風祭文庫・華代ちゃんの館






「間違い」



作・風祭玲


Vol.122





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「雅美さん…早く元気になってね」

見舞いに来ていた時子が雅美そう言うと、

「お前…大袈裟だぞ」

と雅美は答えた。

「だって…」

時子が心配そうな顔をすると

「ハハハハ…

 時子は心配性だななぁ

 ただの食中毒にそんなに心配する事はないよ」

と雅美が笑ったとたん。

「痛ぅ〜っ」

グッっ

と彼は痛みをこらえた。

「雅美さん…」

「ててて…

 それより、結婚式の準備は滞り無く進んでいるか?」

痛みをこらえながらも

雅美はいま一番気にしていることを彼女に尋ねた。

「うん、そっちは大丈夫」

時子は雅美の容態を心配しながらそう答えると、

「退院したらすぐに結婚式を挙げよう、

 もぅこれ以上待ちたくない」

と言う雅美に

「もぅ…雅美さんたら…」

時子は顔を赤らめながら言う。

「君と出会ってもぅ5年目になる…

 これまで、幾度と無く結婚のチャンスがあったのに

 さんざん邪魔が入ってとうとう今日になってしまった。
 
 もぅこんな食中毒ごときに負けてられなんかいられないよ」

そう力説する雅美に、

「ホント…ある時はおばぁさまの反対、

 ある時は大昔の友達の借金の返済
 
 そしてある時は姉夫婦の離婚問題
 
 確かに色々あったわね」
 
昔のことを回想している時子の表情が曇る。

とそのとき

コンコン!!

ドアがノックされると

「古河さん…体の調子はいかがですか」

そう言いながら主治医が検診のため部屋に入って来た。



「熱も大分下がったようですね」

「そうですか」

「退院はいつ位になりますか?」

「うん、その調子なら2・3日くらいですか」

検診を終えた医師が雅美達としゃべっているとき、

カルテをのぞき込んだ時子がそこに小さなミスがあるのを発見した。

「あれ、先生…

 その雅美さんの性別の所についている”F”って女性のことじゃぁ…」

「え?」

「ほら…

 あの…その性別のところですが」
 
時子の指摘にカルテをしげしげと眺めた主治医は、

「あっ、本当だ

 間違えているな。

 雅美さん男の方なのに女になっているね」
 
主治医も間違いを確認すると、

「すぐに直させますよ

 まぁ、大した問題じゃぁ無いですけどね」

そう笑いながら言う主治医に

「なんだ、じゃぁ俺、書類の上では女になっていたのか

 いやぁ良かった。
 
 ホンモノの女になっていたら、
 
 お前とは結婚できなかったぞ」

雅美はそう笑いながら、時子に言うと、

「もぅ、雅美さんったら…怖いこと言わないでよ」

時子は言うとポンと雅美の身体を叩いた。



「えっ、男の人なんですか」

返されたカルテを見ながら知美は声を挙げた。

「そう、だからすぐに訂正して…」

医師から指示されると

「はい…」

知美は事務室に戻るなり、

大急ぎでカルテのデーターベースが入力されている端末を叩き始めた。

「あぁ、もぅ…この忙しいのに、

 あたしは何をやっているのだろう」

知美は自分のミスに腹を立てながら訂正項目を探していた。

とそのとき

「おねぇ〜〜ちゃん」

突然彼女を呼ぶ声がした。

「きゃっ」

驚いてあたりを見回すと、

一人の少女が傍らに立っていた。

「あら、どうしたの?、迷子?

 ダメよここに入ってきては」

そう言いながら知美は少女を外に出そうとすると、

「お姉ちゃん、いま困っていることがあるでしょう

 ハイこれ」

少女はそう言いながら一枚の名刺を知美に渡した。

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代』

知美はその名刺には書かれている文句を読み上げると。

「ココロとカラダの悩み…?

 う〜ん、そう言われてもねぇ…

と考える素振りをした。

その様子を見た華代は

「お姉ちゃん、何をしていたの?」

と知美に訊ねると、

「あぁ、カルテの訂正をしていたのよ」

と答えた。

「訂正?」

「うん、ほら、本来ならココに男性の意味である”M”と言う文字を

 入れなければいけないのに間違えて女性の意味の”F”と

 入力してしまったのよ」

そう言いながら智子はカルテのデータを華代に見せた。

「えっと、古川雅美さん……って女の人じゃぁないんですか?」

「うん、確かに女の人の様な名前なんだけど、

 ちゃんとした男の人よ」

「あらら、紛らわしいですね…」

「うん、あたしもうっかりしていたわ…」

智子は頭を掻きながらそう言うと、

華代は何かを思いついたように、

「判りました、華代が何とかしてあげます」

と智子に言った。

「はぁ?」

彼女は華代の言葉の意味が分からなかったが、

「要するにそのカルテが正しければいいんですよね」

と言う華代に

「まぁ、そうだけど…でも…」

「いいから…いいから…

 智子さんは仕事に行って下さい」

「で、でも…」

「大丈夫、華代に任せて…」

と華代は言うと、

「そうれっ」

と声を挙げた。

「?」

知美には何が起こったのかは分からなかったが、

そのとき病室の雅美の身体を異変が襲った。

ピクッ

雅美の身体が微かに動くと、

ムクムクムク…

っと胸が膨らみ出した。

「なっ!!」

急に膨らみ始めた自分の胸に驚いた雅美は、

時子との会話をいきなり止めるなり、

カバッ!!

っとあわてて胸を隠した。

「どうしたの?」

雅美のただならない様子に時子が首を傾げながら訊ねる。

「かっ、身体が変だ…」

「変って、どうかしたの?

 まさか、病気が悪化したの?」
 
「いっ、いや、そうじゃないと思うんだが、

 ただ、胸が…」

ググググ…

膨らんでいく胸が手をゆっくりと押す。

「胸が膨らんで…」

雅美がそこまで言うと、

時子の目にも彼を襲っている異変に気づいた。

「まっ、雅美さん」

「どうかした?」

「雅美さんの体が小さくなってる…」

彼女の言葉に、

「なっ?ホントか?」

そう言って手を胸から離したとたん、

プルン!!

彼の豊かに膨らんだ胸が揺れた。

「キャァァァァァァ!!

 雅美さん!!

 胸がぁぁ」

時子の悲鳴に、

「えっ…うわぁぁぁっ」

雅美は自分の豊かなバストを再認識すると大声を上げた。

そうしている間でも彼の変化は続き、

顔から髭が消えると、

のど仏も目立たなくなり、

そして、肌の色も白く繊細に替わっていった。

さらに時間が進むと彼の身体全体の線も徐々に細く、

そして女性の姿へと変わっていく、

「こっ、こんな事が…」

雅美はどんどん女性化していく自分の身体に驚いていた。

「うわぁぁぁん

 雅美さんが女の子になっちゃう!!」

時子が泣き始めると、

「おっ落ち着…え?」

声を張り上げた雅美は、

自分の声のトーンが上がり始めていることに気づいた。

そして、

「うっ…」

彼は股間の何とも言い様のない感覚に…

恐る恐る手を持って行って確認すると、

そこには慣れ親しんだ肉の棒は無く、

縦に一本の溝が走っていた。

「こっ、これは、女の…」

思わず溝の中に指を入れそうになったが、

寸でで止めると、

恥ずかしさで思わず顔が赤くなっていった。

「雅美さん…」

時子はそんな雅美を眺めていたが

さらにジワリジワリっと髪の毛が伸び、

その先端が肩を覆い隠すと、

彼はどこから見ても一人の女性になっていた。


「とっ時子っ」

ようやく雅美が声を出したとたん、

ガタン…

時子は席を立つなり、

「ごめんなさい…

 あたし…

 そっちの趣味はないの…

 だから…

 あなたとの結婚の話は無かったことにしてください」

「え?」

「雅美さんとは良いお友達でいましょうね、じゃ」

時子はそう言うと、

そそくさと荷物をまとめて病室から出ていってしまった。

「そんな…時子ぉ〜っ」

出ていてしまった時子を呼び止めようとする雅美の声が病室内にむなしく響いた。



今回の依頼も実に簡単でした。

間違いはすぐに正せばよいわけでして、

華代がお手伝いできてホントに良かったです。

次はあなたの街にお邪魔するかもしれません。

そのときはよろしくね。

では



おわり