、あなたの彼氏、様子がおかしいわよ」

先生が俺を指差して言うと

「ちょちょっと…克巳どうしたのっ」

そう言いながら加奈子が俺に駆け寄ってきた。

「…なっなんか、身体が変なんだ…」

やっと出た俺の声はまるで女のような声だった。

それよりも顔を上げた俺を見た加奈子が、

「いやぁぁぁぁぁぁぁ…」

と叫んだ事がショックだった。

「どうした…」

「克巳さん…その顔…まるで女の子…」

怯えるような素振りで加奈子が俺を指差した。

「え?」

確かに俺の肌は柔らかく、そして敏感になっていたが

加奈子から直接”女の子みたい”と指摘されて

自分の姿が女性化していることに気づいた。


胸の先がジンジンと痛痒くなると、

ムクムクと2つ膨らみ始めた。

瞬く間にそれはシャツを押し上げ見事な谷間を作り上げ、

ピンっと立った乳首の影がイヤラシく胸を表現する。


ズズズズズズ

股間が徐々に軽くなっていく。

「いや…やめて」

俺は女の声を上げながら、股間を抑えたが

ついにはソレは消えてしまい、

後には縦の筋が残っていた。



俺を女にした変化はさらに次の段階に入り、

綿のズボンが脚に張り付くと見る見る白いタイツに変化すると

脚のラインを美しく描く…

さらに、シャツに隠れていた肩が肩紐を残して露出すると

残った胸から下の部分の生地は厚くなり、

そして表面は真珠色に輝き始めた。

「こっこれは…」

この衣装は見たことがある…

俺はある物を思い出した。


クィっと

膨らんだ胸が強調されるように表現される。

それに併せて腰の細さも表現され、

さらにシャツの裾が股下で繋がると、

臀部も美しく表現された。

美しい刺繍が胸元を走る。


「そうだ、コレは…

 バレエのチュチュだ…

 俺はバレリーナになっているんだ」

そのとき、俺は何になろうとしているのか分かった。

スルスル

髪が伸びると、きれいにアップでまとめられる。

羽を表現した頭飾りが俺の頭を美しく飾り立てた。

続いて見ることはできないが、

俺の顔にメイクが乗っていく…

いつの間にか、履いていたスニーカーが

サテンの厚地1枚の履物に替わり、

つま先が膠で固められ、そこには芯が伸びた。

そして最後に、傘のようなスカートが

腰のあたりから生えそろうと、

俺は一人のバレリーナになって加奈子の前に立っていた。

「克巳…」

信じられない様子で彼女は俺を見つめる。

「いやぁぁぁ…見ないで」

思わず彼女の前から走り出そうとしたとき

突如設置されているスピーカーから音楽が流れ始めた。

「これは…白鳥の…」

すると突然、俺はバレエを踊り始めた。

「そんな…バレエなんて知らないのに…

 …体が勝手に動く」

おぉ…

七夕祭りを見物に来ていた人も

突如現れたバレリーナが演じるバレエを足を止めて見物し始める。

「だれか…俺をとめてくれ…」

踊りながら俺は声を上げたが、

俺の身体は踊るのをやめようとはしなかった。


「すっ、すばらしいわ」

俺のバレエを見て加奈子の先生が感動する。

「あの人こそ今度の主役にふさわしいわ…」

と言う声を聞いた加奈子は

ジワッ

目に涙を貯めると

「克巳のバカ!!」

そう叫ぶと泣きながら走り去ってしまった。

「かっ、加奈子っ、待ってくれ!!」

俺は踊りながら彼女の後を追った。

「あっ、待って…」

俺の後を先生が追う。



七夕…

年に一度、織姫と牽牛が出会って愛を確かめる。

いわば中国版バレンタインでしょうか、

さて、短冊に願いを書いた克巳さん、

華代からの贈り物は届いたでしょうか?

これからの活躍を期待してますよ。

さて、次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり