風祭文庫・華代ちゃんの館






「入学式」



作・風祭玲


Vol.123





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



ある春の朝…

「真琴っ、よくがんばったな」

玄関先でそう言いながらポンと肩をたたく父に

「うん…」

真新しい高校の制服に身を包んだ少年、

音羽真琴は嬉しさを噛み締めながらうなづいた。

「仕事の関係でお前の入学式に行けないのが残念だが、

 しっかりと頑張るんだぞ」

「判ってるって…」

真琴はそういいながら出勤していく父親に手を振った。

「じゃぁ、母さんはあとで行くから」

っと母親は支度をしながら言うと、

「うん、中学校の友達と待ち合わせをしているから、

 先に行くね…」

そう言うと程なくして真琴は家を出た。

苦しかった受験勉強…

でも、苦労した甲斐があって第一志望のこの学校に合格したときは

内心”嬉しい”というよりもホッとしていた。

そんな思い出に浸りながら駅につくと、

待っていた同じ学校に通うことになったクラスメイトたちと落ち合った。

みな、真新しい制服姿がまだ板についていない。

プワン

これからお世話になるステンレスの電車に真琴たちが乗ったころ、

真琴が入学する高校の事務室では

新入生の名簿をチェックしていた教師がひとつの間違いに気づいた。

そして、すぐに担当の事務員に、

「この”音羽真琴”と言う生徒の性別が

 女性になっているが、男性ではないのか」

と別の資料と見比べながらたずねた。

教師から尋ねられた工藤和江は資料と見比べて

「あっ、そうですね…

 これ、間違えてますね」

と答えると教師は、

「至急に訂正してくれっ」

と言うなり事務室から出て行った。

時計をちらりと見た和江は

残す時間があまり無いことに気づくと、

大慌てでパソコンのスイッチを入れ、

名簿のデーターベースの修正作業をはじめた。

「まずいわね…

 時間が無いわ…」

彼女がそうつぶやいたとき、

「お困りですか?」

突然彼女に声がかけられた。

「きゃっ」

驚いてあたりを見回すと、

一人の少女が傍らに立っていた。

「あら、どうしたの?、

  ”近所の子かしら…”

 ダメよここに入ってきては」

そう言いながら和江は少女を外に出そうとすると、

「お姉ちゃん、いま困っていることがあるでしょう

 ハイこれ」

少女はそう言いながら一枚の名刺を和江に渡した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

和江はその名刺には書かれている文句を読み上げると。

「ココロとカラダの悩み…?

 う〜ん、そう言われてもねぇ…

と考える素振りをした。

そんな彼女の様子を見た華代は

「お姉ちゃん、何をしていたの?」

と彼女に訊ねると、

「え?、

 あぁ、新入生のデータ訂正をしていたのよ」

パソコンの画面を華代に見せながら答えた。

「訂正?」

「うん、ちょっと、間違えちゃってね。

 この子…男の人なのに、

 女の人と間違えて入力してしまったのよ」

そう言いながら和江は該当項目のデータを華代に見せた。

「えっと、音羽真琴さん……

 って女の人じゃぁないんですか?」

そういう華代に、

「うん、確かに女の人の様な名前なんだけど、

 ちゃんとした男の人よ」

「あらら、紛らわしいですね…」

「うん、あたしもうっかりしていたわ…

 あっと、こんな事をしている暇は無いんだわ

 すぐに直して、クラス分けの掲示も張り替えて…

 あぁ…時間が無いわ…」

和江は頭を掻きながらそう言うと、

「!!」

華代は何かを思いついたように、

「判りました、華代が何とかしてあげます」

と和江に言った。

「え?」

彼女は華代の言葉の意味が分からなかったが、

「つまりそのデータが正しければいいんですよね」

と言う華代に

「まぁ、そうだけど……」

「いいから…いいから…

 和江さんはそのデータを直さなくっていいですよ、

 要は向こうを直せば良いのですから」

「えぇ?」

「大丈夫、華代に任せて…」

と華代は言うと、

「そうれっ」

と声を挙げた。

「?」

和江には何が起こったのかは分からなかったが、

そのとき最寄り駅から学校に向かっていた真琴の身体に異変が起きた。

ピクッ

突然歩くのを止めた真琴に、

「おい、音羽っ、どうかしたか?」

気づいたクラスメイトが尋ねた。

「うぅぅぅ

 …なんか…体が変だ…」

真琴はそう答えると自分の右手を胸に当ててみた。

ムクムクムク…

自分の胸に2つの膨らみが膨らんでいくのがハッキリと感じられた。

「うわっ!!」

思わず声をあげると。

「どうした!!…

 なっ、なんだ、音羽っ、お前その胸は…」

周りにいた者たちも膨らんでいく真琴の胸に驚きの声をあげた。

「わっ判らない…なんで…」

そういいながら真琴が顔を上げると、

彼の顔から角が取れ、

丸く女性ような顔つきへと徐々に変わり始めた。

「なっ、なんだよ、お前っ

 気持ち悪い…」

友人たちが次々と真琴の傍から離れていく、

真琴の変化はさらに続き、

色黒だった肌は白く繊細になり、

体の背丈もゆっくりと小さく、

そして腕も細くなっていった。

「おっ音羽っ、お前…女…に…」

「………」

見る見る変わっていく自分の体を真琴は眺めているだけだった。

やがて、真新しい学生服がすっがりダブダブになると、

ズボンの裾がスススススっと脚を駆け上がり、

たちまち、丈の短いプリーツのスカートに変わった。

また、靴下もひざ下を包むソックスになり、

脛毛が消え内股になった真琴の脚を美しく表現する。

そして、上着もそれに合わせるようにして、

紺色のセーラーへと変化していった。

キュッ、

白いスカーフが胸元で結ばれると、

真琴の髪が伸びながら、

ゆっくりと三つ編みにされていった。

「…………」

友人たちが唖然としてみている中、

音羽真琴は真新しいセーラー服姿の女子生徒に変身した。

「僕…女の子になっちゃった…

 父さん母さんになんていえばいいんだ…」

鈴の音のような声で真琴は、

女学生になってしまった自分の姿を呆然と眺めていた。



今回の依頼も実に簡単でした。

間違いはすぐに正せばよいわけでして、

華代がお手伝いできてホントに良かったです。

次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり